魔法少女ジャックタルト   作:富野倒去

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ここから数話閑話となります。
時系列的には大体そのまま前話から継続したものになる予定です。


閑話
【4-1】閑話


 そこは木々の茂る山の裾野に沿って閑散とした道を少し歩いた先にあった。右手には駐車場なのか何台か車の止められた塀で囲まれたがらんとした空き地。左手には子供でも飛び越えられる程度の小川を挟んで背の高い草木が生える山の斜面。

 その間を、もう少し歩く。

 やがて見えてきたのは古い映画にでも出てきそうな二階建ての民宿の様な建物だった。屋根が少し苔むした感じとか、壁に這う蔦とか、上手く写真を撮ればSNS映えしそうな、そういう風情を感じた。

 

「ここであってる……よね」

 

 ”図書館”の本館から歩くこと十分ほど。在奈(ありな)は伝え聞いた道を通ってここ、魔法少女寮・星屑文庫へやってきていた。

 

「あなた誰?ここになんの用かしら?」

「うぇ!?あ、えっ……えぇっと……その……こ、こんにっ……こんにちは」

 

 独特の雰囲気に足を踏み入れるのに少し躊躇って、建物の入り口前でしばらくぼうっと見上げていると、横合いからそんな声が聞こえてきた。

 

「こんなところに用があるなんて魔法少女くらいだと思うけれど。新しい入寮者の話なんて聞いてないわ」

「い、いえ、そういうものでは……なくて……」

「違うの?」

「あ、えっと……」

「なら何の用?あぶれ者を冷やかそうなんて舐めた輩なら久々に木に吊るすけど」

「にぇ、いっ、いえ!!そんなんじゃありませんっ!」

 

 黒い髪をきれいな三つ編みに結いストールを肩にかけている。それだけなら文学少女のような姿格好の年上の少女だった。ただ、メガネの奥の鋭い視線と両耳にギラリと輝く無数のピアスが在奈を震え上がらせた。あのピアスどうなってるのだろう。痛くないのだろうか。何をどうすればあんな棒が耳の中に……。

 在奈の人生においてあまり関わり合いになったことのないタイプの人間に思えた。

 端的に言えば、言葉を間違えると即拳が飛んできそうな───

 

「在奈、連絡をくれれば迎えに行ったのに……!」

「や、ヤツバちゃぁん……!」

 

 威圧感に抗えずあうあわと言葉に窮していると、玄関から真っ赤な髪の少女が飛び出してきた。今にも「地面の味を食らえ」とかされると思っていた在奈にはその背に天使の羽が見えた。

 

『シロなの』

『トーチ!』

 

 在奈の相棒である白猫の妖精とオレンジ色の小鳥が空中でハイタッチを交わす。

 

 木賊八鍔(とぐさやつば)。

 在奈の後輩で、彼女が魔法少女になってからは在奈が魔法少女のあれこれを教えている。元二十九歳男性独身の少女だ。

 今日は彼女の家に遊びに来たのだった。

 少し前、ふと気になって結婚ってどんな感じ?と尋ねたら俺もわからないと答えられ彼女がかつて独身であった事が発覚した。在奈はなんとなく大人はみんな結婚するものという固定観念があってつい驚いてしまった。驚いたリアクションに微妙に八鍔がダメージを受けている様で申し訳なかった。

 でも、居心地悪そうに、それから少し不機嫌そうに肩をすくめるヤツバちゃんはかわいかったなぁとか思わないでもない。

 閑話休題。

 今の八鍔はこの恐ろしい不良文学少女から在奈を救い出してくれる救い主だ。

 

「なんだ、八鍔さんの客だったの?」

「ああ、朝に話しただろう。世話になってる先輩魔法少女だよ」

「あぁ、スールの」

「スール……?」

「別に。しょうもない話。それより、お客ならキッチンの奥に妃万里さんが焼いたくるみのクッキーがあるから持っていきなさい」

「今朝がたに作ってたやつだろう。勝手にいいのか?」

「あの子の作るお菓子は全部他人用よ。全部食べなきゃ気にしないわ」

「……そうか、わかった。妃万里を見かけたら一言言っておく」

「味の感想を伝えればいいわ。それで妃万里さんは満足だろうから」

「ああ」

 

