その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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またしても更新が遅くなってしまいました、申し訳ありません!


第74話『その頭師見習いは反省する』

どうも、新菜(クソボケ)のせいで推しカプのデートを邪魔する事になってしまった月見里守優です。

くっそ~、海夢ちゃんがいるって分かってたら適当に理由付けて断ってたのに……!

というか、同行者がいるなら先に言うよね⁉ 常識的に考えて‼

 

(……まぁ、新菜からしてみれば善意と気遣いから声を掛けてくれたんだろうし、悪気なんて微塵もないんだろうけど)

 

新菜のやらかしに思うところはあるが、彼に悪気がない上に一番被害を被ったであろう海夢ちゃんから「もーいいよ」とお許しが出たので、この話はひとまずこれで終わり。

気持ちを切り替えた俺達は、電車で渋谷にあるユザワヤへと向かった。

ユザワヤに到着するなり海夢ちゃんがお手洗いに向かったので、残った二人でストラップを探す事になったのだが、一見した限りではお目当ての物が見当たらない。

 

「宇佐見さんに聞いてみようか?」

 

「そうだね」

 

困った時の宇佐見さんという事で、俺達はすっかり顔馴染みになった店員さんへと声をかけた。

 

「宇佐見さん、こんにちは」

 

「ご作業中のところ失礼します」

 

在庫の点検中なのか、棚にある商品を確認しては台帳になにかを書き込んでいる宇佐見さんに挨拶もかねて声を掛ける。

俺達に気付いた宇佐見さんは声を掛けてきた相手が俺達だと分かると穏やかな笑みを浮かべてこちらへと向き直った。

 

「ああ、新菜君に守優君。いらっしゃいませ。今日はどうされましたか?」

 

「実は相談したい事が……こちらを見てもらえますか?」

 

「拝見いたします」

 

ありさコスの三面図を新菜から受け取る宇佐見さん。

原作やアニメではここで新菜が自分で着る衣装だと勘違いしてしまうが、こちらではブラックロベリアの衣装作りの際にある程度の誤解を解いている上にその後も衣装を作る度にこちらの店を利用しては相談に乗ってもらっている。

なので新菜が作る衣装は友人のものだと宇佐見さんは既に分かっており、その証拠に三面図に目を通した宇佐見さんは「今回も丁寧に書き込まれていますね」と笑顔を浮かべてた。

 

「ありがとうございます。ただ、その図面のままだとバニースーツが上手く固定出来ずに捲れてしまって……」

 

宇佐見さんに褒められた新菜は照れ臭さと今回の衣装作りに難航している不甲斐なさから微苦笑する。

 

「ごめーん、トイレめっちゃ混んでてさー。ストラップあった?」

 

「探したんですけど見つからなくて、今ここの店員さんの宇佐見さんにお尋ねしていたところです」

 

そこに遅れて海夢ちゃんが合流。今回の目的であるストラップについて新菜に尋ね、彼がそれに応える。

そんな二人の様子を見て、宇佐見さんの優しい笑みが深みを増した事に気付いた。

分かります、この二人めっちゃ尊いですよね。

本当は俺も推しカプの何気ないやり取りをずっと眺めていたいけど、本来の目的を忘れるわけにはいかないので俺は二人の言葉を補足して宇佐見さんに伝える。

 

「さっきお伝えした通りで今のままだと衣装が捲れてしまうんです。なので透明なストラップで留める方法を試してみたくて……」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

俺の言葉に宇佐見さんが頷き、「ちなみにですが」とそのまま続けた。

 

「バニースーツはストラップなしでも固定出来ますよ」

 

「えっ? そうなんですか?」

 

予想外の言葉に新菜が驚く。

新菜にとってはストラップの使用は他に方法が思いつかず、悩みに悩んで妥協した苦肉の策だ。

そこにあっさりと解決策があったと告げられれば彼が驚愕するのも仕方がないかもしれない。

 

「この三面図に描き込んでも?」

 

「ど、どうぞ……」

 

新菜から了承を得た宇佐見さんはペンを取り出すと、三面図に線を描き込んでいく。

 

「例えば前と後ろ、それと両胸元にも2本ずつコルセットの様にボーンを入れるんですよ」

 

「あ……っ‼ あ~~~~っ‼」

 

