その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第8話『その幼馴染達は振り回される』

「つっぎっは~っ、胸囲(バスト)。てゆーか、髪上げてなきゃだよね」

 

やっとの思いで足の採寸を終えた新菜を他所に、海夢ちゃんは間髪入れずに次の採寸に進もうとする。

毛先がピンクのグラデーションに染められた奇麗な金髪を纏め上げてポニーテールを作り、準備万端といった様子だ。

 

「あの……も、もしかして、おおお俺っ、俺が測るんですか……⁉」

 

「あたり前じゃん‼ 逆に誰が測んの⁉」

 

「………」

 

海夢ちゃんの言葉に新菜が油の切れたブリキのようにギギギ、と顔を俺の方に向けてくる。

若干涙目な彼の瞳は『もう限界だ』と俺にSOSを送っているようだった。

本当なら助けてやりたいんだけどな。でも、この最高の採寸回を俺が途中で横取りするのは解釈違いなんだよ。

 

「新菜、手ぇ出すならしまいまでやれ!」

 

「なんなのその口調⁉ じいちゃん⁉」

 

おじいちゃんはおじいちゃんでも、ボイラー室に住んでる方のおじいちゃんだ。

前世の元ネタなんか知るはずのない新菜はよく分からない台詞で断られて目を白黒させる。

 

「あはは! 月見里君、なに今の⁉ なんかのキャラの台詞⁉ ウケるんですけどっ」

 

一方海夢ちゃんはツボにハマったのかゲラゲラと大声で笑いだした。

そのあまりの爆笑っぷりに新菜も緊張がほぐれたのか、少し表情が柔らかくなったのが分かる。

とりあえず、このタイミングで俺は一度休憩を入れる事にした。

 

「ちょっと一息入れようか。海夢ちゃんが持ってきてくれたケーキ食べない?」

 

「そうだね。喜多川さんもいいですか?」

 

「もち!」

 

俺の提案に新菜も海夢ちゃんも笑って頷く。

それを受けて俺は早速準備に取り掛かる事にした。

 

「とりあえず二人はここで休憩してて? 喜多川さんは上だけでも羽織っとくようにね」

 

「オッケー」

 

「ごめん、守優。任せる」

 

「いいって。ゆっくりしててくれよ」

 

俺は二人を置いて階段を降り、台所へと向かった。

海夢ちゃんが持ってきてくれたのはチーズケーキだったし、緑茶とかより紅茶の方が合うな。茶葉はまだあったっけ?

 

(確か美織お姉ちゃんが持ってきてくれてたやつがまだあったと思うんだけど……お、あったあった)

 

麦茶や緑茶、コーヒーなどをパックを保管している棚にお目当てのティーパックがあるのを発見する。

コンロにヤカンを置いて火にかけ、お湯を沸かす間に皿とフォークの用意だ。

お盆に皿を並べ、その上にお土産のケーキを載せていく。

次にカップを出してパックをセット。丁度よいタイミングで湯も沸いたのでそれを注いでいく。

 

「よし、準備完了」

 

三人分の紅茶とケーキを載せたお盆を持ち、俺は早々に二階へと戻る。

俺が準備している間に会話に少しでも会話に花が咲いて盛り上がっているのかと思ったが、なんだか新菜の顔はさっきよりも真っ赤だ。

 

「お待たせ~……なんかあった?」

 

「い、いや……ありがと……」

 

二人の前にケーキと紅茶を並べながら訪ねると、新菜は歯切れの悪い返事をすると若干震える手で紅茶を飲む。

一方海夢ちゃんは自分が買ってきたケーキにパクつきながら、新菜の代わりに経緯を説明してくれた。

 

「ごじょー君がさ、あたしが自分で胸囲測るのを無理なのか聞いてきたわけ。でも胸囲って自分で測る時屈むじゃん? だからか分かんないけど、なんか毎回サイズ違くなるんだよね。だから割と難易度高いっつー説明してたの」

 

「あー、なるほどね」

 

海夢ちゃんの説明に自分が彼女の胸囲を測るしかない事を悟ったからこんなに動揺してるわけだ。

また顔から煙を上げて真っ赤になっている新菜。あれでは休まるものも休まらないだろう。

仕方ない、ちょっとだけ助け舟を出してやるか。

 

「喜多川さん」

 

