その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第55話『その転生者は訪問する』

ランチを終えた俺達はその後、駅近辺の百貨店でウィンドウショッピングへと繰り出した。

アクセサリーや服など、そこでも色々気に入ったものもあったのだが、眼鏡という高額な買い物をした事もあり、今回は追加の買い物は自重。

 

『また今度見に来ようか』

 

『はいっ』

 

と、他の買い物は次回の楽しみに取っておくことにして、百貨店を後に俺達は少し早い帰路に就いた。

 

(もうすぐ夏休みも折り返し……長いようであっという間なんだろうな……)

 

夏日という事もあり未だ夕暮れには遠い青空を電車の窓から眺めながら思う。

夏休みの残りは約三週間。

前世で自堕落に過ごした夏休みを思い返せば、自分が想像する以上に早く時が流れていくであろう事が容易に想像できる。

そして、その時間を全て心寿ちゃんと共に過ごせるかと言えばそうではない。

家族や新菜、海夢ちゃん達といった友達との時間があるし、それは心寿ちゃんだって同じ事。それらの都合がお互いに上手く噛み合う保証もない。

なにより俺達は学生。自由に使える時間は多くても、自由に使えるお金は多くない。

良く考えて計画を立てなければいけないだろう。

それに、この夏には連れて行きたい場所もある(・・・・・・・・・・・・)。これ以上の散財は控えるべきだ。

 

(……でも、次があるって分かった心寿ちゃんの笑顔、可愛かったなぁ)

 

あの笑顔を見たら絶対また来ようって気になる。

その為にもまたバイトを頑張らなければ。労働はクソだけどバイト先である五条人形店は別だし。

 

「守優さん、もうすぐ着きます」

 

心寿ちゃんの言葉に俺は思考を現実へと戻した。

そう、今回の帰路で俺達は駅で別れず、心寿ちゃんの家の最寄り駅へと共に向かっている。

渋谷駅で解散でもよかったのだが、俺の気のせいか周囲の視線が俺達に集中していたので彼女の身の安全も考慮して彼女を自宅まで送る事にしたのだ。

 

「あの、本当にいいんですか? わざわざ家まで……」

 

「いいんだよ。俺が好きでやってる事だし、それに心寿ちゃんに何かあったら嫌だからね」

 

こんなに可愛いのだ、何かの事件に巻き込まれてもおかしくはない。

心寿ちゃんの身の安全は俺が守護(まも)らねばならぬ。

そんな決意を胸に電車を降りた俺は心寿ちゃんの案内に続いて移動を開始した。

道中今日の出来事を振り返った話題に花を咲かせながら歩いているうちに、俺はとある事に気付く。

 

「……ねえ、心寿ちゃん?」

 

「はい?」

 

「なんか、どんどん凄いところに来ちゃってる気がするんだけど……」

 

具体的には周りの家がどんどん大きく立派になっている。

そういえば、ここら辺ってたしか有名な高級住宅街じゃ……?

 

「? ただの住宅街だと思うんですけど……あっ、あそこです」

 

「え?」

 

心寿ちゃんが笑顔で指差したのは一軒の豪邸。

周囲の家と比べても一際大きく立派な家に家へと向かう心寿ちゃん。

一方俺は想像を遥かに超える豪邸に思わず足が止まった。

 

(そういえば、心寿ちゃんの家ってお金持ちなんだっけ……⁉)

 

明確に描写されていたわけではなかったが、確かこれまでの撮影は庭でしてたり、毎年年末に家族旅行に行ったりしてたような……

ジュジュ様の写真を思い返すといろんな背景で写真を撮っていた気がする。あれだけバリエーションのある背景が撮れる庭なんだからそりゃ広いし、これだけの豪邸なのも納得だ。

 

「ここまでくればもう大丈夫だよね。それじゃ、俺はこの辺で――」

 

「あの、折角なので少しうちに寄って行きませんか? 迷惑でなければ、なんですけど……」

 

本来の目的は達成したのでお暇しようとしたところで心寿ちゃんからまさかのお誘いを受けてしまった。

あくまでこちらの都合を優先して決して無理強いをしない態度ではあるが、その様子からは俺を迎えたいという思いが見え隠れしている。

 

「……わかった。じゃあ、ちょっとだけ」

 

その愛らしくもいじらしい様子に俺はお誘いを受け入れ、乾家にお邪魔する事にした。

 

「! はい、どうぞっ」

 

俺の返事を聞くやいなや、心寿ちゃんは顔をぱぁっと顔を明るくさせて満面の笑みを浮かべる。

こんな顔をされてはこれからも彼女のおねだりはなんでも聞いてあげたくなってしまいそうだ。心寿ちゃんが可愛すぎてズルい。

心寿ちゃんの罪な笑顔にやられつつ、俺は彼女の案内で庭を通り抜け(ジュジュ様の写真で見た背景をリアルで目の当たりにして内心テンションが上がったのは内緒だ)、玄関へと移動する。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

