その日も、鬱屈とした日だった。出来るはずのないありえない量の仕事を任され、3日くらい家に帰らず仕事場で過ごし、久しぶりに家に帰ることが出来るようになった終電前のこと。
徒歩10分程度の職場と家の距離を早く縮めたいのに足が思うように動かない。
踏切を通ろうとした瞬間、甲高くけたたましい音が聞こえたので、ふらつく足に力を入れて何とか止まることができた。そして、それらから耳を塞ぐようにイヤホンを取り出し耳にはめた。
そこから聞こえるは生まれて初めて好きになり、これ以上好きになるロックバンドはいないと断言出来るロックバンド。RADWIMPS。
彼、RADWIMPSのボーカルの影響でギターとピアノを始めてみたりもした。彼らに影響されて作詞作曲活動にも手を出した。まぁ、ギターとピアノ、作曲の方はともかく、歌詞を作るのは苦手で挫折をしたが。
そんな彼らの作った大好きな曲をいつものようにスマホから流そうとポッケの中に入ってるスマホを取りだし、音楽アプリをタップしようとした瞬間。
「は」
誰かに押された俺は、スローモーションになっていく世界を前に誰が押したか見ることすらも出来ずに、電車に轢かれた。享年27歳、俺の前世の人生はただのひとつも残すことなく無意味に消えてった。
「はずなんだがなぁ…」
気付けば病院のベッドの上で、目を開けれる状態で、手足も、というか体を動かせる今を不思議に思った。
「なんで生きてんだろ、絶対死んだよな俺」
俺は他の誰かが近付いて来ているのを知らずに、小さくではあるがそう声に出していた。
「は?」
「あ」
何かものが落ちたのが最初に聞こえ、そのすぐ後に澄んだ綺麗な声が聞こえた。その後に聞こえたのは、まるで何かに絶望したかのような声。
「おま…え…なに…いって…」
伊地知星歌。今俺の目の前で、瞳に涙を浮かべ必死に声を出しているのが伝わる女の子だ。
というのも、おれが入院しているそのわけは薬物大量摂取のオーバードーズ。この元の体の持ち主も何らかの原因で自殺を図ろうとしていたらしい。
齢13歳でよくやるわとか、社会はもっと辛いぞとかいらない世話を焼きそうにもなるが、この元の少年はこの少年なりに辛いことがあったのだろうと察せれる。
「ごめん、なんでもない。」
そう返答したが、やはりただの強がりだと思われて伊地知さんは動こうとしない。それどころか、睨みつけるようにこっちを見ている。
そりゃ俺も自殺しようとしたやつがなんでもないなんて言っても信じれないと思うから反応は正しいのだろう。
しかし本当になんでもないのだ。俺が死んだのは間違いがないのはそうだろうが、今は本当になんにも思っていない。だから、話を変えるために切り出した話題で俺は知ることになる。
「あの、音楽聴きたいから」
「え」
「?」
「伸太郎、音楽嫌いなんじゃ…」
この少年が音楽を毛嫌いしていることを。そして…
「あ、あー、そ、そうだったっけ…と、とりあえずロックが聞きたいんだ、RADWIMPSとか」
「?あ、あぁ、初めて聞くアーティストだけど、探してみる」
「は?」
「ん?」
えっ、はっ?RADWIMPSがい…ない…??
そんなわけない。この時にはもう既にメジャーデビューをしているし、そもそもインディーズだとしてもかなり有名だったはずだ。
俺が混乱しているのを察してか、星歌さんは声を掛けてきた。
「あ、あー、らっどうぃんぷす?っていう人達は聞いたこともないな。TWOOKROCKとかスピリッツとかなら家にCDあるから取ってこれるけど…」
「そ、そんな…」
他のアーティストは名前や姿形さえ違うが、存在しているというのに、俺のイチオシで最高のロックバンド、RADWIMPSが存在していない。
ということはこの世界の人達はあの最っ高にかっこいいロックバンドを、あの最っ高にイカしてるロックバンドを、あの弱虫なロックバンドを、曲たちを知らない…?
そ、そんなのはまずいぞ…!
あのロックバンドに救われた人は間違いなくたくさんいる。僕もそのうちの一人だし、何より広めたい。あのロックバンドが最高なのだと、あの曲に救われてくれと、願わずにはいられない。
思考の海に入った僕は、そこからしばらく何も耳に入らなかった。今自分の置かれている状況も、ロックバンドをしていた自分の両親がファンに刺され亡くなっているという境遇も。それ故にロックを毛嫌いしていたことも。
数日後
退院した僕は、星歌さんに付き添われながら帰路に着く。長い道のりを病み上がりには苦だろうと、星歌さんがタクシーで簡略化させてくれた。その道中に、ちらっと星歌さんの方を見る。やっぱり綺麗な人だなぁと心の中で漏らす。
口をついてでてしまわないように、他の言葉を口に出す。
「あの、星歌さん」
「あ?」
怖いけどこれがこの人の通常運転だと言うのを入院中に知ったから気にしないように…。
「ありがとう」
「…もうあんなことするんじゃないぞ」
やっぱいい人だ
「もうしないよ」
「ほんとか?」
念を押すように、確認をするように彼女はそう言った。
「うん、馬鹿なことだって気づきました、それにあの影響で僕はロックに目覚めましたしね。」
「あぁ、ほんとにびっくりしたよ。あれほど毛嫌いしていたのにな」
「ふふ、確かにびっくりさせたかもしれないです」
「いいよいいよ、もうあんなことしないならな」
「うん、本当にありがとう。星歌さん」
「ふん。」
ついに家に戻った僕は、頭は覚えていないが体は覚えている、自分の部屋へ向かった。ガチャッ、という音と共に覗かせた部屋には1本のアコースティックギター。びっくりして言葉は出なかったが、毛嫌いしてたんじゃないのかと苦笑を一つ。
その部屋に立て掛けられたアコギに手を伸ばし、いつもの持ち方、いつもの弾き方で1ストローク。
前世と同じアコギで同じ音が奏でられて少しニヤつく。
この世界にはRADWIMPSがいない。RADWIMPSに救われた僕は、彼らの音楽を広めたい。ならば、それならば。
「ふぅ、やるか!」
さぁ、
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