どうも、お祭りに来て早々推しカプの二人にからかわれた月見里守優です。
海夢ちゃんはともかく、新菜にまでからかわれるとは……まぁ、新菜の場合は単純に微笑ましく思っていただけかもしれないが。
そんなわけで新菜達にしてやられた俺だが、俺は人間が出来ているので水に流してお祭りを楽しむ事にした。
「リンゴ飴美味しいですね、守優さん」
「だね。奢ってくれてありがとう、喜多川さん」
「あははっ。ま、宿題手伝ってもらったお礼ってことでー」
断じてリンゴ飴に釣られたわけじゃない。
「俺まで奢ってもらってすみません」
「いいって。ごじょー君にも色々してもらったんだし」
俺や心寿ちゃんだけでなく新菜も海夢ちゃんにリンゴ飴を奢ってもらっており、新菜のお礼の言葉に海夢ちゃんは振り返って微笑む。
それにしても、海夢ちゃんはさっきからずっと新菜の前に立ってうなじをアピールしてるな。
新菜は新菜で視界に入る彼女のうなじに少なからず魅了されているようでどこか落ち着きがない。
推しカプの控えめなやり取りに口の中のリンゴ飴の甘さが体感二割増しだ。うん、美味しい!
「それにしても、一緒にセットしに行った時に心寿ちゃんが眼鏡してて最初は何事って思ったけど、月見里君とおそろだったんだね~」
「はい、お互いに選んでプレゼントしあったんです」
「へ~、めっちゃいいじゃん~! マジで似合ってる!」
「ありがとうございます」
海夢ちゃんと心寿ちゃんが弾んだ声で語り合う。
二人の様子を窺うと、心寿ちゃんは俺とお揃いの眼鏡に喜びを露わにして頬を染め、海夢ちゃんはその話に目をキラキラと輝かせていた。
正直少し気恥ずかしいところはあるが、嬉しそうに話す心寿ちゃんが可愛いのでよしとする。
「あ、お好み焼き!」
会話を楽しんでいる途中で海夢ちゃんが視界に捉えた屋台に惹かれ、足早に駆け出す。
「美味しそ~! ねぇ、皆で食べようよ!」
先程までとは違う理由で目を輝かせながら提案する海夢ちゃん。
まるで子供のようなその様子に俺も新菜も心寿ちゃんも思わず笑みが零れた。
「皆で食べるのはいいけど、どうせなら他の屋台も楽しめるようにしない? すみません、お好み焼き二つ。それぞれ半分ずつに切ってもらうことって出来ますか?」
「あいよ! ちょっと待っててね!」
「月見里君ナイス!」
俺が注文すると店員さんは気持ちのいい返答と共にヘラでお好み焼きに切り込みを入れてフードパックへと移してくれた。
袋に入れて、俺達の為に気を利かせて割り箸まで人数分用意してくれたのを見て、俺は「ありがとうございます」と礼を言いながら代金を手渡す。
「まいどありー!」
「美味しそうですね、喜多川さ――えっ⁉」
俺の代わりにお好み焼きを受け取った新菜が袋の中身を覗き込みながら海夢ちゃんに話しかける。
しかし既に彼女の姿はなく、突然消えた海夢ちゃんを新菜は周囲を見渡して探し始めた。
「ご、五条さん、まりんさんがあっちに……」
「ねーねー! 焼き鳥もあるよー!」
お会計の間は後ろで待っていた心寿ちゃんが控えめに指差した先に俺と新菜が揃って視線を向けると、今度は焼き鳥やの前で再び目を輝かせている海夢ちゃんの姿が。
そこから始まる腹ペコ海夢ちゃんによる爆買い祭り。
イカ焼きに牛串、鶏皮餃子に唐揚げと全種類の屋台をコンプリ―トしようとする勢いだ。
「次は――」
「喜多川さん、待ってください。一旦どこかで止まって食べましょう……!」
「ごめんごめん。そうだね、そうしよっか」
慌てて制止する新菜の声でようやく止まった海夢ちゃんがこちらに振り返る。
その目に俺と新菜が両手いっぱいに商品をぶら下げているのが映った事で海夢ちゃんは納得し、一度落ち着いて買った料理を食べる事に応じた。
「いっぱい買いましたね……」
あまりの量に心寿ちゃんが苦笑いを浮かべる。
「まぁ、四人で食べるし大丈夫じゃないかな」
「そうそう、フツーフツー」
「そうでしょうか……」
俺も海夢ちゃんもこの位なら余裕だが、新菜は若干青褪めて手に持った商品を見つめる。
