その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第69話『その恋人未満は映画に行く』

9月29日、土曜日。俺は一ヶ月ぶりに渋谷駅に来ていた。

夏の暑さも和らぎ、九月の終わりを感じさせる今日この頃。土曜日という事もあって人の往来が激しいそこで俺は以前と同様ハチ公前で今日の主役を待っている。

 

「すみません、遅くなりました」

 

どうやら主役が登場したらしい。

 

「こんにちは、心寿ちゃん。大丈夫、全然時間通りだよ」

 

早足で俺のところまでやって来る心寿ちゃんを笑顔で出迎えた俺は、まずは真っ先に伝えなければいけない言葉を贈る。

 

「心寿ちゃん、お誕生日おめでとう」

 

「あ、ありがとうございますっ。守優さんも……お誕生日、おめでとうございます」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

心寿ちゃんは俺の言葉に頬を染めつつ、花が咲いたような笑顔を浮かべる。

彼女の眩い微笑みと共に贈られた祝福の言葉だけで、俺の心が満たされる気がした。

周囲は待ち合わせをする人や、写真を撮る観光客、友人同士ではしゃぐ学生達、そんな人混みの中にいるはずなのに、不思議と俺の意識は目の前の心寿ちゃんにばかり向いていた。

彼女が笑うだけで、周囲の雑音が少し遠くなる気がする。我ながらなんとも単純で重傷だ。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「はいっ」

 

なんだか照れ臭くてお互いに笑みを零しながら、俺達は今日の目的地の一つへと向かう。

 

「あの、守優さんのお誕生日にお祝い出来なくてすみませんでした」

 

その道中、心寿ちゃんが眉尻を下げながら視線を落とす。

突然の謝罪の言葉に対して、俺は笑顔で返し気にする必要がない事を伝えた。

 

「そんなの気にしなくていいよ。あの日は平日だったんだし、それに夜にライムで連絡くれたじゃん」

 

「でも、新菜さんやまりんさん……それに、お友達にも祝ってもらったんですよね?」

 

「まぁ、そうだけど……」

 

祝ってもらったと言っても「誕生日おめでとう」と簡単に声を掛けてもらったり、ジュースやお菓子を貰った程度だ。

ちなみに新菜と海夢ちゃんはプレゼントを用意してくれて、新菜は実用性のあるハンカチ、海夢ちゃんは颯馬君&朔夜君のぬいぐるみとオタク仲間らしいプレゼント。どちらも解釈一致でした。

そしてその日の夜は家族皆に祝ってもらい、先程心寿ちゃんに言った通り夜には彼女から通話でお祝いの言葉をもらっている。

俺としてはそれで充分幸せな一日だったのだが……心寿ちゃんはいったい何を気にして――

 

(……なるほど、そういう事か)

 

そこでようやく俺は一つの可能性を思いつく。

 

(心寿ちゃん、当日に俺の事をお祝い出来た新菜達の事が羨ましいんだ)

 

嫉妬。

そう言葉にしてしまうと少し独占欲が強いようにも聞こえるけれど、きっと心寿ちゃんの場合はそんな激しいものじゃない。

ただ、自分もその輪の中に入りたかっただけ。

俺の誕生日を、もっと近くで祝いたかっただけ。

そう思うと、その感情すら愛おしく感じてしまう。

我ながら自惚れが過ぎると思いつつ、そのいじらしくも愛らしい彼女に俺は本心を伝える。

 

「当日に誕生日を祝ってもらえた事は本当に嬉しかったよ。でも……俺が一番楽しみにしてたのは、今日だから」

 

「……!」

 

俺の言葉に心寿ちゃんの足が止まった。

数歩前に進んだ俺は心寿ちゃんへと向き直る。

 

「今日は新菜達に祝ってもらった日に負けないくらいいっぱい楽しもう。俺も、心寿ちゃんの誕生日祝って楽しんでもらいたいし」

 

「……はいっ!」

 

