その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第75話『そのコスプレイヤーは対策する』

「ごじょー君、月見里君、こっちこっち!」

 

「喜多川さん、楽しみなのは分かるけど落ち着いて」

 

笑顔で大きく手を振って俺達を先導する海夢ちゃんを宥めつつ、俺達は新宿御苑前駅を出る。

 

「スタジオマカロンナイトさん、でしたっけ?」

 

「そっ。涼香さんに教えてもらった所!」

 

「早くいこいこ!」とまるで子供のように逸る海夢ちゃん。その軽い足取りから今日という日をどれだけ楽しみにしていたのかが伝わってきて、俺と新菜は揃って笑みを零しながら彼女の後に続く。

今回のスタジオは駅から徒歩1分という非常にアクセスしやすい場所にあり、道に迷う事もなくスムーズに目的地に到着した。

スタジオはハイツの中にあるので、その階へ移動する為に三人でエレベーターに乗り込む。

 

「スタジオだけじゃなくて、メイクの事も教えてもらえて超助かったよね」

 

「家でしてくれば時間短縮になるなんて盲点でした」

 

「涼香さんに相談してよかったでしょ?」

 

「うん!」

 

狭いエレベーターの中、他に人もいないので遠慮なく雑談をしていると、話題は自然と今回スタジオを教えてくれた涼香さんの事へと移った。

実は先日起きた海夢ちゃんのパンツはみ出し事件の後、夕食の場で俺は彼女達に一つ助言をしたのだ。

 

『涼香さんに相談してみれば?』

 

涼香さんに丸投げしただけな気がしなくもないが、実際彼女にアドバイスを貰うのが一番確実なのは間違いなかった。

ミヤコさんともう一人はたぶんアオイさんかな? こまりやくれはのコスをしている二人と親しい彼女ならば、バニーガールのコスプレをする際の下着問題について何か知見がありそうだし、女性同士で相談もしやすいだろう。

 

『『それだ……‼』』

 

俺の提案に海夢ちゃんだけでなく、隣で話を聞いていた新菜も揃って声を上げていたのを思い出す。息ピッタリな推しカプ、ホント可愛い。

そんなこんなで海夢ちゃんは涼香さんに相談し、解決策とその他にもいくつか助言を貰い今日の撮影へと至ったという訳だ。

 

「失礼しますー……わっ」

 

「「おお~!」」

 

おそるおそる扉を開ける新菜。その後ろから俺と海夢ちゃんが中を覗くとそこに広がっていたのは、一つの部屋とは思えない光景だった。

豪奢な装飾が施された空間の隣には異国情緒あふれる一角があり、その反対側にはネオンサインが煌めくサイバーパンクなセットが設けられている。

まるで世界のあらゆる場所を切り取って一つの箱へ詰め込んだような、不思議な空間だった。

俺達が入ってきた扉の正面にはカジノを思わせるテーブルがあり、その背後に立てられている金色の壁には一面に龍が彫られている。

 

「アゲ~~っ‼」

 

「立派ですね~」

 

海夢ちゃんが迫力のある龍の彫刻壁に駆け寄り、飛び跳ねたり両腕をいっぱいに広げたりと子供が遊園地ではしゃぐように全身で喜びを表している。

その隣で龍の壁画に感嘆の声を漏らしつつ、新菜はじっくりとスタジオ内を見渡した。

勿論俺もめっちゃワクワクしながらスタジオを眺めてたりする。テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ~。

 

「スタジオ内にいろんな雰囲気のセットがあるんですね」

 

「これだけテーマが分かれた区画があるなら原作再現した撮影も結構出来そうだな」

 

「そうだね」

 

「二人とも見て見てー!」

 

海夢ちゃんの声に俺と新菜が揃って視線を移す。

いつの間に移動したのか、海夢ちゃんはアジアンテイストな部屋でソファに座って寛いでいた。

 

「こっちも(すっご)いイイ感じじゃない?」

 

「はい、いい写真が撮れそうです」

 

「たくさん撮って涼香さんに送ってあげないとね」

 

「うん! やっぱここにして良かった~!」

 

