自己満足で始めた小説ですが、皆様にも楽しんでもらえるようこれからも頑張ります‼
「お、お待たせしました……どっ、どうぞ……」
数分後、部屋を片付け終えたのであろう新菜はゆっくりと玄関を開いて俺達を招き入れる。
「お邪魔しまーっす。ごじょー君の部屋二階?」
海夢ちゃんが軽い挨拶と共に上がり込むと、そのまま正面の階段を上っていく。
俺はもう何度も来た事があるから分かるけど、海夢ちゃんは初めて来た場所のはずなんだけどな。
隣では新菜が躊躇いなく上へと上がっていく海夢ちゃんの後姿を唖然として見送っていた。
「とりあえず、俺らも行こうか」
「っ、うん……」
俺に促され、新菜が緊張した面持ちで続いていく。
二階に上がると海夢ちゃんが襖を開けて新菜の部屋を眺めていた。
「めっっっちゃごじょー君の部屋って感じ‼ そこの布団、絶対さっきまで敷きっぱだったでしょ、ウケる」
あはは、と海夢ちゃんは新菜の部屋に入っていき、そこで彼の机に置いてある物に気付く。
「これ、練習してる人形のやつ⁉ こんな細い筆で描くんだ~っ‼ すっご~っ‼」
海夢ちゃんが興味を示したのは新菜の机の上に置いてある面相書き用の筆。
学生が美術の授業に使うようなものとは明らかに違うそれに彼女は感嘆の声を上げた。
「あっ、勝手に触んないから大丈夫だよ。うわ~、マジ何この筆の細さ‼ エグすぎない⁉」
興味津々だけど、決してそれには触れようとはしない。
海夢ちゃんなりにその筆が新菜にとってどれだけ大事なものなのか理解しているのだろう。
他人の大切なものを尊重し思いやる事が出来る海夢ちゃんらしい様子に俺は思わず笑みを零しながら、彼女の隣に立って補足をしてあげた。
「しかも細いだけじゃなくて使い方も分けられてるんだよ。人形の表情とか口紅とか生え際とか……しかも、その日の温度や湿度でも使う筆が変わるんだ」
「マジ⁉ だからこんなにあるんだ、ヤバ~っ」
自分の知らない面相書きの世界、その一端に触れた海夢ちゃんは筆とその横に立てられているお雛様の顔を見つめて目を輝かせる。
俺はそんな海夢ちゃんの様子を微笑ましく眺めながら、視界の端でガチガチに固まって佇立している新菜へと意識を向けた。
身内以外では俺しか入った事のない自室に女性が、それも海夢ちゃんがいるという事実に緊張が極限に達してしまっているのだろう。
「ごじょー君、どうかした? 具合悪い?」
「いや、緊張してるだけだよ。自分の家に俺以外の友達が来た事ないし、それが女子だから余計にね」
「マジか」
自分では考えられない理由で新菜が緊張している事に海夢ちゃんが驚く。
しかし、だからと言って海夢ちゃんが引き下がるかというとそんなことはなく、立ち上がって新菜へと顔を近付けると心ここにあらずな彼に呼び掛けはじめた。
「ごじょー君、ごじょー君っ……ごじょー君ってば!」
「――はっ、はいっ‼ なっ、ななななんでしょうか⁉」
海夢ちゃんの呼び掛けでやっと意識が戻ってきた新菜が上擦った声で返す。180センチ超えの高身長は緊張のし過ぎで背中が丸まり、海夢ちゃんを見上げていた。
「さっそく、採寸しよっか?」
「そ、そうでしたね……っ。あ、そういえば採寸の仕方について対策を考えてくれたと聞きましたが……」
新菜が海夢ちゃんから借りていた衣装作りの本へと視線を向ける。
開かれたページには採寸を行う際の注意事項が書かれており、その中には正確に測るために下着の状態で測る事を推奨する一文が記載されていた。
「うん。採寸のためって言っても、下着姿だとごじょー君絶対困ると思ってさー。ぶっちゃけ、今日の凸の相談した時に月見里君にも注意されちゃったし」
「きっと緊張しすぎて採寸どころじゃないだろうしな」
(正直今の段階で既に採寸どころじゃない……‼)
既に採寸どころじゃない、なんて事を考えているのが手に取るように分かるが、俺はあえてそれを無視して話を進める。
横では海夢ちゃんがプチプチとボタンを外し、新菜は顔を真っ赤にして慌てている。新菜、なんだかんだ言いながら海夢ちゃんから目線が放せていない事に俺は気付いているぞ。
「というわけで、喜多川さんは下着姿の代わりに――」
「水着着てきたっ♡」
あ、新菜が固まった。
「閃いた時、マジ天才ってなったからね~……じゃーんっ、どーよ♡ これならヨユーでしょ?」
「ごめん喜多川さん、新菜には刺激が強すぎたみたい」
満面の笑みでピースをする海夢ちゃんの水着姿を記憶に刻み込みながら、俺は緊張を通り越して真っ白になった幼馴染の様子を指差しで教える。
分かり切っていたことだが、新菜のピュアっぷりには参る。この五条ピュア菜め。
にしても海夢ちゃん、スタイル良すぎじゃない?流石はモデル。俺は心の中で拍手を送った。
「え⁉ ごじょー君⁉」
完全に対策出来ていたと思っていた海夢ちゃんは想定外の反応に困惑する。