 なんというか、自分の知り合いが自分の知らない人と話している姿というのは見ていてソワソワする。居た堪れないというか、見てはいけないものを見ているような。

 けれど、話もそろそろ一段落ついただろう。在奈がこっそり安堵の息をはいたところで八鍔が声をかけてきた。

 

「一応紹介しておくか。こっちは鳥藤(とりふじ)さざみ。ここのメンバーのひとりで、結構古株らしい。それで、こっちが庶賀在奈(しょがありな)。さっきも言った通り色々と教わっている」

「あ、はい……っ、庶賀在奈です。その、よ、よろしくお願い、します」

「よろしく。あなた、ホットミルクよね。なりたての時に少し名前を聞いた覚えがあるわ」

 

 こちらを見下ろす眼は相変わらず鋭い。背が高くて、背筋がピンと伸びているからだろうか。多分実際の身長よりも大きく感じられる。近くにいるだけで少し気後れしてしまいそうになる、そんな雰囲気を纏っていた。

 

「そうなんですか?」

「ええ。新人がくれば多少は耳に入るものだけれど、あなたの場合は……」

 

 ただ、少しだけ落ち着いて向き合ってみればその言葉に悪感情がない事に気づいた。決して優しいと感じることもないが嫌な感じもしない。怖さがなくなるわけではないけれど。

 鋭く研ぎ澄まされた抜き身の刃物のような人だと在奈は思った。同時に、細長い指を唇に当て、記憶をたどる姿はどこか艶めかしくも見える。

 それが危うさを秘めた色香とは今の在奈にはわからない。

 

「ああ、小夜(さよ)さんが話してたから」

「え……!」

「さざみ」

 

 彼女の口から出た名前に思わず目を丸くする。外町小夜(そとまちさよ)。ザイルチェリー。かつて在奈が魔法少女になったばかりの頃に面倒を見てくれて、それから喧嘩別れしてしまった少女。

 八鍔が心配そうな顔でさざみの言葉を止めようとしていたが、在奈はそれに割って入る様に一歩さざみへと近づいた。

 

「なんて……あの、なんて言ってたんですか?私の事……!」

「んー……確か、面倒を押し付けられたとか。びくびくこっちの顔色を窺って鬱陶しいとか。その癖急に声が大きくなる時があってムカつくとか」

「う……」

「魔法のセンスが抜群で多分技術はすぐに抜かされそうとか。怯えてるようでいざという時の思いきりはいいから腹立たしいけど頼りにはできそうとか」

「…………」

「けど、その後すぐ名前を聞かなくなってどうしてって訊いたら、あんな奴知らないさっさと魔法少女をやめればいいとかキレてたわね」

「うぁ……」

「さざみ……」

 

 落として、上げて、落とされて。

 

「……ありがとうございます」

 

 けれど、彼女が一時でも自分の事を認めてくれていた瞬間があったのだと、それを他人の口から聞かされて嬉しくないはずもなかった。それ以外の様々な感情もよぎっているとしても、嬉しいと感じたことは確かだった。

 だから、素直な気持ちでさざみに礼を言えた。

 

「馬鹿よね。魔法少女なんてやめようと思ってやめられるものでもないのに」

 

 含むものも皮肉もなく、単なる感想としてその言葉を口にしているらしい彼女は色々とすごいと思った。

 

 

###

 

 

 古い民宿を思わせる外観の星屑文庫だったが、中は驚くほどにきれいだった。設備も最新で冷暖房も完備らしい。

 

「俺の部屋はこっちだ」

 

 八鍔に連れられて一階の奥の部屋までやってくる。ちょうど、建物の入り口から見て反対側に面しているようだ。

 ここにやってくる途中にも何人かの寮の住人たちとすれ違った。ふんわりとした優し気なお姉さんからは何故か無言で落語のCDを渡された。「よくわからないけれど布教期間らしい」となんでもない事の様に八鍔は話していたが、すれ違いざまに知らない人から急にCDのケースを差し出されるのは怖かった。あとCDなんて聞ける道具を在奈は持っていない。受け取れずに戸惑っていると差し出されるCDの数が増えていったので仕方なしに受け取ったけど。今在奈の鞄の中には五枚のCDが入っている。どうしようこれ。

