シルバーウィークまでになんとか投稿したかったのですが…ちなみに、私にシルバーウィークはありません(
紆余曲折がありながらも学友達と楽しいハロウィンパーティーを過ごした翌日。
我らが1年5組の教室の真ん中には一つの空席が出来ていた。
「おはようございます。今日は喜多川さんがお休みです」
HR開始に先立って花岡先生から伝えられたのは海夢ちゃんの欠席についてだった。
クラスの中心的存在である海夢ちゃんの不在に生徒達がざわめく。
「ええーっ‼ 花ちゃんなんでー⁉」
「実は今朝お電話があったんだけど、熱が出たみたいで……」
心配そうに眉根を下げながら事情を説明する花岡先生の言葉に、「珍しい」「大丈夫かな」と大空ちゃんや瑠音ちゃんが海夢ちゃんの身を案じている。
「急に寒くなってきたので、皆さんも体調管理には気を付けてくださいね」
クラスメイトを心配する声が飛び交う中、花岡先生は生徒達に注意喚起をした後に「では、ホームルーム始めます。今からプリントを配るので――」と話題を切り替え、HRを進めていく。
それに伴ってクラス全体も落ち着きを取り戻し、いつもの日常に戻ろうとする中……一人だけその変化についていけていない人物がいた。
そわそわ…… そわそわ……
そう、俺にとって兄弟同然の親友であり幼馴染の五条新菜である。
新菜は警戒するように周囲を見渡しては、俯いてスマホを覗き込んでいた。
おそらく、ライムで送ったメッセージへの返信を待っているのだろう。返事が来なくても、せめて既読だけでも付かないかと気を揉んでいるに違いない。
周囲にはあれだけ気を配っているくせに、俺に見られている事には気付かない。
その様子だけでも、今の新菜がどれだけ落ち着かないのかはよく分かる。
そうして一限、二限、三限と授業を終えたところで俺は新菜に声を掛けた。
「新菜、大丈夫か?」
「! な、何が……?」
スマホに意識を向けている新菜に声を掛けると、彼はビクリと肩を跳ね上げる。
にも関わらずぎこちない笑みを浮かべる親友に俺は助け舟を出してやる事にした。
「何がって、明らかにいつもと様子が違うだろ。もしかして、新菜も風邪ひいたりしてるんじゃないか?」
「!」
俺の言葉を察したのか、新菜はハッとした様子で目を見開くと小さく何度も頷く。
「……そ、そうなんだ。実は朝から少し風邪気味で……っ」
苦し紛れな言い訳をした後に「ゴホッ、ゴホッ」と露骨に咳を繰り返す新菜。
この男は本当に嘘をつくという行為が下手だ。もっとも、その純粋さが彼の魅力でもあるのだが。
原作では無事に仮病で海夢ちゃんのお見舞いに行けていたが万が一仮病がバレては困るので、俺はそのバレバレな演技に騙されてやりながらもう一隻、舟を用意する。
「無理したらダメだろ。花岡先生には俺から言っておくから、今日はもう早退しな?」
「あ、ありがとう……そうする……!」
言うが早いか、新菜は席を立つと手早く荷物を纏めて教室を後にする。
ミッションコンプリート。俺は無事わかまりの看病イベントのフラグを立てる事に成功した。
「っ、寒……」
換気の為に開けられてた窓からやってくる秋風に思わず身震いする。
今は季節の変わり目、花岡先生が言っていたように自分も風邪をひかないよう気を付けなければ。
そんな事を考えながら、俺は新菜の早退を花岡先生に伝える為に職員室へと向かった。
看病の為にお邪魔してはや数時間。
眠りから覚めた喜多川さんに一度体温を測定してもらう。
「だいぶ下がりましたね」
「かなり楽~。これなら明日病院行けそ」
喜多川さんが顔を綻ばせる。
体温の測定結果は36.9℃。喜多川さん曰く朝は38.0℃近くあったらしいので、それを考えると俺のお節介も無駄ではなかったのかもしれない。
