こちら異世界サポートセンターでございます   作:いたまえ

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二話 無償対応

 

 

「イセカイ……サポート……?聞いた事がない単語だな。ヨジョウと言ったか。先ほどの我が業火、どのように弾いたのだ?」

 

 魔王は一定の距離を保ちつつ四条を観察する。

 

「はい。こちらの剣で弾かせて頂きました」

 

 右手に握る【最終ダンジョンの剣:L-40】を、魔王からも見やすいように掲げて見せた。

 

「そうでは無い!そんな事はわかっている!」

「……ですよね」

 

 百聞は一見にしかずだが……見てもわからないのであれば、どう言葉で説明したものか。事実として剣で弾いただけでしか無い。頭を悩ませる四条。

 

(多分、軟弱な人間如きが我が魔法を剣を振っただけで弾くなんてあり得ん!みたいな事を魔王さんは仰りたいんだろうなぁ。でも、貴方の攻撃が大した事ないとは言えないし……【L-40】で普通に弾けるんだもんなぁ)

 

 とりあえず魔王は名刺を受け取ってくれなさそうなので、仕方なく王女にだけ手渡すことに。

 

「これは……?」

 

 不思議そうに名刺を見つめるエイリーン。

 

「名刺といいます。私の身分証みたいなものですね」

「そうでしたか!……ヨジョウ様と仰るのですね。先ほどは救っていただき、ありがとうございます。このご恩は一生忘れませんわっ!」

「お礼はいいですよ。これも仕事ですし!」

「仕事……?」

「ええ。安全には配慮して作業しますが、危ないので王女様はそこで少々お待ちくださいね」

 

 名刺はちゃんと、この世界の人が読める文字で印刷してある。電話、携帯番号やメールアドレス、札幌支店の住所などもしっかり記載されているが現地の人にとってはほぼ無意味。

 王女は未知の印刷技術に目を丸くしながらも、眼前の四条は魔王の必殺技をなんなく弾き飛ばした規格外な存在だった為、そこはさまつなこととして流す。

 

 エイリーンが気になった点は別にある。これは確認せずにはいられない。

 

「その黒髪に黒い瞳……ヨジョウ様は、タナカ様と同じ人種の方ではありませんか!?」

 

 王女は四条の容姿を見て、先日唐突に王国に現れた凄腕の少年を思い出していた。

 戦闘経験が無いと言っておきながら、冒険者登録してすぐに中級モンスターを撃破するなど、普通では考えられないスピードで成長している人物。タナカという珍しい名前だった為、情報が入って来た時印象に残ったのだ。

 

 会った事はないが、その少年も四条と同じく黒髪の黒目だという。

 もしかすると……王国の遥か彼方の地には、並外れた戦闘能力を有したそういう一族がいるのかもしれない。

 

 【仕事】と四条が言ったことからも、魔を討つ一族なのかもとも。

 

 エイリーンはそう考える。

 

「えっと。よくわかりませんが、田中さん……?でしたら、おそらくそうですねー」

「やはり……そうでしたか!」

 

 四条はうろ覚えなこの世界のデータを調べる為、社用スマホで社内のマスタにアクセスしていた。画面に集中している時に王女が何か聞いて来たので、とりあえず話半分で返答しておく。無視は印象が悪いだろうという理由で。

 

 幼き王女エイリーンが、どれほどその発言に救われたのかも知らずに。

 

 魔王が王都の、それも王城付近まで攻めて来たこの絶望的な状況で、魔王に匹敵する力を持った戦闘民族がこの世界に存在していたという事実。

 これは、間違いなく人類にとっての希望だ。今現在、王国には少なくとも二人はその民族がいることになる。これだけでも魔族への牽制になってくれる筈だと。

 

「女神様は、人間を見放していなかったのですね」

 

 手を組み天に祈る王女。

 

 その女神イスタルテによる発注ミスで自身が死ぬ所だった事実は、知らぬが吉。

 

「人間……少しは出来るようだが、この私を無視とは随分と余裕では無いか」

 

 王女と会話する間無視されていた魔王が不機嫌に呟く。

 

 魔王といっても外見は人間とさほど変わらず、長身の男が頭にツノを生やしたような見た目をしている。黒いローブの装飾は、確かに王を名乗れるくらいには豪華だった。

 

 四条を突き刺すような視線で観察する魔王。

 

(しまったな。魔王って……)

 

 四条も笑みを絶やさぬよう魔王に目を合わせているが、内心はとても焦っていた。社内のデータベースにアクセスした結果、まずい情報を見つけてしまったからだ。

 

「ほう?」  

 

 今まで眉間にシワを刻んでいた魔王が、急にニヤッと笑う。

 

「ヨジョウとやら。その顔は、ようやく我が恐ろしさに気がついたようだな。人間の恐怖……魔族たる私には手に取るようにわかるぞ」

 

 四条の恐怖心を、魔王は肌で感じられる。必殺技を弾かれた時は警戒したものの、どうやら買い被りだったと魔王は笑う。所詮は軟弱な人間。偉大なる魔族にとっては路傍の石コロに過ぎないのだと。

 

「ヨジョウ様……!魔族への恐怖、私もよくわかります。お力になれるかはわかりませんが、共に戦わせてください!」

 

 あれほどの強さを見せた四条が恐怖するなど、エイリーンにとっては認めたくない事実だ。自分よりも遥か格上の剣士が恐怖してしまうのが魔王という存在ならば、人類にとって絶望的過ぎる。

 

 しかし。

 

「あ、失礼。エイリーンさんはもうちょっと下がってお待ち下さい」

「へ??」

 

 共闘を断られたエイリーンは、言われた通りその場に待機する他ない。肩すかしをくらい、キョトンとする王女様。

 

