その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第5話『そのオタクギャルは熱弁する』

「なんですって?」

 

新菜の生&初『なんですって?』で聞けて感無量な守優です。

俺の横では新菜が正座したまま海夢ちゃんにタイトルを聞き返していた。

 

「聞き取りにくかった? タイトル長いもんね」

 

聞き取りくいのではなく、聞き取れた内容がおよそ信じれなかったからこその確認なんだろうけど、海夢ちゃんはそれに気付かず熱を込めてもう一度繰り返す。

 

「『聖♡ヌルヌル女学園お嬢様は恥辱倶楽部ハレンチミラクルライフ2』の黒江雫たんっ‼ あたし、“ヌル女2”雫たんのコスしたいんだよねーっ♡」

 

「…………」

 

「ぶふッ!」

 

新菜の『やっぱり聞き間違いじゃなかった』みたいな顔が面白すぎてまた噴き出してしまう。

そんな俺の横で恐る恐る挙手をして質問の意があることを海夢ちゃんに示し、それに彼女が応える。

 

「何? ごじょー君」

 

「すみません……勉強不足で……初耳です……」

 

「マジか。ちなみに月見里君は?」

 

「……雫ちゃんの文化祭の衣装、いいよね」

 

「! ……フッ」

 

パァンッ

 

一瞬で通じ合った俺と海夢ちゃんは無言でハイタッチを交わす。

それを見て自分がアウェー側なのを悟った新菜の顔が面白かったのは内緒だ。

 

「じゃあ、ごじょー君向けにざっくり説明するね」

 

「はい……」

 

「新菜はゲーム自体やんないし、そういうの耐性ないから気ぃつけてね」

 

「りょ~」

 

海夢ちゃんはゆるく敬礼すると新菜へと向き直る。

 

「“ヌル女2”って去年爆売れした超人気エロゲーでね」

 

「エ……」

 

初手からぶっこむなぁ。

でも、海夢ちゃんからしたらこんなの序の口にも入らないのだろう。

海夢ちゃんと新菜では気持ちのスタートラインが既にかけ離れている。

 

「今度アニメもやんの。ヤバいよね。で、内容なんだけど……学園長の孫の主人公が訳あって男一人女子高に入学すんの」

 

まあよくあるハーレムもの的な感じだよね、と海夢ちゃんは当たり前のように語る。

実際ハーレムものではありがちな展開だ。だから新菜、そこらへんは海夢ちゃんの言う通りよくあるものとして受け入れろ。

 

「なにげに泣けるイベント多くてウケるんだよねー……てゆーか、ごじょー君って凌辱系苦手な人? 性奴隷とか」

 

「喜多川さん?」

 

気を付けてねって言ったよね?

泣けるイベント多いのは認めるし、だからこそアニメ化(全年齢版)するんだとは思うよ。

実際、感動した場面とかいっぱいあるし。

だからあんまりぶっこまずにそういう万人受けするところからさぁ!

 

「ん~……けど“ヌル女2”って基本愛故の性奴隷だし大丈夫かー。割と安心だよ!」

 

「喜多川さん?」

 

どこも安心じゃない。

見てくださいよ、新菜のこの滝のような汗を。

 

「主人公は学園長の命令で『恥辱部』に入るんだけど、そこで――」

 

滔々と語り続ける海夢ちゃん。これもう止まらないやつだ。

俺は海夢ちゃんを放っておいて、彼女から齎された情報に内心振り回されているであろう新菜へと声をかける。

 

「新菜、大丈夫?」

 

「ご、ごめん守優……俺、ゲームに疎いから全然ついていけない……っ」

 

「大丈夫だ、今の海夢ちゃんには俺もついていけない」

 

「守優……!」

 

やっと仲間を得られたとばかりに笑顔で俺の手を握る新菜。

おお、よしよし。オタク特有の早語りによる情報の海に翻弄されたんだな。つらかったね。

 

「ちなみに喜多川さんはふざけたり、からかったりしてるわけじゃないんだよね?」

 

「残念ながら彼女は本気だよ。見てみな、あの目」

 

俺らをそっちのけで語り続ける海夢ちゃんの目は完全にキマっている。

ちなみにガンギ海夢ちゃんは本筋をそれて主人公を逆レする部長の良さを語っていた。

それを見た新菜は俺の手を握る力が少し強くなる。完全にビビってるなコレ。

 

「ゆーてあたし、“ヌル女2”が出た時、前作が神だったからとりあえず買うかーって感じでさ」

 

うわぁ! いきなり落ち着くな!