新菜に電流走る。

 

「? ボーン? って?」

 

「骨組みになる芯材の事です。衣装の立体感を固定したい時に使うんですよ」

 

「へぇ~」

 

青天の霹靂とも言える事実に、新菜は固まった。

そんな新菜の隣で首を傾げる海夢ちゃんに宇佐見さんが説明する。

コスプレ界隈ではボーンを使った衣装は多そうだけど、海夢ちゃんにはまだまだ馴染みがない言葉だもんね。

 

「俺……これを観てボーンが入ってないと思って……」

 

「あ~、アニメの絵だから省略してあるんですね」

 

新菜がスマホでありさのバニースーツが捲れているシーンを見せると、宇佐見さんは笑いながら彼の誤解を解く。

ストラップの使用を渋っていたように、今回新菜は原作を忠実に再現する事を重視していた。

だからこそ、ボーンを入れるという発想に至らなかったのだろう。

 

「実際はボーンや胸パッドが付いていて、めくれたりズレ落ちたりする事もないですよ」

 

「えっ! じゃあ、ありしゃみたいにぺろんってなんないんですか⁉」

 

「あ、あれは分かりやすい失敗の演出ですね。脱げないから心配ないですよ」

 

宇佐見さんの言葉に今度は海夢ちゃんが衝撃を受け、そのまま宇佐見さんへと詰め寄る。

突然の事に宇佐見さんはたじろぎつつも、優しく微笑んで衣装が崩れる心配がない事を海夢ちゃんに教えてあげた。

衣装が捲れて胸が露出するなど大惨事だ。それを心配するのは当然だし、その心配が必要ない事を教えて安心させてあげたいと思ったのだろう。

 

「! ……」

 

しかし、宇佐見さんの思いやりとは裏腹に海夢ちゃんの顔は目に見えて暗くなっていく。

 

「…………」

 

そして、ポツリと一言。

 

 

……マジかぁー……

 

 

(((なんでがっかりしてるんだろう……)))

 

いやホントに。

お色気ハプニングなんて二次元の世界だから安心して見られるのだ。

リアルの、それも自分がそうなるリスクを嬉々として受け入れる気持ちが俺には分からない。

海夢ちゃん、度胸ありすぎか?

 

「コルセットか……前に一回作ってたのに……」

 

「なんで気付かなかったんだろ……」

 

片や三面図を、片やスマホを手に揃って天井を仰ぐ新菜と海夢ちゃん。

二人はショックを受けているから表には出さないけど、息ピッタリな推しカプの様子を俺はしっかり脳内フォルダに保存する。

 

「コルセットかぁ。前に作ったのはブラックロベリアの時だっけ?」

 

「うん……一度作ったのに、なんで気付かなかったんだろ……『これで絶対間違いない』って思って……」

 

俺の言葉に新菜は記憶を遡りながら、重たい溜息を吐いた。

そんな新菜に宇佐見さんが笑顔で言う。

 

「決めつけたり思い込むと、どうしても視野が狭くなって気付ける事にも気付けなくなりますからね」

 

「! そういえば……普段分からない事があると調べるのに、今回調べてませんでした……」

 

宇佐見さんの言葉に新菜がはっとして、己を振り返る。

そして、今回の失敗に至った原因に思い当たった。

 

「……最近衣装作りで困る事がほとんどなくなって……すんなり出来て、慣れてきて……おごりがあったんだと思います……」

 

「ごじょー君……」

 

自分を戒めるように呟く新菜を海夢ちゃんが気遣う。

落ち込む彼の姿を見て、何も思わないのかと言われれば勿論そんな事はない。

転生者として今後起こりうる未来を知る俺は当然今回の失敗についても覚えていた。

にも関わらず何も言わなかったのは、この失敗や気付きが今後の新菜に必要だと考えたから。

何事も慣れ始めが一番失敗しやすいもの。そして、その失敗から学びを得て初心に帰る事はとても大事だと俺は思う。

 

「……俺は、どうして……」

 

肩を落とす新菜。

彼は今回の失敗で多くの気付きを得ただろう。

 

 

(なら、後は俺がフォローしてやるだけだ!)