心寿ちゃんが幸せそうに笑顔を浮かべる。

まるで心の底から喜びが溢れ出したかのようなその笑顔に思わず目を奪われた。

 

(この子ホント可愛いな……)

 

見た目が可愛いのは勿論だが、嬉しくて目を輝かせたり幸せオーラを全身から出しちゃったりしてるところが本当に愛らしくて仕方ない。

こんなに可愛い子が俺の事を好きでいてくれるなんて正直未だに信じられない程だ。

そんなあまりにも俺にとって都合の良い現実を噛み締めながら、俺は心寿ちゃんと共に移動を続ける。

 

「そういえば、今日もその眼鏡掛けてくれてるんだね」

 

「は、はい……」

 

先程の会話の流れで触れる事が出来なかった眼鏡について指摘すると、心寿ちゃんは頬を僅かに染めながらコクリと頷く。

以前夏祭りで掛けてくれていた時もそうだが、本当によく似合っている。

 

「やっぱり似合ってる。プレゼントした甲斐があるよ」

 

「あ、ありがとうございます……守優さんも、眼鏡似合ってます……」

 

思った事を素直に伝えると、心寿ちゃんは更に顔を赤くしながら蚊が鳴くような声で返事をした。

そんな彼女の反応がまた可愛くて俺の頬は緩みっぱなしだ。

俺が笑っているのに気付いたのか、心寿ちゃんは恥ずかしそうに自分の髪の毛を掴む。

見慣れたその仕草に内心癒されていると心寿ちゃんが口を開いた。

 

「あ、あの……映画を見た後でいいので、以前行った眼鏡屋さんに行ってもいいですか?」

 

「前に行ったとこの……? 勿論いいけど、何か買うの? もしかして、また別の眼鏡?」

 

少々意外な場所の希望に理由を尋ねつつ、その理由を考察すると心寿ちゃんはゆるゆると首を振って俺の予測が外れている事を教えてくれる。

 

「いえ、今回は眼鏡ケースを買おうと思って……」

 

「なるほど、眼鏡ケースかぁ」

 

彼女の事に納得した俺は思わず頷く。

眼鏡を購入した際にサービスで貰ったケースがあるが、折角だからとケースに拘るのもありだろう。

正直に言うと俺はこれまで無料でもらったケースで不都合を感じた事はないが、心寿ちゃんが買うというのならこれを機に自分の物を選ぶのもありかもしれない。

 

「……俺も何か選んで買おうかな」

 

「ホントですか⁉」

 

「わっ、ビックリした」

 

何気なく呟いた声を拾った心寿ちゃんが突然大きな声を上げる。

その意外な反応と大声に思わず肩が跳ねてしまい、俺の反応を見て「す、すみません」と心寿ちゃんが大きな声を出してしまった事を恥ずかしがりながら頭を下げた。

心寿ちゃんの反応に驚きはしたものの、特に気にする必要もないので俺は「大丈夫」と言葉を返す。

 

(それにしても、そんなに意外だったのかな。俺が眼鏡ケース欲しがるの……)

 

先程の反応に奇妙な感覚を覚えるが、別に追及する程でもない。

丁度良いタイミングで俺達の目的地に到着したというのもあり、俺はあえて口にする事はしなかった。

そんなこんなで俺達がやってきたのは今日この渋谷に来た最大の目的と言っても過言ではない場所、ビル一棟を使った巨大な映画館である。

 

「思ったよりお客さん多いね」

 

「ですね」

 

言葉を交わした通り、休日という事もあり館内はかなり賑わっている。

俺と心寿ちゃんは他のお客さんの邪魔にならないよう気を付けながら、チケット購入の為に奥へと進んだ。

 

「あ……!」

 

隣の心寿ちゃんの足が止まり、彼女の目が分かりやすく輝く。

 

「守優さん、あれ見てください! 『怨電3』のポスターが貼ってありますよ!」

 

普段よりもテンションの高い心寿ちゃんが指を差した先には言葉の通り『怨電3』のポスターが他の映画のポスターと共に並んで掲載されている。

しかも、すぐ傍には大型の自立パネルが立てられており、映画紹介のモニターにはタイミングよく『怨電3』の予告映像が上映されていた……既にちょっと怖い。

 

