その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第77話『その学友達は仮装する』

時は10月29日。場は東京都渋谷区、渋谷。

うちらがいるこの場所は今、普段とは全く違う光景に変わっていた。

ゾンビに扮した男の人や小悪魔をイメージした可愛い格好をした女の子。ボロボロのフードの下で骸骨のお面をして男か女か分からないような人もいる。

仮装した人々が行き交い、あちらこちらから笑い声や話し声が飛び交っている。普段なら見慣れているはずの渋谷の街並みすら、今日はどこか浮ついて見えた。

これがこの時期の渋谷の名物、渋谷ハロウィン。通称「渋ハロ」。

ショッピングやランチなんかで海夢達とよく遊びに来ているはずの場所がまるで別の世界に変わったかのような光景が、そしてそんな場所に友達と共にいる事が私の心を弾ませる。

 

「じゃあ、撮るぞー」

 

四季君の声に意識を現実に戻し、視線を向ける。

そういえば今は皆で集合写真を撮ろうとしてたんだった、あぶな~~。

なんとかシャッターを切る前に気付けたので、しっかりカメラに向かって笑顔を向ける。せっかくバッチリキメてきたのに、写り悪かったら萎えちゃうもんね~。

そんな事を考えているうちに撮影が終わったらしい。雑音のせいでシャッター音は全然聞こえなかったけど、四季君がOKサインで教えてくれた。

 

「いい感じじゃん!」

 

「うんうん、いい感じ~」

 

写真の出来を確認した海夢が楽しそうに声を上げながらスマホの画面をうちらに見せてくれたのでそれに頷いて返す。

前列には私や海夢、それに乃羽と大空の女子組。その後ろでは猫耳を着けて女装をした健星君、そして兎の着ぐるみと魔女が立っていた(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「ほら、ごじょー君も見て!」

 

「! は、はいっ。いい感じです……っ!」

 

海夢が自分の後ろに立っている兎の着ぐるみ、正確にはそれを着た五条君へと振り返る。

声を掛けられた五条君はビクリと肩を跳ね上げ、顔が見えないにも関わらず緊張している様子がありありと見て取れた。

五条君ってうちらだけじゃなく誰に対しても基本敬語だし、真面目そうな感じだからこういうイベントには慣れてないのかな~。

実際、皆で撮影しようとした時は遠慮して離れようとしてたし。

 

(でも月見里君と海夢がそれを無理矢理引っ張って撮影に入れちゃったんだよね~)

 

海夢は最近五条君や月見里君とよく遊んでいるみたいで、先日もコスプレの撮影とやらで一緒に休日を過ごしたらしい。

うちらと遊ぶ時間が減ったのはちょっぴり寂しいけど、正直アニメやゲームの話にはついていけない部分も多いし、そういううちらじゃ分かってあげられない趣味を共有出来る友達がいるのは海夢にとって喜ばしい事だと思う。

 

「あの子可愛くない⁉」

 

「バニーの子?」

 

「そう‼」

 

ふと、人混みの中でこちらに熱い視線を向けている二人組の女性の声が耳に入る。

ミリタリー風の衣装と傷跡の特殊メイクが特徴的な二人の視線はバニーガールの衣装に身を包んだ海夢へと注がれていた。

 

「ヤバいよね……可愛すぎる……本気で可愛い……っ‼」

 

「ヤッバい……ずっと見ちゃうんだけど……」

 

(うんうん、分かる分かる~)

 

私や大空、乃羽だってメイクもコスプレも手を抜いたりしていないけど、海夢はそんなうちらよりも頭一つ抜けた可愛さとクオリティだった。

勿論それに嫉妬するような事はしないし、むしろ大好きな友達がそうやって評価されているのが分かって鼻が高いくらいだ。

そのまま聞き耳を立てていると海夢がモデルかどうかなのか気にしていたり、彼女のコスプレを見て自分達もバニーガールのコスをしたいなんて話しているのが聞こえた。

 

 

あと、魔女のコスプレしてる子も何気にレベル高くない……⁉

 

「わかる~……!」

 

 

続いて話題に挙がったのはまさかの月見里君。

女子であるうちらを差し置いて男子の月見里君が人気を集めている事に対して本当は嫉妬の一つでもするべきなのかもしれないけど、これに関しても正直納得しちゃうところがある。

 

(だって本当に可愛いし~)

 

服装自体は王道な魔女帽子と露出の少ない漆黒のドレス。

眼鏡も普段から掛けている瓶底眼鏡だけど、それが服装とマッチしていて違和感を感じさせない。しかもその下に隠れている顔はしっかりとメイクがされているし、服の下に仕込んだ詰め物まで含めて全体のシルエットが妙に完成されている。

 

(四季君も健星君も凄く面白い顔してたっけ~)

 

合流した時に月見里君の姿を見て二人揃って目を見開いて固まっていたのを思い出す。

乃羽なんか「驚きすぎて草」とか言って二人の事写真で撮ってたし。

だけどそんな反応をしてしまうのも納得なくらい月見里君の女装は完成度が高かったのも事実なんだよね~。

 

「瑠音ー、そろそろ移動するよー」

 

「は~い」

 

そんな事を考えているうちにこの場から移動する事になったようで、私は大空に呼ばれて皆の後に続く。

 

(ん~?)

