その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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またしても更新が遅くなってしまいました、申し訳ありません。
今回はほとんど心寿ちゃん視点です。


第70『その恋する乙女は相手を知る』

Q.ホラー映画だけど大丈夫か?

 

A.(推しの子とのデートだから)大丈夫だ、問題な――

 

 

『キャアアアアアッ‼』

 

(くぁwせdrftgyふじこlp)

 

 

駄目でした☆

 

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

 

ジャパニーズホラーの名作である『怨電』。

その最新作が今年に上映されると聞いてからずっと楽しみにしていた。

 

「すっっっごく面白かったですね!」

 

「凄い迫力だったね」

 

『怨電』シリーズが大好きな私としては大満足の内容だった。

スクリーン越しに伝わってくる恐怖と臨場感。

過去作である1と2に張り巡らされた伏線が繋がってくる洗練されたストーリー。

どれを取っても期待以上で、エンドロールが流れ始めた時には少しだけ名残惜しささえ感じてしまったほどだ。

しかも、この素晴らしい作品を自分の誕生日に、自分の好きな人と一緒に観られたという事がより私の心を弾ませる。

 

「特にあの生放送で除霊をしようとするシーンがもう本当に……!」

 

「あれはかなりの衝撃だったね」

 

今思い出してもワクワクする衝撃のシーンに興奮が止まらない。

思わず熱がこもってしまう私の言葉に守優さんは笑顔で頷いて返してくれる。

 

「それからあのシーンが……!」

 

映画館を出てからも私の興奮は冷めず、抑えきれない衝動に身を任せて感想を語り続けた。

それに対して守優さんは相も変わらず笑顔で返してくれる。

 

「うんうん、演出凄かったよね」

 

私の言葉に耳を傾けてくれるその様子はいつも通り、優しい守優さんだ。

そう、いつも通りなのに。

そのいつも通りのはずの笑顔と優しさに何故か違和感を覚えた。

 

(……?)

 

私は映画鑑賞中の守優さんの様子を記憶の中で振り返る。

先程私が熱く語ったシーンの時、彼はどうしていただろうか……?

大きな音が鳴る度に揺れる肩。

思わず息を呑む気配。

いつもなら余裕そうに笑う守優さんが、スクリーンを見つめたまま固まっていた。

 

(もしかして……)

 

あの時は映画に夢中で気にも留めなかった。

けれど今なら分かる。

私は一つの確信を抱きつつ、彼にゆっくりと尋ねる。

 

「……あの、守優さん……」

 

「ん?」

 

「もしかして……ホラー映画、苦手でしたか?」

 

私に質問をされた瞬間、守優さんは一瞬目を大きく開いた後に、ばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。

 

「あー……バレちゃった?」

 

少し困った様子で返されたその言葉は私の確信が正しくて、そして私が一人で舞い上がって彼に負担を掛けていたという事で……それを理解すると共に私は慌てて頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい……! 私が『怨電』のシリーズが好きだなんて言ったから……!」

 

夏休み最後の夜に通話した時の事を思い出す。

あの時守優さんは五条さんやまりんさんと映画鑑賞をした時の事を楽しそうに話していたから、私はてっきり守優さんもホラーが好きなのだと思ってしまった。

きっと守優さんは私がホラー映画が好きだと知ったから、自分は苦手なのだと言い出せなかったのかもしれない。

この人は他者の“好き”を大切にする人だから。

 

(なのに私は自分の事ばっかりで……)

 

浮かれてしまって周りが見えていなかった自分が嫌になる。

 

「心寿ちゃん、頭を上げてよ」

 

頭上から守優さんの声が降る。

私はゆっくりと頭を上げるが、申し訳ないという気持ちが拭えず視線は足元を見つめたまま。

そんな私に守優さんはちょっと困ったように「んー……」と小さく唸る。

私のせいで彼が困っている。そう思うと駄目だと分かっていても涙が溢れそうになって視界がぼやけた。

 

「心寿ちゃん。俺、心寿ちゃんに謝られるような事はなにもされてないよ」

 

「……え?」

 

その優しい声色の言葉が私の涙を止めた。

私は無意識に顔を上げて守優さんを見つめる。その表情は言葉の通り本当に気にしていない様子だった。

 

「だ、だって……私が『怨電3』が見たいって言ったせいで守優さんに無理をさせてしまって……」

 

「そこがまず違うんだよ」

 

守優さんが柔らかく私の言葉を遮った。

彼の目はその声色と同じくらい優しく私の事を見つめている。

 

「俺は無理をして心寿ちゃんに付き合ったわけじゃない。俺が自分の意思で映画を一緒に観たいと思ったんだ」

 

「……本当、ですか?」

 

「うん」

 

彼が嘘をついていない事なんて分かるのに、それでも不安で尋ねる。

守優さんはゆっくりと頷いた後、柔らかく微笑んだ。

 

「本来好きなものなんて人それぞれなんだよ。俺と新菜だってそうだし、きっと心寿ちゃんとジュジュさんにもそういうところがあると思う」

 

無二の親友でさえ、血を分けた姉妹でさえ、全く同じというのはあり得ない。

ならば自分と守優さんも例外ではないだろう。先程の言葉からもそれは容易に想像できる。

しかし、守優さんは笑顔を絶やさぬまま続けた。

 

「だから俺が思うに、大事なのは相手の“好き”を否定せずに受け入れる事だと思うんだ」

 

「相手の“好き”を否定せずに受け入れる……」

 