「お粥冷蔵庫に入れてあります。よかったら食べてください」
「マジ? ありがと~」
喜多川さんの負担を考慮して昼に多めにお粥を作っておいた。
温める手間はいるが、自分で一から作るよりはずっといいはずだ。
ピンポーン
「「ん?」」
来客を告げるインターホンの音。
まだ本調子ではない喜多川さんに付き添ってモニターを確認しに行くと、そこには菅谷さんに八尋さん、山内さんの三人がいた。
『海夢~~っ、お見舞い来たよ~~‼』
「‼」
「乃羽達だ」
まずい……‼ 俺がいたらまた誤解されてしまう……‼
昨日否定したばかりだ。ここで喜多川さんの家にお邪魔していると知れたら、また蒸し返されるかもしれない。
ただでさえ体調が悪いのに、余計な心労を掛けるわけには……‼
「あ、あのっ、俺ベランダに隠れてていいですか⁉」
「はっ⁉ なんで⁉」
誤解を招きたくないから、とは言えない。
そんな事を言えば結局喜多川さんに心労を掛ける事になる。
俺は焦る中で思考を巡らせ、咄嗟に思いついた言い訳を述べた。
「えっと~……嘘ついて早退したので、皆さんが帰るまで外にいます‼」
即興で思いついたにしてはマシな理由、のはずだ。
俺は言い訳に対する喜多川さんの反応を待つ暇もなく急いで自分の靴と鞄を回収し、逃げ込むようにベランダへと出た。
「海夢大丈夫ー⁉」
ベランダに飛び出て数十秒後には、菅谷さんの元気な声が聞こえた。
そこに続いて、「病院行けた?」「アイスとポカリ買ってきたよ~」と八尋さんや山内さんの声。
三人の喜多川さんを気遣う言葉に彼女達が本当に喜多川さんの事を心配していた事が窺えた。
分かっていた事ではあるが、喜多川さんは本当に多くの人に愛されているのだと再確認する。
「ゔっ……」
俺が意識を逸らして気を紛らわせるのを咎めるように、冷たい風が容赦なく吹き付ける。
喜多川さんの家は高層階だから余計に寒い……‼ このままだと俺も風邪ひきそう……‼
ブブッ
「?」
寒さに身を震わせていると、ポケットに入れていたスマホが振動した事に気付き、それを取り出す。
どうやらライムにメッセージが届いたようだ。
「…………え?」
あまりにも突然で奇妙なその内容に、一瞬理解が遅れる。
その直後、ガラリと音を立ててベランダの窓が開いた。思わず顔をそちらに向ける。
「私、メリーさん。今あなたの隣にいるの」
「うわあぁっ‼」
そこには俺の事を見つめている守優の顔があった。
驚きのあまり堪らず声を上げてしまう。しまったと思って口を押さえたが、もう遅い。
「何⁉ どしたん⁉」
「月見里君、そこに誰かいんの⁉」
「えっ、警察呼ぶ⁉」
リビングの方から菅谷さん達の慌てふためく声が響く。
守優はそれに対する返事はせず、ただ静かに俺の事を見つめていた。
このままでは本当に警察を呼ばれかねない。俺は観念して姿を晒す。
「す、すみません……俺、です……」
「ご、五条くん……?」
「びっくりした~……」
「くっそビビったんだけど‼ てか何でいんの⁉ しかもベランダ‼」
不審者の正体が俺だと分かり、八尋さんと山内さんが安堵の息を吐き、菅谷さんがもっともな質問を投げかけてくる。
どう答えたらいいのか分からず言葉を詰まらせる俺に救いの手を差し伸べてくれたのは喜多川さんだった。
「ごじょー君、あたしの事心配して看病しにきてくれてたんだよ」
「マジ⁉」
喜多川さんの言葉に菅谷さんが驚きの声を上げ、お見舞いに来た三人の視線が一気に俺へと集中する。
一斉に向けられた視線に居心地の悪さを感じながら、しかしここまで来て否定する事も出来ず俺は無言で頷いた。
どうしよう、これではまたあらぬ誤解を……!
