その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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今回はかなり更新が遅れてしまいました、申し訳ありません。
以前の守優・心寿ちゃんのデート回の二番煎じになってしまわないようにと色々考えた結果難産になってしまいました。
なんとか形になりましたが、人によってはこれでも二番煎じな感じがあるかもしれません。精進します…!


第71話『その恋人未満は贈り合う』

皆さんお久しぶりです、涼香の友人の千菅蒼依です。

土曜というある意味最も休みを謳歌出来る今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?

私ですか? 私は勿論――

 

「いらっしゃいませー」

 

今日も今日とて労働に勤しんでいます。

眼鏡ショップは土日や祝日という世間が休みの時こそお客様がたくさんいらっしゃるので、仕方ありません。

とは言いつつ、実は今日に限ってはこの日の仕事を私は待ち望んでいました。

 

(何故なら私の推し客が来るから……!)

 

たった今来店された一組の男女がそう。

以前来店した時には瓶底眼鏡の奥に隠れていた整った顔立ちが、今ではすっかり露わになっている。

同じフレームの色違いを掛けた二人が並んでいる光景は、まるで雑誌のカップル特集の1ページだ。

……いや、実際のところこの二人の光景を写真にしてうちの広告雑誌に載せたら滅茶苦茶売り上げ上がるんじゃないかな?

そんな事を考えつつ私が接客の為に近付くと、少年は一瞬驚いた様子で目を見開いたがすぐに整った笑顔で軽く会釈をしてくれた。

 

「あの、今日受け取りの予約をしていた乾です。お願いしていたもの、ありますか?」

 

彼の隣に立つ少女・乾心寿さんが私に尋ねる。

実は乾さんは数日前に一度この店に来店されていた。

その日は丁度休みで後から副店長に教えてもらったが、あれほど当日が休みである事を悔いた日はない。

 

「はい、少々お待ちくださいね」

 

彼女が予約をした商品の購入理由を察した私は笑顔で店の奥へと向かい、トレイにそれを載せて戻る。

 

「こちらでお間違いないですか?」

 

「はい」

 

「これは……眼鏡ケース?」

 

用意した物が間違いがない事を乾さんが頷いて確認する。

その横で少年がその商品を見つめた。

彼が口にした通り、乾さんが購入を希望したのは一つの眼鏡ケース。

 

「どうぞ、手に取ってご覧になってください」

 

私が促すと未来の彼氏さん(私の中では確定)が眼鏡ケースを手に取り、その手触りを確認する。

 

「こちらは海外で有名なブランドの商品でして、スタイリッシュなデザイン性が高く評価されています。細身でスリムなデザインですが非常に耐久性に優れておりまして、中は人工スエードが貼り付けられているので内側と外側の両方からしっかりと眼鏡を保護してくれますよ」

 

少年が私の説明に耳を傾けながらケースをいろんな角度で眺めたり、フラップを開いて中を確認したりする。

マグネットタイプのフラップは両開きになっている事で眼鏡が取りやすい設計になっており、一度閉じればマグネットのお陰でしっかりと固定されるので誤って中身が出てしまう事もない。

シンプルでスタイリッシュなデザイン、見た目だけでなく耐久性と機能性も充実したそれはうちの店でも人気の商品だ。

 

「これ、凄く良いですね」

 

満足そうに頷きながら少年が言う。

どうやら彼のお気に召したらしい。

その反応にお客様の求めるものが提供できた事の達成感、それを選び予約までした乾さんの苦労が報われた事の喜びが沸き起こる。

気付けば私も乾さんもニコニコと笑顔を浮かべ、少年の事を見つめていた。

 

「実はそれ、守優さんへの誕生日プレゼントとして注文したんです」

 

「俺に……?」

 

乾さんの言葉に少年・守優さんがきょとりとした顔で返す。

 

「はい。守優さんはずっと眼鏡を掛けているので、普段から使ってもらえる物がいいなって思って……」

 

