その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第63話『その転生者達は女装レイヤーに出会う』

「わぁ~~……」

 

「奇麗ですねー……」

 

夏休みが明け、二学期に入り二週間が経った。

まだまだ残暑が厳しい日が続く中、俺達は池袋にあるマーリンシティ内にある水族館にやってきている。

 

「めっちゃ癒される……水族館でも撮影出来るなんて、アコスタ良き~」

 

淡い光で照らされた水槽の中で自由に泳ぐ魚達、そしてそれらを背景に撮影を楽しむレイヤーさん達を眺めながら喜多川さんが呟く。

俺もコスプレをしたままこういう一般的な施設に入れるイベントがある事を知らなかったので少し新鮮だ。

喜多川さんの右隣に立つ守優も彼女の言葉に共感するように頷いている。

 

「うん、めっちゃ良いよね」

 

 

だが、その視線は喜多川さんに釘付けだった。

 

 

「月見里君さっきからあたしの事ガン見してくるじゃん」

 

「いやだって念願の文化祭コスだし……!」

 

「まぁ、気持ちはめっちゃ分かるけど! 今回の衣装もマジで最高だし! ありがとね、ごじょー君‼」

 

「喜んでもらえてなによりです」

 

確か守優は雫たんの文化祭の衣装が好きだって言ってたっけ。

そんな彼の言葉に同意しながら喜多川さんはその場でくるりと回って自身が身に纏う衣装を眺めてから俺に笑顔を向けた。

彼女の喜ぶ姿を見る度に衣装を制作して良かったと思える。

 

(まさかこんなに早く着てもらう事になるとは思わなかったけど……)

 

初回の反省を生かし、雫たんらしさを残しつつ生地の素材に気を配った今回の衣装は可動性や通気性も問題ない。しかし衣装が衣装な為まだまだ残暑が厳しい今の季節ではこの衣装を着てのイベント参加は難しいというのが俺達の判断だった。

だが完成品を前に気分が高揚してしまった喜多川さんは持ち前の行動力で屋内でのイベントを探し、今日に至っている。

 

「前回参加した時は広場と公園しか行きませんでしたが、コスプレをしたまま街を歩いたりお店に入れるなんて……撮影以外の楽しみ方もあるんですね」

 

「屋内なら気温も気にならないし、今後は季節に応じてこういう場所のイベントに参加するのもありかもな」

 

「でしょ⁉ 建物の中なら天気とか気にせず参加出来るし、マジ良くない⁉」

 

「ですね」

 

俺と喜多川さんが揃って守優の言葉に頷く。

これからもコスプレは続けていくだろうし、その中で毎回季節に合ったコスプレが出来るとは限らない。それを考えると参加する場所を選ぶというのも大事になってくるだろう。

 

「あたしカワウソとペンギン見た~い!」

 

それはそれとして、折角水族館に来たのだから楽しまければ損というもの。

俺が手に持つパンフレットの地図を横から眺めながら喜多川さんが声を上げる。

 

「賛成ー」

 

「ハイ、行きましょう……ん?」

 

彼女の提案に俺も守優も否はなかった。

喜多川さんの希望通りカワウソやペンギンが見られるコーナーへと向けて移動を開始しようとして、俺は視界の端で少女が座り込んでいる事に気が付く。

何事かと俺は様子を窺う為に近寄って声を掛けた。

 

「……どうかされたんですか?」

 

「あ……えっと……スカートのホックを落としちゃって探してるんです……」

 

ピンクの髪色とリボンの形に纏めた髪が印象的なその少女はスカートを抑えながら困った様子で呟く。

 

「家で試着した時は大丈夫だったんですが、糸が切れたみたいで……見当たらなくて……」

 

「それは大変ですね……」

 

「ごじょー君、何してんのー? ……は?」

 

俺の様子に気付いた喜多川さんが遅れてやってくる。隣には守優もいて俺達の様子を窺っていた。

そして喜多川さんは俺達に声を掛ける途中で少女の存在に気付いたようで、そちらを凝視して固まっている。もしかして彼女を知っているのだろうか?

 

 

初瀬川昴⁉ 『コスラバ』の! 初瀬川‼ 昴~⁉

 

 

「んん……ッ?」

 

どうやら俺の予想通り喜多川さんは彼女を知っているらしい。

しかし、その黄色い悲鳴から俺の予想の斜め上を行かれた事を理解した俺は困惑の唸り声を漏らす事しか出来なかった。

 

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

 

(あまね君キター‼)

 

海夢ちゃんが目を輝かせながら声を上げる横で、俺も内心でテンション爆上げで声を上げていた。

だってあまね君だよ? 仕方なくない?

