その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第72話『そのバニー好き達は狂気を宿す』

「ご馳走様でした」

 

学食で昼食を終え、合掌して食後の一礼をする。

食材と作ってくれた人への感謝や礼儀を忘れてはいけないというおばあちゃんの教えを守り、今の人生で一度も欠かした事がない挨拶だ。

 

「ホント相変わらずよく食うな、月見里」

 

そんな俺の一礼を眺めながら村上が言う。今日は男子のいつメン達と一緒に学食だ。

 

「食欲の秋だからな」

 

「月見里に限っては季節関係ねえだろ」

 

俺の前に並んだ空の食器達に視線を注ぐ村上に俺が返事をすると、彼の隣に座る古賀がバッサリと俺の言葉を切り捨てる。何故ばれたし。

一応言い訳をさせてもらうと、前世では年齢もあって脂っこいものが駄目だったのが今は全然平気だし、いくら食べても太らないというありがたい体質のお陰で美味しいものを食べるのが幸せで仕方がないのだ。

 

「てかさー、そんだけ食えるんならワンチャン大食い系でSNSとかで人気になれるんじゃね?」

 

「確かにそういうのってツツキッターとかスタスタグラムとかでもよく見るよな」

 

名案とばかりに思い付きを口にする森田の言葉に柏木がスマホを操作しながら頷く。

そのまま「もしかしたらバズるかもしんねえぞ?」と笑みを浮かべて続ける柏木に俺はゆるゆると首を横に振った。

 

「皆は俺の事大食いって言うけどさ、それって『見た目の割には』程度だろ? ぶっちゃけそういう動画で上げてる人ほど食べられる自信ないって~」

 

これは謙遜でもなんでもない。

美味しいものを食べるのは幸せだし周りと比べてたくさん食べる自覚はあるが、それも俺が自分で言った通りのレベルだ。

テレビで活躍したりSNSで人気を博している人達のように何十人分なんて絶対無理。

 

「なにより、俺はこうやって友達や家族と楽しく食べるのが一番好きだし。だから俺は今くらいがちょうどいいかな」

 

食べたいものを親しい人と楽しく食べるのが俺にとっての幸せだからね。

そんな俺の意思が伝わったのか、柏木は「そうか」とあっさりと納得し話題を終える。

しかしその表情はどこか嬉しそうに笑みを浮かべており、よく見れば他の三人も同じように笑っていた。

 

「?」

 

「あ、月見里君いたー」

 

その反応に内心で首を傾げていると、俺達の許に駆け寄ってくる少女が一人。

同じクラスの乃羽ちゃんだ。

 

「菅谷さん? どうかした?」

 

「海夢見てない? うちらが学食食べた後にハロパの打ち合わせするって言ったのに教室いなくてさー」

 

なるほど、もうそんな時期か。確かにもう10月に入ったしなぁ。

俺は乃羽ちゃんの言葉から今日がバニー布教回である事を察しつつ、それをおくびにも出さず記憶を辿るフリをした。

 

「もしかしたら新菜と一緒にいるのかも。次のコスプレの衣装の相談するみたいな事言ってた気がする」

 

「マ⁉ もー、うちらとの約束忘れるとかマジありえないんだけどー!」

 

自分達との約束を忘れているであろう友人に対して立腹する乃羽ちゃん。

しかし、そのプリプリと怒る様子には圧がなく、ただ可愛いだけだ。

 

「まあまあ。よかったら俺も探すの手伝うよ」

 

「マジで⁉ 超助かる~!」

 

そんな乃羽ちゃんを宥めつつ海夢ちゃん達の捜索を申し出ると、彼女は態度を一変させて笑顔で俺の助力を受け入れた。

いつも思うけど、海夢ちゃんが美人過ぎるだけで乃羽ちゃん達も滅茶苦茶可愛いよね。というか女子は勿論古賀をはじめ男子勢もイケメン揃いだし、うちのクラスの顔面偏差値高すぎる気がする。

 

「どした、月見里?」

 

「いやー、なんでも。じゃあ、俺は菅谷さんの手伝いに行くから」

 

「おー、また後でな」

 

俺の視線に気付いた古賀に言葉を返しながら俺は食器を持って席を立つ。

 

ガースー、月見里貸すんだから今度ジュース奢れよなー!

 

オッケー、海夢に言っとく!

