カシャッ カシャッ カシャッ
「い、いいですね……いいです……」
露出対策について紆余曲折あったが、なんとか無事に撮影が始まった。
スタジオ内にスマホカメラのシャッター音が小さく響く。
流石というべきか、撮影前までは衣装のクオリティの高さとそれによって完璧に仕上がったありさコスに頬を緩ませていたが、今はしっかりと表情を作って撮影に臨んでいる。
カシャッ カシャッ カシャッ
「ど~お? 盛れてる?」
「は、はい……」
一方はノリノリで、もう一方はガチガチで撮影が行われていく。
海夢ちゃんはポーズを変える度に表情までくるくると変わり、スマホを向ける新菜へ惜しみなく笑顔を振りまき、撮影を楽しんでいる。
対する新菜はどこか落ち着かない様子で、シャッターを切る指先がほんのわずかに震えていた。
いつもなら原作のシーンを再現しようと撮影の仕方にも気を配っているのだが、今回ばかりはその余裕はないらしい。
集中できていないことは一目瞭然だったが、海夢ちゃんは大好きなキャラクターのコスプレをして撮影に臨めることが楽しくて仕方ないらしく、その異変にはまるで気付いていない。
「あっちのチャイナっぽい方でも撮ってみない? どちゃ可愛いからさー♡」
「わ、わかりました……」
「やったー!」
海夢ちゃんは「チャイナ♪ チャイナ♪」とスキップしながら別の撮影コーナーへ向かうと、前屈みになって顔を近付けながらセットのクオリティの高さを再確認する。
「はぁ~? こっちも良すぎるな~♡♡ 軽率にテンアゲする~♡♡」
「ハッ……!」
(あーダメダメえっちすぎます)
いっそわざとなのかと言いたくなるほど、海夢ちゃんは俺達に向けて無防備にお尻を振りながらセットのクオリティの高さに興奮していた。
海夢ちゃん、軽率にテンアゲするのはいいけど、それは色々とアウトだよ……
バニースーツのせいでお尻のラインが丸わかりな状態にもかかわらず、あんな事をされれば誰だって目が釘付けになってしまうのも仕方ないはずだ。
現に新菜は顔を真っ赤にしながら目線を逸らす事が出来ずにガン見しちゃってるし。
「すっ、すみませんっ‼ ちょっ……きゅっ、休憩いいですか⁉」
「オッケー、じゃあ写真見せてーっ」
撮影の為に屈んでいた新菜は顔を張り上げながら立ち上がり、俺や海夢ちゃんに背を向けるように壁に体重を預ける。
海夢ちゃんは撮影が楽しすぎるからか、そんな新菜の様子も気にせずスマホを受け取り写真の出来栄えを確認しはじめた。
「待って、よすぎれキレそう‼」とか「
「お疲れ様。あれは緊張しちゃうよな」
「う、うん……ありがとう……」
そのまま背中をゆっくりと
憧れの女子の無防備でセンシティブな姿を見せられ続けているのだ。同じ男として彼の緊張や動揺はとても共感できる。
もし仮に俺が新菜と同じ立場だったら、そして相手が海夢ちゃんではなく心寿ちゃんだったらどうだっただろうか……?
(…………いろいろアウトな気がするし、考えるの止めとこ)
頭の中に浮かんだ光景を想像しようとして、俺はそっと首を横に振った。
心寿ちゃんのわがままボディでバニースーツなんて凶悪なのは分かりきってはいるが、大人しい彼女が進んでバニーガールの衣装を着る事はないだろうし、大人びた容姿をしているとはいえ、彼女はれっきとした中学生だ。そんな彼女にこんな格好をさせるなんて犯罪でしかない。
正直、エロい云々より心配が勝ちそうな気がする。心寿ちゃんの尊厳も俺が守護らねばならぬ。
「てかこのサスペンダーストッキング、アニメと違って隙間出来るんだね! 穿くの初だから知らなかった!」
海夢ちゃんの言葉に俺は意識を現実に戻す。
そして視線を海夢ちゃんの方に向けると、彼女はストッキングを摘まんで引っ張って脚の付け根に生まれた隙間を強調していた。
あ、それを見た新菜がまた顔を赤くして固まってる。
「喜多川さん、新発見に喜ぶのはいいけどもうちょっと気を付けないと駄目だよ」
「え~、いーじゃん! 大丈夫大丈夫、こんな事するのごじょー君と月見里君にだけだから!」
俺が窘めても海夢ちゃんは楽観的に笑うだけだ。
……これって俺が気にし過ぎなだけなんだろうか?