 そんないくつかの試練を乗り越えてようやく在奈は八鍔の自室に到着した。

 

「ここが、ヤツバちゃんの部屋かぁ」

「面白いものなんて何もないぞ」

「いいよー。ヤツバちゃんの部屋ってだけで、面白いもん」

「なんだそれ」

 

 仕方ないという風に笑う八鍔に在奈も笑みを返す。

 魔法少女寮。存在は知っていても足を踏み入れるのは初めてだ。交友関係が広いわけではない在奈にとっては見知らぬ魔法少女ばかりの空間。決して嫌ではない、むしろ興味があって無理を言って今日も八鍔に招いてもらった身だ。それでも、こうして慣れ親しんだ彼女とふたりの空間になるとホッと安心してしまう。

 八鍔の部屋は勉強机とベッドとクローゼットだけの簡素な飾り気のない部屋だった。机の上に何冊か本が立てられていて、それが個性といえば個性なのかもしれなかった。並ぶ本は児童書や絵本、新書にノート等雑多過ぎる並びであった。

 

「今日はありがとう。ごめんね、わがままを言って」

「わがままなんて言う程のものじゃないだろう。前は、俺が在奈の家に遊びに行ったわけだし」

 

 八鍔が黒兎と、そして野良の魔法少女と戦ってから五日。

 しばらくは安静と数日病室に閉じ込められていた八鍔に、在奈が今日の事を提案したのだ。八鍔が退院したら、八鍔の家に遊びに行ってもいいかと。

 何か特別な理由があったわけではない。ただ、今まで以上に八鍔と仲良くなりたくて。傷だらけの八鍔を元気づけられればと思って。どうすればいいのかと考えた結果、家に遊びに行くという事を思いついたのだ。初めは遊ぶものなんてないと言ってあまり乗り気ではない八鍔だったが、在奈が何度か頼んでみると苦笑しながらも在奈が構わないならいいけれどと頷いてくれた。

 

「あ、これ。お邪魔するからお菓子持ってきたよ」

「ありがとう。……って、これ結構するやつだろう」

「えっと、寮のみんなにどうぞって事で」

「そうか、なら後でみんなに配っておくよ。俺たちはこっちのクッキーを食べるか」

「シーエクレア……ひまりさんが焼いたって言ってたのだよね。売り物みたい」

「趣味───なのかはわからないけど、作るのが好きらしい。よく寮内でも配ってるよ」

 

 いつからだろう。八鍔と話すのがこんなにも簡単になったのは。どちらかといえば人見知りな在奈は、どうしても家族以外との会話はつっかえがちになってしまうことが多い。八鍔とだって初めはもっと言葉に迷いながら話していたと思う。

 けれど今は、当たり前の様にこうして言葉を交わすことができる。楽しんで話をすることができる。

 

「腕の包帯、ずっとそのままだけど大丈夫?」

「ほぼ治ってはいるんだ。ただ、跡を残さないようにするって妃万里たちが言っていて。それで、もうしばらくはこの状態らしい。日常生活で不便がなければそれでいいんだけどな」

「そっか、よかった……。あんまり無理しちゃダメなんだからね」

「好き好んで無理はしないよ。でも、必要があれば仕方ない」

「む~……次にヤツバちゃんが戦いに行くときは絶対私も一緒に行くからね。一人はダメだよ!」

「ああ、わかってる。わかったから……そろそろ勘弁してほしい」

 

 時々、こういう感情そのものが不誠実なのだろうかと思うことがある。世界では今も黒兎に襲われ命を落とす人がいて。自分たちは魔法少女としてそんな黒兎と戦わなくてはいけなくて。ならばいつだって精神を尖らせて、戦うことだけを考えて。

 

「じゃあはい、あーん」

「……なんでそうなる?」

「うちの学校のね、動物小屋にうさぎがいんだけどね、野菜スティックを差し出すとポリポリポリって齧ってすっごくかわいいんだ」

「俺はペットか……」

「ほら、あーん」

「………………いや流石に」

「……」

「…………ん」

「きゃーー!」

「んぐ……おい、待て!流石に写真はやめてくれ!」

 

