その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第78話『その頭師見習いは気付きを得る』

今日は10月29日。世間はハロウィン一色、ネットニュースは例年通り澁谷が仮装した人達で溢れ返っているらしい。

守優さんも五条さんやまりんさんと一緒にそこに行くって言ってたっけ。

本当は私も行ってみたいけど、お友達同士で集まる中にお邪魔するのは迷惑だろうし、私も緊張してしまうだろう。

それに夏祭りの時よりも大勢の人が集まるような場所に夜遅くまで遊びに出掛けるなんてお母さん達が心配して許してくれない。

夏祭りの時に我儘を聞いてもらったし、家族に心配を掛けたくない私は大人しく自室でゾンビ映画を鑑賞していた。

 

『キャアアアッッ‼』

 

(ゾンビチョコ美味しい~♪)

 

ハロウィンシーズンという事でスーパーで安売りされていたゾンビチョコを一つ頬張る。

脳味噌を模したそれはストロベリーの味がして、精巧でグロテスクな見た目とは真逆の優しい甘さが口の中に広がって思わず頬が緩んだ。

 

ブブッ

 

「ん?」

 

パソコンの前に置いていたスマホが震える。

確認するとライムにメッセージが送られてきたらしい。

送ってきた相手は守優さん。彼からのメッセージと分かった途端に胸がときめいたのを感じた。

私は逸る気持ちを抑えながら冷静にスマホを操作する。

 

 

月見里守優

月見里守優

新菜や喜多川さん達と渋谷のハロウインイベントに参加中!

 

折角だから今回は俺も仮装してみたよ。結構似合ってると思わない?(笑)

 

 

 

 

「‼」

 

守優さんからメッセージと複数の画像が送られてくる。

その内容を認識した瞬間、私の中で雷に打たれたような錯覚を覚えた。

 

可愛い……♡

 

そこには魔女のコスプレをした守優さんが写っていた。

パッドを入れているのか胸が膨らんでおり、ただでさえ奇麗な顔がメイクによって可愛らしく整えられている。

もし守優さんの事を知らない人が見たら女装だと気付かれないだろう。

 

可愛い……♡ 守優さん、本当に可愛い……♡

 

普段の守優さんも可愛いけど、そこには可愛さだけでなく凛々しさやカッコよさがある。

だけど、この写真の守優さんは可愛さを前面に押し出していた。

その愛らしさに胸が締め付けられ、こんなに可愛くてトラブルに巻き込まれないか心配になる。

どうしよう、守優さんが可愛すぎてなんて返したらいいか分からない。

 

「心寿ー、お母さんが明日の買い物の事で――……心寿?」

 

それから数十分後、お姉ちゃんが部屋に入ってきた事にも気付かないくらい私は守優さんの可愛さに震え、そして返信の内容に頭を悩ませ続けた。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

「んだよそれぇー‼ 逆ナンワンチャンあると思ってすげー期待して来たのにー‼」

 

「オイ、それ目的で来てくれたのかよ」

 

自分がまったく相手にされていなかった事を知った森田が情けない声を上げ、そのある意味悲痛な本音に大空ちゃんがツッコミを入れる。

そのまま顔を覆って嘆く森田だったが、残念な事に彼の悲しみを受け止めてくれる人間はこの場にはいなかった。

精々が「年上好きだもんな~。俺もだけど」「あはは、あたしもー」と柏木や大空ちゃんが慰めにもならない会話をしている程度である。

 

「というか、モテたいならそのコスプレは違うんじゃない?」

 

「月見里君やめたげなー、健星君にその言葉はめっちゃ効くから」

 

唐揚げを摘まみながら言うと、大空ちゃんから声がかかる。

視線を向けると森田が顔を覆ったままソファに倒れ伏していた。

可哀想な森田。ひとえにお前が仮装のチョイスをミスったせいだが……

でも実際、奇をてらって女装に走るより本来の顔の良さを活かしてビジュアル寄りにした方がワンチャンあったと思うんだよね。

 

「ごめんごめん、森田が好きでその仮装を選んだんだもんな。他人に迷惑をかけないなら服装は自由に選ぶべきだよ」

 

いや、コイツ『年上のお姉さんに可愛いって思ってもらえるんじゃね⁉』って下心全開でこの仮装にした

 

「言うなよ‼」

 

あまり褒めすぎると調子に乗りすぎるので言葉を飲み込み、代わりにフォローを入れてやると柏木がそのフォローもろともバッサリと森田を切って捨てる。

その無慈悲な暴露に森田は打ち上げられた魚のようにのたうち回り、そのままソファから転落する。

 

「柏木容赦なさすぎるだろ。人の心とかないんか?」

 

「そこになければないですね」

 

俺が森田への同情二割、おふざけ八割で尋ねる。

それに柏木は眼鏡をクイッと上げながらテンプレの返しをしてくれる。

流石は柏木。俺達は無言でハイタッチを交わした。

 