 

俺が乃羽ちゃんを手伝う事にかこつけてジュースを要求する森田、そしてそれを海夢ちゃんに押し付ける気満々の乃羽ちゃん。

二人ともなんだかんだちゃっかりしてるというか、いい性格してるよね。

そんな二人も俺は推してる。1年5組箱推し勢です、よろしくお願いします。

 

「お前ら鬼だな」

 

それはそれとして柏木の言葉に俺は内心で頷く。

だが、森田と乃羽ちゃんのやり取りを止める人は誰もいない。皆ジュースが欲しいのだ。

俺? 俺はとりあえずオレンジジュースでも奢ってもらおうと思います。

 

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

 

皆バニーが大好きだから‼

 

 

バニーガールの良さを語る喜多川さんの瞳がどこか狂気めいた光を宿す。

彼女の言葉にはどこか凄味があり、俺はバニー好きの人海に飲みこまれるような錯覚を覚えた。

 

「しかも最近って、ハロウィン用とかで色んなタイプのバニーの衣装あるけど、グッズとかは一番シンプルで昔からあるタイプのバニーで出るんだよね」

 

「そ、そうなんですね」

 

先程の狂気が鳴りを潜め、いつもの喜多川さんに戻る。

俺は内心でそれに安堵しつつ、彼女の言葉に相槌を打った。

 

「大事な事は全部バニーが教えてくれたわ! 新しいものが出ても、結局いいものはなくならない! 絶対残り続けるよね!

 

残り続けるよね…… 残り続けるよね…… 残り続けるよね……

俺の脳内で喜多川さんの言葉がリフレインすると同時に、雛人形の姿がよぎる。

そうだ、彼女の言う通りだ。

昔からある雛人形だって、今の時代まで残り続けている。

何故なら雛人形は素晴らしいものだから!

そう思うと喜多川さんの言葉に心の底から納得出来た。

 

「あぁ~‼ ハイ‼ なるほど……なるほど‼ 分かります‼」

 

「え、急にめっちゃ納得するじゃん」

 

改めて雛人形の素晴らしさを教えてくれた喜多川さんは何故か俺の反応に若干困惑していた。

それはそれとして、今回の本題である衣装について俺は話題を切り替える。

 

「今日で全部観終わるので、今夜三面図描き始めますね。 で、材料を――」

 

「え、マジで⁉ てか、最近早くない⁉ 大丈夫⁉ 無理してない⁉」

 

「ちゃんと寝てる?」と俺の事を心配する喜多川さんに俺は「寝てます」と笑顔で頷いて返した。

初めて衣装を作った時とは違い、今は本当に無理なんてしていない。

家事に勉強、そして俺にとっては何よりも欠かせない面相描きの練習も滞りなく行えている。

その理由に、俺はなんとなく心当たりがあった。

 

「……多分、衣装作りに慣れてきたんだと思います」

 

雫たん、ブラックリリィにブラックロベリア、ベロニカたゃ、そしてリズきゅん。

衣装作りに携わってまだ半年も経っていないが、その過程で俺は多くの知識を学ぶと共に確かな成長を感じていた。

喜多川さんや守優と共にコスプレの世界に触れる事で見識が広がり、それが巡り巡って面相描きにも繋がる。

自分の人生が充実しながら将来の夢である頭師に至る道を進めているのを感じて、俺の口元が綻んだ。

そんな俺の様子から本当に無理をしていない事を察したのか、喜多川さんは「それならいいけど」と安心したように微笑む。

 

「あたしも何か手伝えるかな~。てか、今回もスタジオで撮ろっか!」

 

(スタジオ……⁉)

 

喜多川さんの提案に、俺は思わずリズきゅんコスの撮影を思い出す。

あの時咄嗟に掴んでしまった喜多川さんの腰の細さ、それに驚いて彼女の口から漏れた甘い声……

俺は呼び起こされる記憶と煩悩を振り払いながら、同じ轍は踏むまいと喜多川さんに念押しする。

 

「予約する前に一度俺にも確認させてください」

 

「あ、あの時はごめんて……わざとじゃないし……」

 

喜多川さんも同じように撮影の時の事を思い出したのか頬を赤らめつつ、「これ見て」と自身のスマホを操作する。

するとピコン、と俺のスマホの画面に一通の通知。どうやら喜多川さんが何か送ってきたようだ。

 

「涼香さんからもらった写真なんだけどー」

 

「あ、ルナ社長じゃないですか。雰囲気のある方ですね」

 

開いた画像に映っていたのは“こちカン”のルナ社長のコスプレをしている一人の女性。

コスプレのクオリティもそうだが、そのクールで大人びた表情や仕草がまたコスプレの完成度を一段と高めていた。

 

「再現度エグくて、もはや本人じゃない?」

 

「細部までこだわっているのが写真から分かります」

 

