架空戦記 旭日高く   作:アドリアドリア

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第11話「ソロモンの墓標は鋼鉄」

〈綾波〉の主砲弾が最初に捉えたのは敵三番艦〈プレストン〉、ぽっと赤い炎に早変わりした。更に一番艦の〈ウォーク〉にも見事に命中させる。

 

「撃て、撃て!敵が巡洋艦だろうと何だろうとかまうな、一に突撃、二に攻撃だ!」

 

そんな言葉を体現するかのように〈綾波〉の主砲が次ににらみを利かせたのは何と戦艦〈サウスダコタ〉であった。そのまま放たれた主砲は〈サウスダコタ〉の艦橋に命中。一時的ながら本艦のレーダー系統の機能をつぶすことに成功した。尤も、この数分後に復旧を果たすのだがこれでどこかに異常が生じたのかその後もちょっとした攻撃でダウンし、最終的には完全にマヒさせることに成功していたことからこの功績が小さいと断言するには不可能だろう。

 

「敵弾、第一煙突に命中!」

「機関には!」

「航行に支障なし!」

「よし、まだ突っ込む!」

「内火艇燃料タンクに火災発生!このままでは魚雷に引火します!」

「そうか、この距離なら頃合いだろう。二番、三番連管の魚雷を発射する!」

 

ちょうどその頃には魚雷必中射点の2000メートルに到達しようとしていた。炎が迫る魚雷発射管から間一髪、勢いよく魚雷が放たれる。忍び寄る六本の影、その洗礼を受けたのは〈ウォーク〉と〈ベンハム〉であった。両艦とも艦首に被雷。すでにダメージが蓄積していた〈ウォーク〉であったが、ここにきて前部主砲の弾薬庫に被弾。二番砲塔が空高く吹き飛んだと思うと爆沈することとなった。一方の〈ベンハム〉は艦首をグロテスクにもつぶされる形となり速力を5ノット程度にまで落としてしまった。それでも何とか航行はできていたのだが、翌日の帰路で限界が来たのか沈没してしまった。

 

「クソ、ジャップの野郎はどこにいるんだ!」

「ジャップめ、サボ島を背にしてレーダーをまるで役立たずにさせるか、、、」

 

だが、こちらの弾が敵に届くということは敵の弾もこちらに届くということである。敵艦隊への猛攻をやめない〈綾波〉も敵の集中砲火を受けて己の艦上構造物を鉄屑に変えつつあった。特に〈ワシントン〉の副砲による猛攻は凄まじく、ついに機関室に被弾し操舵も航行もままならぬ状況となった。だが、〈綾波〉が点から見捨てられたわけではない。このタイミングで奇跡的にも〈長良〉を旗艦とした例の水雷戦隊が戦域に到達したのだ。恐らくは〈綾波〉の後を追う形で海域に到達したために、〈綾波〉と同様にサボ島の影の影響でレーダーを持っていても発見されなかったのだろう。

水雷戦隊がまず集中攻撃を仕掛けたのは〈プレストン〉、本艦は〈綾波〉の主砲を大量に食らいすでに炎上していたので沈めるには恰好の相手であったのだ。反航戦ゆえの相対速度から先頭時間は一瞬。その一瞬の間にどれほどの弾丸を浴びせられるかで勝負は決まる。そして、見事〈プレストン〉の撃沈に成功した。

最後に残っていた〈グウィン〉はリー提督からの命を受けて戦線からの離脱を図るが機関部、続いて艦尾に被弾。速力が低下し戦場からの離脱は困難となった。そこを〈長良〉と〈五月雨〉の砲撃によってついに撃沈することに成功した。こうして敵随伴艦は完全な無力化を果たしたと一安心するのも束の間、残存している米艦隊からの副砲の砲撃が始まった。新鋭戦艦はいずれも各舷10門ずつの5インチ両用砲、すなわち駆逐艦一隻当たり二倍量の火力を搭載しており以前米軍が劣勢とはとても言えなかった。

 

「構うな、攻撃だ。攻撃を続けろ!」

 