無意識に守優さんの言葉をなぞる。

その言葉は優しさと思いやりに溢れた、彼らしい金言に思えた。

私が言葉を繰り返したのを見て、守優さんはゆっくり頷く。

 

「そう。別に無理して相手の好きに合わせる必要なんかない。それが相手にとって大事なものだと理解してあげる事が大切なんだって俺は考えてる」

 

彼なのか、それとも近しい誰かなのか。

その好きを否定されて傷ついた人がいるのかもしれない。

 

「だから、心寿ちゃんは心寿ちゃんの好きなものを胸を張って好きって言っていいんだよ」

 

そんな彼だからなのか、その言葉には確かな重みと温かみがある。

好きなものを好きだと言う。

それは簡単なようでいて、私には少しだけ難しい事だった。

同年代の周りと比べて高い身長に太った身体。

人見知りで、自分に自信もなくて。

だから自分の好きなものを好きだと口にする事もなかなか出来なくて……

誰かに否定されたわけじゃないけれど、胸を張れない瞬間は確かにあった。

だからこそ。守優さんの言葉は、冷えた指先を包む温もりのように優しく胸へ染み込んでいく。

同時に、もし仮にこの人と相容れない好みがあったとしてもそれでいいのだと思えた。

守優さんとなら、きっとお互いの大切なものを尊重し合えるから。

 

「それに、心寿ちゃんが好きなものを共有出来て俺は嬉しかったな」

 

そう言って照れ臭そうに笑う守優さんに私も自然と笑みが零れた。

この人はいつだって私の“好き”を軽んじない。

当たり前のように受け止めて、大切なものとして扱ってくれる。

その事実が胸の奥へ静かに染み込んでいくようで、気付けば口元が緩んでいた。

 

「さっき映画について話す心寿ちゃん、凄くキラキラしてたし」

 

「……えっ⁉」

 

彼の優しさに胸が熱くなるところに突然告げられた言葉。

その言葉に私は熱が一気に顔に上がってくるのを感じる。

慌てる私を見て、守優さんがクスクスと笑った。

 

「子供みたいに目を輝かせて、楽しそうに映画について話して……本当に好きなんだなって伝わってきた」

 

「……っ」

 

思わず胸が高鳴る。

自分ではそんなつもりはなかった。

けれど、守優さんはそんな風に見ていてくれたらしい。

頬がじわりと熱を帯びる。

今すぐ顔を隠してしまいたいくらい気恥ずかしいのに、不思議と嫌ではない。

むしろ胸の奥には、柔らかな灯火がともったような温かさが広がっていた。

 

「だからそんなに心配しなくて大丈夫だし、これからも心寿ちゃんが好きなものは遠慮せずに教えてよ」

 

「……はい!」

 

守優さんの言葉に甘える事になるのは分かっているけれど、自分を受け入れてくれるのが嬉しくて私は声を弾ませた。

 

「あ、でもホラーばっかりは勘弁してね⁉ 俺の心臓が持たないから!」

 

「ふふっ、はい」

 

慌てて訂正する守優さんの反応がなんだか可愛くて笑ってしまう。

私の反応を見て少しからかわれたと思ったのか、守優さんは「別にホラーが滅茶苦茶無理ってわけじゃないんだよ? 初見でビックリさせられるのが苦手って言うか……!」とホラーが苦手な理由について語り始める。

まるで子供が言い訳をするかのようなその姿は、やっぱりおかしくて可愛くて。

 

「ホラー映画以外の私の好きなものも知ってもらいますね。だから……」

 

「?」

 

「――だから、守優さんの好きなものもいっぱい教えてください」

 

そんな守優さんに私の好きなものをもっと知ってもらいたい。

そして、同じくらい彼が好きなものを私に教えてもらいたい。

 

「……うん」

 

嬉しそうに目を細めて頷く守優さん。

その表情から、私の想いはきちんと伝わっているのが分かった。

守優さんとの距離がまた一つ近付いたのを感じつつ、私達は映画館を後にするべく廊下を進む。

 

「あーあ」

 

道中、突然守優さんが残念そうに声を漏らす。

その理由が分からず首を傾げると、守優さん薄暗い照明の並ぶ天井を眺めながら言った。

 

「一つ残念なのは、俺がホラー苦手なのが心寿ちゃんにバレちゃった事だな~。せめて今回だけは隠すつもりだったのに……格好つかないや」

 

守優さんは私に要らぬ気遣いをさせまいとホラーが苦手なのを隠すつもりだったようだ。

今回だけという事はいずれは苦手である事を告白する気ではいたのかもしれないが、その通りにいかなかった事に守優さんは気まずそうに頬を掻きながら私の事を見つめる。

 

「カッコ悪くてごめんね?」

 

情けない自分を恥じるように苦笑いを浮かべながらそう言うと、守優さんは少しだけ足早に前を歩いた。

 

(そんな事ないですよ)

 

数歩前を歩く守優さんの背中に向けて私は心の中で呟いた。

ホラー映画が苦手な事も、映画の内容にビックリしていた事も、苦手な事を隠してそれがバレた事も、何一つとして彼の事をカッコ悪いだなんて思う要素にはならない。

むしろ私の事を気遣って隠そうとした事や、それがバレて私が自分自身を責めてしまった時に優しい言葉をかけてくれた事が堪らなく嬉しくて――

 

(凄く、カッコよかったです)

 

やっぱり、私はこの人が大好きなんだと改めて思った。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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