「だよね~! しかも、この時は合わせだったみたいなんだけど、他の人達もエグくてさー!」

 

喜多川さんが続けて送ってきた画像には天城くれはや御神楽こまりのコスプレをしている女性達も写っている。

彼女達もルナ社長のコスプレの人に負けないクオリティで、喜多川さんが興奮するのも納得だ。

最後の一枚はコスプレをする三人と喜多川さんが言う涼香さんという女性の方が揃って撮影されていた。他の三人が満面の笑みな一方でルナ社長コスの人はクールな表情は崩さず、にもかかわらずノリよくピースサインをしているのが微笑ましい。

 

「このスタジオ借りられないかなって」

 

「いいと思います」

 

喜多川さんも前回の撮影を活かして十分気を付けてくれているだろうし、なによりカジノを模したそのスタジオは“こちカン”の世界観にマッチしている。

そう思って俺が頷けば、喜多川さんが嬉しそうに微笑みながら持参のお菓子を手に取った。

 

「あ、ごじょー君も食べる?」

 

「いいんですか? ありがとうございま――……」

 

ポッキーを口に咥えながら頷く喜多川さんの厚意に甘える事にした俺は、彼女が持つ箱へと手を伸ばす。

しかし、何故か喜多川さんはその箱を自分の背後へと隠してしまった。

 

「?」

 

喜多川さんから言い出した事なのにそれを隠す理由が分からず困惑する。

 

「こっひこっひ!」

 

そんな俺に喜多川さんはポッキーの箱ではなく、自身の顔を俺へと近付けてきた。

その行動はまるで自分が咥えるお菓子を俺にも食べさせようとしているよう。だがそんな食べ方をしたら自然と顔を近付ける事になる上に、もし距離感を誤れば互いの唇が……‼

 

「……えっ、あの……き、喜多川さん……?」

 

「ん」

 

「あの……それは……!」

 

狼狽える俺の反応を楽しむように、喜多川さんは小悪魔のような笑みを浮かべながら少しずつ俺との距離を詰める。

俺はどうすればいいのか分からず、咄嗟に目を硬く閉じながらも意を決して口を開けた。

 

ポリッ ポリポリポリポリポリ……

 

覚悟を決めた俺の耳にどこか小気味よい音が聞こえる。

おそるおそる目を開けると、そこには笑顔でポッキーを食べる喜多川さんの姿が。

呆気に取られる俺の目の前で、彼女に咥えられたポッキーが少しずつ彼女の口の中へと消えていく。

 

「なんてね~」

 

もぐもぐと咀嚼しながら笑う彼女を見て、俺はようやく喜多川さんにからかわれていた事を理解した。

自分がまんまと乗せられていた事を理解し、俺は頬が熱くなるのを感じながらそれを誤魔化すように声を上げる。

 

「喜多川さん……‼ からかわないでください‼」

 

「ごめんごめん。ハイっ」

 

笑みを崩さない喜多川さんの軽い謝罪と共に差し出された箱から俺はポッキーを一本手に取―――

 

 

「なんだ、結局普通に食べるのか」

 

「「⁉」」

 

 

突然聞こえてきた親友の声に肩が跳ね上がる。

喜多川さんも同じようにビクリと跳ねて、手に持っていた箱が床に落ちた。

俺達が慌てて声のした方に視線を向けると階段の陰からこちらを覗いている守優の姿があった。

分厚い眼鏡のレンズで目元は見えないが、その口元から彼がニヤニヤと笑っているのが分かる。

 

「守優、なんでここに……⁉」

 

「ちょっと人探しの手伝いでな。菅谷さん、いたよー」

 

俺達から姿を隠す必要がなくなった守優はゆっくりと立ち上がると、階下の方へと声を掛けた。

彼の声が届いたのか、下からパタパタと階段を駆け上がる音が聞こえる。

 

「いた~‼ 海夢~~‼ クッソ探したんだけど‼ ライム既読つかんし‼」

 

俺と喜多川さんが揃って見下ろすと同じクラスでよく喜多川さんと行動を共にしている菅谷さんが階段を上ってこちらに向かっているのが見えた。

怒りながら階段を半ば上がってきたところで、俺と菅谷さんの目が合う。

 

「五条君、チュッス」

 

「あ、どうも……」

 

「月見里君、サンキュー」

 

「どういたしまして」

 

「乃羽、どしたん?」

 

彼女と、というより喜多川さん以外の女子と交流がほとんどない俺は接し方が分からず無難に会釈と簡単な挨拶だけ返した。

俺への挨拶に続けて守優に礼を言う菅田さんに対して、喜多川さんは友人が守優に協力を仰いでまで自身を探してやってきた理由を尋ねる。

 