 

「雫たんの事も超カワイーじゃん、くらいだったの。てか、雫たんって最初全然笑わないし、超~冷たいのね」

 

そうそう。そんなクールな表情が人気なところもあるんだけどね。

 

「『マジ何コイツ』レベルなの。でもぉ、『こんな顔するんだ』みたいなイベント増えてくるじゃん?」

 

冷たい印象からのイベント重ねていくことで見られる雫ちゃんの内面とか、華やかな笑顔とかでハートを射抜かれたファンは大勢いると思う。

かく言う俺もそうだった。『着せ恋(原作)』で触れられていたから購入してプレイした口だが、想像以上のクオリティにハマったし雫ちゃん推しになった。

いやぁ、エロシーンのトロ顔は最高でしたね。

 

「気づいたら雫たんの事かなり好きになっててー……ヤバイくらいどハマりしてて、ほんと素で――」

 

海夢ちゃんは恋する乙女のような笑顔で新菜を見つめる。

 

「『あたしも……性奴隷(雫たん)になりたい……♡』って……分かる? ごじょー君っ」

 

うん、でもやっぱりそのルビ振られてるワードはアウトだわ。

『好きなキャラクターになりたい』って気持ちは理解できるんだけどね。

隣の新菜なんか理解が追い付いてないのか表情固まってるし。

 

(にしても、めっちゃ楽しそうに語るよなぁ。どれだけ好きなのか、凄く伝わってくる)

 

自分の好きなものを語る時の笑顔は本当に素敵だ。

海夢ちゃんだけじゃない。新菜やまだ出会っていない皆だってそう。

この幸せそうな笑顔に惹かれるから、俺は『着せ恋』が好きだし、二人を見守りたいと思うのだ。

 

「――で、ハッピーエンド♡ って感じ♡ ごじょー君、わかった?」

 

「…………はい」

 

満足気に語り終えた海夢ちゃんに新菜は再度手を挙げる。

 

「あれ? ウソっ‼ 分かんなかった?」

 

まさか再度質問されると思わなかった海夢ちゃんは少し驚きながらもそれに応じる。

 

「内容は分かりました……ですが、あの……気になる事が……」

 

「何? 雫たんの誕生日?」

 

「ちっ、違います……‼」

 

好きなキャラクターのプロフィールは知りたいよな。

でも最初の質問で誕生日聞いてくるのはオタクが過ぎるし、その発想に至る海夢ちゃんは流石としか言いようがない。

 

「そ、その……ヌ、“ヌル女2”ってアダルトゲームですよね……?」

 

「そう、エロゲ。てか、神エロゲ」

 

海夢ちゃんの言葉に対し、新菜はどこか気まずそうに目線を逸らしながら呟く。

 

「…………その……ね、年齢制限があるんじゃないかって……というか、聞いてた感じだと守優も持ってるんだよね……それ、大丈夫なの……?」

 

……君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

嘘、好き。新菜のこと大好き。だからそこはスルーしてね♡

 

「「オッケーっ、問題なさそーだね~~♪」」

 

「ええっ⁉ というかなんでハモって……⁉」

 

同好の士っていうのは心が通じ合うものなんだよ。

とりあえず新菜の指摘はスルー。俺と海夢ちゃんはなにも聞こえていないのだ。

 

「俺……そういうゲームは女性は嫌厭してやらないと思ってました……」

 

「マジ⁉ やるやる! 普通にやるし!」

 

個人差はあるだろうけどね。

でも、そんなものはどんなジャンルにだって言えることだ。

 

 

「てゆーか、好きなものに男とか女とかって関係なくない?」

 

 

「……! ないです‼」

 

「だよね~」

 

当たり前のように言う海夢ちゃんに新菜が目を輝かせて同意する。

こういう事を正面から言えるのが海夢ちゃんの魅力だし、だからこそ新菜は彼女に惹かれるんだと思う。

なんかちょっと感極まって涙ぐんでるし。でも俺には彼の気持ちがよく分かるから無言で横からハンカチを渡しておいた。

 

「よーし! じゃあ、始めよっか!」

 

「はい‼ よろしくお願いします‼」

 

海夢ちゃんの号令に新菜がハンカチを片手に応える。

これから始まる壮大なストーリー、その第一歩を見届けられた事に感動しつつ、俺は二人の会話に入っていった。

 

「じゃあまずは衣装作りに向けて何をすればいいか調べていかないとな」

 

「そうだね。ネットに行程とか書いてあるかな」

 

「あっ、そーいうのは任せてくんない?」

 

ちょい待ち、と海夢ちゃんが自分の鞄を漁り始める。

そしてお目当てのものを見つけたのか笑顔で取り出して俺たちに披露した。

 

「テレレレ~ンッ、こんなのあるんですケドーっ♡」

 

彼女が取り出したのは魔法少女を思わせるキャラクターが描かれた『コスプレ衣装の作り方』という本。

 

「へぇ……! こういう本が出てるんですね……!」

 

「それ鬼ヤバだから読んでみっ!」

 

海夢ちゃんに促されるまま、新菜が適当に開いて中身を確認する。

俺も少し興味があるので横に並んで覗き込んだ。その時に新菜が俺に見やすいように傾けてくれたのがちょっと嬉しい。

 

