心寿ちゃんも一緒にどうかな?
「……」
ライムで届いた守優さんからのメッセージ。
私はそれにどう返信するのか、決めきれないでいる。
守優さんは元々私と二人で夏祭りに行くつもりだったようだし、私も同じ気持ちでいた。
だからちょっぴり我儘かもしれないけど、出来る事なら守優さんと二人きりでデートしたい。
だけど、折角のお誘いをふいにしたくないし、まりんさんや五条さんと遊びに行きたいという気持ちがあるのも事実。
(今回お邪魔して、また今度別の日に二人きりっていうのは……守優さんに迷惑かけちゃうし……)
我慢せずにとは言ってくれているけど、どっちも選ぶというのが欲張り過ぎなのは私でも分かる。
いったいどうすればいいのだろう。
ブーッ ブーッ
「わ、わ……っ」
手に持っていたスマホが震え、通話のコールが届いている事を教えてくれる。
相手はまりんさんのようだ。
「は、はい、もしもし、心寿ですっ」
『心寿ちゃん! 月見里君からライム届いた⁉』
通話に応じるとまりんさんの元気いっぱいな声が届く。
あまりにも“らしい”様子に少し笑みを零しながら私は「はい」と返した。
「さっき届きました。でも正直に言うと、お邪魔していいのか少し悩んでいて……」
『え~⁉ 心寿ちゃん来ないの~⁉ 行こうよ~‼』
まりんさんの残念そうな声色に思わず眉根が下がる。
きっと彼女はただただ夏祭りを一緒に楽しむ為に誘ってくれているのだろう。
でも、やっぱり三人のお邪魔になってしまう事を考えると素直には頷けない。
(うん、やっぱり今回は三人で楽しんでもらって守優さんとはまた別の日に――)
『四人でダブルデートしようよ!』
「ダブルデートします!」
まりんさんの提案に私はいつの間には返答していた。
8月24日。夏休みの丁度一週間前。
俺と新菜は勿論、海夢ちゃんも無事に宿題を終えた事で俺達は大手を振って夏祭りへと繰り出す事が出来る。
「新菜、そろそろ時間だし行こうぜ」
夕焼け空にひぐらしの鳴き声が遠く聞こえるのを感じながら、俺は新菜の家である五条人形店に立ち寄っていた。
理由は言葉の通り、新菜と合流して夏祭りに向かう為である。
「うん。それじゃ、行ってくるね」
「おう、車に気ぃつけろな。楽しんでこいよ!」
新菜が玄関先で草履を履いて整えながら薫おじいちゃんに声を掛ける。
おじいちゃんは新菜が友達と遊びに出掛けるという事が本当に嬉しいらしく、満面の笑みを浮かべて俺達を送り出してくれた。
それに俺達は揃って手を振り返しつつ、最寄り駅である大槻駅へと向かう。
「そういえば、守優は今回浴衣なんだね」
「ああ。甚平にしようか迷ったんだけど、母さんが折角だからって出してくれてさ」
隣で歩く新菜の言葉に、俺は自分が来ている浴衣を眺めながら頷く。
甚平の方が動きやすいのだが、今回新菜や海夢ちゃん、心寿ちゃんと一緒に夏祭りに行くと聞いた母さんが何故か張り切ってしまい、浴衣を着る事になったのだ。
ちなみに髪の毛も後ろで一つに纏めている。母さんは俺の髪の毛を女の子みたいに編もうとし始めたので流石にそれは断った。
(そういえば母さんは時々『女の子が欲しかった』って言ってたもんなぁ)
そのせいか美織お姉ちゃんの事もえらく可愛がっていたのを思い出す。
今でも時々晴美おばさんを交え三人で買い物に出掛けたりしてるくらいだし。
それから俺達は『今日の軍資金でいくらもらった』だの、『夏祭りではどんな屋台があるんだろうか』だの他愛のない話をしながら、電車に揺られて祭がある神社の最寄り駅へと向かう。
流石に最寄り駅ともなれば往来する人も増え、なかなか前に進めない時もあるがなんとか約束の集合時間前には余裕を持って到着できそうだ。
「凄い人だね。こんなに混むんだ……」
人生初の夏祭りとそれやってきた人混みの多さに新菜が圧倒された様子で息を漏らす。