ともあれ、まずは腰を落ち着かせたいところ。都合良くベンチが一つ空いていたので俺達は横一列に並んで座る事にした。
ちなみに並び順は新菜、海夢ちゃん、心寿ちゃん、そして俺。
四人が座る事で互いの距離が近く、意図せず海夢ちゃんと密着する事になった新菜は顔を赤くしていたがあえて口には出さないでおく。
「ん~、焼き鳥うま~♡」
新菜の様子に気付かぬまま、海夢ちゃんが早速焼き鳥に食いつき、舌鼓を打つ。
彼女に釣られ俺達も思い思いの商品に手を、あるいは箸を伸ばして食べ始めた。
「お好み焼きも美味しいですよ」
「あたしも食べたい。ごじょー君、それちょうだい」
「はい。どう、ぞッ⁉」
海夢ちゃんに言われてお好み焼きを差し出そうとする新菜の声が裏返る。
俺と心寿ちゃんが手を止めて二人を見れば、両手に焼き鳥を持って手が塞がっている海夢ちゃんは口を開けて待っていた。所謂『あーん』の状態である。
そんな海夢ちゃんに新菜は真っ赤な顔に目を白黒させて面白いほど狼狽えていた。
「あの、喜多川さんっ、自分で……っ」
「今手が塞がってるから。は~や~く~」
焼き鳥を一本誰かに預ければ済む話なのにそれをせずに新菜に食べさせてもらおうとする海夢ちゃん、実にあざとくて可愛い。
勿論俺も心寿ちゃんも海夢ちゃんから焼き鳥を受け取ろうなどという野暮な事はしない。二人で新菜達の様子を笑顔で見守るだけだ。
ちなみにこれは仕返しという訳ではない。ないったらない。
「し、しし……失礼します……っ」
海夢ちゃんに急かされ、観念した新菜が新しい箸を使って海夢ちゃんにお好み焼きを食べさせる。
慌てて自分の箸で食べさせるかもと思ったが、そこにはしっかり気付いたようだ。残念。
「あ~、んっ。お好み焼きも美味しい~」
「よ、よかったです……」
新菜に食べさせてもらったお好み焼きをこれまた美味しそうに海夢ちゃんが味わう。
隣では新菜がまるでマラソンでもしたかのように肩で息をして、食事前に近くの屋台で購入したラムネを飲んでいた。
「ねーねー、ごじょー君」
「ふぅ……はい、なんでしょ――」
「お返し。はい、あーん」
「「‼」」
息を整えた新菜に海夢ちゃんが手に持っていた焼き鳥を口元へ差し出す。
それには新菜だけでなく、俺にも衝撃が走った。
原作では新菜が海夢ちゃんに食べさせる事はあったと思うけど、逆ってあったっけ⁉
もしかして俺、原作にもなかった貴重なシーンを目の当たりにしているのでは⁉
(海夢ちゃん……やるんだな⁉ 今……! ここで!)
「え、あの……」
「大丈夫、こっちはまだ食べてないから。ほらほら」
俺が思わず固唾を飲んで見守る中で、新菜がゆっくりと口を近付ける。
行け! そのまま、そのままパクッと!
「あ、あの……じ、じじ、自分で食べられますから……!」
「あっ」
しかし新菜は俺の期待を裏切り、海夢ちゃんの手から焼き鳥を奪い取って自分で食べ始めた。
惜しい、あともうちょっとだったのに……!
海夢ちゃんは残念そうに小さく声を漏らし、新菜が焼き鳥を食べるのを見つめる。
「……ふふっ」
だが海夢ちゃんはどうやら新菜の反応をどこか予想していたのかもしれない。
彼女は顔を赤くしながら焼き鳥を堪能する新菜の横顔を幸せそうに見つめていた。
海夢ちゃんが納得しているなら、俺は何も言うまい。推しカプのいじらしくも尊いやり取りを間近で見られただけでも十分だ。
「守優さん」
「ん? なに、心寿ちゃん?」
友人達のイチャつきを眺めていると、心寿ちゃんが体を傾けて俺の視界に入りながら呼び掛けてくる。
俺が新菜達を見つめているのを察して遠慮してくれていた事に気付いた俺は内心で少し申し訳なく思いながらそれに応じた。
「これ、凄く美味しいので……守優さんもよかったら……っ」
頬を染めた心寿ちゃんが差し出してきたのは鶏皮餃子。
確かに美味しそうだが、それ以上に大事なのは心寿ちゃんが直接食べさせようとしてくれている、つまり彼女から『あーん』されているという事!