というかマジで可愛いなこの子、ジュジュ様とはまた雰囲気が違うが美少女という言葉がぴったりの愛らしさだ。

困って座り込んでいるその姿さえ一つの絵として成り立っている。

 

「はぁ~~⁉ 本物じゃん……もうガチで尊い……可愛さの化身……すばるんの可愛さSSR……」

 

「いやいや、これはもうSSR通り越してURでしょ」

 

「ほんそれ!」

 

(可愛さSSR……? 通り越してUR……?)

 

目をキラキラさせながら感動のあまり震える海夢ちゃんの言葉に俺が返せば、彼女は飛び上がらんばかりの勢いでそれに同意してきた。

俺達の間に立つ新菜にはまだこのステージは早いようで首を傾げている。

 

「うわ~、やっぱ星守アイドル高校の制服安定の可愛さ……ピンクのチェックとスカートの後ろフリフリがアイドルって感じで最高ぉ~♡♡♡」

 

(星守……アイドル高校……?)

 

『コスラバ』の制服のデザインの良さを語り、最後には「すばるんが実在してる~、守りたぁい♡♡」とその可愛さに悶える海夢ちゃん。

新菜は未だに頭上にクエスチョンマークを浮かべているが、彼への解説は一旦後回し。

まずは目の前で困っているあまね君を助ける事が大事だ。

 

「喜多川さん、今はそのくらいにして話聞かないと……」

 

「確かに……! 一人でアガっててすみません、すばるんレイヤーさん。なにかあったんですか?」

 

俺の言葉でハートを撒き散らすのを止めた海夢ちゃんが慌ててあまね君に注意を向ける。

彼女のテンションに少し圧されつつ、あまね君は「あの、実は……」と新菜に伝えたであろう事情を俺達にも教えてくれた。

 

「超ピンチなやつじゃないですか‼」

 

事情を聞くや否や海夢ちゃんは床にしゃがみ込み捜索を開始し、それに新菜が加わる。

その当たり前のように人助けをしようとする姿勢に俺は感動しつつ、そんな彼女達の友人でいられる事が誇らしく思えた。

 

「え~、どこいったんだろ」

 

「暗いので見つけにくいですよね」

 

「光に反射してくれれば見つけやすいんだけどなぁ」

 

素敵な友人達と共に俺もホック探しに参加する。

 

「あっ、そんな……大丈夫ですよっ」

 

まさか協力してもらえると思っていなかったのか、あまね君が慌てて呼び止める。

しかし新菜も海夢ちゃんもまるで気にした様子もなく笑顔を浮かべた。

 

「手分けして探した方が早いですよ」

 

「です!」

 

「それに、困った時はお互い様ですから」

 

「……ありがとうございます」

 

俺達の言葉に少し呆気に取られつつ、あまね君は小さく微笑む。

それに俺達は揃って笑みを深め、捜索を再開した。

そうして四人で辺りを探すこと数分……

 

「あったー!」

 

「月見里君ナイス!」

 

原作で海夢ちゃんが『あんな隅っこにあったら見つかんないよね』と言っていたのを頼りに壁際や角を重点的に探し、俺は見事ホックを発見した。

いや本当に隅っこも隅っこ、しかも照明にも当たらない暗い場所に落ちてたからマジで見つけにくかった。原作知識(チート)万歳。

 

「本当に助かりました」

 

ホックを受け取ったあまね君が深々と頭を下げる。

 

「いえいえ~」

 

「全然大丈夫です」

 

「見つかってよかったですね」

 

無事にホックが見つかって安堵する様子を見るだけで、力になれてよかったと思えてくる。

俺達がそれぞれ言葉を返したところで、一件落着し憂いのなくなった海夢ちゃんはあまね君に質問を投げかけた。

 

「あのっ、コスネーム聞いてもいいですか?」

 

「はい、姫野あまねです」

 

海夢ちゃんの質問を受けてようやく自己紹介となったあまね君が居住まいを正してコスネームを名乗る。

 

「はぁ~、名前まで可愛すぎて泣いた~。あたし、まりんです~」

 

その名前すら愛らしい事に海夢ちゃんが再び顔をだらしなく緩ませながら自身も挨拶を返した。

 

「五条新菜です、ッ……な、なに?」

 

「本名を名乗るな」

 

海夢ちゃんに続いて自己紹介をする新菜に対して、隣に立っていた俺は軽く肘打ちで横腹を突いた。

あまね君が善人なのは分かっているし、原作で本名を名乗り続けていても問題にはならなかったが個人情報の取扱いに注意するに越した事はない。

そんな俺の注意に新菜は「ご、ごめん……」とバツが悪そうに頬を掻く。

うっかりな親友に小さく溜息を吐いて、俺もあまね君に向き直って名乗り返す。

 

「秋月みさとです、よろしくお願いします」

 

「「……?」」

 

「……何? 二人して」

 

俺があまね君に挨拶をする横で新菜と海夢ちゃんが揃ってきょとんとした顔で俺の方を見つめていた。

それに気付いて俺がどうしたのか尋ねると、数秒固まった後に何かに気付いたのか慌てながら勝手に二人で納得する。

 