 

私が最後尾だと思ったら月見里君が立ち止まったまま動かない。

何かトラブルでもあったのかと思って私は首を傾げながら様子を窺う。

すると、月見里君はこっそりとうちらの事を見ていたお姉さん達の方へと向き直り――

 

 

「……」(お姉さん達に小さく手を振る月見里君)

 

「「~~ッ!」」(口元を手で覆いながら悶絶するお姉さん達)

 

 

月見里君の突然のサービスにお姉さん達が目を輝かせている。

お姉さん達の反応に満足したのか、月見里君はくるりと踵を返してうちらに合流した。

 

「月見里君やる~~」

 

「え? 何が?」

 

私がからかい半分に声を掛けると、月見里君は小首を傾げてる。だけど、その口元がほんの僅かに弧を描いているのを私は見逃さなかった。

思っていたより月見里君はいい性格をしているみたい。ちょっと意外~。

 

「ふふっ。ううん、なんでもないよ~」

 

「そう?」

 

だけど今日はハロウィンだ。ちょっとした悪戯はご愛嬌。

うちらは小さく笑い合いながら皆の後を着いて行った。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

人混みの多さを考慮して、あたし達は少し早めに移動を始めた。

途中、映えそうな場所を見つける度に写真を撮ったりもしたけど、それでも大きく時間を取られることはなく、予約していた時間には無事カラオケ店へ到着することができた。

 

『二人は笑いーながーら~♪ 涙を流っしながーら~♪』

 

手続きを済ませて入室してから数分、早々に曲を入れた乃羽がステージの上で熱唱している。

乃羽って凄く楽しそうに歌うんだよね。マイクを独占しがちなのが玉に瑕だけど、飛んだり跳ねたりして全身で楽しさを表現して歌う姿は見ていてとても楽しい。

 

「人混みきちぃ~っ‼」

 

「他のやつまだ辿り着けんってさ」

 

ソファに背中を預けてぼやく健星君の隣で四季君が他のメンバーからの連絡を確認する。

あれだけの人混みだ。予定通り入店出来たあたし達がラッキーなだけで、多少の遅れは仕方ないだろう。

あと、健星君は大股開くな。女装してるという事を自覚しろ。

 

「とりあえず何か食べない?」

 

「賛成~。喜多川さん、俺にもメニュー見せて」

 

「どぞー」

 

メニューを手にした海夢の提案に、向かいに座っている月見里君が同意した。

彼女からもらったメニューを眺める彼をあたしはこっそりと眺める。

普段の瓶底眼鏡に隠れた顔はかなり整っているし、メイクで際立った美貌は本当に女の子のようだ。

 

「とりあえずパーティーセットとミックスピザとー……」

 

「この若鶏の唐揚げも頼もうよ。あと、これは注文しないけどこういうところのラーメンってなんかめっちゃ美味しそうじゃない?」

 

「分かるー!」

 

テーブルを挟んで一緒にメニューを見ながら、海夢と月見里君が注文内容や料理について盛り上がる。

二人とも可愛い顔して食欲がハンパない。月見里君はまだいいとして、海夢は読モのバイトやってるのに大丈夫なのだろうか?

 

「楽しーけど、人ハンパなかったね~」

 

「そうだね」

 

部屋に備え付けられている電話から料理の注文をする海夢を見ていると、レディースの特攻服を着た瑠音がドリンクを片手に一息つく。

非日常的な空間でいろんな人が思い思いにコスプレをして撮影を楽しんでいるのを眺めるのは見ていてワクワクしたし、友人達と一緒に写真を撮るのは楽しいが、僅かに疲労感を覚えたのも確かだ。

だけどこれでもマシな方だ。今回は男子が一緒なお陰で余計な気遣いが必要ないのだから。

 

「健星君達来てくれて正解だったわ。うちらだけだと海夢ナンパされて大変でさー。無視すればいーのに、『誰お前』って言い返すからー」

 

「は? 喜多川怖っ」

 