「てかあたしの場合、衣装が最高だからね! それじゃん?」

 

俺達のやり取りを眺めてケラケラと笑っていた海夢ちゃんが、「ふふんっ」とドヤ顔を浮かべる。

確かにそれはあるけど、海夢ちゃんの可愛さもあるだろ! 大事な事忘れるな‼

 

「超似合ってるよ~。五条君が作ったんでしょ~?」

 

「ハ、ハイっ」

 

「すごない⁉ 買ったのかと思ったし!」

 

「いえ、そんな……っ」

 

瑠音ちゃんと大空ちゃんに褒められ、新菜が頷く。

その言葉からはまだ少し緊張しているのが伝わってきた。

ただでさえこんな陽キャイベントに初めて参加してるのに、これまで海夢ちゃん以外ほとんど交流の無かった女子との会話だ。新菜の性格を考えれば多少緊張するのは仕方ないだろう。

 

「メイクもパないよね! ゴスロリの写真、一瞬海夢って分かんなかったし!」

 

「雫たんね!」

 

「あれも可愛かったね~」

 

「完全に別人だよなー。喜多川、読モの時も顔全然ちげーし」

 

話題は海夢ちゃんの衣装からメイクへ。

化粧という言葉に“化ける”という漢字が含まれているだけの事はあり、メイク一つでまるで別人のように変身する人もいる。勿論、海夢ちゃんがノーメイクでも可愛いのは疑いようがないが。

これまでのコスプレ活動を見守ってきた中で新菜の技術によってキャラクターそのものへと姿を変えた海夢ちゃんを見てきた俺からしてみれば、メイクの重要性は勿論それらを活かしてキャラクターに求められる表情や雰囲気を

理解して表現できる海夢ちゃんの才能も特筆するべき点だとは思う。

 

「やっぱ人にメイクしてもらうと顔面マジ変わるよね。だからあたし普段雑誌読んでる人に気付かれないよ」

 

「……喜多川がコスプレの時、五条が化粧してんの?」

 

そんな自分の凄さに気付いていない海夢ちゃんの言葉を聞いていた森田が項垂れていた顔をゆっくりと上げると、新菜の方を見て何気なく浮かんだ疑問を口にする。

 

 

なんで化粧出来んの? 男なのに

 

 

その純粋な問いは容赦なく新菜のトラウマを呼び起こそうとしていた。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

森田からの突然の質問。

その言葉の意味を脳が理解した瞬間、俺の心臓は悲鳴を上げるように激しく鼓動した。

 

 

なんでわっちゃん、男の子のくせに

 

 

この場にいないはずののんちゃんの声が脳内で響く。

 

「フツー出来なくね?」

 

「そっ……っ……」

 

森田の問い掛けになんとか返そうとして、しかしそれは叶わず音にならない吐息を吐き出す事しか出来ない。

 

「なんで?」

 

喉が渇く。寒気がする。

眩暈がして耳鳴りがする。

 

「……っ」

 

どう返せばいい? 大好きな雛人形の事で偽りを口にすることは出来ない。

ならば正直に話すのか? 話せば否定される。心無い言葉に傷付けられる。

 

 

気持ち悪い

 

 

あの時と同じように。

 

 

「!」

 

突然、背中に小さな温もりを感じた。

思わず隣に視線を向けると、いつの間にか守優が横に立っている。

そこでようやく、彼が俺の背に手を添えてくれている事に気付いた。

 

(守優……)

 

この場で唯一、俺の過去を知る人物。俺の大切な親友であり幼馴染。

きっと彼は森田の言葉に俺が動揺しているのが分かったのだろう。

俺が守優の方に視線を向けると、彼は小さく微笑んで俺の事を見つめていた。

 

『大丈夫』

 

彼の笑顔がそう言ってくれている気がした。

 

「男でも出来るよ。うちの兄ちゃん出来るっつの知ってんだろ」

 

「あーっ! はいはいはい‼」

 

まるでそれを裏付けるように柏木が自分の兄を話題に挙げ、それを思い出した森田が相槌を打つ。

そこからはまるで普段の何気ない様子と同じように会話が流れていく。

 

「四季くんのお兄さん、メンズメイクしてる系なの~?」

 

「いや、そっちじゃなくて。美容師の専門行ってんだけど、授業で化粧とかネイルアートもやってる。出来る人は出来るってだけだよ。そんだけ」

 

「メイクもスタイリストさんもヨユーで男いるし、別にフツーじゃん? 何言ってんの?」

 

「確かに! 全然いるわ!」

 

「ちなみに今回俺のメイク教えてくれたのも男の人だよ」

 

「「「「そうなん⁉」」」」

 