 多分、そうなのだろう。

 悲劇が溢れてるのを知っていて。不幸が起きていることを知っていて。わかっていて。それでも笑っていることは不誠実だ。間違っていると言われても否定はできない。もっと真剣であれと言われたって仕方ない。それでも、在奈は今こうして笑っている。八鍔も。怒ったり、慌てたりしながら、けれど楽しいと感じてくれるといいなと思う。

 笑っていて欲しいと思う。

 

 まだ熱を冷ましてる途中だったクッキーは、口の中で噛み砕くとじんわりと口の中に温かさが広がってなんだか幸せな味がした。

 

 

###

 

 

 他愛のないおしゃべりをして。少し創作魔法の手ほどきなどもして。八鍔に宿題を見てもらったりもした。気づけば空は夕焼けに、在奈の帰る時間となっていた。

 

「今日はありがとね、ヤツバちゃん」

「いや、俺も……随分と久しぶりにこんなに人と話した気がする」

「それって大丈夫……?」

 

 八鍔の部屋を出て玄関へ向かっていると、カツカツと音を立てて正面から魔法少女が歩いてきた。魔法少女。つまり、変身している。"図書館"本館では珍しくもない。が、近いとはいえここは本館ではない。少しだけ怪訝に思う在奈を庇うように八鍔が少し前に出る。

 

「こんなところで珍しいな、オウルガレット」

「ああ、ジャックタルト。少し野暮用でな……そっちのは?」

「あ、庶賀在奈、です。ヤツバちゃんのところに遊びに来てて」

 

 年齢はシーエクレアあたりと同じくらいだろうか。だが杖を突いて立つ姿は妙に貫禄がある。枯れ草色の髪を細かく編み込んで後ろで纏めている。服装は首元から足元までを覆うワンピース型の濃緑のドレス。その上にポンチョの様なものを羽織っている。どこか仄暗い色を秘めた瞳が在奈へ不躾に向けられる。

 

「しょが……しょがーありなー……ああ!ホットミルクか。うん、よろしく」

「あ、はい。よろしく……お願いします」

 

 彼女はしばらく目を窄めてから在奈の魔法少女名を言い当てると、鷹揚に頷いた。問うことも躊躇われたが、何故在奈の名前と魔法少女名を結びつけられたのかわからない。どこか不気味な雰囲気に自然と在奈の体は引けていた。

 笑みを浮かべているが、その目は笑っていない。それを、きっと彼女は周りにわかる様にやっているのだ。ふと、在奈はそんな直感を覚えた。

 

「結構結構。仲が良さそうでなにより。ジャックタルトは実に柔軟だ。この寮にやってきた時にも思ったが、明確にひとつの特性と言っていい。あるいはそれは主体性のなさと言い換えられるかもしれないな。そして同時にその主体性のなさは固定化された関係性に縛られないことを示唆するだろう。つまり───」

「悪いが彼女を送っていかなきゃいけないんだ。話は後にしてくれ」

「ん、そうか。それは悪い事をした。邪魔者はさっさと退散しよう。もし討伐で顔を合わせることがあればまたよろしく頼む、ホットミルク」

 

 現れた時と同じ様に彼女は───オウルガレットはカツカツと杖の音を鳴らしながら立ち去っていった。

 

「……ヤツバちゃん大丈夫?」

「そんな、気にするような事はなかったよ」

「けど、怒ってるのかなって」

 

 オウルガレットが八鍔に向けて捲し立て始めた時、彼女の纏う空気が少し硬くなったのを在奈は感じていた。

 

「怒ってはいない。ただ、ちょっと苦手意識があるだけで……」

 

 決まりが悪そうに頭をかく八鍔にすでに先程の雰囲気はない。なら、これ以上そこに触れるのも良くないだろう。在奈はそう思い何か話題を変えようと頭を回す。だが、つい今日一日の出会いを振り返って率直な感想が口からこぼれてしまった。

 

「魔法少女寮って、少し変な人が多いね」

「……ああ、まあ」

 

 初めにあった圧の強い文学少女も、その後にあった落語布教お姉さんも、今すれ違った不気味魔法少女も。全体的に我が強いというか、癖があるというか。きっと在奈がここで暮らし始めたら初日に部屋に引きこもってしまうに違いない。