「喜多川さん、ハッキリ言い過ぎだって。俺、喜多川さんが何かトラブルに巻き込まれないか心配になるんだけど……」

 

「あははっ、大丈夫だって~」

 

月見里君の言葉に海夢はあっけらかんとして笑っているが、彼女の歯に衣着せぬ物言いが原因で相手の怒りを買った事は一度や二度ではない。

これまでは海夢の威圧に相手が気圧されて引き下がってきたが、この先もそれで済む保証だってない。

月見里君もその可能性が頭に過ったようで心配そうに眉を下げる。

 

新菜、もしもの時はちゃんと喜多川さんを守れよ

 

「えぇッ⁉」

 

そして、次に彼はマラカスを持って乃羽の歌を聞いていた五条君へととんでもないパスを送った。

あまりにも突然なフリに五条君が狼狽えて、持っていたマラカスを落としている。

その様子を見ると少し頼りなくも見えるが、慌てながらも「う、うん……!」と力を込めて返しているのを見て、少なくとも大事な友人を任せるには十分なのかもしれないと思った。

 

「ふふっ、ごじょー君も歌う?」

 

「あっ、すみません……俺、歌詳しくなくて……」

 

五条君の反応に海夢が嬉しそうに目を細めながら尋ねると、五条君はプルプルと震えだした。

 

 

フラワープリンセスの主題歌と『ヌルヌル♡ぴゅあは~と』しか覚えてる曲ないので……

 

激アツじゃん。むしろ絶対歌いなよ

 

 

ヌルヌル……なんて……?

聞いた事のない曲名だが、察するに海夢の好きなアニメやゲームの曲なのだろう。

あたしや乃羽、瑠音が分からないジャンルであの子の趣味を共有してくれる友人が出来たのは喜ばしい事だ。

気付けば乃羽と瑠音も優しい眼差しを二人に向けている。

 

『……もう一曲だー!』

 

「「いえ~い!」」

 

気持ちを切り替えた乃羽が絶叫し、瑠音と健星君がそれぞれマラカスやタンバリンを鳴らしながら盛り上げる。

そんな友人達を横目に、海夢は五条君の衣装へと話題を振れた。

 

「てか若頭コスすればよかったのに。絶対似合うよー、見たかったな~」

 

「いえ……俺はこれで……!」

 

海夢の言葉に五条君は何度も首を横に振る。

若頭ってヤクザ? 確か最近海夢が話してたアニメの話に殺し屋だのバニーだのヤクザだのといろいろ挙がっていたのを思い出す。

きっと五条君にそのアニメのキャラクターのコスプレを勧めているという事なのだろう。

しかし当の本人にその気がないのを察したのか、海夢は「あえてこっちのが逆にハロウィンぽくていっか!」と笑って話題を切り上げた。

 

(グイグイ行く感じに見えて、ちゃーんと相手の気持ち尊重出来るのはこの子のいいとこだよね)

 

自分の気持ちにはどこまでも正直で、それでいて相手の気持ちにもきちんと寄り添える。

それが、海夢という女の子の魅力なんだと思う。

友人の良さを再確認していると、二人のやり取りを見ていた瑠音が海夢へと声を掛けた。

 

「さっき写真撮ってる時、海夢すっごい可愛いって言われてたね~。超聞こえてきたよ~」

 

「え? そう?」

 

「うん~。あと月見里君も~」

 

聞き返す海夢に瑠音が頷くとそのまま月見里君と視線を向ける。

確かにここに来る道中で何人かから遠目に熱い視線や黄色い声援が向けられていのは知っていた。

まぁ、海夢はモデルをやってるくらい可愛いんだから、声を掛けられるのも当然と言えば当然。

だけど月見里君は、それとはまた違う。

詰め物で作られた抜群のスタイルに、普段は瓶底眼鏡の奥へ隠されている整った顔。

それらが完璧に纏まった魔女の仮装に、違和感のない立ち振る舞い。そりゃ周囲の目も引くよね。

 

 

「はぁ⁉ あれ俺にじゃねーの⁉」

 

「ねーよ」

 

 

健星君の叫びをあたしは容赦なく一蹴する。

本気でそう思ってるなら月見里君の爪の垢を貰って飲んだ方がいい。

 

「ほらほら、新菜も喜多川さんも寄って! ピース!」

 

「いえーい!」

 

「い、いえーい……」

 

当の本人は五条君と海夢と三人でピースをしながら自撮りをしていた。

三人で並んでいる姿は、どう見ても仲のいい女子二人とその友達にしか見えない。

……本当に月見里君って男の子だよね?

 

 

 

 

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