しかし、新菜の事を良く知っている俺からしてみれば、その反応は当然なものだと思う。こんな絶世の美女がいきなり水着姿になっているのだ。新菜は既に今の時点で海夢ちゃんを意識していたはずだし、この刺激に耐え切れないのは仕方がないだろう。
「ちょっと、どーしたの⁉ 大丈夫⁉」
「喜多川さん、それ以上いけない」
慌てて距離を詰めようとする海夢ちゃんを手で制し、俺は待ったをかける。
そして新菜の手を引き、この場を移動する。新菜は真っ白なまま俺の誘導に従い、続いて部屋から出た。
「おーい、新菜ー。戻ってこーい」
「…………はっ‼」
襖を閉じ、海夢ちゃんと空間を分けると俺は新菜へと呼び掛ける。
数回繰り返すと新菜は意識を取り戻し、そして先程の光景を思い出したのか顔が茹蛸のように染め上がった。
「し、守優……‼ 対策ってあれの事……⁉」
「そうだけど?」
「あんなの下着と変わらないよ……‼ あれじゃ採寸なんて……‼」
両手で顔を抑えながら、新菜はその場にしゃがみ込む。
そのまま「う~」とか「俺には……」とかブツブツ呟く新菜に俺は溜息を一つ零した。
「やっぱり、採寸は他の人に――っ、そうだ! 守優が代わりに――!」
「新菜はそれでいいのか?」
「え……?」
顔を上げた新菜と目が合う。
「緊張して採寸どころじゃないっていう新菜の気持ちも分かる。でも、喜多川さんは新菜に衣装作りを依頼して、お前はそれを受けたんだろう?」
「それは、そうだけど……」
「彼女は本気でコスプレしたくてお前に衣装を依頼したんだ。そんな彼女の気持ちに応える気概はないのか? そんな事でお前は理想の職人の道を進めるのか?」
「……‼」
新菜の瞳が大きく見開かれる。
彼に採寸させるための詭弁だという自覚はある。でも、誰かの真剣な思いに対して自分も真剣に向き合うという心構えが大事なのは事実なのだ。
そして、その気持ちは今後の新菜に絶対に必要なものだと俺は確信している。
俺の言葉を受け、新菜はゆっくりと俯いた。
そして、ポツリと呟く。
「……守優の言う通りだ。俺が間違ってた」
ばちんっ
大きな音を立て、新菜は自身の頬を打って喝を入れると、ゆっくりと立ち上がった。
頬は赤く染まり、鼻血を流す彼の表情は真剣そのもの。
人形作りに取り組む時に見せる、俺の推しの格好いい顔つきだ。
「ありがとう、
「いいさ。頑張れ、
俺は懐からハンカチを取り出して、彼の鼻血を拭いてやる。
よし、これで男前が上がったな。
新菜は首にかけていた手ぬぐいを額に巻くと、襖を開けて部屋へと入っていく。
「喜多川さん、お待たせして申し訳ありません」
「別にそれはいいけど、ごじょー君大丈夫? なんか凄い音したんだけど……‼」
「なんでもありません! 気にしないでください‼」
「無理無理‼ 気になるわ‼」
セルフビンタの音と先程と打って変わって真剣な面持ちで戻ってきた新菜の様子に今度は海夢ちゃんが狼狽える。
そんな海夢ちゃんを他所に、新菜はメジャーを片手に教本を見て、採寸の手順を確認し始める。
「……月見里君、もしかしてごじょー君の事叩いた?」
新菜の頬が赤く染まっている事に気付いた海夢ちゃんがじとりと俺を睨みつける。
その『軽蔑しました』みたいな顔は止めてほしい。推しに嫌われたら俺は生きていけない。
「激励はしたけど、暴力は振るってないよ」
「……ホントに?」
「本当に」
「……分かった。月見里君の事信じる」
数秒俺の顔を見つめた後、俺が嘘を吐いていない事を理解してくれたのか「疑ってごめんね?」と詫びる海夢ちゃん。
疑われた事はツラいが、手を合わせて謝る推しが可愛かったので全部許した。
「お待たせしました。それでは、頭まわりから採寸させていただきます。よろしくお願いしますっ」
「俺は新菜が採寸したのを記録して纏めていくね」
「うん。二人ともヨロ~っ」
かくして海夢ちゃんの採寸がスタートした。
原作では水着姿の海夢ちゃんにドキドキしてしまい、遅々として採寸が進まなかったが今の新菜は海夢ちゃんの期待に応えようと集中しているからか、とてもスムーズだ。
俺は新菜が口頭で伝える数値を順にメモの書き記しながら、二人の表情を伺う。
新菜は真剣な表情で採寸に取り組み、海夢ちゃんは雫ちゃんの衣装作りに少しずつ向かっている事が嬉しいのか可愛らしく微笑んでいる。
(本当に、いい顔だ……)
二人の顔を見ていると俺も思わず頬が緩んでしまう。
「ふふっ……」
「? 守優、どうかした?」
「いいや、何も。それで、腕回りはいくつ?」
「うん。腕周りが――」
俺が笑っているのに気付いた新菜がこちらを気に掛けるが、なんでもないと返して採寸の継続を促す。
原作でどれほど時間が掛ったのかは具体的には不明だが、間違いなくそれより早く進んでいるはずだ。
「うんうんっ、順調じゃ~んっ‼」
新菜が測り、俺が記入したメモを見ながら海夢ちゃんは顔をほころばせる。
彼女の言う通りここまで順調そのもの。しかし、ここからはそうはいかない!