守優の言葉に四人が揃って驚きの声を上げる。

確かあまねさんにビデオ通話で教えてもらいながらメイクしたんだっけ。

 

「てかごじょー君()、雛人形屋さんでお雛様のメイクの練習してるから出来るんだよね」

 

「‼ きっ、喜多川さ……っ‼ それは――っ」

 

「あああああ~っ‼ もしかして五条ん()岩槻⁉」

 

「う、うん……っ」

 

家業や頭師としての練習をしている事をばらしてしまう喜多川さんを慌てて止めようとするが、時すでに遅し。

俺の制止の声をかき消さんばかりの勢いで声を張り上げる森田に思わず肩が跳ねた。

次に彼の口からどんな言葉が出てくるのか、無意識に体が身構えてしまう。

 

「俺小学校ん時社会科見学で行った‼ ガチですげーよ‼ レベチ‼ 雛人形作ってる人マジ超人‼」

 

「そーそー! 筆の細さが鬼!」

 

「ほんそれ‼ 見ないとわっかんねーよあのエグさ‼ マジでくそやべーから‼」

 

だけど、俺の緊張とは裏腹に彼が口にしたのはどこまで真っ直ぐな賛辞の言葉だった。

喜多川さんが共感すれば、森田は更に思いついた言葉をそのまま曝け出すように雛人形を作る職員の凄さを褒め称えてくれる。

 

「分かったけど声のデカさがバカ」

 

「健星君マジで声デカいんだけど~」

 

「あははッ」

 

「けど実際あんな小さい人形の顔書いたり、服や小道具作ってんだろ? 凄ぇっての共感出来るわ」

 

(…………あれ?)

 

八尋さんや山内さんが呆れて、柏木がそれに同調しつつも森田の賛辞に共感する。

そこで俺は小さな違和感を覚えた。

 

(なんで誰も、気持ち悪いって言わないんだろう……?)

 

誰も俺に忌諱の目を、異端を見る目を向けていない。

男なのに雛人形に全てを捧げてきた俺を、誰も蔑んだりしてこない。

 

『一度言われただけで皆が同じ事を言うなんて限らないのに、決めつけて……よくないよね……』

 

『決めつけたり思い込むと、どうしても視野が狭くなって気付ける事にも気付けなくなりますからね』

 

あまねさんや宇佐見さんの言葉が頭をよぎり、そして俺はある事に気付いた。

 

 

(……――俺、のんちゃんにしか気持ち悪いって言われてない……ような……)

 

 

雛人形が好きである事を恥じた事はなかったが、そんな自分は普通とは違うと思っていた。

普通とは違うから気持ち悪がられるのだと、排斥されても致し方ないのだと、思っていた。

守優や喜多川さんのお陰で仲の良い相手には自分の好きを隠さず曝け出す事が出来ていた。

 

(だけど……)

 

本当はもっと簡単で、単純なのではないだろうか?

そんな事を考える俺の肩をぽんぽんと軽く叩かれる。相手は今まで俺の横にいてくれた守優だった。

 

「ふふっ……――雛人形作りの凄さや大変さを知りたいなら俺が教えるよ。これでも広報担当してるんだから!」

 

俺が気付いた事を察した守優はもう大丈夫だろう、と言わんばかりに笑顔のまま小さく頷くと元の席へと戻っていくと、そのまま皆の会話に自然に入り込んでいく。

ああやって自ら会話に入っていき、それに溶け込んでいく守優のコミュニケーション能力の高さは本当に凄いと思う。だからこそ俺なんかと違って沢山の友達がいるのだろう。

 

『君が今‼ すぐ‼ 今‼ 曲の意味分からずとも‼』

 

そして今思えば、そんな守優が友達と見定めた人達が他人を傷つけるような事を言うはずがない。

彼らの事を俺はまだよく知らないけれど、守優の事はよく知っているから。

だから守優が信じる彼らを、俺も信じてみていいのかもしれない。

 

『鳴らす‼ 今‼ 鳴らす時‼ ロックロールは……――‼』

 

俺が大好きなものを、ほんの少しだけ……見せてみてもいいのかもしれない。

そんな事を考えながら、俺はゆっくりとお茶を口に含む。

先程まで感じていた異様なまでの喉の渇きを潤すために。

 

 

五条君と海夢って付き合ってんのー⁉

 

ブフゥゥゥゥゥッッ‼

 

 

菅谷さんの突然の質問に俺は堪らず噴き出した。

 

 

「~~~~~ッ! ……ッッ、~~ッッ‼」

 

 

そして視界の端では親友が声が出ない程大笑いして悶絶していた。

守優、笑ってないで助けて。

 

 

 

 

.

主人公のイメージCVについて

  • 決めてほしい(誰にするかは執筆者に一任)
  • 決めてほしい(誰にするかはアンケートで)
  • 決めても決めなくてもどちらでもいい
  • 決めない方がいい
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