「これでも余裕がある方だと思うぞ。凄いところなんて人が多すぎて満員電車かってくらいぎゅうぎゅうになるんだから」
「そうなの⁉」
俺の言葉に新菜が驚愕の声を上げる。
満員電車自体は経験のあるが、それと同じ状況が屋外でも起こる事が信じられないのだろう。
それと比べれば今回のお祭りはまだマシだ。今日が平日というのもあるのかもしれない。
「喜多川さん達、大丈夫かな?」
「何かあれば連絡はくれるだろうけど……あ、一応近くまでは来てるみたいだ」
ライムで俺と新菜は既に集合場所に到着している旨を伝えている。
スマホを確認すれば既読が付いており、たった今『神社に着きました。今まりんさんと集合場所に向かっています』と心寿ちゃんから返信が届いた。
おそらく合流までそう時間はかからないだろう。
「あっ! よかった~! 見つけた~っ!」
そう思っているうちに遠くから聞きなれた声が届く。
俺と新菜が揃って視線を声がした方へ向けると、そこには二人の絶世の美女がいた。
「お、お待たせしてすみません……!」
緊張しているのか、うっすらと頬を赤らめながら謝罪する心寿ちゃん。
桜の柄が描かれた水色の浴衣を身に纏い、以前購入した眼鏡を掛けてくれている。
「ホントごめんね~、人混みヤバくて進まなくてさーっ」
心寿ちゃんと隣で笑う海夢ちゃんは、黒いシックな浴衣を着ている。
落ち着いた色合いの生地と紫色の帯が大人っぽい雰囲気を醸し出していた。
そして二人とも揃って髪の毛を後ろに纏めており、いつもとは違う魅力を放っている。
「ごじょー君甚平着てんじゃん! それこの前渋谷で買ったやつだよね、超似合ってる! いー感じ!」
やはりというべきか、海夢ちゃんはまず新菜の衣装へと目を向けた。
笑顔で褒める海夢ちゃんに対して、新菜は普段とは違う海夢ちゃんにドギマギしている。
「きっ、喜多川さんも……浴衣……っ」
「そっ! 気合入れてセットと着付けしてもらったんだよね~っ。ねっ、心寿ちゃん!」
「は、はいっ」
新菜の前でくるくると回り、自身の浴衣姿を披露する海夢ちゃん。
事前に海夢ちゃんと心寿ちゃんは二人一緒に現地入りするという話になっていたが、どうやら同じ店でセットと着付けをしてもらったらしい。
おそらく海夢ちゃんが選んだであろう店なだけあって、浴衣も髪型もセンスがいい。二人の魅力を完璧に引き出していた。
「……」
そんな海夢ちゃんの魅力にあてられたのか、新菜はぽーっと半ば放心気味に彼女の姿を眺めている。
「どーしたの?」
「へっ」
それに気付いた海夢ちゃんに声を掛けられた事で漸く意識を取り戻す。
その様子を面白がった海夢ちゃんは背を向けたまま振り返り、揶揄う様に笑みを浮かべた。
「もしかして~、浴衣姿のうなじにベタにドキッとしちゃった系?」
「……っ‼」
図星だった新菜がギクリと固まり、更に頬を赤らめる。
「え、マジ?」
彼を揶揄うつもりだったはずが、本当に魅力を感じているのだと知り、今度は海夢ちゃんまで顔を赤くし始めた。
「え、えと……そ、そんな事は……はっ、あー……その……や、やっぱり……日本の物はいいです、よね……」
誤魔化そうとして、しかし否定するのは失礼だと思ったのかよく分からない返答をする新菜に対し、海夢ちゃんはその言葉が届いていないのか、ただただ新菜を見つめたままフルフルと歓喜に震えている。
本来ならちゃんと海夢ちゃんを褒めるように注意したいところだが、彼が海夢ちゃんの浴衣姿にドキドキしているのは誰の目から見ても明らかだ。ここで横から口出しするのは野暮というものだろう。
というわけで、推しカプのやり取りを堪能した俺はもう一人の美女へと向き直る。
「心寿ちゃん、こんばんは。今日は来てくれてありがとうね」
「い、いえっ。こちらこそ、誘ってくれてありがとうございます」
俺が笑顔で礼を言うと心寿ちゃんはドキリと肩を小さく跳ねさせた。
彼女の両手が普段髪の毛を掴んでいるであろう位置で揺れている。