「ん~?」

 

「喜多川さんの言う事は理解できるけど、男の人、それも同じクラスの男子相手に測ってもらうのって恥ずかしくならない?」

 

俺の質問に海夢ちゃんはケーキを咀嚼して味わい、ゴクンと呑み込むと笑顔で答える。

 

 

「全っ然! てか、雫たんになれるんだから本の通りにちゃんとやらないとダメじゃん?」

 

 

「!」

 

「……だってさ、新菜?」

 

新菜の方を向けば、まだ顔の赤みは引いていないがその面持ちには先程の動揺はない。

どうやら海夢ちゃんの言葉で上手く気持ちを切り替える事が出来たようだ。

俺達は早々に休憩を終え、採寸を再開する。

 

「腕を下して、視線を真っ直ぐにしてください……っ」

 

「オッケー」

 

海夢ちゃんの胸に顔を近付けるため緊張の色は見られるが、それでも集中して採寸に取り組む新菜。

しかし、よくよく考えると物凄い精神力だ。発破を掛けた身ではあるが、俺がもし本当に新菜と同じ年なら彼のように集中して採寸なんて出来ないだろう。

幼馴染みの集中力、そして海夢ちゃんへの純粋な奉仕の心に感心しつつ、俺は新菜が読み上げる測定結果を記入する。

 

「ふぅ……測り終わりました。お疲れ様です」

 

「おっつー。じゃあさー、このままついでにアンダーとバストポイント間測っちゃわない?」

 

緊張の息を吐く新菜を労いながら、更にぶっこむ海夢ちゃん。

いくら衣装作りのために必要とはいえ躊躇なさすぎない?

あまりの羞恥心のなさにちょっと心配になる。一方、新菜は海夢ちゃんのぶっこみのせいで集中力を乱されたのか、またアタフタしはじめた。

 

無理です

 

「またぁ⁉」

 

海夢ちゃんが困惑するが、こればっかりは彼女が無理言ってると思う。

新菜なんか慌てすぎて隠れるように俺の後ろに回っちゃってるし。

 

「ちゃんとサイズ分かってないとキレーな乳袋作れないじゃん⁉」

 

海夢ちゃんが自身の胸を持ち上げて揺らしながら力説する。海夢ちゃん、それ止めなさい。エッチ過ぎます。

新菜の慌てる姿が見たいし、俺は原作で流れ知ってるからスルーしてきたけど、この子本当に無防備過ぎるな。

 

「あたしそこはこだわりたいから気合入れてやってくんないと困るんだけど‼」

 

「すみませんっ、でも……でっ、出来ないんで……っ」

 

「え~~、なんでよ‼ マジ意味分かんないし‼」

 

「喜多川さん、そこは女の子として分からないと駄目」

 

「月見里君まで⁉」

 

俺が味方でない事に海夢ちゃんが驚くが、どうして俺が味方になると思ったのか。

……まぁ、さっきまで新菜に上手い事言って採寸やらせてたんだから、そう思われてもおかしくないか。

とはいえ、こればっかりは海夢ちゃんにも気を付けてもらわないといけないので注意をする。

 

「喜多川さん、衣装作りに本気なのは分かるけど、男女として気を付けるべきところは気を付けないと駄目だよ」

 

「? 気を付けるとこって?」

 

なんの事は本当に分かっていないのか、キョトンとした顔で首を傾げる海夢ちゃん。

マジかよ。よくこれで今まで無事だったな。優しい世界に感謝。

 

「アンダーはともかく、バストポイント間を測るのを新菜に任せるのは流石にアウトだよ」

 

「そ、そうですよ……っ! 俺にっ、きっきききっ、喜多川さんの乳首の位置……分かる訳ないじゃないですか……っ‼」

 

新菜が俺の背後から必死に反論する。

自分より小さな俺の背中から顔を赤くして抗議する新菜に、海夢ちゃんは悪戯っぽく目を細めて笑みを浮かべた。

 

「ごじょー君……どーこだっ♡」

 

海夢ちゃんが胸元で手を広げ、自身の胸を強調するようにして新菜を揶揄う。

位置的に俺も正面から見る事になってしまったけど、これは破壊力ヤバい。こんな事されたらまともな男子高校生は性癖壊れちゃうって。

新菜はもう完全に石になってしまい、微動だにしていない。

 

