こちら異世界サポートセンターでございます   作:いたまえ

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はい、すぐ伺わせますので!はい、はいー。


第一章:サポート課のお仕事
一話 お客様は神様です


 

 

 こちら異世界サポートセンター札幌支店でございます

 

 北海道札幌市中央区大通西1丁目。

 

 さっぽろテレビ塔前のベンチに、一人項垂れるスーツ姿の男。5月の心地よい気候の中、彼の周辺だけは微かに空気がどんよりして見える。観光客で賑わう平日の大通公園で、その存在は明らかに浮いていた。

 

「あー、どうしよう」

 

 見た目年齢30歳のやつれた青年四条 慧(よじょう けい)は、先程お客様から頂いた電話を思い出し、顔を両手で覆う。

 

 事は30分前。

 

 今日も一日トラブルが無い事を祈って出社し、もうすぐお待ちかねのランチタイムがやってくるタイミングだった。

 

 四条が「今日は麺類かなぁ……」などと、近場のボリューミーな立ち食い蕎麦にしようか、岩海苔が特徴的なラーメンにするか悩んでいた頃。

 

 ブー、ブー、と机の上で振動するスマホ。

 

「げっ……!」

 

 着信が個人の携帯に来たので、相手は社内の人間か名刺交換をしたお客様確定である。画面には着信相手の名前が。

 

【女神イスタルテ様 魔王の世界】と、表示されている。これは、別に着信相手に四条が勝手にあだ名をつけているわけではなく。

 道行く人に説明しても信じてもらえないだろうが、電話の主は正真正銘女神様なのだ。

 

 お客様からの電話は3コール以内に取りましょう!なんて、新人の頃教わった身として四条は素早く応答した。手にとって画面をタッチするまでの間、相手の名前からどのような要件かを想像しつつ。

 

「はい!異世界サポート札幌支店の四条です!!」

 

 どんな要件でも、まずは良い印象を与えるべきである。ハキハキと名乗ってみた。これにより、なにかやらかして怒られるにしても、相手の態度が大なり小なり緩和する筈という四条の経験則。

 

「あー、四条さん?イスタルテです。今お電話大丈夫ですか?」

 

 本当に女神なのか疑わしいくらいには、四条を気遣ってくれる電話越しの相手。

 

「大丈夫ですっ!イスタルテ様、いつもお世話になっております」

「こちらこそ、お世話になっております。要件としては、先月……4月の2週目くらいに転生特典用に購入した【伝説の剣:L-80】だったんですけどね?」

「ええ、その節はありがとうございます」

 

 記憶を懸命に辿ると、そういえばイスタルテさんに剣を買ってもらった覚えがある。まだ一カ月も経っていないものの、この導入から四条は剣に不具合があったのではと予想した。

 

「こちらの確認不足だったのですが、レベル1の転生者でも装備出来るつもりで購入しまして……ところが、実際には装備するのに80レベル必要だったのが、転生者が異世界転生後に発覚したんです」

 

 なるほど、と四条は思った。イスタルテの担当する世界は魔王を討伐しなくては滅ぶ世界。ただ、魔王さえ倒せば平和にもなる。装備に必要なレベルが80の武器など、魔王を倒すだけならやや過剰と言える。魔王よりも上位の存在がいるような世界向けだ。レベル1の転生者に渡すには適さないし、実際装備も出来なかったわけで。

 イスタルテからの発注書はPDFでメールが来ていたので、四条は相手が書いている通りの商品を届けてしまった。

 

「申し訳ありません!こちらも、お電話で確認するべきでした。転生直後用であれば、【伝説の剣:LS-80】というものが別でありまして……」

「そうですよねぇ、ちゃんと調べてそちらを購入するべきでした。ところで、その転生直後用の剣は今から依頼したらいつ頃届きますか?」

 

 思いがけずもう一本剣が売れそうだと喜びそうになる四条だったが、それには真摯な対応が前提だと自分を戒める。

 

「在庫があれば夕方には。在庫が無ければ、本州から中2日程で札幌に届きます。それから……」

「うーん……2日もあると、最悪世界が滅んじゃいますねぇ」

 

 電話越しの女神が困ったように呟いた。

 