「うちらが学食から戻ってきたらハロパの話するっつったじゃん‼」

 

「激おこ⁉」

 

喜多川さん、そんな約束してたんだ。

そうとは知らずに喜多川さんを拘束してしまっていた事に若干気まずい思いを抱いていると、喜多川さんが慌てて菅谷さんへと駆け寄る。

 

「流石のうちもガンギレだし‼ 絶対許さんし‼」

 

「これで許して~、乃羽ちゃ~ん」

 

怒ってそっぽを向く菅谷さんに喜多川さんが差し出したのは先程まで俺と食べていたポッキー。

流石にそれは無理なのでは、と俺が心のうちで呟きながら見守っていると菅谷さんは口元に持ってこられたポッキーを咥えるとポリポリと咀嚼しはじめる。

 

「ゆうてもうちは人間出来てるから許してあげるけどね」

 

「いや~、ガチでごめん」

 

(えぇ……)

 

気心の知れた仲だからだろうか、あっさりと矛を収めるその反応に俺は内心で困惑する。

そんな俺の内心をよそに喜多川さんは更に1本2本とポッキーを菅谷さんに食べさせ、一袋が空になったところで菅谷さんの機嫌はすっかり元に戻ったらしい。

 

「じゃあごじょー君、先行ってるね」

 

「はい」

 

どうやら今から教室に戻ってハロパ? の相談を菅谷さんとするようだ。

菅谷さんに続いて階段を降りようとする喜多川さんを俺は笑顔で見送る。

 

「月見里君も、なんか迷惑かけちゃったみたいでマジごめん」

 

「いいよいいよ、菅谷さんとお礼の話ついてるし」

 

「お礼?」

 

俺の隣で二人のやり取りを眺めていた守優に喜多川さんが謝罪すると、守優は笑いながら手を振って返す。

彼の言葉に引っ掛かりを覚えた喜多川さんが首を傾げると、菅谷さんが喜多川さんの肩にポンと手を置いた。

 

「海夢、罰として今度月見里君と健星君達いつメンにジュース奢りね」

 

「はぁ⁉ イミフなんだけど⁉ 月見里君は分かるけど、それ以外は関係なくない⁉ ちょっ、乃羽~⁉」

 

理解が追い付かないといわんばかりに声を荒げる喜多川さんを置いて、菅谷さんは足早に階段を降りていった。

言い逃げのように去っていった菅谷さんの後を追おうと喜多川さんも急いで階段を駆け下りていく。

慌ただしく喜多川さんが行ってしまい、残ったのは俺と守優だけ。

彼は「よっこいしょ」とまるでじいちゃんみたいに声を漏らしながら俺の隣へと腰を下ろした。

 

「……で、次はなんのコスプレ作る事になったんだ?」

 

「ああ、今回は“こちカン”っていうアニメの――……」

 

守優の質問に俺は自分のスマホを操作して先程まで喜多川さんと鑑賞していたアニメを見せる。

 

「“こちカン”かぁ。それ面白いよな。内容もほのぼのしてるし、俺も好きだよ」

 

彼もこのアニメを知っていたようで、うなぎ屋でバイトをする三人のシーンを見てクスクスと笑っていた。

親友の笑顔に釣られて俺も笑いを零しながら、ふとした疑問が沸き起こる。

 

「ねえ、守優」

 

「んー?」

 

「さっき喜多川さんと話してたんだけど、守優はバニー衣装ってどう思う?」

 

喜多川さん曰く、バニーが嫌いな人は存在しないらしい。

流石にそれは大げさだと思うけど、親友はどうなのか純粋に気になって投げかけた質問に、守優は口元の笑みを深めながら返した。

 

「めっちゃ好き。セクシーさと可愛らしさが両立してるし、てかバニー嫌いな人とかこの世に存在しなくない?」

 

「……ん?」

 

あれ? なんだか既視感(デジャヴ)

数分前に聞いたような気がする台詞に戸惑う俺に、守優は笑顔のままゆっくりと俺に顔を近付ける。

その笑顔はどこか貼り付けたようで、そしてレンズの奥に見える彼の瞳にはどこか狂気めいた光が宿っていて……

 

 

皆バニーが大好きだから‼

 

 

どうやら俺を取り囲むバニー好きの人海には親友もいたらしい。

 

 

 

 

.

主人公のイメージCVについて

  • 決めてほしい(誰にするかは執筆者に一任)
  • 決めてほしい(誰にするかはアンケートで)
  • 決めても決めなくてもどちらでもいい
  • 決めない方がいい
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