心寿ちゃんに続いて中に入ると、そこには一人の女性が立っていた。

 

「心寿ちゃん、お帰りなさい。そちらの方は?」

 

「お母さん、ただいま。この人は月見里守優さん――守優さん、私のお母さんです」

 

心寿ちゃんがそれぞれに相手の紹介をしてくれる。

娘の紹介を受け、心寿ちゃんのお母さんは「まあまあ」と笑顔を深めながら玄関先でゆっくりと座り込むと深々と頭を下げた。

 

「はじめまして、心寿の母・乾杏寿(あんじゅ)*1です。いつも娘がお世話になっています」

 

「挨拶が遅れまして申し訳ありません。ご紹介に預かりました、月見里守優です。こちらこそ、いつも娘さんにはお世話になっています」

 

礼儀正しく挨拶をする心寿ちゃんのお母さんに、俺もお辞儀をしながら挨拶を返す。

それにしても心寿ちゃんのお母さんめっちゃ美人だし若い……‼ 流石乾姉妹の母親……‼

特に心寿ちゃんとよく似ている。もし二人が並んで歩いていたら姉妹と思われるだろう。

 

「あらあら、どうもご丁寧に。心寿ちゃん達に聞いてた通り、とってもいい子ね~」

 

俺の挨拶に杏寿さんがうふふと笑う。第一印象は悪くない様子でなにより。

ファーストインプレッションが良好な事に内心安堵していると、杏寿さんが「ここで話すのもなんだから」とリビングへと案内してくれた。

 

「突然の事だからお茶くらいしか出せないわ、ごめんなさいね。心寿ちゃん、次からはちゃんと連絡してくれないとダメよ?」

 

「あっ……ごめんなさい、そこまで気がつかなくて……」

 

困ったような、同時に少し呆れたような様子で娘を嗜める杏寿さんに、心寿ちゃんが申し訳なさそうに俯く。

声色的に本気でお説教されているわけではないだろうが、元々は俺が勝手に心寿ちゃんを家まで送ると言ったのが発端だ。

なにもフォローを入れないのは申し訳ない気がして、俺は心寿ちゃんの隣に立って彼女を庇う。

 

「すみません、元々は駅で別れるところを俺が無理を言って同行したんです。心寿ちゃんの事が心配だったので……」

 

「……そうだったのね。ありがとう、心寿ちゃんの事を気に掛けてくれて。さぁ、どうぞ座って?」

 

俺の言葉に杏寿さんが笑みを深める。

その笑顔のままテーブル席に案内され、俺は促されるままに着席した。

 

「心寿ちゃん、守優君にお茶を用意してくれるかしら? ポットの場所は分かるわよね?」

 

「うん。守優さん、ちょっと待っててくださいね」

 

俺と杏寿さんが席に座り、心寿ちゃんは杏寿さんに言われてキッチンへと向かった。

パタパタと移動する姿に自然と目が追ってしまう。

 

「ねぇ、守優君?」

 

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

杏寿さんに呼び掛けられ、視線をそちらに戻す。

相も変わらぬ笑顔のまま、杏寿さんは俺に一つの質問を投げかけてきた。

 

 

「式はいつ上げるつもりなのかしら?」

 

(この人はいったい何を言ってるんだろう……)

 

 

あまりにも突拍子のない質問に思わず失礼な事を考えてしまった。

俺はそれが顔に出ないよう努めつつ、恐らく若干ぎこちなくなってしまっているであろう笑顔を張り付けて返す。

 

「あの、心寿ちゃんのお母さん……俺達はまだそういう関係ではなくてですね……」

 

「あらあら、お義母さんだなんて。うふふ」

 

どうしよう、ちょっと話が通じない気がしてきたぞ。

天然なのか、それとも策士なのか。一見するだけでは分かりにくい反応を見せる杏寿さんの対応に苦慮していると心寿ちゃんがポットやカップを載せたトレイを持って現れた。

 

「すみません、お待たせしました」

 

「全然大丈夫だよ、ありがとう」

 

いやもうホントに。

心寿ちゃんのお陰で会話の流れを変える事が出来た。

俺は内心で心寿ちゃんを拝みながら彼女がカップにお茶を注ぐのを眺める。

そのなれた手つきから普段から淹れているのが窺えた。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう、いただきます」

 

高そうなカップに注がれた紅茶の匂いを嗅ぐ。

凄く良い香りだ。どこか果物のようなフルーティーさを感じるその香りだけで、普段飲まない俺でもこれが高級なものである事が分かる。

香りを楽しんだ後に口をつければ、口の中に広がる上品な渋みとコク。

 