 手際の良さをアピールする為言葉を続けようとした四条だったが、女神にピシャリと中断させられてしまう。

 

(それはそうだよなぁ)

 

 確かに、80レベル用の剣を扱える人間がその世界にいるといないでは大きく違う。そのまんまの意味で、魔王を倒せる人間がいるかいないか、という話になるからだ。魔王への抑止力が存在しないと、好き放題されてしまうだろう。

 又、彼女が担当する世界は四条がいる日本と時間の流れも違う。魔王が異世界を48時間あれば滅ぼせるといった言葉通りの意味では無く。日本での2日が、向こうでは何倍もの時間に相当するのだ。

 四条はぼんやりと、前任者からの引き継ぎには時間のズレがどのくらいか記載されていたのを思い出した。しかし、PC内のどこのフォルダに保存していたかまではすぐに出てこない。

 

 ここは、女神の言い分を肯定し対応するべきだと結論づける。

 

「かしこまりました。では、すぐに在庫を確認します。もしも在庫が札幌にない場合、ひとまず代替品で応急的に対応いたしますので……!」

「はい、そうして下さるとこちらも助かります。よろしくお願い致します」

 

 女神との通話を終えてすぐに倉庫を確認したが、目当ての剣は無かった。

 

「これはL-60か。こっちはLSだけど40だし……」

 

 オフィスとは別の階にある、ワンフロア丸々倉庫になっている空間で四条は頭を悩ませる。広々とし、さまざまな商品の在庫があるにも関わらず、目当てのものが無い。

 

「ヨジョー先輩、どうしたんすか?暗い顔しちゃってぇ」

 

 入社四年目の後輩社員が、四条の背後から声をかけて来た。誰もいないと思っていたので少し驚くも、聞き慣れた声だったので自然に対応する。

 

「なんだ三ツ橋か。そういやお前、【伝説の剣:LS-80】とか余ってない?車に積んでたりとか!」

 

 声の主は、四条がかつて教育係を任命された女性社員、三ツ橋佳奈(みつはしかな)だった。ショートボブの髪型にくりっとした瞳は、他の男性社員から教育係を羨ましがられたくらい周囲の視線を集める容姿。四条も最初はハラスメントにならないよう注意して接していたが、三ツ橋本人が割と大雑把で勝気な性格だった為、同じ職場の先輩後輩として信頼関係を築くのにそう時間はかからなかった。

 

 今では職場への不満や上司のやり方への苦言などを共有出来る貴重な仲間と言える間柄。

 

 四条は、そんな後輩社員である三ツ橋が隠し在庫を持っている可能性にかけてみた。

 

 問われた三ツ橋は顎に人差し指を当てて思案する。

 

「確か……トランクに伝説の剣シリーズは何個かありますけどぉ……」

「マジ!?」

「80はちょっと無いっすねぇ」

 

 上げて落とされた。

 

「だよなぁ」

「LSって事は、本当に転生直後でも扱いたい系ですよね?だったらいっそLS-100で良い気がしますけど」

 

 レベル1の人間でも装備可能で、100レベル帯の性能がある武器がLS-100だ。これこそがよく聞くチート武器。80シリーズだと、三ツ橋の言うように帯に短し襷に長しである。

 

「まあ、100と80じゃ金額がねぇ。イスタルテさんのところ、結構苦しいらしいから」

「あー。例の魔王世界担当のイスタルテ様っすか」

「そうそう。最近は少子化で若い転生者も減って来てるし、中々大変みたいだよ」

「女神も世知辛いですねぇ」

 

 三ツ橋はウンウンと頷いて。

 

「で、先輩。お昼はどこ行きます?ワタシ、パスタの気分なんですけど」

「……そりゃ、奢れってことか?悪いけど、在庫が無いなら無いで、急ぎで似たような物持ってイスタルテさんの所へ行かなきゃダメなんだ」

「えー。先輩、無理なものは無理って言わなきゃダメっすよぉ。じゃないと、どんどん無茶な要求されちゃいますって」

「わかってるって」

「その内、土日や夜間も呼び出されたりしてっ」

「嫌すぎるな、それは……」

 