と〈長良〉でひたすら攻撃を指揮していたその時、巨大な水柱がたった。5インチ砲ではこんな水柱がたつはずがない。ただ、8インチ砲でもここまで巨大な水柱ができるはずがなかった。何かがおかしい、何か目を背けていた重要な事実があるのではないか。その答えを示すように黒い空に次第にくっきりと巨大な影が姿を現した。高く聳え立つマストは自身が何者であるのかを示すのには充分であった。

 

「敵戦艦二隻見ゆ。エスペランス岬の北西」

 

〈長良〉からの通信に全員が息をのんだ。敵は戦艦、先日の第一夜戦の艦隊を再編成して折り返してきた以上はそれも当然。ましてや敵の目的が飛行場の砲撃ならばいないわけがない。これは日本海軍にしばしば見られる楽観が祟った瞬間であった。

 

「敵戦艦、10㎞先に発見!」

 

敵戦艦を先に発見したのはあの大和型と同じ最新の電探を搭載している〈比叡〉であった。続いて距離8000mになったところで〈愛宕〉の見張り員が声を上げる。

 

「右八度、敵戦艦八〇、反航する」

 

近藤は取り舵60度を指示、真っ向から殴り合う姿勢を見せた。

 

「照明弾、撃て!」

 

空を激しく照らす照明弾は巨大な戦艦を確かに映し出した。新鋭戦艦は今、日本艦隊に牙を向けている。〈愛宕〉の参謀らは突き付けられた現実に恐れおののいた。

 

実のところ、防御面においてこれら新造戦艦に対抗できる戦艦は大和型以外に存在しない。戦艦は基本、自身の主砲弾には耐えられるような走行を背負っているのが常だがここ百年弱で大国へ駆けあがった日本の戦艦ではやや特殊な事情がある。日本の戦艦は速力を優先する傾向にあり、41㎝砲を持つ〈長門〉〈陸奥〉でさえも35.6㎝砲に耐える程度の30センチ装甲しか持ち合わせていない。速力に全振りし20センチ程度の装甲しか持たない金剛型は論外である。

よって、日本戦艦は攻撃面で米戦艦を凌駕するほかない。本来ならこれもかなわないことであった。米軍の戦艦、殊にこのノースカロライナ級は先の戦艦の装甲が自身の装甲に耐えうるものであるとする原則を堅実に守っていた。よって、ここにある火力で米艦隊を破ることはできない。そのはずであった。

 

「例の徹甲弾が装填されているのは幸いだったな」

「ええ、そうでもなければ不孝を詫びねばならんところでしたよ」

 

本来、口径から見て日本には勝ち目のないはずの砲撃戦。だが、そこに勝算を得られる兵器を開発していた。それが徹甲弾である。先の軍縮条約締結において、日本は建造途中の戦艦を放棄せざるを得ずせめてもの有効活用として標的冠として活用することを意図した。その際に砲弾が水中でも安定した軌道を持つこと、すなわち水中に突入した魚雷にも十分な敵艦の撃沈能力があることを意味していた。この能力を徹底的に研究した日本軍が開発したのが九一式徹甲弾である。これをもって、装甲が多少厚い米戦艦をも打ち破る算段をたてた訳である。

 

取り舵60度、その後に〈愛宕〉で「砲撃・雷撃はじめ!」と合図が下る。だが、20サンチ砲が船体にあたった程度では戦艦はぴくりともせぬ。そうしているうちに海の向こうからかすかに警報音、そして暗闇の向こうに心なしか九つの目がこちらに睨みを利かせんと向きつつあるように思えた。後一分と経たぬうちに敵の砲撃が始まる。

 

「撃ち方始めえ!」

 

照明弾が一体を小さな昼に変えたあと、最初に火ぶたを切ったのは〈霧島〉であった。まず、発砲の瞬間に周囲の海を一瞬赤く照らしたかと思うとすぐその後に例の巨大な影に火がまとわりついていた。間違いない、〈サウスコタ〉である。こうなればこちらが照明弾を使うまでもない。〈サウスダコタ〉の三番砲塔に徹甲弾が刺さる。砲塔が停止したかと思うと、主砲を放つ音よりも激しい音と共に砲塔を軽く空へと飛ばした。砲塔内の火薬に引火したのだろう、これ以後の〈サウスダコタ〉は骸も同然であった。