「五条君……」
「っ」
菅谷さんがゆっくりと近付いてくる。
俺はビクリと肩を震わせ、思わず身構えた。
「――やるやん!」
「……へ?」
予想外の言葉に肩の力が抜ける。
対する菅谷さんはまるで俺の反応を楽しむようにニッと笑った。
彼女の後ろでは喜多川さん達も微笑んでいる。
「うちらマジで海夢の事心配だったからさー」
「ライムも既読付かなかったしね~」
「うわ、ホントだ。ごめん、気付かなくて……」
「無事なの確認出来たし、別にいいって」
菅谷さんと山内さんの言葉に喜多川さんが慌ててスマホを確認する。
喜多川さんの謝罪を八尋さんは苦笑して受け入れながら、再び俺に視線を向けて続けた。
「てか五条君、海夢の看病しに来てくれてたなら言ってくれればいいのに」
「その、仮病で早退してしまったので……」
「それが後ろめたくて隠れてたんだろ? あんな寒い所にいて本当に風邪ひいたらどうするんだよ」
「うっ……」
横から腋腹を小突かれ、小さな呻き声が漏れる。
隣を見れば守優が分厚いレンズの奥で呆れるように目を細めていた。
彼の言う事はもっともだ。もし俺が風邪をひいたら喜多川さんが責任を感じるかもしれない。
そこまで考えが至らなかった事にようやく気付き、俺は頭を掻いた。
「ご、ごめん」
「友達を看病しに来てくれてるのに怒ったりしないよ~」
「そうそう。いい事してるんだから堂々としときなって」
「は、はい」
山内さんと八尋さんの言葉に頷いて返す。
誰も俺の事を非難しないし、俺と喜多川さんの関係について勘ぐりを入れてくる事もない。
むしろ喜多川さんの看病をした事に感謝してくれている。別にお礼を言ってほしかったわけではないけれど、自分の行動が間違っていなかったのだと認めてくれているようで、少し嬉しかった。
「さてと、喜多川さんの無事を確認出来たし帰ろうか」
「そうだね。長居しちゃっても悪いし」
守優の言葉に八尋さんが同意する。
喜多川さんもだいぶ良くなったし、もう大丈夫だろう。
俺も流れに乗り、
「んじゃ、またねー海夢ー」
「お大事に~」
「明日はちゃんと病院行きなよ」
菅谷さん達がそれぞれ喜多川さんに一言述べながら退出していく。
友達の言葉に喜多川さんは「うん、うん」と嬉しそうに返しながらゆるゆると手を振って見送った。
「お邪魔しました。喜多川さん、また学校で」
「うん。月見里君、ありがとう」
菅谷さん達に続いて守優も外へと向かった。
俺と喜多川さんの二人きりになった途端、先程まで騒がしかったのが嘘のような静けさが俺達を包む。
「「……」」
思わず喜多川さんを見つめれば、彼女も俺に目を向け、自然と二人の視線が交わる。
図らずも見つめ合う事数秒、気恥ずかしさから俺も喜多川さんも揃って視線を外し、だけどなんだかそれが名残惜しくてチラチラと互いに視線を送り合う。
「あ、あの、俺も帰りますね……!」
「う、うん……!」
ぎこちないやり取りをしながら靴を履き、玄関のドアノブに手を掛ける。
「ご、ごじょー君……今日は本当に、ありがとう……」
喜多川さんの声に手が止まる。
彼女の言葉がゆっくりと俺の心に染み込んでいくのを感じた。
それと同時にやってくる喜びに胸が熱くなり、自然と顔がほころぶ。
「……はい。喜多川さんのお役に立てて、良かったです」
喜多川さんの力になれた。喜多川さんの助けになれた。
それがこんなにも、嬉しくて仕方ない。
「それでは、失礼します」
「うん、気を付けてね」
「はい」
喜多川さんに見送られながら、ゆっくりと扉を閉める。
バタン、とちゃんと扉が閉まったと同時、
「ふー……」
自然と口から吐息が漏れた。
ああ、なんだか頬が熱い。
心臓が鼓動しているのがよく分かる。
それが何を意味するのか理解して、俺は気を鎮める為にまたゆっくりと息を吸い、吐き出す。
「大丈夫か?」
「! う、うん」
心配してくれる守優にぎこちなく言葉を返す。
彼はそれ以上追及する事なく、「そっか」とだけ返して踵を返した。
「お腹減った~、帰りファミレス寄らん?」
「賛成~」