 考えただけで吐きそうになる。プククっとイタズラっぽく微笑んだ後輩を見て、焦るだけだった四条の心は少し和んだ。

 

「じゃーワタシはチロル村行くんで、なんか困った事あったらチャットしてくださいっ」

 

 【チロル村】は三ツ橋が好んで通う美味しいパスタのお店だ。店名を聞くだけでお腹が空いてくるが、今は誘惑に負けてはならないのが顧客対応の辛い所。

 

「おう、サンキュ」

 

 パスタを食べに行った後輩の背中を見送り、在庫探しに戻る四条。

 

「先輩が麺類の気分って言ってたのに……」

 

 倉庫を出ていく前、三ツ橋がボソッと発した言葉は、しかし四条の耳には届かなかった。デスク向かいの彼女は、イスタルテからの電話を受ける前に発した四条の独り言を聞いていたらしい。

 

 結局、辛うじて代替品になるかも……?くらいの品しか見当たらず。客先へ赴く前に公園のベンチで悩む事となる。

 

 簿外品として、報告もせず勝手に持ち出しても大丈夫そうな物に限り。その条件で探してあったのは【最終ダンジョンの剣:L-40】。

 最終ダンジョンに挑むくらいの人向けにオススメしている商品だ。とはいえ、装備するのにレベルが40は必要なので、イスタルテの言う転生者では装備出来ない。又、魔王に挑むには少々性能が足りない、なんとももどかしいラインを狙って開発されたもの。

 

「こんなのをただ持っていっても、イスタルテ様は怒るよなぁ……」

 

 こちらに非は無いとは言え。

 

 お客様サイドに立った対応をモットーにしている四条からしたら、少しでもイスタルテの助けになりたいのが本心だった。

 

 とりあえず、時は金なり。今こうしてベンチで項垂れている間も、イスタルテの担当世界では数倍の速さで時が流れている。対応は早いほうが良い。

 

 足取り軽くとはいかないが、四条はイスタルテの元へ向かう事にした。

 

 札幌のとある住所にイスタルテが担当する世界へ続く空間がある。【特殊な車載ナビ】をセットして運転すれば、ものの15分程で到着。

 

 気がつけば車は札幌では無く、広大な草原に。別に札幌にも草原はあるが、四条がいるのは間違いなく異世界であった。

 

「失礼します!異世界サポートですー」

 

 四条が声をかけると

 

「すみません四条さん、無理を言って」

 

 何も無い空間に光のゲートが現れたかと思えば、そこから美しい女性が。白い翼を持った、四条に電話してきた女神イスタルテ本人だ。

 ただ、女神っぽく無くペコペコと頭を下げながらの登場だ。見た人の中にある【女神】のイメージが崩れる姿。しかし、四条からしてみれば女神は単なる取引相手であり、この姿は既に見飽きている。

 

「いやー、イスタルテさん。すみませんね、発注書頂いた時点で確認せず」

「いえいえ!良いんですよ。それで、剣はありましたか?」

 

 イスタルテが、四条が乗って来た車のトランクあたりに視線をやる。もしかして……という期待に満ちた瞳。

 

「それが……在庫は無くてですね」

 

 四条の言葉に、やっぱりかと落胆する女神。

 

「ですよねぇ。まあ、それは良いんです。可能な限り最短で納品して下されば!ただ……お電話で少しお話しした通り、魔王の動きが活発になっておりまして」

 

 そう。問題は魔王がそれまでこの世界を滅ぼさないかという点だ。女神としては、この一点だけが気がかりなのだ。剣を再度購入しても、間に合わないなら意味がない。

 

「はい。ですので、今回は無償で応急処置させて頂きます。いつもイスタルテ様にはお世話になっておりますので!」

 

 トランクから【最終ダンジョンの剣:L-40】を取り出しつつ、四条がペコっと頭を下げた。

 

「えー!?いいんですかっ?すみません、なんか催促したみたいで」

 

 イスタルテは無償と聞いて笑顔を光らせた。実に現金である。が、お客様がご機嫌になってくれたのは四条としても一安心。

 

「ですが四条さん。折角なのですが、そちらの剣は……今回の転生者ではまだ装備出来ないです。とりあえず、私がストックしていたLS-20の剣を渡して冒険させていたのですが、まだ転生者自身のレベルは20にも満たなくて……」