「そうだったんだね。ありがとう、凄く嬉しいよ!」

 

「っ、本当ですか⁉ ……良かったぁ」

 

恥ずかしそうに語る乾さんに守優さんは嬉しそうにはにかみ、その反応に乾さんは嬉しさと安堵に胸を撫で下ろした。

くっ、なんて幸せそうなやりとり! その破壊力満点の尊さに目が焼かれそうになるが営業スマイルで目を細めて耐える。

 

「じゃあ、お返しに俺は心寿ちゃんの眼鏡ケースをプレゼントしたいんだけどいいかな?」

 

「! お願いしますっ!」

 

「――……っ!」

 

なんとか耐えたと思ったが甘かった。

推しカプによる隙を生じぬ二段構えの尊みに私の心臓は撃ち抜かれる。

 

「すみません、少し眼鏡ケースを見せてもらってもいいですか?」

 

「はい勿論です」

 

長年の経験でなんとか平常心を装って私は接客に従事した。

二人は時折私にアドバイスを求めながら選別し、そうして最終的に選ばれたのは牛革を用いたケース。

革を磨いて作られたそれは高級感を感じさせると共に柔らかさと温かさがあり、また革特有の使い込むほど味わいの出てくる長年使える一品だ。

 

「心寿ちゃん。誕生日おめでとう」

 

「ありがとうございます。守優さんも誕生日おめでとうございます」

 

「ふふっ、ありがとう。じゃあ、行こうか」

 

「はいっ」

 

お会計を済ませた二人はプレゼント用に包装された商品を受け取ると私の目の前で商品を交換しあい、店を後にする。

 

「アリガトウゴザイマシター」

 

ご馳走様でした、と言いたくなるのを堪えて私は何千回と口にした接客の言葉を口にして二人を見送る。

今回も致死量ギリギリの過剰供給だった。

私はあまりの尊さに胸が締め付けられるのを感じながら副店長の下へと向かう。

 

 

副店長、さっきのお客様達が尊すぎて苦しいです、どうしたらいいですか?

 

病院行け

 

 

何故か副店長の言葉には全く労りの心を感じなかった。

 

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

 

アオイさんの務めるお店で眼鏡ケースを購入した俺達は駅から最寄りの百貨店のレストラン街で昼食をとった。

昼食を食べるが少し遅かった事や乾家では夜に心寿ちゃんの誕生日を盛大に祝うだろうと予測出来た事から昼食は軽めに――

 

「ふふっ」

 

「……どうかした?」

 

「すみません、お昼ご飯の時の事を思い出してしまって」

 

「うっ……」

 

可笑しそうに笑みを零す心寿ちゃんの言葉にほんのり頬が熱くなる。

彼女が笑っているのは昼食時の俺の食べっぷりが原因だろう。

 

「いや、最初は俺も軽く済ませるつもりだったんだよ? ちょっと『数量限定』っていうワードに釣られちゃっただけで……!」

 

「うふふ。はい、分かってます。実際美味しかったですもんね」

 

心寿ちゃんが笑みを深めたのを見て、俺はなんだか墓穴を掘ったような気分になる。

彼女とのやり取りの通り、軽食で済ますつもりだったのだがメニューに掲載されていた『数量限定 店長の気まぐれサンドイッチ』に釣られてしまった俺はそれも注文し、結局はガッツリ食べてしまったのだ。

仕方ないじゃん! だって美味しそうだったし、食べたら本当に美味しいし……!