「前にも話しましたけど、このシリーズ本当に大好きなんです……! 演出もすごいですし、音響も――」

 

楽しそうに語る心寿ちゃんに思わず目が奪われる。

好きなものの話をしている時の彼女は本当に楽しそうで、俺の目には煌めいて映っていた。

 

「……守優さん、どうかしましたか?」

 

俺が黙っているのが気になったのか、心寿ちゃんが小首を傾げる。

俺は自分が心寿ちゃんに見とれていたのを誤魔化す為に少し意地悪く笑みを浮かべて返す。

 

「いや~、楽しそうだなって」

 

「っ……!」

 

心寿ちゃんの顔がまた赤くなる。

今日の心寿ちゃんは嫉妬したり喜んだり照れたりと大忙しだ。

表情がころころと変わる心寿ちゃんの反応を楽しみながら、俺は手早くチケットを購入。

そのまま揃って売店へと移動した。

 

「ドリンクは買うとして、食べ物はどうしようか?」

 

「ポップコーンはどうですか? 塩とキャラメルのハーフもあるみたいですよ」

 

心寿ちゃんが指差したメニュー表にはドリンクだけでなくホットスナックやスイーツ、ポップコーン等が掲載されており、巨大なバケットに仕切りを入れて塩とキャラメルの両方を楽しめる商品も存在している事が分かる。

 

「いいね。じゃあそれ買って一緒に食べようか」

 

「はい」

 

俺の言葉に心寿ちゃんが嬉しそうに目を細めて頷く。

そうして俺達は自分達の順番が来たところでポップコーンとそれぞれのドリンクを注文し、購入した。

ドリンクとポップコーンを受け取り、俺達は指定されたスクリーンへと向かう。

ここの映画館はスクリーンの場所が階で分けられており、そこまではエレベーターで向かう仕組みになっている。

 

「楽しみですねっ」

 

「……そ、そうだね」

 

心寿ちゃんは実に楽しそうで、どこか足取りも軽い。

対する俺はスクリーンに向かうにつれて心なしか足が重く感じられた。

というか、なんであんなにお客さんいたのに俺達が向かう先にはほとんどいないんだよ⁉

やっぱりホラー映画だし見る人を選ぶから⁉ エレベーターなんか俺と心寿ちゃんの二人きりだし……!

 

「……っ」

 

ポーン、と電子音が鳴りエレベーターが目的の階に到着した事を告げる。

そんな些細な音にもちょっとビックリしつつエレベーターを降りると、映画館特有の落ち着いた照明で照らされた廊下が続いていた。

薄暗い通路を進めば、目的地であるスクリーンの扉に到着する。

入り口横にはご丁寧に先程チケット売り場で見た自立パネルがここにも設置されている。

……パネルの幽霊と目が合った気がした。

 

「……ふーっ」

 

俺は静かに深呼吸する。

……よし、覚悟完了!

 

「心寿ちゃん」

 

「はい?」

 

きょとんとする心寿ちゃん。

俺はそんな彼女に精一杯の笑顔を向けた。

 

「映画、楽しもうね!」

 

「……はいっ!」

 

俺の言葉に心寿ちゃんが溌溂とした様子で頷く。

そんな心寿ちゃんを見ているとこちらも元気が湧いてくるような気がした。

というか今更だけど、推しの一人でありこんなにも可愛い美少女とデート出来るんだからご褒美でしかないのでは?

そう思うとホラー映画だってなんてことないのかもしれない。

 

(俺達のデートは、これからだ!)

 

俺は心寿ちゃんを連れて、スクリーンの扉を開けた。

 

 

 

 

.

主人公のイメージCVについて

  • 決めてほしい(誰にするかは執筆者に一任)
  • 決めてほしい(誰にするかはアンケートで)
  • 決めても決めなくてもどちらでもいい
  • 決めない方がいい
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