その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

57 / 67
第56話『そのオタクギャルは要請する』

俺が心寿ちゃんと渋谷デートをして偶然にも彼女のお母さんとの邂逅を果たし、一方でわかまりがラブホでの撮影を行った日から数日。

俺は今日も五条家にお邪魔して新菜と共に夏休みの宿題を消化していた。

いつも俺は夏休みはラスト二週間を残して全ての課題をこなせるようにペース配分をしており、それに合わせた新菜も同じようなスケジュールで宿題に取り組んでいる。

本日分を早々に片付けた俺達は片やスマホを使って情報収集、もう片方は衣装作りに励んでいた。

 

「うーん……」

 

作業台の上に置かれたマネキンが被るホワイトブリムを眺めながら、新菜が小さく唸る。

 

「どうかした?」

 

「……ねえ、守優。雫たんの文化祭の衣装なんだけど、このリボンはもう少し下の方がいいかな?」

 

「どれどれ? ……そうだな。あと個人的にはリボンの角度はもう少し前でもいいと思う」

 

「なるほど。こんな感じ?」

 

「そうそう」

 

俺の意見を受けて新菜が手で角度を調整すると、丁度俺の記憶にある雫たんの文化祭衣装のブリムと合致した。

既に完成品がどれだけ素晴らしい衣装になるのか知ってはいるが、それをこの目で直接拝める日が今から楽しみで仕方がない。

 

「そういえば、もう次の衣装に取り掛かってるんだな」

 

「うん。喜多川さんが『次は雫たんの文化祭のコスがしたい』ってリクエストがあって……」

 

「マジ? やったね」

 

文化祭での恥辱喫茶で来ていた和メイド風の衣装好きなんだよね。

前にそれとなく推した時には涼しくなってからという返事を貰っていたが、とうとうそれを拝める機会が巡ってきたらしい。

流石に夏休み中にもう一着作って撮影というのは大変だろうし、次のコスが夏休み以降になるのは確実。学業が再開されるのを考慮すれば、スケジュール的に完成は秋に入って多少涼しくなってからだろう。

 

ブブッ

 

「ん?」

 

「喜多川さんだ……」

 

そんな事を考えていると唐突にスマホが小さく震える。

どうやらライムに通知が来たようだ。隣では新菜もスマホを手に取っており、共通の通知が来た事が窺える。

 

 

五条新菜、喜多川海夢

喜多川海夢

たすけて

 

 

 

突然の救助要請に俺と新菜は揃って顔を見合わせる。

互いの顔には困惑の表情がありありと出ていた。

 

 

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

 

 

単身赴任中のお父さんがお盆に帰ってきたのが四日前。

 

『海夢、今すぐやりなさい。それまで遊ぶの禁止だからね』

 

『はあーーっ⁉ 意味不なんだけど‼』

 

その日は親子水入らずでお祭りに行けると思っていたのに、宿題に手を付けてない事をお父さんに知られたせいでお祭りはキャンセル。結局その日は一日中宿題に追われるハメになった。

 

「――みたいな事があって~! 全然大丈夫って言ってるのに信じてくんなくてさ~!」

 

……まぁ、毎年ギリギリで最終日に徹夜コースがお約束なんだけど。

だけどそれでやってこれたんだし、今年も大丈夫なはずだったのにー!

 

「夏なのにありえなくない? しかもそれから毎日どれだけやったか写真送って報告しろって……そんな事ある⁉ 鬼じゃん‼」

 

「でも実際こうやって助けを求めるに至ったわけだし、お父さんの判断は間違ってなかったんじゃない?」

 

「ぐっ……!」

 

あたしが助けを求めた一人である月見里君が眼鏡の奥で目を細めて意地悪く笑う。

確かに彼の言う通り、予想よりも分からないところが多すぎて宿題の消化が遅々として進んでいなかった。

このままだと今度はお父さんから電話で説教されそうだった為、申し訳ないと思いつつごじょー君と月見里君に助けを求めたという訳なんだけど……

 

「で、でもせっかくお盆に帰ってこれたのに、親子水入らずの時間をお祭りじゃなくって宿題の監視の為に使うとかマジなくない⁉」

 

「こまめにコツコツやってたらこんな事にならなかったのにね~?」

 

「うぐっ……!」

 

月見里君がめっちゃ意地悪なんですけど‼ これ絶対あたしの反応見て楽しんでるよね⁉

だけど言ってる事は正論だし、分からないところを教えてもらったから何も言えない……!

