その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第6話『その転生者は案内する』

某日土曜日。岩槻駅の改札口前で俺は友人を待っていた。

時間的にはそろそろのはずなんだけど……

 

「あっ、月見里君。おつ~! 迎えに来てくれてありがとねっ」

 

そんな事を考えていると、笑顔で改札から出てくる俺の待ち人こと海夢ちゃん。

流石モデルやってるだけあって私服のセンスが抜群だ。機会があれば服買う時に相談に乗ってもらいたい。

 

「お疲れ、喜多川さん。岩槻(こっち)来るのは初めてなんでしょ? 案内くらいならいくらでもするよ。ところでそれって、新菜へのお土産? 俺持つよ」

 

「そ? じゃあ、お願いしよっかな」

 

俺の言葉に海夢ちゃんが笑顔でお土産を手渡してくる。

あ、これ駅前のお店のチーズケーキじゃん。この店のやつ、美味しいんだよねぇ。

そんな事を考えながら、俺はお土産を受け取りつつ昨日ライムで行ったやり取りの再確認をしておく。

 

「新菜が採寸の事で心配してたけど、ちゃんと対策してくれた?」

 

「もち! 下着で採寸はごじょー君も困るしね。代わりに水着着てきた!」

 

「そっか~」

 

新菜にとってはそれでもアウトなんだけど、慌てる新菜が見たいからそれ以上は追及しないでおく。

 

「てか、月見里君が協力してくれてマジ助かったんだけど。もし断られてたらググって探し回らないといけなかったし」

 

「昨日の今日で凸しようとするし、探す方法も豪快だし、喜多川さん行動力ヤバいね。でもそれ、グレーだから次からはやめた方がいいよ?」

 

「マジ? 気を付けよっと」

 

好きな事に一直線で思い立ったら即行動な海夢ちゃんに一応釘を刺しておく。そういうのはしないに越した事はないからね。

そうして二人でアニメやゲームについて駄弁りながら新菜の家へと向かっていると、不意に海夢ちゃんが黙って俺の方を見つめていた。

 

「…………」

 

「? どうかした、喜多川さん?」

 

「……前から思ってたけどさ、月見里君の眼鏡ってマジでエグいよね」

 

「エグいって、なにが?」

 

「その分厚さ! 瓶底眼鏡っていうの? あたしリアルで見たの初めて!」

 

海夢ちゃんが少し興奮しながら俺の眼鏡に注目する。

確かに俺の眼鏡は彼女の言う通りの瓶底眼鏡だ。

前世でも眼鏡は掛けていたが、この体は更に視力が悪い。眼鏡がないと私生活に支障が出るレベル。

本当なら悪くなり始めた頃に目に負担を掛けないように意識するべきだったんだけど……

 

(やっぱり『着せ恋』で触れられてたアニメやゲームは履修しないとダメでしょ)

 

オタクの性には抗えず、モニターにかじりついた結果がこれだ。

反省はしているけど、後悔はしていない。前世に負けないくらい神作が多いのが悪いのである。

 

「ねぇ、月見里君。一回眼鏡外してみてくんない?」

 

「急だね。なんでまた?」

 

「だってさ、こういうのって外したらイケメンとか美少女っていうのがお約束じゃん! なにげに月見里君の素顔見た事ないしっ」

 

海夢ちゃんの言っていることはよく分かる。アニメあるあるってやつだ。

別に勿体ぶるものでもないので、今回採寸に同席させてもらう駄賃代わりの感覚で俺は眼鏡を外してみせる。

 

「こんな感じ。別に普通でしょ?」

 

眼鏡を取ってぼんやりとした視界の中、俺は海夢ちゃんの方を向いて心にもない台詞を吐いた(・・・・・・・・・・・)

 

「……お」

 

「……? お?」

 

「お約束じゃん‼」

 

眼鏡を掛け直しながら聞き返すと、海夢ちゃんは驚愕の顔で叫ぶ。

どうやらこの顔は海夢ちゃんのお眼鏡に叶ったようだ。俺は彼女の反応になんとか笑いを堪える。

そう、ぶっちゃけると眼鏡を外した俺の顔は結構美人だ。それも男らしいというよりは中性的な、所謂『女顔』である。

 