 

「守優さん。私、守優さんがたくさん食べてるのを見るの好きですよ。だからこれからも遠慮なく食べて欲しいです」

 

恥ずかしさのあまり片手で顔を覆う俺の横で心寿ちゃんが言う。

その声色は優しくて、お世辞や気遣いではなく本当にそう思ってくれているのが分かった。

恥じらいを拭う事は出来ないが、本心から来ているであろうその言葉は素直にありがたい。

 

「……ありがとう」

 

「はいっ」

 

まだ少し顔が熱いのを感じながら礼を言えば、心寿ちゃんは笑顔のまま頷く。

ともあれ、遅めの昼食をとった俺達はその後、前回はウインドウショッピングで済ませたお店を回り買い物を楽しんだ。

最初のデートと比べて特別大きな違いはなかったかもしれない。

しかし不思議と退屈な時間は一時もなかった。

好きな人と過ごす時間というのは、それだけで特別になるらしい。

 

「それにしても、あっという間だったね」

 

「そうですね……」

 

買い物を終える頃には日が傾き始め、帰路の最中である現在はもう空が茜色に染まりつつある。

夕焼け空を眺めながら呟けば、心寿ちゃんは手に持った小さな紙袋を抱きしめながら頷いた。

その紙袋の中身は言うまでもなく、心寿ちゃんにプレゼントした眼鏡ケースである。

まるで宝物を扱うような仕草に思わず頬が緩む。

 

「そんなに気に入ってくれた?」

 

「はいっ」

 

まさかの即答。

それ程までに喜んでもらえたのが嬉しくて胸がいっぱいになるのを感じていると、夕日に照らされながら心寿ちゃんが微笑む。

その笑顔を見るだけで俺の胸が幸せな気持ちで満たされ、この時間が永遠に続けばいいとさえ思う。

しかし、こういう幸せな時間程過ぎ去っていくのが早いもので、ゆっくりと歩いていたつもりだったのにあっという間に彼女の家に到着してしまった。

 

「心寿ちゃん、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

玄関の扉を開けてあげると心寿ちゃんが小さくお辞儀をして中へと入る。

 

「心寿、お帰りなさい」

 

以前は母親である杏寿さんが出迎えてくれたが、今回はお姉さんであるジュジュ様がお出迎えのようだ。

 

「お姉ちゃん、ただいまっ。お母さんは?」

 

「お母さんは料理中で手が離せないの。こういう時にお母さんが張り切っちゃうのはあなたも良く知っているでしょう?」

 

「お姉ちゃんの誕生日の時も凄かったもんね」

 

大好きな姉の出迎えに顔を綻ばせながら尋ねる心寿ちゃんにジュジュ様が微苦笑しながら答える。

確かに以前お邪魔したリビングの方向から美味しそうな匂いが漂ってくる。その匂いだけで空腹感を覚えてしまいそうだ。

 

「月見里守優、心寿を送り届けてくれてありがとう」

 

杏寿さんが作る豪勢な料理を想像していると、突然ジュジュ様に声を掛けられる。

その礼の言葉に俺は何の事はないと首を振って返した。

 

「心寿ちゃんに何かあったら大変ですから」

 

「そうね。この子にもしもの事があったら酷いわよ?」

 

まるで脅しをかけるような言葉だが、その表情と声色はとても柔らかく優しいものだった。

ジュジュ様なりに俺の事を信用してくれているのかもしれない。

その信頼に応えるつもりで俺は言葉を返す。

 

「大丈夫です。これからも心寿ちゃんを連れ出す時はきちんと送り届けるので」

 

「そう。ならいいわ」

 

俺の返答に満足気にジュジュ様が頷く。

そして「そうだ」と何か思いついたように言葉を続けた。

 

「月見里守優、あなたも食べていく?」

 

「! 守優さんも食べていきますかっ⁉」

 

ジュジュ様の提案に俺よりも早く心寿ちゃんが反応する。

跳び上がりそうな程に声を弾ませるその様子に提案したジュジュ様がちょっぴりビックリしているのが面白い。

確かに魅力的な提案だ。以前は杏寿さんにも同様に食事に誘われのを断ったし。

 

「いえ、折角ですけど遠慮しておきます。お昼間に散々心寿ちゃんを連れ回してしまいましたから。夜は家族水入らずで彼女の誕生日をお祝いしてあげてください」

 