 

「ご、ごじょ~く~ん……!」

 

「あはは。守優、喜多川さんの事を苛めたら駄目だよ」

 

あたしがごじょー君に助けを求めると彼は小さく笑いながら月見里君の事を窘める。

親友の言葉に月見里君は「はいはい」と肩をすくめ、それ以上言ってくる事はない。

助けてくれてありがとう、ごじょー君♡ だいしゅき♡

 

「だけど喜多川さん、宿題を早めに終わらせるに越した事はありません。いい機会ですし、この勢いのまま続けましょう」

 

「うん、頑張る! 月見里君、ありがとね。宿題教えてくれた上にスケジュールまで組んでくれて」

 

「どういたしまして。ちょっと大変かもだけど、頑張って」

 

「オッケー!」

 

月見里君が考えて作ってくれてた表を手にしながらお礼を言う。

流石に後二~三日で全部を終わらせるのはしんどい、だけど最終日まで宿題に追われたくないという私の希望を考慮して、ラスト一週間以内に宿題が全部終わるように計算してスケジュールを作ってくれたのだ。

今までやってなかったツケが回ってきたから一日一日の課題は多いけど、ここ数日の缶詰状態と比べれば遥かにマシ。

 

「ごじょー君もありがとー」

 

「いえ、俺もリボンの位置の確認が出来ましたし。それに俺はついてきただけのようなものですから」

 

私が宿題をする横でリボンの位置や角度を確認しながらごじょー君が苦笑する。

確かに分からないとこは月見里君に教えてもらったしスケジュールも月見里君が考えてくれたけど、だけどあたしにとっては『あたしの為にごじょー君が来てくれた』という事実が嬉しくて仕方ないのだ。

好きピが、あたしの為に!

あと雫たんの文化祭コスのホワイトブリムが完成手前なのもアガる! 早くコスしたーい!

……でもやっぱり、楽しみにしていたお祭りが流れてしまったのは事実な訳で。

 

「ハァ~……ガン萎え……今年はまだお祭り行けてないしー……」

 

気落ちして溜息を吐くあたしにごじょー君は苦笑いを浮かべたまま、ブリムにリボンを縫い付ける片手間に「そういえば」と記憶を振り返った。

 

「岩槻も昨日花火大会やってましたよ。ね、守優?」

 

「ああ、やってたな」

 

「は⁉ なんで誘ってくんないの⁉ 誘ってよ‼」

 

そりゃ地元の祭なんだから二人だけで行くのもおかしくないけどさ!

あたしだけ仲間外れみたいで感じ悪いんですけどー!

 

「……喜多川さん、宿題でいけませんでしたよね……?」

 

「ヒェッ……!」

 

そうだった……!

今度はごじょー君に突き付けられた事実にあたしは言葉を失い、宿題を広げたテーブルに倒れ伏す。

 

「だって~、バイト沢山入れちゃったしさ~……ぶっちゃけ宿題なんて忘れてたよね~……」

 

夏休みは稼ぎ時という事で滅茶苦茶バイト頑張ったし来月の給料日が楽しみなのはいいけど、お金欲しさにバイトを入れまくったせいで友達や好きピとのお祭りの機会を逃した事実に涙を零す。

そんなあたしの様子に月見里君は小さく笑みを浮かべた。

 

「喜多川さん、心配しなくても俺も新菜もお祭りには行ってないよ」

 

「そーなの?」

 

「はい」

 

月見里君のまさかの言葉にあたしが思わずごじょー君に確認を取れば、彼は頷いてそれが事実である事を教えてくれる。

仲間外れにされていなかった事に内心安堵していると、ごじょー君が作業の手を止めてこちらを向いた。

 

「ところで喜多川さんってなんのバイトをされてるんですか?」

 

「あー、それはー……コレ」

 

言葉で説明するより見せた方が早いと考えたあたしは近くに置いてある雑誌を手に取り、それをごじょー君へと差し出した。

 

「きっ、喜多川さん⁉ 喜多川さんが載ってる……っ‼ 喜多川さん芸能人なんですか⁉」

 