「五条君達はどうする?」
どうやら菅谷さん達は食事をして帰るようだ。
お誘いはありがたいが、家ではじいちゃんが待っているので今回はお断りする。
「すみません、俺はこのまま帰ります」
「俺も帰ろうかな。また今度喜多川さんが元気になったら皆で行こうよ」
「オッケー。じゃ、うちらこっちだから」
どうやら守優もこのまま帰るらしい。
守優の言葉に八尋さんが笑顔で了解したところで俺達と八尋さん達は分かれる事になった。
「バイバーイ!」
「また明日~」
手を振る菅谷さん達に守優も手を振って返し、俺は小さく会釈をして離れる。
もう何度も歩んだ喜多川さん家からの帰り道を、何十何百と共に歩いてきた親友と共に進む。
「ねえ、守優」
「ん?」
「なんで俺が喜多川さんの家にいるって分かったの?」
帰路の途中、ふと思い浮かんだ疑問を口にする。
俺が仮病を使った時、彼は全く疑う素振りを見せなかった。
むしろ守優の方から風邪を疑っていたので上手く誤魔化せたと思っていたのだが……そう思って尋ねれば、守優はけろりと質問に答えた。
「だって仮病って分かってたし」
「え゙っ⁉」
あっさりと言う守優に思わず声を上げる。
動揺する俺を見て楽しそうにしながら守優は続けた。
「朝はなんともなさそうにしてたのに、花岡先生が喜多川さんの事を話した途端に挙動不審だったじゃん。スマホを見てはそわそわして、喜多川さんの事を心配してるのバレバレ……で、仮病で早退して喜多川さんの看病しに行きたいんだろうなーって思って声掛けてやったんだよ」
「ナイスアシストだったろ?」と悪戯が成功した子供みたいに笑う守優に俺はただただ脱帽した。
何から何まで、この幼馴染にはお見通しだったという訳だ。
彼の凄さを改めて実感しつつ、そんな彼が俺自身も気付かないように背を押してくれた事に笑みが零れる。
「……ありがとう、守優」
「どういたしまして。それにしても、今日は本当に冷えるなぁ」
俺が礼を言うと、守優は笑顔のまま、なんて事ないように返して空を見上げた。
もう11月は目の前。日没が早くなった空は西に僅かに赤みを残し、暗く染まりつつある。
同時に吹く、ひんやりとした風。喜多川さんの家のベランダにいた時と比べると優しいそれは、それでもしっかりと冬の予感を感じさせた。
「そうだね」
「風邪ひかないように気をつけろよ? 喜多川さんの傍にいた分、リスクあるんだから――っくしゅ!」
俺の心配をする言葉を言い切る前にくしゃみをする守優。
確かに彼が言う通り、喜多川さんの傍にいた俺は彼女から風邪をうつされてしまう可能性はあるだろう。
だけど、それを心配する守優の方がまるで風邪をひきはじめているかのようにくしゃみをしているのがなんだかおかしくて笑ってしまう。
「あはは。守優も気を付けてね」
「……そうだな、今日は温かくして早めに寝よう」
格好がつかなかったからか、僅かに頬を赤く染めて守優が小さく返す。
そんな親友とのやり取りが楽しくて、俺はその時何も気付かなかった。
それが喜多川さんや守優がよく言う、フラグというものだったのだと。
「新菜、俺はもう駄目だ……俺の事は気にせず、先に行け……」
「あー、うん……お大事にね……」
翌日、守優は風邪をひいた。
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主人公のイメージCVについて
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決めてほしい(誰にするかは執筆者に一任)
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決めてほしい(誰にするかはアンケートで)
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決めても決めなくてもどちらでもいい
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決めない方がいい