俺の言葉に海夢ちゃんが笑顔で頷く。

隣では新菜がちょっと首を傾げていた。きっと海夢ちゃんの写真がお礼代わりになるのか考えているのだろう。

心配するな、絶対にお礼になるから。下手したら菓子折りなんかよりずっと喜ばれる。

俺が確信をしているのをよそに、ソファから立ち上がった海夢ちゃんは歓喜しながらその場でくるんと回ってみせた後に「んじゃ、あたし着替えてくるね!」と撮影の為の準備に取り掛かり始めた。

 

「はい」

 

「俺達はセット見学してるから、もしなにかあったら声掛けてね」

 

「り!」

 

海夢ちゃんは笑顔で敬礼をすると荷物を持って個室へと向かっていく。

それを横目で見送りつつ、俺と新菜は改めてじっくりとスタジオのセットを眺める。

 

「こうやって見るとコスプレイヤーさん達が背景に拘る理由が分かるなー。世界観を引き立たせる大事な要素というか……」

 

「衣装だけでも十分かもしれないけど、背景の世界観が合ってると更に魅力が増すよな。雛人形も屏風や雪洞なんかがあるのとないのとでだいぶ違うし」

 

「そうそう! やっぱり必要だよね!」

 

原作知識があるので、彼が思っているであろう雛人形に例えながら同意すれば新菜は目を輝かせながら頷いた。

そして「やっぱりうちのじいちゃんは――」「守優のおじいちゃんの小道具も――」など呟いて自分達の祖父がどれほど素晴らしい職人なのか一人で再確認して感動している。どうやら変なスイッチを押してしまったらしい。

 

「あ、そうだ。ごじょー君」

 

「! はい、どうかしましたか?」

 

ガチャリと更衣室の扉を開けて海夢ちゃんが顔を覗かせる。

海夢ちゃんに声を掛けられた新菜は意識を現実に引き戻し、彼女の方へと向いた。

 

 

ぶっちゃけごじょー君ハイレグ苦手じゃん?

 

「‼」

 

 

分かっていたけど、海夢ちゃんぶっこむなぁ。

突然の確認に新菜はドキッと肩を跳ねると、目に見えて顔を赤らめながら狼狽えた。

 

「そ、そんな事は……」

 

「前めっちゃ慌ててなかった?」

 

「そ、それは……若干動揺はしますけど……集中すれば、平気かと……っ」

 

ブラックロベリアのコスプレの為にハイレグタイプの水着を着た時の話を出されると新菜は更に顔を赤くしつつ、指先をいじりながら何とか答える。

ところでこの恥ずかしそうにもじもじしてる新菜、可愛いよね。

 

「守優、笑わないでよ……!」

 

「ふふっ、ごめんごめん」

 

「ふ~ん?」

 

つい表情に出てしまったようだ、気をつけなければ。

ちなみに俺達のやり取りを見てる海夢ちゃんも口元がニヤついているが、新菜はそれに気付いていない。

 

ブラックロベリア(おねーたま)の時は心寿ちゃんに撮ってもらったから何もしてなかったけど、ごじょー君が困るかもって露出対策ってやつ考えたから!」

 

「本当ですか⁉」

 

「あたしもその辺ちゃんとしよーと思ってー、みたいな?」

 

「喜多川さん……! お気遣いありがとうございます!」

 

女性に免疫がなく際どい格好にドキドキしてしまう新菜の為に自分なりの対策を考えてきたと語る海夢ちゃんに新菜が嬉しそうに礼を言う。

海夢ちゃんの言葉を受けて安心しきった笑顔を浮かべ、新菜は今度こそ衣装に着替える為に更衣室へと向かう海夢ちゃんを見送る。

 

「よかったぁ……正直ちゃんと撮影に協力できるか不安だったから……」

 

「気持ちは分からないでもないけどな。でも前に通話で似たような事言ったけど、『見るのが恥ずかしい』なんて理由で協力するのに支障が出るのはなんとかしないといけないと思うぞ?」

 

「う……」

 

胸を撫で下ろして安堵していた新菜が俺の言葉にたじろぐ。

彼もこのままではいけないというのはなんとなく分かっているのだろう。

自覚があるなら俺からそれ以上言う事はない。

 

「まぁ、今回は喜多川さんの方で対策してくれてるって事だったから大丈夫だろ。せっかくスタジオも借りたんだし、今日は撮影を楽しもう」

 

「……うん!」

 

俺の言葉に新菜はまだ少し頬を赤らめたまま屈託のない笑顔を浮かべた。

それから約5分後……

 

「じゃ~んっ‼ どお~?」

 

(OoooH YES …… !)