「‼ 凄い……っ‼ 布の選び方から型紙の作り方まで載ってるじゃないですか……‼」

 

「そそそっ! めっちゃ便利じゃない⁉」

 

「ミシンの使い方もこんなに詳しく書いてある。これなら俺もワンチャン作ったりできるかな」

 

「そーそー、すっごく丁寧に書いてあるんだよね!」

 

俺や新菜が事細かに解説された内容に関心し、海夢ちゃんが相槌を打つ。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

そして俺たちは同じ事を思い浮かべた。

 

((こんなに分かりやすい本持ってるのに、なんで出来なかったんだろう……))

 

(こんなに分かりやすい本持ってるのに、なんで出来なかったんだって思われてそ……)

 

チラリと横を見れば海夢ちゃんは顔を赤くして固まってる。

この本には丁寧に手順が書かれているが、大雑把な海夢ちゃんはおそらく一から十まで読み込んではいないのだろう。

 

「なるほど……足りない物は買いに行くとして、まずは採寸ですね」

 

「じゃあ、今から――」

 

「いえ、今日はもう遅いですし……土日挟んでしまいますが、月曜にしましょう」

 

海夢ちゃんの逸る気持ちは分かるが、新菜の提案は尤もだ。

もう夕日もだいぶ傾いている。今から採寸というのは難しいだろう。

 

「――……うん、そーだね」

 

海夢ちゃんもそれを理解したのか頷いて了承する。

だが、俺には分かる。あれはもう明日新菜の家に凸るつもりでいる顔だ。

つまり明日、新菜の家で採寸回が――

 

「……うへへ」

 

「何、急に笑って……怖いんだけど……」

 

「ごめん新菜、これからが楽しみすぎて……」

 

思わずニヤけてしまう俺に新菜が若干引いてるけど、もうこの際俺は気にしない。

とりあえず、これ以上の追及を避けるために俺は話題を切り替えた。

 

「これから衣装作りで連絡取り合うことになるんだしさ、連絡先交換しとこうよ」

 

「月見里君ナイス! しよしよ! てか、ごじょー君どこ住み? ライム*1やってる?」

 

鞄からスマホを取り出しながら海夢ちゃんが新菜へと身を寄せる。

急な接近に新菜は顔を赤くしながら慌てふためいた。

 

「えっ⁉ えっ、と……岩槻に住んでて、ライムは……!」

 

「あはははっ、マジメかっ‼ とりま、繋がっとこうよ‼」

 

勢いに流されるまま回答しようとする新菜の真面目さに笑いつつ、連絡先を交換するためのQRコードが表示されたスマホを差し出す海夢ちゃん。

 

「ありがとね。ほら、新菜も」

 

「う、うん。失礼しますっ」

 

俺に促され、新菜もQRコードを読み取る。

ついでに三人のグループ部屋も作成。テストのスタンプを送信すると海夢ちゃんは“烈‼”のスタンプを、新菜は『よろしくお願いします』とシンプルな挨拶を返してきた。

 

「よし、これでいつでも連絡取れるね」

 

「ありがとね、月見里君。それから――ごじょー君」

 

「あっ、はい」

 

俺以外の友人、それも女子と連絡先を交換した事に落ち着かないのか少し頬を赤くしながらスマホを見つめている新菜へと海夢ちゃんが肩を叩いて声をかける。

 

「ありがとっ、月曜からもよろっ!」

 

「……はい!」

 

海夢ちゃんは満面の笑みで、新菜はちょっと照れながら、お互いを見つめ合う。

そして俺は二人の様子を記憶し、ソッと脳内の『わかまりフォルダ』に保存した。わかまりてぇてぇ。

そんなこんなであの後俺達はそれぞれの帰路に就いた。

自室のベッドの上に寝転がり、今日一日で供給されたわかまりを思い出し、噛み締め、

 

「あっ」

 

重要な事を思い出した。

 

「明日、どんな理由で新菜ん家行こう。というか、呼ばれてないのに採寸にお邪魔するのはマズいのでは?」

 

原作では海夢ちゃんが新菜の家に凸り、そのまま勢いで採寸までさせていた。

しかし、そこに呼ばれてもいないのにお邪魔していいものなのだろうか。

 

ブーッ ブーッ

 

「ん?」

 

どうしたものかと考えているとスマホが震えてメッセージの通知を教えてくれる。

すぐに手に取り確認する。メッセージの送り主は海夢ちゃんだ。

 

『月見里君、今日はありがと! ところでさ、やっぱ月曜日まで待つの無理だからごじょー君の家にお邪魔しようと思うんだけど、よかったら家教えてくんない? てか、なんだったら一緒に行こうよ♪』

 

やっぱり海夢ちゃんは神。海夢ちゃんしか勝たん。

 

 

 

 

.

*1
LIME。アニメ第1期4話より参照。着せ恋の世界におけるLINE。

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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