「そーだ、ごじょー君。足のサイズも測ってくんないかな?」
そう、この後は足の測定だからだ!
「……足、ですか? 俺、靴は作れないので、市販のものをどうにかしようと思ってたんですが……」
「そーなんだけど、靴って同じサイズなのに足痛くなったりしてナゾなんだよねー」
海夢ちゃんの悩みはコスプレとは関係なく、結構多くの人が直面しそうなものだ。
俺も似たような事が昔あったのを思い出し、うんうんと頷く。
「甲の部分が合っていないのかもしれませんね」
「ここ?」
「はい。あと幅も測りましょう。椅子を持ってきますね」
「あ、俺が代わりに持ってくるよ。待ってて」
椅子を取りに行こうとする新菜を手で制して、代わりに俺が立ち上がる。
勝手知ったる五条家だ。どこに何があるかなんて全部頭に入っているし、とりあえず
「えっ、これでいーじゃんっ! 高さもちょーどよくない?」
(高さは丁度いいかもしれないけど、新菜の精神上よく)ないです。
さっきまで落ち着いてたのに、畳まれた布団の上に座った海夢ちゃんに動揺して、新菜は思い切り噴き出している。
「よくないです‼」
「なんで?」
「なっ、なななななっ、なんっ、なっ、なんで⁉ なんでって……きっ、汚っ、汚いっ……汚いんで‼」
なんとか海夢ちゃんに降りてもらおうと説得を続ける新菜を見ていると、彼は海夢ちゃんを神聖視しているように思う。
自分のせいで海夢ちゃんが汚れてしまう、汚してしまうという畏怖に近い感情。それは自分に自信がなく、己を他者より低い場所に位置付けているからくるものなのだろう。
「全然ヨユーなんだけど。イェイ」
「ちょほああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ⁉」
まぁ、海夢ちゃんが距離感バグってる気がしなくもない。
幼馴染の俺だって新菜の布団の上に寝転んでピースなんかしないし。
しかし、それを抜きにしても新菜の自己肯定感の低さは顕著だ。
「ほ、本当に勘弁してください‼ 喜多川さんが汚れてしまいます‼ っ、守優~……‼」
「んー? 喜多川さん、流石に寝転ぶのはダメだよ。ちゃんと座りな?」
「はーい」
「そうじゃなくって……‼ そんな汚い所、すぐに離れてください‼」
新菜から助けを求められるが、別に汚いとは俺も思ってないので適当に流す。
先程までの凛々しさはどこへやら。俺の助けも貰えず、それでも新菜は必死に海夢ちゃんを説得しようとする。
幼馴染として傍にいて彼のメンタルを育ててきたつもりだったが、どうやら甘かったようだ。
ここは一つ、荒療治が必要なのかもしれない。
と、いうわけで――
「喜多川さん」
「ん」
俺が促すと海夢ちゃんは短く頷き、とうとう土下座までして謝りだした新菜の前へと足を突き出す。
「ごじょー君。いーから――して」
「……はい……」
ドS感が増した海夢ちゃんの有無を言わせぬ言葉に、新菜は蚊の鳴くような声で了解した。
そのまま顔を赤くしながら無言で脚の測定をする新菜を他所に、俺達は無言で見つめ合う。
「……」(笑顔でピースする海夢ちゃん)
「……」(お返しにグッドサインする俺)
やっぱり海夢ちゃんしか勝たんわ。
そうこうしているうちに足の測定を終えた新菜は、顔から湯気でも立てんばかりに顔を赤くしながら座り込む。
ぐったりとした様子はまさに満身創痍だ。
「お疲れ、新菜」
「し、守優……ありがとう……」
パタパタと仰いで風を送ってやりながら労うと、新菜は力なく笑みを浮かべる。
その背後で海夢ちゃんは「今度靴買う時覚えとこ~」と採寸の結果を確認していた。
「おーし! どんどん進めよー!」
新菜、お前は見事に海夢ちゃんの足の採寸を終えた。
緊張と興奮の中、勢いに流されたとはいえ仕事をやりきった事は素直に賞賛する。
頑張ったよ、お前は偉い。
「つっぎっは~っ」
だけどな、
「
もうちょっとだけ続くんじゃ。
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原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
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内容的に違和感がなければ登場してほしい
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登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
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執筆者の自由にしたらいい
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原作準拠であまり出さないでほしい