掲載されているあたしの写真にごじょー君が目を剥く。

その隣に月見里君が身を寄せて、横から雑誌を覗き込んだ。

 

「うわー、すっご。めっちゃキマってるじゃん! そういえば前にモデルのバイトしてるって言ってたっけ」

 

「あの時はサロモだけどね。今回は読モ、読者モデル。いつも行ってる美容室にその雑誌の編集の人が来ててー、紹介されてなんとなく出てたんだけど、最近前よりちょっと多めに出てるって感じなだけ」

 

「へ、へぇー……」

 

あたしの説明にごじょー君は未だ驚きが冷めない様子でページを捲り、月見里君もその横から離れない。

こうして見ると本当に二人とも仲良しだよねー。月見里君があたしがごじょー君の事が好きなのを知っていて応援してくれているのは知っているが、それでもちょっぴり妬けてしまう。

 

「雑誌の喜多川さん、普段と雰囲気違うね。なんていうか、こっちは更に大人っぽい感じがする」

 

「メイクさんに顔面やってもらってるからかなー」

 

「あの……最近多めに出てるって、どうして……」

 

ごじょー君の疑問。あたしはその質問を密かに待っていた。

あたしがいつにも増してバイトを入れてお金を稼ぎたい理由、それは……!

 

「一眼レフカメラ欲しいから! 稼がないと!」

 

あたしの言葉にごじょー君は顔を少し青褪めさせ、対する月見里君はパァッと顔を明るくさせた。

 

「喜多川さんも? 俺も実は夏休み期間ちょっとバイト増やしてお金貯めてるんだよね。お互い頑張ろうね!」

 

「うん!」

 

(二人とも本当にあの高いカメラ買うんだ……!)

 

共通の目標を持つ人が傍にいるというのはモチベーションの維持にも繋がる。

何故か若干ヒいてるごじょー君を他所に、あたしと月見里君はこれからも互いに励む事を誓い合った。

その決意を胸に、あたしは今日の分の宿題を終わらせる為に奮戦。長い格闘の末に今日のノルマを達成した。

 

「終わった~~っ! あ~~、しんど!」

 

パシャリとスマホで終わらせた宿題を撮影し、その画像と共に月見里君が考えてくれたスケジュール表の画像を贈る。そしてこの計画に沿って残りの課題をこなしていく事をお父さんに伝えたところであたしは机に突っ伏す。

無理のない程度に配分されてはいるが、これが残り数日間続くのは中々ハードだ。

 

「数学あったら死んでた~~」

 

なんで数学だけ宿題がないのかマジで謎だけど、今はただただそれに感謝し――

 

 

「え、数学も宿題あるよ?」

 

「はい。俺達、今日その問題集やりましたから」

 

 

月見里君とごじょー君の言葉にあたしはテーブルに広げられた課題を確認する。

現代国語に古典、英語に地理、物理と科学。この場にある宿題はそれだけだ。

 

「うっそ、だってないんだけど――」

 

そこまでいってあたしは気付いてしまった。

 

 

「……もしかしてあたし、学校に置いてきたっぽい?」

 

 

あたしはギギギ、とゆっくりごじょー君達の方へと向き直る。

そこには曖昧に苦笑いを浮かべるごじょー君と張り付けたような笑顔を浮かべる月見里君。

笑顔のはずなのに何故か恐怖を感じさせる月見里君が感情のない声色で言う。

 

「やっぱりお父さんの判断は間違ってなかったね?」

 

「そ、それは……!」

 

「あとさ――これもしかしてスケジュール組み直さないといけないやつ?

 

「…………」

 

あたしは返す言葉が見つからず、無言で目を逸らす。

しかし、月見里君は微動だにせずあたしの事を笑顔で見つめ続け、気まずい時間が流れる。

 

「と、とりあえず今から学校に行きましょう! 今ならまだ開いてますし、取りに行っても大丈夫なはずです……!」

 

いたたまれなくなったのか、ごじょー君が学校に取りに行く事を提案してくれた。

その言葉にあたしは激しく頷き、月見里君も「仕方ないな」と小さく息を吐いて同意。三人で学校に向かう事になった。

 

ごじょー君優し♡ かばってくれてありがと♡ らいすち♡

あと、月見里君はマジゴメンね……!

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。