まさか奥手な心寿ちゃんが人前でするとは思わなかった俺は思わず面食らってしまう。
「……ありがとう。いただくね?」
だが、それも一瞬。
彼女が勇気を出してしてくれた事を無下にするはずもなく、俺は自分の髪の毛が邪魔にならないよう指で除けながら餃子に食らいつく。
表面がパリッと焼かれた鶏皮と、それに包まれた具材の美味さが調和して口の中に広がる。
しかも、これを心寿ちゃんが食べさせてくれたというのが更に美味しさを引き立たせてる気がする。
「やば、美味しい~」
美味しさとこのシチュエーションに思わず頬が緩む。
隣では心寿ちゃんも俺の事を見つめて嬉しそうに微笑んでいた。
「ありがとう、心寿ちゃん。心寿ちゃんもこっちの唐揚げどうぞ」
食べさせてくれた心寿ちゃんに礼を言いながら、俺は手に持っていた唐揚げを
おそらく俺からの『あーん』を返してもらえると思っていたのであろう、心寿ちゃんは驚きに目を開いた後に少し残念そうに眉根を下げた。
その表情を見ると心苦しいが、勿論俺がそうした事には理由がある。
俺は無言で視線を心寿ちゃんとその背後にいる二人へと交互に移した。
「……! ありがとうございます、いただきますっ」
それに気付いた心寿ちゃんはパッと顔を明るくさせてから唐揚げに刺した串を手に取り、そのまま食べ始める。
(海夢ちゃんに遠慮したの、気付いてくれたかな)
きっと海夢ちゃん本人は俺達が食べさせ合ったところでそこまで気にする事はないだろうが、個人的に少し思うところがあったのだ。
そのせいで心寿ちゃんに残念な思いをさせてしまったのは申し訳ないので、また別のところで埋め合わせをしようと思う。
「心寿ちゃん、あたしもちょうだい!」
「はい、どうぞ」
「ありがとっ。ん、美味し~。ねえねえ心寿ちゃん、唐揚げと言えば月見里君の作る唐揚げってめっちゃ美味しいんだよ! ね、ごじょー君!」
「はい」
「そうなんですね。私も一度食べてみたいです」
「ふふっ、機会があれば喜んで」
その後、俺達は雑談に花を咲かせつつこの時間を堪能した。
大好きな人達と共に過ごす、幸せで尊い時間を。
皆で料理を食べた俺達は少し休憩を挟んでから再び移動を開始した。
思ったより長居をしてしまったが、花火のアナウンスもまだのようだし時間に余裕はあるだろう。
「あ、射的だ」
これまでとは気色の違う屋台に守優が気付き、自然に一同の目と足が止まった。
どうやらここら辺は射的やくじ引き、ボールすくい等の遊戯系統の屋台が集まっているらしい。
「花火開始までまだ時間あるし、一回遊んでもいいかな」
「いーんじゃない? せっかくだし遊んでいこうよ」
守優が射的の屋台を眺めながら呟くと、喜多川さんが笑顔でそれを後押しした。
彼女の言葉に守優は嬉しそうに頷くと、早足で屋台へと向かっていく。
「すみません、一回お願いします」
「あいよ!」
会計を終えて銃とコルクの弾を受け取った守優は、「ありがとうございます」と店員さんに笑顔で礼を言うと弾を込めて銃を構える。
「おおー、結構様になってるじゃん」
「カッコイイ……」
真剣な眼差しで銃を構え、景品の並んだ棚に狙いを定めるその姿に喜多川さんと乾さんが声を上げる。
確か守優は銃で撃ち合う系統のゲームをしていたはずだ。実際に射的をしている姿を見た事はないけど、もしかしたら結構得意なのかもしれない。
「地獄に落ちな、ベイビー」
守優が小さく呟き、引き金を引く。
一発、二発と弾が撃ち込まれていくのを俺達は無言で見守った。
「ふぅ……」
弾を撃ち尽くした守優は、息を吐きながらゆっくりと銃を置く。
そして景品が置かれている棚を眺めて小さく呟いた。
「…………なんてすばしっこい奴らなんだ」
「守優、景品は一ミリも動いてないよ」
彼の放った弾丸はただの一発も当たる事なく、景品は奇麗に棚に並べられたままだった。
「あははははっ‼」
「ふふっ、残念でしたね」
俺達のやり取りがツボだったのか、喜多川さんがお腹を抱えて大笑いし、乾さんも楽しそうに小さく笑っている。
「いけると思ったんだけどなー。やっぱりゲームと実際やるとじゃ全然違うね」
当の本人も多少残念そうにしつつも、射的そのものは楽しめたようで表情は笑顔そのものだ。
「惜しかったねー。はいこれ、残念賞の飴ね」
屋台の店員さんが大量の飴が入った籠を守優に差し出す。
どうやら景品が倒せなかった場合は好きな飴を一つもらえるらしい。
「いいんですか? ありがとうございます!」
思わぬ出来事に守優は「どれにしようかな」なんて数秒悩んだ後で飴を一つ手に取る。
「これにします」
「あいよ。よかったらまた挑戦してね、お嬢ちゃん」
店員さんが笑顔で放ったその言葉に俺達は揃って固まった。
「…………アハハ、アリガトウゴザイマシター」
守優が何かを諦めたかのような笑顔を浮かべて、棒読みでお礼を言ってる……!
あれはきっと訂正するのを面倒に思って黙っているつもりだ。
「……ブフッ!」
「ふふっ……」
そんな守優の反応に喜多川さんは必死に笑いを堪え、何故か乾さんは少しうっとりとした様子で笑みを浮かべている。
俺達の間でなんとも言えない空気が通り過ぎていくのを感じながら、祭りの夜は更に更けていった。
.
原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
-
内容的に違和感がなければ登場してほしい
-
登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
-
執筆者の自由にしたらいい
-
原作準拠であまり出さないでほしい