「あははははっ、じょーだんっ! じょーだんだから! 固まんないでよ~っ」

 

石になってしまった新菜の肩を、海夢ちゃんが笑いながら叩く。

これ、完全に新菜の反応見て楽しんでるな。

 

「喜多川さん、あんまり新菜の事苛めないでやってくれない?」

 

「ごめんごめんっ。そーだよね、確かに見せるわけにもいかないし。ごめんね、ごじょー君っ」

 

俺の注意に海夢ちゃんが軽く謝りながら「自分で測るかー。メジャー貸して」と新菜からメジャーを受け取り測定を始める。

 

「ここからー……ここまででしょー……?」

 

「大丈夫か、新菜?」

 

海夢ちゃんが測定している間に新菜に声を掛ける。

俺の激励や海夢ちゃんの真剣な思いを受けてここまで頑張ってきたけど、やはり海夢ちゃんとの採寸は刺激が強かったようだ。

俺の呼び掛けになんとか息を整え、ようやく落ち着きを取り戻しそうになった新菜は、

 

「う、うん――」

 

 

「20センチでヨロ!」

 

 

再び海夢ちゃんの言葉に撃沈した。

 

「……新菜、もうちょっと休憩しておいで。アンダーの測定は俺がしておくから」

 

「…………うん、ごめん……」

 

真っ白になってしまった新菜を気遣って再度休憩を促すと、衝撃のあまり表情の抜け落ちた彼はフラフラと部屋から出ていった。

階段から落ちないか心配で一階まで降りるのをちゃんと見届けて、俺は新菜の部屋に戻る。喜多川さんは採寸のメモに自身のバストポイント間の数値を記入していた。

 

「ごじょー君、大丈夫そ?」

 

「どうかな、今日はずっと緊張しっぱなしみたいなもんだし。とりあえず、アンダー測るよ」

 

新菜の事を心配しているのだろうが、ああなってしまった原因は君だぞ海夢ちゃん。

無自覚なのかこれが今時のギャルのノリなのか分からないけど、もはや軽く恐怖を覚えるレベルだ。

本当は手を出すつもりはなかったけど、ちょっと手伝うくらいは問題ないだろう。

 

「後ろ向いて、胸の下にメジャー回して」

 

「オッケー……月見里君ってさ、ごじょー君とは仲良いの?」

 

俺の指示に従ってメジャーを回しながら、突然海夢ちゃんが尋ねてくる。

 

「俺は仲良いと思ってるよ。小学校からの幼馴染でさ、たぶん俺以外に友達いないんじゃないかなぁ。ほら、アイツ雛人形一筋だったから。あ、肩の力抜いて。で、背筋伸ばしてくれる?」

 

後ろに回されたメジャーを受け取り、姿勢を直すよう説明しながら答える。

いつ誘っても、どこに誘っても、アイツはそれを断って面相書きの練習ばっかりだった。

俺が他の友達と遊んできた時の話をしても、聞いてるのか聞いていないのか分からないような返事をするだけ。なのに、お雛様の事になると饒舌になるのだから困ったものである。

 

「うん。こんな感じでいい?」

 

「大丈夫。そのまま動かないでね」

 

……よく考えると俺が一方的に話してたのってウザ絡みなのでは?

もしかして、あれこれ世話焼いてたのも余計だったり?

 

「りょー。にしても、そっか――」

 

いかんいかん、今は測定に集中。

メジャーが捻じれないよう、水平にして……

 

 

「だからごじょー君は月見里君の事、あんなに信頼してるんだね」

 

 

思わず手が止まる。

 

「……そうかな?」

 

「そうだよ。だってあたしが揶揄ったら月見里君に頼ってたし。なんとなくだけど、ごじょー君って誰かに助けを求めるの苦手そうじゃん? それなのに、月見里君には平気なんだなって」

 

言われてみれば彼女の言う通りだ。

新菜は真面目過ぎる性格のせいであまり人に頼る事が得意じゃない。

だけど、俺には助けを求める時がある。そうか、それは彼なりの信頼の表れだったのか。

 

「……揶揄ってる自覚あるんならもうちょい手加減してあげてほしいんだけど?」

 

「え~? てか、月見里君なんか嬉しそうじゃない?」

 

「ノーコメント。はい、測れたよ」

 

