うたわれちゃったもの   作:ポチ&タマ

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第9話 再会

【○月△日 晴れ】

 

 ユズハちゃんの容態が悪化した時のために伝令用の影分身を定期的に派遣することを決めた俺は、その後計画通りヤマユラの里へ向かった。

 お供はウルトリィとカルラ、そして勉強のストレスからかやや過食気味なカミュの三人。

 ヤマユラの里は牧歌的な田舎村で、非常に長閑なところだ。

 村長の家を訪ねると出迎えたのは、村長である老婆のトゥスクルさんと十六歳くらいの可愛らしい少女。村長の孫娘であるエルルゥちゃんだった。

 怪訝な顔をする村長さんに自己紹介すると、何かに気づいたような表情を浮かべたトゥスクルさんに家の中へと招かれ。

 どこかで見たことのあるような白磁のリングを髪飾りにしているエルルゥちゃんに案内されると、リビングには一人の男が。

 一八〇センチほどの長身痩躯の利発そうな顔立ちをしたイケメン。

 ハクオロと名乗った男を目にした俺の口から、自然と我が友の名前が溢れ落ちた。

 

 アイスマン。我が友。

 かつて、研究者の手により愛するヒトを失った、悲劇の友人。

 友たっての願いを叶え、今も月の隣で封じられているはずの友達が、そこにいた。

 絶対に剥がれなかった仮面を外し、一度も見たことのない顔を晒した我が友は、言葉に詰まる俺を見て怪訝そうに目を細め。

 改めて握手を交わした俺が久しぶりと声を掛けると、彼は『どこかで会ったかな?』と首を傾げた。

 

 聞くところによると、行き倒れていたところをエルルゥちゃんに拾われたようで、自分の名前も思い出せないほど記憶がないらしい。ハクオロという名前はトゥスクルさんから貰ったのだとか。

 自分のことを知っているのか、と縋るような目で尋ねてくるアイスマンーー改めハクオロ。

 俺も知る限りのことを伝えたい、がそれが彼のトラウマを呼び出す切っ掛けになりかねないと思うと、自然と否定の言葉を口にしていた。

 いつか明かすことになるだろうが、それは今ではない。今はこの偶然の再会を喜んでおこう、そう決めて。

 

 それはそうと、封印術は未だに維持されているのに、何故ハクオロが地上にいるのだろうか。

 月の隣に浮かんでいる小惑星の中は空なのか、術を解いて確かめたい気持ちに駆られるが、それをすると取り返しのつかないことになりそうな予感がしたため、ぐっと堪えた。

 

 ウルトリィが会わせたかった人物というのはまさにハクオロのことのようだ。

 オンカミヤムカイでは、純然たる事実として自分たちの祖先のルーツや、祖先と共に過ごしたアイスマンのこと。そして、彼らとともに研究所からを逃げ出した当時の出来事が伝えられたいる。

 補足説明などいらないほどアイスマンについてもバッチリ言い伝えられており、ハクオロが彼の人物と同一であるとウルトリィは判断したようだ。

 仮面も付けていないのによくハクオロ=アイスマンだと分かったな、と伝えると。彼女は『言い伝えられている特徴に一致しますし、わたくしたちは始祖様の血を引いていますので、実際にこの目で見れば分かります』とのこと。ムツミの血はすごい。

 我が友と再会できたのは嬉しく思うが、長居をしては彼の記憶を揺さぶりかねない。

 後ろ髪を引かれる思いで、翌日にはオンカミヤムカイに戻ろうと決めたのだが、運命は俺に何させたいのか、新たな厄介ごとが向かうからやってきた。

 

 この地の領主であるササンテの息子が税の徴収でやって来たのだが、課された税は莫大なもの。年貢半年分に相当するらしい。

 ササンテは悪徳領主に部類する輩でこれまでも重税を課していたが、ここに来てそれが跳ね上がったのだ。

 当然村人は反発するも私兵に蹴散らされ、ササンテの息子ヌワンギはデカい顔でイキリ散らかす。

 彼は元々トゥスクルで育ったらしくエルルゥちゃんの幼馴染だという。

 彼女に惚れているようで、こんな田舎村から出て俺について来いと強制的に連れて行こうとすらする始末。割り込んだハクオロを逆恨みしている。

 そして、事態は更なる泥沼へ。どこからか現れたエルルゥ似の幼女がヌワンギに石を投げつけ、それに激怒した部下の一人が幼女を切り捨てようとしたのだ。

 幼女を守るため前に出る俺だが、誤算だったのは彼女を庇おうと村長まで飛び出したこと。

 刀はトゥスクルさんの背中を深々と切り裂き、彼女は地に伏してしまった。

 

 すぐに俺とウルトリィたちでトゥスクルさんの治療に当たるが、余命が少ないこともあってか治りが悪く、トゥスクルさん本人も『もう十分に生きた』と自分の運命を受け入れるつもりでいて。

 なんとか最悪の事態は免れたものの、トゥスクルさんは今も意識不明の重体。いつ目覚めるのかも分かず、こればかりは本人の気力と体力次第だ。

 怒りが収まらない村人たちに詰め寄られ、村長代行を務めることとなったハクオロ。どうやら領主ササンテに復讐するようだ。

 

 争いに巻き込むわけには行かないと帰国を促された俺だが、今回ばかりは折れるわけにはいかない。

 記憶を失っていようと、ハクオロは新たな大切な友人だ。二度とコイツを一人にしないため、恩を仇で返すことになろうともハクオロについていくと決めたのだ。

 特務調停者、そしてアドバイザーとしての地位を返上し、オンカミヤムカイには戻らないとウルトリィに告げると、彼女は『どうぞウチワ様の心の思うがままに。お父様からもそう言い伝えられております』と微笑み。

 カルラも『わたくしは主様にお仕えていますから。当然わたくしもお供いたしますわ』と離れる気のない言葉を告げられ。

 カミュちゃんも『お兄様たちが残るなら私も』と盛大に駄々を捏ね、結局誰一人戻ることなく、ハクオロの運命を見守ることとなった。

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