 やっぱりヤツバちゃんはすごい。

 

 

###

 

 

「あーおふたりさんおひさー!」

 

 八鍔に送られて”図書館”本館までやってきた在奈に声をかけてきたのは水色の髪をひとつに括り、大きなジャンパーをすっぽり被った魔法少女の姿だった。

 

「昨日も今日も会ってるだろ」

「シーエクレア、こっちにいたんだね」

 

 魔法少女シーエクレア。”図書館”で治療を担当している珍しい魔法少女である。目に星を瞬かせる彼女も、星屑文庫の住人のひとりだった。

 ぶかぶかの袖をブンブンと振って駆け寄ってくる姿はどこか子犬のようにも見える。

 

「体の調子はどうよ?はい、特にそっちの赤いの!」

「特に異常はない。……うん、今朝伝えたとおりだ」

「念の為腕の調子を見るから後で医務室に来るように」

「わたしも、すっかり元気だよ。……その、ザイルチェリーの方はどう?」

 

 最近顔を合わせるたびに繰り返しているやり取りだった。

 

「流石にまだ戦闘は控えてもらいたいけど、普通に日常生活を送る分にはすっかり。今日も朝逃げするくらいには元気だったし」

「朝逃げ……」

「そ、聞いてない?ありちゃん来るって今朝やっちゃんが言ったらねー、一時間後には外泊許可書出して寮からいなくなってんの。はは……ホントにごめんね」

「シーエクレアが謝ることじゃ……むしろわたしが、なんだかごめんなさい」

「ありちゃんも謝ることじゃないし。まぁ、色々あるとは思うけれどその内お礼くらいは言いに行くと思うからさ。聞いてあげてね」

「う、うん……」

 

 シーエクレアは”図書館”にいることが多いので元から顔見知りではあったけれど。最近は他愛ない話などもよくするようになったと思う。多分、少し仲良くなったのだと思う。

 

「そうだ、さざみがいいって言ってたんでクッキー少しもらったぞ。くるみの歯ごたえがちょうど良く食べごたえがあった」

「あっ、わたしも。いただいたよ。優しい味で、すごいおいしかった。ちょっとホクホクしてるのが新鮮だったな」

「ホントー!よかったぁ。もし気に入ったなら今度会う時にまた何か作ってくよ」

 

 えへへと嬉しそうにシーエクレアが笑う。人懐っこい笑みに、つられて在奈も笑顔になっていた。

 

「おうっと、そろそろ戻らないと。じゃあ、まったねー!やっちゃんはちゃんと後で顔見せること!」

「そんな念押ししなくても、別にすっぽかしたこともないだろう……」

「ひひ、きっとヤツバちゃんの事が心配なんだよ」

「どうだか」

 

 嘆息する八鍔と共に駆けていくシーエクレアを見送る。

 なんだかんだ、今日一日で星屑文庫の魔法少女たちとはあらかた顔をあわせたような気がする。色んな魔法少女がいるんだなと、なんだか当たり前の事に在奈は感心してしまった。色々な性格の人、それぞれ事情、考え方。怖い人や不気味な人もいたけれど振り返ればそれらも楽しかった様に思える。

 きっとそれは───

 

「というか、思わずここまで送ってきたけれど在奈なら星屑文庫からそのまま跳べたのか」

「んー、"栞"が近い方が楽なのは間違いないし、急いでいないならここまで来た方が効率がいいんだよ。それに、ヤツバちゃんとおしゃべりしながら歩くのも楽しかったし」

「そうか?だったらいいんだけれど」

「うん、いいの!」

 

 在奈は軽やかに笑う。

 こんなにはしゃいでちゃいけないのかなという後ろめたさはいつだってある。笑顔でいることが誰かを不快にすることもあるのだろうと思う。自分は何をやっているのか途方に暮れそうに思うこともある。

 それでも。

 八鍔に見送られ、本館を去る時まで。在奈はずっと笑顔をやめられなかった。

 




なお、在奈が渡された落語のCDケースの中身の半分は北欧メタルのCDですが彼女がそれに気づくのは随分と後のこと
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