おそらく髪の毛を掴むのは彼女が緊張や不安に直面した時に無意識に行う行動なのだろう。
今回は髪の毛を後ろに纏め上げている為にそれが出来ず、更に落ち着きのないようにも見えた。
なので俺はまず彼女の不安を取り除いてあげられるように行動する。
「浴衣、凄く奇麗だね。似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます。守優さんも凄く似合ってます」
「ホント? 嬉しいな。母さんが『せっかくだからおめかししていきなさい』って張り切っちゃってさ。髪の毛まで編み込もうとしたから慌てて出てきちゃったよ」
「ふふっ、そうなんですね」
互いに浴衣を褒め合い、そこから俺が冗談っぽく話せば心寿ちゃんは小さく笑みを零す。
少し気持ちを和らげる事が出来た事に内心で安堵すると、心寿ちゃんが俺の髪を見つめながら言う。
「でも、ちょっと残念です。守優さんが髪の毛を編んでもらった姿、見てみたかったです」
「えー、俺のそんな姿見て楽しいかな? 俺なんかより、心寿ちゃんの方がずっと見応えあるよ。今日の髪型だって凄く素敵だし」
「ありがとうございます。まりんさんが紹介してくれたお店のスタイリストさんがしてくれたんです」
俺が髪型を褒めればまた心寿ちゃんが笑ってくれた。
一見海夢ちゃんと同じように後ろに纏めているが、その後ろで髪の毛が奇麗に編まれている。
その髪型のお陰で耳元までよく見え、掛けている眼鏡がよく映えていた。
「……その眼鏡、掛けてきてくれたんだ」
「はい。守優さんもその眼鏡を掛けてきてくれるって思ったので……」
互いに見つめ合い、レンズ越しの視線が交差する。
本当によく似合っている。浴衣も、髪型も、眼鏡も。全てが心寿ちゃんの魅力を引き出していた。
彼女を見ていると自然と鼓動が早くなるのが分かる。
「……そろそろ行こうか」
「……は、はい」
数秒見つめ合ううちにお互いに頬が赤くなり、自然と視線を逸らす。
そこでふと、新菜も海夢ちゃんも静かな事に気付いた。
「……」(微笑ましそうに俺達を見守る新菜)
「……」(ニヤニヤと笑みを浮かべる海夢ちゃん)
俺の推し達が揃って俺の事を生暖かい目で見つめていた。
「――なんだァその目はぁー‼」
こちらを見つめるわかまりに俺は恥ずかしさのあまり怒鳴る。
「だって……ねぇ?」
「ふふっ、はい」
しかし、当の二人は俺の怒りなど気にせずとニヤニヤ、ニコニコと笑みを浮かべたままだった。
その反応が更に俺の羞恥を煽り、顔が熱を帯びるのが分かる。
「~~ッッ! もういいよ! 俺達は先行くから! 行こう、心寿ちゃん!」
「は、はいっ」
「あははっ。あたし達も行こうか」
「そうですね」
一足先に俺が歩き出し、後ろに心寿ちゃんが、その更に後ろから海夢ちゃんと新菜が続く。
波乱の幕開けとなった夏祭りへと、俺達は繰り出した。
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原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
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内容的に違和感がなければ登場してほしい
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登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
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執筆者の自由にしたらいい
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原作準拠であまり出さないでほしい