「……あ、そうかっ。月見里君のコスネームだっけ!」

 

「ごめん、守優の名前と全然違うから一瞬分からなくて……!」

 

「……ああ、うん。もう別にいいけど……」

 

凄いじゃん、秒で俺のフルネームがバラされちゃったよ。

慌てる二人とそれに呆れる俺のやり取りにあまね君は楽しそうに笑みを漏らした。

 

「ふふっ、まりんちゃんに新菜君にみさと君ですね、よろしくおねがいします。ところで、まりんちゃんと新菜君は相方さんなんですか?」

 

俺の本名を知りながらあえてちゃんとコスネームの方で名前を呼んでくれるあまね君、あまりにも大人。

そして初見でわかまりの二人のコンビ感を見抜く慧眼もお見事である。

 

「「相方?」」

 

コスプレというものに携わってまだ数ヶ月という歴の浅い二人は相方の意味が分かっていないようで互いに見つめ合いながら復唱する。

この息ピッタリな感じも本当に推せる。今日も推しカプが可愛くて生きるのが楽しい。

 

「はい。彼が衣装とメイクを担当して、彼女がコスプレをするって感じです」

 

「やっぱり。ちなみにみさと君は?」

 

「俺は二人の友人兼ファン、それから付き添いですね~」

 

新菜がボロを出してしまう前にフォローをすれば、あまね君は「そうなんですね」と微笑みながら納得したように頷いた。

挨拶も一通り済んだところで海夢ちゃんが笑顔で両手を組んであまね君に呼び掛ける。

 

「あまねさん、この後予定ありますか? よかったら一緒に写真撮ってもらえたらなーって!」

 

「是非――あっ……」

 

海夢ちゃんの誘いにあまね君が嬉しそうに応じようとして、すぐにその表情を曇らせる。

 

「嬉しいんですけど、ごめんなさい……今日はもう帰ります……スカート抑えたままのみっともない格好でいたら、昴ちゃんのイメージを壊してしまうし……」

 

残念そうにスカートに視線を落とすあまね君。

その言葉だけでも彼が原作を、初瀬川昴という一人のキャラクターをリスペクトしているのかが分かる。

ただキャラクターと同じ格好をしたいだけではない、そこに確かな愛があるからこそ断腸の思いで誘いを断る姿勢に俺は尊敬の念を抱いた。

そんな彼に俺の親友は何でもないように救いの手を差し伸べる。

 

「それなら俺直しましょうか?」

 

「え?」

 

「前に色々ありまして、携帯用裁縫セットを持ってきてるんです」

 

そう言って懐から小さな裁縫セットを取り出す新菜。

 

「ごじょー君さっすが~~っ」

 

「前のイベントの時に守優が用意してくれていたのを参考にしただけなんですけどね……」

 

「経験を活かして備えてきてるだけ偉いよ。やるじゃん」

 

「そ、そうかな」

 

準備の良さに海夢ちゃんが褒めるが、新菜は前回俺が備えていたのを真似ただけだと謙遜する。

しかし前回での気付きや学びを活かして自分で準備出来ている事は立派な成長だ。

そう思って俺も海夢ちゃんと一緒に褒めると新菜は照れ臭そうにへにゃりと笑った。

 

「でも、申し訳ないですし……」

 

「これくらいならすぐに出来ますので大丈夫です」

 

「彼の裁縫の技術は凄いですよ。俺達が保証します」

 

遠慮して断ろうとするあまね君に新菜は何ともない様子で返す。

事実、彼にとってホックを直すくらい朝飯前だろう。

親友の技術を良く知る俺が横から口を出し、反対側では海夢ちゃんがうんうんと笑顔で頷いている。

そんな俺達の様子と自身のスカートを見比べた後、あまね君は笑顔で俺達の提案を受け入れてくれた。

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてください」

 

「では、会場に戻って更衣室に……ハッ‼ 俺じゃ女子更衣室には入れません‼」

 

「あ~、あたしがスカートだけ運ぼっか?」

 

スカートを直す方向で話が纏まったところで問題に気付いた新菜が慌て、海夢ちゃんがそれをフォローする方法を提案する。

本来なら俺も知恵を貸すべきなのだろうが、この問題がすぐに解決される事を俺は知っているので黙って成り行きを見守るに留めた。

 

「男子更衣室で大丈夫ですけど……」

 

「駄目ですよ……! 異性の更衣室へ入る事は禁止ってパンフレットに――」

 

「平気です」

 

あまね君こと姫野あまねさん。

本名は天野千歳さん。20歳の大学生。

その声も仕草も、女性にしか見えない。

下手をすれば女性よりも女性らしい。

 

 

「僕、男なので」

 

 

だが男だ。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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