 

ありさコスをした海夢ちゃんが元気いっぱいに現れた。

そのあまりの可愛さに俺の中のメタトンがメタトンEXに変形してしまいそうだ。

 

「ね~、やっぱ燕尾服くそヤバい‼ スーツ着ると気合入るとかいうの分かる~♡♡ めっちゃ大人感っ‼ 可愛いかよ~♡♡♡ サイズぴったりなのに動きやすいし最高~~っ♡♡」

 

大好きな十六夜ありさのコスプレを、そして大好きなバニースーツを着られた事に海夢ちゃんのテンションは最高潮。スタジオに来た時を超える喜びっぷりだ。

 

「それに見て見てっ! スーツに響かないように貼るタイプの下着にしてきたんだけど、マジで正解だった! てか燕尾服の後ろ尻尾出るようになってるのバチボコに可愛い~っ‼ マジでマジでよぉ~~♡」

 

海夢ちゃんは飛んで跳ねて回ってと歓喜のままに体を動かし続ける。

それだけ体を動かしてもバニースーツがズレる様子はない。宇佐見さんのアドバイスで入れたボーンがしっかり仕事をしているようでなにより。

 

「え~~~♡ 待って、全部が可愛すぎない~?♡ こんなの逆に駄目でしょ~♡ あたし今めっちゃありしゃなんだけど‼ 無理~~~♡♡」

 

だらしなくにやける顔を押さえるように頬に手を当てる海夢ちゃん。

彼女の言う通り今の海夢ちゃんは表情以外は十六夜ありさそのものだ。

俺は海夢ちゃんの言葉に全肯定するように頷く。

 

「うん、これは駄目なやつ。可愛すぎる。とりあえず後でありさが初めてバニースーツ着た時のシーン撮影しよう」

 

「それいい! ありしゃの初バニースーツのシーンとか撮るしかないし‼ でもいけるかな~♡ 今あたし嬉しすぎて表情作れないかも~♡ あはははは♡ ねえ、ごじょー君♡ どーしよ~~♡♡」

 

確か海夢ちゃんもありさが初めてバニースーツを着た時のシーンが好きだったはずだ。あと純粋に俺が見たい。

そう思って提案すれば海夢ちゃんが目を輝かせて頷く。何度も頷きすぎてウサミミが落ちないかちょっと心配。

かと思えば海夢ちゃんはまたしてもその表情を幸せそうにゆるめ、その素晴らしい衣装を作ってくれた新菜の方を向いた。

 

 

(なんで……っ、露出対策は……っ?)

 

新菜の顔は死んでいた。

 

 

「え、どういう表情それ。まさかのリアクションなんだが」

 

新菜の反応が予想外過ぎたせいで、流石の海夢ちゃんも先程のハイテンションが嘘のように鳴りを潜め困惑している。

しかしこれは仕方がない。

バニースーツは可愛い服装だが、同時にセンシティブな衣装でもある。

実際今の海夢ちゃんは胸の谷間や脚の付け根、お尻のラインなどいろいろとギリギリな部分が見えているし。

 

「き、き、喜多川さん……? ろ、ろろろ、露出対策は……?」

 

「あ~」

 

目に見えて狼狽えながら尋ねる新菜に海夢ちゃんは「ふふんっ」と自慢げに胸を張って答えた。

 

「ストッキングの下にぃ~~、肌色のストッキング重ね穿き! 露出してるのに、露出してない! 完璧‼」

 

「露出してるのに、露出してない! ヨシ!」

 

先日あまねさんに教えてもらったおっぱいNEOsisterのように一見露出してるように見えるが、実際は露出していないという訳だ。

現実でもコスプレだけでなく舞台などでも肌色のインナーや肉襦袢などを着用して露出対策とする方法はあるらしいし、有用な方法だろう。俺の中の現場猫もヨシって言ってるし。

だが、予想通り俺の親友は違うようだ。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

五条新菜、15歳。思春期。

彼にとってそれは――

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 

ただの「肌」だった。

 

 

 

 

.

主人公のイメージCVについて

  • 決めてほしい(誰にするかは執筆者に一任)
  • 決めてほしい(誰にするかはアンケートで)
  • 決めても決めなくてもどちらでもいい
  • 決めない方がいい
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