 

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

 

「そんな絶望する⁉」

 

喜多川さんが慌てるが、今の俺にはそれに返す気力もない。

今回の失敗は明らかに俺のおごりが招いたものだ。

衣装作りに慣れてきたからと碌に調べもせず、これが正しいとアニメのデザインにこだわって……

ブラックロベリアとブラックリリィの衣装にエンボス加工の生地を使ったり、リズきゅんの時はデフォルメされたデザインを自分の解釈で補完して作成した。

過去の自分が出来ていた事が、過去の自分ならしなかったであろう失敗をしてしまった事が己をより一層惨めに思わせる。

嗚呼、本当に情けない。

 

(いつもそうだ。俺は間違えてばっかりで――)

 

 

「新菜、お前のそれはおごりなんかじゃないよ」

 

 

自己嫌悪に陥る俺の背中にそっと手が置かれる。

そこからじんわりと伝わってくる熱に思わず顔を上げれば、俺の隣で柔らかく微笑む親友と目が合った。

 

「確かに今回の失敗は慣れが原因の凡ミスだったのかもしれない。でもそれは見方を変えればそれだけ経験を積んだって事だし、同時にそれだけ自分に自信を持てたって事だ」

 

「守優……」

 

その手が、その笑顔が、そしてその言葉が、挫けそうになる心を支えてくれる。そんな気がした。

 

「だからこれまでの努力を否定したりするなよ? ここまで積み上げてきたんだ。自信持って胸張って、失敗を次に活かしていけばいい」

 

そう言って守優は笑みを深める。

まただ。また彼に救われた。

俺が自信を失いそうな時、いつも守優は俺を支えてくれる。

俺の心が折れぬように。歩みを止めてしまわぬように。

得難い親友の言葉に助けられて心を持ち直した俺の横で喜多川さんが嬉しそうな顔でうんうんと頷いている。

喜多川さんにも余計な心配をかけてしまったな、なんて考えていると俺達の前に立つ宇佐見さんが優しく言葉をかけてくれた。

 

「守優君の言う通り、そこまで思いつめる必要はありません。失敗は次に活かせばいい。そして、間違いも楽しめばいいと私は思いますよ」

 

「では、ボーンを取ってきますね」と続けてその場を後にする宇佐見さんの背中を俺は黙って見送った。

失敗は次に活かせばいい。そして、間違いも楽しめばいい、かぁ……

守優と宇佐見さんの言葉を胸に刻みつつ、俺達は宇佐見さんからのアドバイス通りボーンを購入。衣装の修正の為に岩槻へと戻った。

 

「おぉ~~っ‼」

 

自宅に戻った俺は早速作業に取り掛かり、バニー衣装にボーンを通す。

衣装自体はほぼ完成していたのでボーンを入れるだけの作業はとても簡単だったが、その効果は絶大だった。

ボーンを通す前までは衣装がめくれて崩れていたが、今はしっかりとトルソーに着せる事が出来ている。

 

「ボーン凄すぎ‼ ヤバいんだけど‼」

 

期待以上の仕上がりに喜多川さんが飛び跳ねながら興奮気味に声を上げる。

俺はようやく衣装を完成させる事が出来た達成感と、遅れてやってきた疲労感に思わず力が抜けて腰を下ろした。

 

「よかった……これで完成です――……」

 

「お疲れ、新菜」

 

守優が座り込んだ俺の肩を揉んで労う。

守優ってマッサージ上手いんだよなぁ……ああ、思わず声が出ちゃう……

 

「あ゛~……」

 

「あははっ、ごじょー君おじいちゃんみたい」

 

「ふっふっふっ、俺のゴッドハンドは五条人形店の皆のお墨付きだよ。なぁ、新菜?」

 

「うん……あ~、そこそこ~……」

 

肩を揉まれる気持ちよさに声を漏らす俺を見て喜多川さんが笑う。

そんな彼女に守優が自分のマッサージが多くの人から好評を受けていることを誇り、同意を求められた俺は半ば無意識に頷く。

事実彼のマッサージは店の皆に大人気だ。集中力のいる作業をする職業柄肩が凝りやすいし。

その後、数分間マッサージを受けた俺は肩が軽くなったのを感じながら喜多川さんに試着を促す。

 

「喜多川さん、試着してもらえますか? 気になる部分は直すので……」

 

「おけまる~♡」

 