「すっご、今まで全然気付かなかった! 月見里君、めっちゃ奇麗な顔してるじゃん‼」

 

俺の顔を覗き込みながらきゃあきゃあと声を上げる海夢ちゃん。

あ~、純粋な賛辞に自己肯定感が高まっていく~。

冷静に考えると今の俺は滅茶苦茶痛いナルシストかもしれないが、前世の冴えない顔と比べるとあまりにも顔が良すぎるのだ。

加えて幼い頃から周りの大人からいっぱい褒めてもらっている。無自覚でいろという方が無理だろう。

別にこの顔を利用して悪さしたりとか考えてはいないので、そこは安心してほしい。

俺がしたいのはあくまで新菜や海夢ちゃん、そして二人の周りで繰り広げられる尊いあれこれを堪能しつつ二人を見守ることなのだから。

 

「ホントに? モデルやってて目が肥えている喜多川さんにそこまで褒めてもらえるなら、俺も自信付くよ。ありがとう」

 

「いやホントマジで凄い! てか、そんなに顔いいならコンタクトとかにすればいいのに!」

 

俺の素顔にテンションが上がった海夢ちゃんが興奮気味にアドバイスしてくれる。

しかし、俺はその提案に頷く事は出来ない。

 

「コンタクトかぁ……正直苦手なんだよね。目の中に物入れるっていうのが無理で……」

 

「マ? 慣れれば普通だよ?」

 

「その普通が出来ないんだよ。喜多川さん凄すぎ」

 

目薬でさえ苦労するレベルだ。コンタクトという異物を入れる行為は俺にとってハードルが高すぎる。

理由としては前世の幼少期、担任の先生がコンタクトのトラブルで目を真っ赤にさせていたのが何故か脳裏に刻まれてしまったからだ。

あと、生まれ変わった後も母親が同じ理由で目を赤くさせていたことがある。まさか人生二週目でもトラウマ(?)を刺激されると思わないだろ。

そんな理由で俺はコンタクトをするつもりはない。逆に海夢ちゃんは毎日カラコンを付けてて凄い、尊敬する。

 

「あたしはもう慣れちゃったかな。でも、確かに初めてカラコン入れた時はちょいビビッたかも」

 

「でもやり切ったんでしょ? 凄いよ」

 

「カラコンで普段と違う色になるとアガるんだよねっ、気合入れるのマジ大事!」

 

拳を握って楽しそうに語る海夢ちゃんに思わず笑みが零れた。

こういうオシャレだったり、『なりたい自分になるための努力』という事に努力を惜しまず、そして全力で楽しむところは見ているこちらも力をもらえるような感覚になる。

 

「……やっぱり、喜多川さんは凄いな」

 

「え~? よく分かんないけど、ありがとっ」

 

俺の言葉の真意には気付かぬまま、海夢ちゃんは満点の笑顔を俺に見せてくれる。

笑顔可愛すぎかよ。可愛すぎて輝いてるわ。

そんな可愛い推しと語りながらしばらく歩くと見えてきた『五条人形店』の看板。

 

「あそこがごじょー君の家?」

 

「そうだよ。さてと、新菜は起きてるかな~?」

 

通い慣れた幼馴染の家のインターホンを押し、反応を待つ。

一分ほど待つがそれでも出てこないので、もうワンプッシュ。

 

「あ、いい事思いついたっ」

 

新菜が出てくるのを待っていると、隣にいた海夢ちゃんは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

そして俺が立っている玄関の戸とは反対側に移動し、これから来るであろう新菜の死角に立つ。

子供らしい悪戯に頬を緩ませながら待っていると、家の中からパタパタと足音を立てながら人影が近付いてきて玄関が開いた。

 

「すいません、今日は休みなんで――なんだ、守優かぁ」

 

「いきなりごめん。もしかして寝てた?」

 

来訪者が俺だと分かると新菜は安心したように息を吐く。

驚かせてしまった事を詫びながら、チラリと横に視線を向けると、自身の手で口を抑えて笑いを堪える海夢ちゃんと目が合う。

 

「別に起きてたら大丈夫だけど、どうかした?」

 

「昨日話してた喜多川さんの採寸の事でちょっとな。上がっていい?」

 

「別にいいけど……」

 