 

「敵の主砲旋回が止まった!撃て!」

 

電気系統が完全に死んだ〈サウスダコタ〉はその主砲を下に垂れながらも尚、反撃の意思を絶やさなかった。弦側の5インチ砲が次々と火を噴く。米艦隊の曳光弾は青白く、対して日本艦隊のそれは紅かった。異なる色が互いに相まみえ、互いを視認の顔色、あるいは血しぶきの色に染める。

 

「電探、正体不明の艦影を捉えた。距離一〇〇、同じく反航」

「なに!?」

 

〈比叡〉が動揺に包まれる。それは〈ワシントン〉であった。既に〈ワシントン〉のブラウン管には大型間の艦影が映し出されていたが、当時のそれは艦種まで特定できるほど高度なものでは全くない。故に、味方艦か敵艦かは目視せねば判断できないのである。だが、〈霧島〉が主砲を放ったことでその懸念も晴れたわけである。既に〈ワシントン〉は照準を合わせていた。今からでは間に合わないだろうが、やらぬよりはマシだろう。〈比叡〉は主砲を隠れていたもう一隻に向けると、主砲を放った。それは〈ワシントン〉が主砲を放った5秒後のことであった。

 

ふと気が付くと〈愛宕〉の艦尾方面に火達磨があった。未発見の敵艦だろうか、そう思ったのもつかの間、近藤ら愛宕の司令部要員はその認めたくない現状に言葉を失う。

 

「〈霧島〉炎上中、繰り返す、〈霧島〉炎上中!」

 

〈ワシントン〉の主砲をもろに食らった〈霧島〉が無事でいられるはずもない。喫水線下に直撃すれば轟沈、艦上部に直撃すれども構造物がひしゃげて海を進むだけの鉄屑となるのだ。だが、その数秒後に〈ワシントン〉も同じ状態となった。

 

「クソ、、、一隻見逃していたか」

 

一発の主砲が艦橋に命中し、血まみれになったリーはよろめきながらも近くの壁を伝いながら立ち上がる。

 

「狙った獲物は、、、あの戦艦だけは確実に海底に葬ってくれる!」

 

〈ワシントン〉は復讐に燃えるかのように撃てる限りの主砲を〈霧島〉へと次々と放つ。損傷などまるで知らないかのように、それは道連れに遷都する執念か、度重なる斉射を次々と命中させる。そのうち、放った一発の副砲は〈愛宕〉にも命中していた。

 

「醤油庫に命中!」

「気にするな、塩なんざその辺に山ほどあるじゃないか。戦闘に影響は?」

「ありません!」

「よろしい」

 

それから近藤は新たな指揮を下す。

 

「取舵反転。左同航戦を実施する」 

 

それに続く形で〈高雄〉、〈比叡〉が次々と艦首の向きを変える。だが、〈霧島〉だけは向きを変えなかった。いや、向きを変えられなかったの方が正確かもしれない。2隻の新鋭戦艦から放たれた16インチの砲弾数十発は御年30年近くの老朽艦には充分な致命傷であったのだ。一応、砲撃が止んだと思っては敵が油断した機を見て健在な主砲6門を斉射するなどの反撃も試みてはいたが、沈むのは時間の問題だろう。完全に航行不能に陥った様子の〈サウスダコタ〉はともかく、問題は〈ワシントン〉だ。

 

「敵戦艦二隻、左正横」

 

敵の二つの戦艦の距離は近いとは言えない。

 

「雷撃けじめ!」

「ヨーイ……射てっ!」

 

六本の魚雷は海に潜ると全速で敵艦目掛けて飛び込む。それから少しの時間をおいて重々しい爆発音が響く。魚雷の爆発音だろう。

 

「あとは戦艦の仕事かね」

 