「じゃあ俺はその間に夕食の準備でもしてこようかな」

 

喜多川さんは俺の部屋で試着するので、俺と守優は部屋から出る必要がある。

それをちょうど良いタイミングだと守優は階段を降りて台所へと向かっていった。

階下へと向かう守優の背後を見送った俺は床に腰を下ろし、今回の一件を振り返る。

 

(皆はああ言ってくれたけど、本当に気をつけないとな……)

 

今回の一件は自分を戒める教訓になったが、自分で気付いて未然に防げた失敗だった事に変わりはない。

喜多川さんも守優も何も言わないが、俺のせいで振り回してしまったというのもある。

 

(もう何もないといいけど……)

 

衣装は完成したのだから、大きな問題はないと思いたい。

……何故だろう、今守優が「フラグ乙」って訳の分からない事を言ってる気がする。

 

『……ごじょー君』

 

襖の向こうから喜多川さんの声がする。

俺は意識をそちらに向けて返事をした。

 

「ハイ」

 

『着たんだけどさー……なんてゆーか……困ってる的なー……』

 

「‼」

 

申し訳なさそうに助けを求める喜多川さんの声に俺は思わず立ち上がる。

ああ、衣装が完成したと思ったらこれだ……! 俺は今度はどんな間違いを犯してしまったのだろうか……!

俺は問題点を確認する為、大慌てで襖を開ける。

 

「どこか不備が⁉ すみません、すぐ直しま――っ」

 

襖を開けた先には、バニースーツを着た喜多川さんがいた。

頬を赤らめてこちらを見る彼女の腰からは――

 

 

「……ハ、ハイレクだから……パンツ、はみ出しちゃっ……て? その……どーしよっかなっ……て」

 

レースの下着が思いきりはみ出ていた。

 

 

ピシャッ‼

 

喜多川さんの艶やかな下着に目を奪われそうになるのを耐え、俺は全力で襖を閉めて彼女の誘惑と煩悩を頭から追い出す。

 

『ごっ、ごめんごじょー君‼ おねーたまの時もハイレグだったけど、水着だから全然困んなくて! ノーパンで直には流石にじゃん⁉ どーすればいーかな⁉』

 

背中を預けた襖の向こうでバンバンと叩きながら喜多川さんが助けを求める声が聞こえる。

襖がガタガタと揺れて、喜多川さんが無理矢理にでも開けようとしてくるのを俺は全力で抑えながら答えた。

 

「俺バニースーツ着た事ないんで分かりません‼」

 

『いやちょっと‼ ボケないでよ‼ 真面目に分かんないんだから‼』

 

「俺だって真面目にやってます‼ いっ、今襖開けないでください‼」

 

今の俺に冗談を言う余裕なんてない。色んな意味でいっぱいいっぱいなのだ。

喜多川さんには悪いが、何の解決策もない俺に出来るのは彼女の下着を見てしまわないように全力で襖を押さえる事だけだ。

そのまま薄い襖一枚を隔てた攻防の末、俺達は階下にいる友人に助けを求めて叫んだ。

 

「しゅ、守優! 助けて‼」

 

『月見里君‼ お願い、ガチのガチでヤバいからー‼』

 

 

『ごめーん、今火ぃ使ってるから無理~(笑)』

 

 

現実は無情だ。

何かを楽しんでいるようにさえ思える明るい声で望みを絶たれた俺と喜多川さんはそこから更に数分間拮抗し、その果てにこの問題は一旦保留という形で落ち着いた。

 

「なんか知らないけどお疲れ~。とりあえずご飯食べようか?」

 

「「……いただきます」」

 

その後、俺と喜多川さんは居間へと向かい、そこには守優が満面の笑みで夕食を並べている。

彼に色々言いたい事もあるが、どっと疲れた俺達は言葉を飲み込んで食卓についた。

 

「くっ……美味しい……!」

 

喜多川さんが悔しがりながら箸を進める。

彼女の言う通り、俺達を見捨てて作られた夕食は悔しいほど美味しかった。

 

 

 

 

.

主人公のイメージCVについて

  • 決めてほしい(誰にするかは執筆者に一任)
  • 決めてほしい(誰にするかはアンケートで)
  • 決めても決めなくてもどちらでもいい
  • 決めない方がいい
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