○INEで話し合っていた『海夢ちゃんの採寸をどのように行うか』という問題について考えるために俺がやってきたのだと勘違いしているのだろう。拒否する事なく玄関を更に開いて出迎えてくれる。

 

「だってさ、喜多川さん」

 

「へ?」

 

「やっほ、ごじょー君。来ちゃった♡」

 

死角から姿を見せ、笑顔で新菜へと挨拶する喜多川さん。

予想外の人物の登場に脳の処理が追い付いていないのか、微動だにせず固まること数秒。

 

「きっ、きききっ……喜多川さん⁉ どど、どうしてここに……⁉ 守優、なんで――⁉」

 

「はいはい、落ち着いて。ちゃんと説明するから」

 

理解が追い付かないのか、俺と海夢ちゃんの顔を交互に見て顔を青くしたり赤くしたりと大忙しな新菜。

俺は新菜の肩に手を置き、幼馴染の気を落ち着かせようとする。

 

「どーしてってか、逆に雫たんになれるのに普通に月曜まで待つの無理じゃん? だから月見里君に相談してー、来ちゃった♡」

 

(うわ、新菜すっごい苦い顔してる)

 

きっと頭の中で『行動力…‼』って言ってるんだろうな。聞きたいからちゃんと声に出せ。

予想外の行動力に振り回されて混乱している新菜を横に、海夢ちゃんは「おじゃましまーっす」と元気に挨拶しながら勝手に上がり込もうとする。

 

「喜多川さん、案内した俺が言うのもなんだけど新菜にちゃんと説明もせずに上がり込もうとするのはマナー違反だよ」

 

「えー」

 

「えー、じゃない」

 

一秒でも早く採寸をして衣装完成に近付きたいのだろう。海夢ちゃんは不満気に声を漏らす。

しかし、そこは一般常識として大事なところだ。心を鬼にして俺は引き止め、新菜へと説明を始める。

 

「新菜が気にしてた採寸なんだけど、下着姿でしなくても良いように喜多川さんの方で対策してもらったんだ。でも、学校でするのはちょっとリスキーだからさ。それで新菜の家まで案内したってわけ」

 

「り、理由はわかったけど……対策って……?」

 

「それは部屋に上がって話すよ。だから、入っていいか?」

 

「う、うん……でもっ! せ、せめて部屋の片付けくらいは……させて、ほしい……」

 

少し迷いながらも、新菜は俺の言葉に頷いて了承する。

同時に出されたお願いに俺も海夢ちゃんも否はない。二人揃って頷いた。

 

「ああ、勿論」

 

「てか、よく考えたら前もって連絡してなかったあたし達が悪いんだし、全然待つよ」

 

「すみません、すぐに片付けますから……」

 

これから海夢ちゃんが部屋に入る事を想像しているのか、赤い顔を俯かせて消え入りそうな声で新菜が謝罪しながらゆっくりと玄関を閉めようとする。

 

「あ、これ喜多川さんからのお土産」

 

「喜多川さん、ありがとうございます……」

 

「ごじょー君。それめっちゃ美味しいやつだから。後で皆で食べよ?」

 

「ハイ……すみません……っ」

 

閉まりそうな玄関の隙間に海夢ちゃんからのお土産を差し込むと、新菜が手を震わせながらそれを受け取る。そして玄関が閉まり、部屋を片付けに向かったのであろう新菜の人影が遠退いていった。

それを見送りつつ、先程の一連のやり取りを思い返す。

 

(私の幼馴染、チョロすぎ……?)

 

尤もらしい事言ってたように見えたかもしれないけど、俺は何一つ説明してないんだけどな。

なのに新菜はそれに気付いていないのか、勢いに流されてあっさり受け入れてしまっていた。

幼馴染の押しに対する弱さ、おじさん心配です。

まぁ、今回はそのチョロさを利用させてもらう形になってしまったけれど。

 

(大丈夫だぞ、新菜。俺がついてるからな)

 

どれだけ喚こうがごねようが、俺がしっかり言いくるめて海夢ちゃんの採寸をやり遂げさせてやる。

これは新菜にとっても必要な事だから、仕方ない事だから!

 

「月見里君、なんか悪い顔してる」

 

ちょっと何言ってるかわからない。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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