振り向いてニヤニヤと笑みを浮かべる海夢ちゃんの詮索をスルーする。

アンダーバストは68.2センチ。ちなみにさっき新菜が測ったバストは86.8センチだ。デッカい。

さて、後は股下だけど……

 

「すみません、戻りました」

 

丁度よいタイミングで新菜が部屋に戻ってきた。

見たところ頭真っ白って感じでもないし大丈夫そうだが、念のため調子を伺う。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、今度こそ大丈夫」

 

「色々ごめんね、ごじょー君」

 

「は、はいっ」

 

海夢ちゃんに対して少し緊張しているのはこの際仕方ないが、これくらいなら大丈夫だな。

俺は新菜にメジャーを渡し、暗に交代する事を告げる。

新菜もそれを理解しているのか、頷いてメジャーを受け取った。

 

プルルルルッ プルルルルッ

 

突然電話の着信音が響く。

原作でこのタイミングで着信なんかあったかな?

 

「俺、出てきます」

 

「いいよ、俺が行く。ちょっと待ってて」

 

上がってきたばかりの新菜にまた一階まで降りさせるのは気が引けるので、代わりに俺が対応に向かう。

一階の居間に向かい、鳴り続けている電話を取った。

 

「はい、五条人形店です」

 

『その声、守優か? 新菜はどうした?』

 

「薫おじいちゃん?」

 

相手はまさかの薫おじいちゃんだった。

ますます原作にはなかった展開に内心訝りながら、俺は軽く事情を説明する。

 

「実は今、友達と遊びに来ててさ。新菜は友達と二階にいるよ」

 

『友達……そうか! そうかそうか、守優以外に家に呼ぶくらいの友達がいたのか!』

 

電話の向こうで薫おじいちゃんが大喜びしている。

薫おじいちゃんは新菜の交友関係の事を気にかけてたもんなぁ。

電話口の明るい声色に俺も嬉しくなって笑みを零しつつ、電話をかけてきた理由を尋ねた。

 

「おじいちゃん、電話をかけてきたんだから何か用事があるんじゃないの?」

 

『おお、そうだった。今ミシンを買いに出てるんだけどな、置き場所の幅がどれくらいだったか、ど忘れしちまってよ』

 

なるほど、それで新菜に測ってもらおうとしたのか。

俺は肩と耳で受話器を挟みながら戸棚からメジャーを取り出す。

 

「俺がもう一度測るよ。ちょっと待ってて」

 

『わりぃな、守優。お前も遊びに来てるのに……』

 

「いいよ、これくらいお安い御用だって」

 

申し訳なさそうに謝るおじいちゃんに返しながら、俺は作業部屋に移動する。

そこには年代物の古い黒ミシンが設置されていた。

 

「これ、机と一体になってるやつだよね? 机も合わせて買う感じ?」

 

『ああ。だから今置いてある机の幅を教えてくれりゃあいい』

 

「はーい。えっと、横幅が125センチで……」

 

先程と同じように肩と耳で受話器を支えながら俺はミシンの測定を行う。

海夢ちゃんに揶揄われながらの測定と比べるとなんと簡単な事か。一分も掛からずに測り終え、それを薫おじいちゃんに伝えた。

 

『いやぁ、助かった。ありがとな、守優』

 

「どういたしまして。今も出先って事は帰るのは夜だよね。帰り道、気を付けて」

 

『おお。じゃあな』

 

通話を終え、俺は受話器とメジャーを片付けて二階へと戻る。

そんなに時間掛けたわけじゃないけど、二人の事待たせちゃったな。

 

「ごめん、お待た、せ……」

 

「あ、守優。電話出てくれてありがとう。じいちゃんからだった?」

 

部屋に入るとそこには、股下の採寸結果を記入する新菜と(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「…………お疲れ……」

 

顔を赤らめ新菜から(・・・・・・・・)視線を逸らしている海夢ちゃん(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……」

 

「? 守優?」

 

つまりはそういうことだ。

二人の様子を察するに、俺は大事なシーンを見逃したらしい。

 

「……詳しく」

 

「へ?」

 

「詳しく、説明してください。今、僕は冷静さを欠こうとしています」

 

「なんで敬語なの⁉」

 

うるせ~~‼ 知らねえ~~‼

なんで俺がいないのに勝手に測定するんだよ、新菜の馬鹿‼

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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