一矢報いた〈愛宕〉は〈高雄〉と共に煙幕の奥に隠れる。残された〈比叡〉は〈ワシントン〉が完全に動かなくなるまで、何度も執拗に砲撃した。それはもはや海戦の体をなしてはいなかった。かくして午前1時23分、〈ワシントン〉の沈没をもってこの海戦は幕を閉じた。翌日の夕方には米駆逐艦が遭難者の救助を行うべく捜索に来たが、その時にはすでに〈サウスダコタ〉の姿もなかったという。恐らく、喫水線下の浸水が甚大だったのだろう。

 

ここで、〈綾波〉の最期も記す必要があろう。本艦は激しい海戦にも関わらず喫水線下への被弾被雷が一切なかったために大破した後も尚、船として洋上に姿をとどめていた。しかし、そんな〈綾波〉であったが魚雷付近にまで火の手が回っており引火芝k初を起こすのが時間の問題なのは日の目を見るよりであった。

 

「このままではどうにもならんな、、、」

 

消火が不可能だと悟った作間英邇艦長は総員退艦を下令した。生存者は次から次へと海へ飛び込み、そう時間のかからぬうちに同駆逐隊の〈浦波〉が収容に駆け付けた。生存者全員が〈浦波〉へと収容されてから間もなく〈綾波〉の魚雷に火の手が回り、零時六分に二度の大爆発を起こしてソロモンの海底へと没した。この戦闘での〈綾波〉における死者は42名、実に乗組員の8割が生還することとなった。

この異様な生存率の原因は艦長の迅速な判断がすべてと言えよう。これによって、戦死者27名以外全員の脱出は無論、爆雷への安全装置の装着と浮遊物を海に透過する猶予ができていた為にしばしば起こる溺死や爆発物による圧死を防げたのである。先述の大戦果も相まって海に飛び込んだ後、上機嫌に軍歌を歌っている者すらおり〈浦波〉に収容されるその気分は英雄の凱旋そのものだったに違いない。

 

また、大破した〈霧島〉も消火こそ行えたものの後部主砲は完全に使い物にならなくなっていた。そればかりか機関科兵の戦死と、艦尾に命中した魚雷貫通穴で浸水したことから航行もままならぬ状況となっていた。一応〈比叡〉がいる以上は曳航も可能ではあるが、ここまでになった艦を修繕するほどの船渠も人員も日本にはない。どうにもならないと悟った艦長は〈朝雲〉に横付けを要請、艦長以下218名を救出すると海域より離脱しあ。そして、1時23分に〈霧島〉は沈んだという。

 

幾度もの海戦が行われたソロモンの海底には勇猛なる戦士が命を燃やし尽くした証としての鉄の塊が墓標代わりに鎮座していた。それは雄大な海の波に削られ、やがて新たなる大地のもととなるまで戦士の証として鎮座し続けるだろう。そんな静かなる海底とは真反対に、それぞれの国では次なる戦場に関する会議が行われていた、、、




海戦名称:第二次ソロモン海戦、ガダルカナル海戦(第二夜戦)

交戦勢力
日本軍
挺身迎撃艦隊 指揮官:近藤信竹中将

射撃隊
第十一戦隊(戦艦:比叡、霧島)
第四戦隊(重巡洋艦:愛宕(旗艦)、高雄)
第十一駆逐隊(駆逐艦:吹雪、白雪、初雪)
第六十一駆逐隊(駆逐艦:照月)

護衛隊
第十戦隊(軽巡洋艦:長良)(駆逐艦:電、五月雨)

掃討隊
第三水雷戦隊(軽巡洋艦:川内)
第十九駆逐隊(駆逐艦:浦波、敷波、綾波)
第四水雷戦隊(駆逐艦:朝雲)

連合国軍
司令官:ウィリス・A・リー少将

第64任務部隊
戦艦:ワシントン、サウスダコタ
駆逐艦:ウォーク、グウィン、ベンハム、プレストン


損害

日本軍
沈没
戦艦:霧島 駆逐艦:綾波
小破
戦艦:比叡 重巡洋艦:愛宕、高雄

連合国軍
戦艦:ワシントン、サウスダコタ
駆逐艦:ウォーク、グウィン、ベンハム、プレストン
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