しかし、俺は今回も辞退する事を選ぶ。

理由はジュジュ様に伝えた通り。

今日はずっと心寿ちゃんを独り占めさせてもらったのだ、せめて夜くらいは乾家で家族団欒を過ごしてもらいたい。

 

「そう、わかったわ……ありがとう」

 

おそらくジュジュ様は俺が断るのを見越していたのだろう、特に驚く事もなくあっさりと了解した。

 

「……」

 

一方、その隣に立つ心寿ちゃんはしょんぼりと残念そうにしている。

彼女の期待に応えられないのは心苦しいが、それに負けてジュジュ様や杏寿さん、まだお会いした事はないが彼女達のお父さんに迷惑をかけるわけにはいかない。

 

「ごめんね、心寿ちゃん。また今度機会があったら、ね?」

 

「はい……」

 

俺が断った理由を十分理解してくれている心寿ちゃんは残念そうにしつつも引き止める事なく頷く。

 

「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。ジュジュさん、お邪魔しました。ご両親にもよろしくお伝えください」

 

「はい、気を付けて帰ってくださいね」

 

「またいつでも遊びに来なさい」

 

乾姉妹に見送られ、俺は玄関を出る。

空を見上げれば既に夕日は沈みかけ、東の空は薄闇が伸びてきていた。

真夏の頃と比べると日没が早まったのを感じつつ、俺は乾家の広い庭を通り過ぎていく。

 

「守優さんっ」

 

突然背後から声がかかる。

振り返ると心寿ちゃんがパタパタと小走りでこちらに向かってきていた。

一体どうしたのだろうか? 何か忘れ物でもしたかな?

 

「心寿ちゃん、どうかした?」

 

「は、はい……えっと……」

 

心寿ちゃんは胸の前で手を組み、言葉を探すように視線を彷徨わせる。

 

「あ、あのっ、今日はありがとうございました、とっても楽しかったです!」

 

言葉に詰まりながら、しかしハッキリと伝えられた感謝の言葉。そして向けられた花が咲いたような笑顔。

それは彼女が今日一日を幸せに過ごせた事を物語っていた。

その言葉と笑顔が俺の胸を幸せでいっぱいにしてくれる。

 

「こちらこそ。心寿ちゃんの誕生日をお祝い出来てよかったよ」

 

心からそう思う。

今日は心寿ちゃんの誕生日で俺はお祝いする側の立場だったにも関わらず、彼女のお陰でとても素敵な時間を過ごす事が出来た。

 

 

「来年は、ちゃんと守優さんの誕生日にお祝いさせてくださいね」

 

 

そう言って微笑む心寿ちゃんに一瞬言葉を失う。

今日という一日は、俺にとって十分すぎるほど幸せなものだった。

好きな人と一緒に映画を観て、買い物をして、他愛もない話をして。

特別な事をしたわけじゃない。

けれど、好きな人と過ごす時間というだけで、その全てがかけがえのない思い出になった。

そんな一日を過ごしたばかりだというのに、心寿ちゃんは来年、自分の誕生日ではなく俺の誕生日を祝いたいと言ってくれている。

まるで今日のお返しをするのが当然だと言わんばかりに。

その優しさが嬉しくて。

その未来を当たり前のように口にしてくれた事が嬉しくて。

 

 

「……ありがとう。楽しみにしてる!」

 

 

心寿ちゃんと一緒に笑っていたい。

来年も。

再来年も。

出来る事ならその先も。

そんな欲張りな願いが胸に抱きながら、俺は心寿ちゃんへ微笑み返した。

 

 

 

 

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主人公のイメージCVについて

  • 決めてほしい(誰にするかは執筆者に一任)
  • 決めてほしい(誰にするかはアンケートで)
  • 決めても決めなくてもどちらでもいい
  • 決めない方がいい
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