気になって新菜の方に視線を向けると、彼は心配そうな顔で俺と海夢ちゃんを交互に見ている。
その瞳から彼もまた俺と同じように彼女の無防備さを心配しているのが伝わってくる。俺の心配が過剰なわけではないらしく、そういう意味では一安心だ。
「これも可愛いけどー、あたしタイツはこまりんのが一番好きなんだよね。あのバニーっていったら的な線が入ったやつ、可愛いじゃん‼ あの線なんであんなにいいんだろ~♡ 超不思議~♡」
「二人もよさみ分かるでしょ?」と笑顔でバニー姿のこまりの画像を見せてくる海夢ちゃん。
勿論俺は彼女の言う良さを理解している。今海夢ちゃんが穿いてるサスペンダーストッキングもセクシーでいいんだけど、あの線の入ったタイツの方がバニーガールらしさが出てて個人的に好き。
海夢ちゃんの言葉にうんうんと頷く俺の隣では新菜が話に十分ついていけず、僅かに戸惑いを露わにする。
「こまりんには確かに線がありましたが、他のバニーをじっくり見た事がないので線の良さまでは……」
「うっそマジ⁉ 線でめっちゃ違うから比べてみてよ‼」
海夢ちゃんはスマホを手にしたまま新菜へと詰め寄ると、そのタイツの違いを教えようと画面をスワイプする。
「こっちがなし」
線が入ってないバニーガールの下半身が表示される。
「こっちがあり」
線の入っているバニーガールの下半身が表示される。
「線一本なのに全然違くない⁉ ほら‼ ほら‼ 比べるとほら‼」
右に左にと画面をスワイプして線の有無の違い、その良さを新菜に教えようとする海夢ちゃんの表情は真剣そのもの。
しかし、その真剣さでバニーガールのお尻を見比べさせる姿は正直言ってとてもシュールだ。
「見て‼ 見てる⁉」
「み、見てます……」
シャッシャッシャッ、と何度も画像を見比べさせる海夢ちゃんの圧に新菜はただそれを見続ける事しか出来ない。
その表情には『俺は何を見せられているんだ……』という困惑が余裕で見て取れる。
そんな二人のやり取りは傍から見ていると楽しいものだが、ちょっと困っている親友を放置するのも可哀想なので俺は彼を助ける意味も兼ねて、先程調べたあの線について二人に教えてあげた。
「今調べたんだけど、あの線ってバックシームって言うらしいよ。脚を奇麗に見せる効果があるんだってさ」
「なるほど、そんな効果が……」
「だからか~! やっぱ線があった方がよき!」
俺の説明を聞いた新菜は、ただ可愛いからという感覚的な話ではなく、きちんと根拠があって採用されているデザインなのだと理解したらしい。
そのデザインにちゃんとした理由があるのだと知って納得したように頷く新菜の隣では、海夢ちゃんも同じくうんうんと頷いている。しかしその様子は理論に得心を得たというより自分の感覚が間違っていなかったのだと再確認しているように見えた。
この反応の違いもそれぞれの性格がよく出ていて面白い。
「こっちのタイツでもコスしたいから宅コスしよっかな! バニーただのあたしバージョンって(笑)」
「いいんじゃない? せっかく作ってもらったんだし、いろいろ楽しめばいいと思うよ。なあ、新菜?」
「うん。喜多川さん、是非そうしてください。その方が俺も嬉しいです」
「うんっ!」
海夢ちゃんが宅コスを検討し始めたので俺と新菜がその背中を押す。
十六夜ありさのコスプレの為に作ってもらった衣装であるが、それだけの為にしか着ないというのはあまりにも勿体ない。他のバリエーションも楽しめるのなら遠慮なく楽しむべきだ。
それが製作者冥利に尽きるだろうと思って新菜に声を掛ければ、彼も同じ気持ちだったようで新菜は笑顔で頷く。
俺達の言葉に海夢ちゃんは嬉しそうに頷いたところで、「あっ、そうだ!」と何かを閃いた。
「今度のハロパで着ればいーんじゃんっ‼ ハロパで着よ‼」
「ハロパ……? ハロウィンですか?」
「確かこの前菅谷さんと話してたっけ?」
海夢ちゃんが新菜にバニーの良さを布教した日、乃羽ちゃんが打ち合わせの為に彼女を探していたのを思い出す。
あの時乃羽ちゃんが海夢ちゃんを探していたのもハロパの打ち合わせの為だったはずだ。
その事を振り返ると海夢ちゃんが頷いて返した。
「そっ! ゆーていつメンで集うだけなんだけど~……あっ! ごじょー君達もおいでよ!」
「えっ?」
またしても閃いたとばかりに海夢ちゃんが提案したのは俺と新菜のハロパ参加だった。
原作の展開を知っている俺は大して驚かなかったが、新菜は自分が誘われると思っていなかったのか反射的に聞き返す。
しかし、それに返ってきたのは更に彼の予想の斜め上を行くものだった。
「てかコスしない⁉」
「え」
「行くし絶対コスさせるね」
「えぇっ⁉」
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主人公のイメージCVについて
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