「ん、美味しい。心寿ちゃん、紅茶淹れるの上手だね」

 

「本当ですか? よかったぁ……」

 

心寿ちゃんが安堵の息を吐き、顔をほころばせる。

所作を見るに紅茶を淹れる事には慣れているが、身内以外に提供するのはあまり経験がなかったのだろう。

安心する様子を温かい目で見つめていると「守優君」と杏寿さんから声がかかる。

 

「心寿ちゃんから事情は聞いているわ。今回はごめんなさいね、この子の不注意で眼鏡を壊してしまって……」

 

「いえいえ。あれは事故のようなものですから、本当に気にしないでください。むしろ、お金まで出させてしまって申し訳ありません」

 

既に眼鏡を新調したにも関わらず、ご厚意に甘えて眼鏡を買ってもらったのだ。頭を下げるべきはこちらだろう。

俺の言葉を受けて、杏寿さんは「ありがとう」と表情を和らげた。

 

「そう言ってもらえるとこちらも気が楽になるわ。その眼鏡が今回買ったものかしら?」

 

「はい。心寿ちゃんが選んでくれたんです」

 

「そう。とても良く似合ってるわ」

 

「ありがとうございます」

 

選んだのは心寿ちゃんで彼女のセンスの良さを褒められているのだと分かっているのに、まるで自分の事のように嬉しくなってしまい、思わず頬が緩む。

そんな俺の反応を他所に杏寿さんは次に自分の隣に座る心寿ちゃんへと視線を向けた。

 

「心寿ちゃんも眼鏡を買ったのね」

 

「う、うん……守優さんが選んで買ってくれて……」

 

「よかったわね。心寿ちゃんも似合ってるわ」

 

「! ありがとう、お母さんっ」

 

杏寿さんの言葉に心寿ちゃんが嬉しそうに笑う。

その華やいだ笑顔を見るだけでプレゼントして良かったと心の底から思えた。

 

「そうだ。お母さん、今日守優さんといろんなお店を見てきたんだけど――」

 

眼鏡を褒めらえて嬉しかったからか、そこから心寿ちゃんが今日の出来事を楽しそうに語り始め、自然と会話が広がる。

その楽しいひと時に俺も時間を忘れてしまい、気付けば外は夕暮れを迎えていた。

 

「長居をしてしまってすみません。そろそろお暇します」

 

「別にいいのよ。なんなら一緒に夕食でもどう?」

 

席を立った俺に対して杏寿さんが笑顔で食事に誘ってくる。

まさか初めて会ったその日に食事にまで誘ってもらえるとは思わなかったが、そこまでしてもらうわけにはいかない。俺はやんわりと辞退した。

 

「そこまでご迷惑をお掛けするわけにはいきませんから。お気持ちは嬉しいけど、今日はこのまま帰ります」

 

「そう、残念」

 

言葉とは裏腹に杏寿さんは俺が断るのを分かっていたかのように笑みを絶やさない。

一方隣に座る心寿ちゃんは俺が食事に誘われたのを見て嬉しそうに顔を明るくさせたり、俺がそれを辞退したのを見てちょっと落ち込んだりと表情がコロコロ変わる。その反応が可愛いと思ったのは内緒だ。

 

「またいつでも遊びに来てね。守優君なら大歓迎だから」

 

「ありがとうございます」

 

「お母さん、私庭まで守優さんの事お見送りしてくるね」

 

靴を履いて帰り支度をする俺の隣で心寿ちゃんも靴を履いて玄関に立つ。

杏寿さんは笑顔で頷きつつ、「また来てね~」と笑顔で手を振って俺を送り出してくれた。

玄関を出て、広い庭を再び通る俺と心寿ちゃん。

 

「今日はありがとう。凄く楽しかったよ」

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

心寿ちゃんがデートに誘ってくれたお陰で本当に素晴らしい一日になった。

 

「合わせの時には、俺から誘う的な事言ってたのにごめんね? 今度は俺から誘うから」

 

「ふふっ、はい。楽しみにしてます」

 

俺の言葉に心寿ちゃんが笑う。

その笑顔から彼女が次のデートを心から楽しみにしているのが伝わってくる。

その笑顔をもっと見たいと、それを見る為ならなんでもしたいと思えてくる。

 

「……ねえ、心寿ちゃん」

 

「? はい」

 

だからだろうか。

 

 

「今度、夏祭り行かない?」

 

 

俺はいつの間にか次のデートに誘っていた。

俺の誘いを受けて、心寿ちゃんは数秒フリーズした後に目をキラキラと輝かせて拳を握る。

 

「…………はいっ! 行きますっ!」

 

その笑顔の眩しさが、その瞳の輝きが、俺は大好きなんだと改めて思った。

 

 

 

 

.

*1
第2期12話で登場した乾紗寿叶・心寿の母親。名前は本作の独自設定。

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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