 

 イスタルテによれば、とりあえずは転生直後でも装備出来る20レベル相当の剣をあげたとのこと。最終ダンジョンが40レベルだとしたら、そこそこ強い剣だ。転生者も、まずまずの転生特典として納得してくれるだろう。ただ、レベル20の敵を倒して得られる経験値では成長も遅い。

 

(最善のシナリオは転生者のレベルが40に達していて、代替品を装備してくれることだったけど……残念)

 

 手元にある【最終ダンジョンの剣】なら、文字通り最終ダンジョンに到達するまではイケる見込みだ。本ちゃんの【伝説の剣:LS-80】が札幌に届くまで時間が稼げればそれが1番良かった。

 

「そう都合よくはいきませんか。じゃあ、イスタルテさん。私を魔王さんの所へ送ってくれますか?」

 

 四条は、今日は定時で帰れないかもと憂鬱になるが、これも顧客との良好な関係を築く為だと割り切った。

 

「ええー?いいんですかぁ?なんか申し訳ないですね、社員さん自ら対応して頂くなんて」

 

 更に機嫌が良くなり、ちょっとギャルっぽくなる女神イスタルテ。

 

「いいんですよ、いつも商品購入して頂いてますから。多分……作業時間は20分くらいですかね?終わったら報告書にサインだけ頂ければと思います」

「承知しました。では、こちらのゲートをお使いください。四条さんしか通れないようにしてますから」

 

 イスタルテが現れた光のゲートとは別に、もう一つゲートが造られた。

 

「ありがとうございますー!では、ちょっと作業してきますね」

 

 四条は一礼すると、ゲートをくぐった。

 

 魔王の近くへとお願いしたが……

 

「やべっ……!」

 

 今まさに。

 

 魔王が、イスタルテの担当する世界で最も強い現地人であり王女。【エイリーン】を火炎魔法で消し飛ばす直前だったのだ。エイリーンは、引き継ぎに写真付きで載ってたのでなんと無く覚えていた。

 場所は王都近郊の丘であることが王城との距離、位置関係で判断できる。魔王がここまでやって来ているとは。四条の想像よりも現地の人間は圧されていたようだ。

 

「消えろ、王女よ……!!」

 

 魔王が右手を振るうと、巨大な炎の球が王女に放たれた。既に戦闘は佳境で、王女は服も身体もボロボロで動けない様子。

 

「父上……」

 

 自分の死を明確に感じ取り、祈りを捧げる王女エイリーン。

 

「あぶねっ」

 

 魔王と王女の間に割り込み、剣を一振り。

 

 ドゴォォォオオ……!!!

 

 簿外品の剣に弾かれた魔王渾身の一撃が、遥か遠くの山を破壊した。

 

 1年ぶりくらいに魔王の炎を弾いた四条は、無事に弾けて少し安堵する。最近は後輩にやらせてばかりだった現地での戦闘対応。いくら慣れた作業とはいえ、多少の緊張があったのだ。別の世界にもたくさん魔王は存在しているが、今回はスタンダードな強さの魔王らしいことが今の攻撃でわかる。たまにイレギュラーな強さの個体がいて困らされるものの、一旦その心配は無さそうだと四条は判断した。

 

「「なっ!!?」」

 

 邪魔された魔王も。助けられた形の王女も。突然の乱入者に目を見開いた。

 

「……何者だっ!?」

 

 魔王は自らの一撃を弾いた人間に戸惑いつつも怒りをぶつける。この世界の最高戦力であるエイリーンが、今まさに死ぬ所だったのだ。それを助けられる存在とは、一体……?という感情。

 

 一方で。救われたエイリーンも、喜びよりは驚きの方が大きいようで。

 

「……貴方様は……?」

 

 やっとのことで、四条の背中に尋ねた。

 

 四条は倉庫に転がっていた剣が壊れなかったかを軽く確認してから

 

「申し遅れました。私、異世界サポートセンター札幌支店の四条と申します」

 

 二枚ほど名刺を取り出して、深々と頭を下げたのだった。

 

 

 

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