(やべぇ……魔王の名前、前担当の吉田さんがデータ入れ忘れてるじゃん。これじゃあ事務員さんに言って入力と更新して貰わないと、現地での報告書作成出来ないじゃん……)

 

 四条の恐怖は魔王に対してでは無く。

 

 これから昼休憩中の事務員さんへ電話し、データ入力をお願いしなきゃいけないことへの恐怖だった。一応交代制で昼休憩の時間をズラしている事務員さん達ではあるが、気まずいものは気まずい。

 

(今って多分まだお昼休みなんだよなぁ。最悪は後日郵送かメールでイスタルテさんに報告書出した方がいいかもな。三ツ橋にデータ入力お願いしたかったけど、ヤツもチロル村でパスタ食ってるだろうし……)

 

 【しまったな】と考えていたのも、魔王の名前がわからなかったから。事務員さんへ電話する前に、魔王か王女から魔王の名前を聞き出す必要がある。

 

「言うでは無いか。自身が恐怖するほどの相手と戦うというのに、王女の申し出を断るとはな。」

 

 魔王は上機嫌だ。

 

 幼い王女を庇う四条に漢を見たからか。あるいは、そんな戦士でさえも自分に恐怖を抱いていると思い込んでいるからか。

 

「あの、恐れ入りますが」

 

 四条は小さく挙手し、申し訳なさそうな顔。

 

「ふん。命乞いか?くだらんっ……所詮は……」

「そうではなく。今更で失礼ですが、魔王さんのお名前を伺っても……?」

 

 勝手に優越感に浸っていた魔王が、今の一言で豹変する。

 

「き、貴様……ッ!この世の支配者たる我が名を知らぬだとぉ!?」

「はい……ですので、そんな自分に恐怖してまして」

 

 魔族にとって人間を恐怖で震え上がらせるのは何よりの喜びであり野望。自身の名を世界に轟かせ、人間を家畜のように扱うのが魔王の最終目標だ。

 

 この世界はエイリーンが死んでしまうと魔族に武力で対抗できる人間がいなくなり、実質魔王のモノになる。つまり、あと一歩で魔王の目標達成まで来ていた。

 

 にも関わらず。

 

 眼前には魔王たる自分の名を知らぬ人間がいた。産まれたばかりの赤子ならともかく、見た目からそれなりに年齢を重ねていそうなのにだ。眼前の男は、これまでの人生で魔王の名前すら知らないほど無頓着だったというのか。恐怖以前の問題だった。

 魔王にとってその事実は認められない。それを認める事は、自分を否定することと同義。

 

 魔王が感じ取っていた負の感情が、恐怖じゃなくまさか四条が自分自身へ向けた羞恥心が正体だったとは。

 

 魔王からしたらおちょくられている気にもなる。

 

 ……本当は上司や事務員さんへの恐怖なのだが。

 

「貴様という存在は……許せんッ!認めんッ!その侮辱……死んで償って貰うぞッ!!!」

 

 魔王が両手を真上に突き上げると、空中に先ほどより数倍大きな火球が形成されていく。

 

 どう見てもブチギレモード。

 

(ありゃー。怒らせてしまったか)

 

 これには四条も肝を冷やす。魔王は異世界サポートにとって、大切なステークホルダーでもあるのだ。四条にとって直接対応する顧客はイスタルテだが、そのイスタルテが対応する顧客(?)は魔王。つまり、魔王はお客様のお客様と言える。

 

 どうにか冷静になって欲しい。

 

「も、申し訳ありません!大変失礼致しました。前任者が既に退職しておりまして……引き継ぎが」

 

 出来ていなかった。

 

 ……そう告げても、魔王の怒りはおさまらないのは明白。一応は初対面なのに、名乗りもせずにキレてくるのは四条としてはちょっと困るところ。

 いくら客でも、名乗るくらいは礼儀では?

 

(しょうがないな。あの炎、撃たれる前に魔王さんの体勢を崩すか。でないと余波で王女様が危ない。万一ケガでもさせたら、イスタルテさんに悪い印象与えちゃうよね)

 

 魔王が魔力を練るほど炎の球は巨大化していく。燃焼はやがて、魔力が加わりドス黒い色の炎へ変遷し始めた。

 

 誰が見たって高威力。

 

 四条は【社員証に触れて】から、【最終ダンジョンの剣:L-40】を上段に構えて。

 

「失礼しますっ……」

 

 魔王に一言断ってから、剣を振り下ろして【斬撃を飛ばした】。魔王の足元めがけた一撃は地面を抉り飛ばし、火球に集中していた魔王がバランスを崩す。バランスだけ崩させるつもり……だった。

 

(……なんだ!?)

 

 斬撃が魔王へ迫る中、先回りするように一つの影が出現した。

 

「魔王さまっ……ぐぁぁぁあ!?」

 

 女神イスタルテが使用する光のゲートと対の存在。闇のゲートが魔王の側に出現し、そこから飛び出して来た悪魔のような格好の男が、四条の斬撃から魔王を庇ったのだ。

 

 その命を捧げる形で。

 

 四条は既に斬撃を飛ばし終えてからゲートの存在に気がつき、攻撃を止める事はできず。どうする事もできなかった。

 

「サタニール……!」

「……魔王、さ……ま……どうか……」

 

 魔王を庇った男、サタニールは黒いチリとなり消え去った。庇われた側の魔王は、両手をおろして火球を霧散させる。

 

「あれは……魔王軍幹部、サタニール!?」

 

 エイリーンの驚愕は、魔王軍幹部までもがこの場にやって来たことと、それが容易く両断された事実に対して。

 

 一方、両断してしまった四条も驚いた。

 

(しまったなぁ。魔王軍幹部まで倒して無償対応はサービスしすぎだよぉ……課長に怒られちゃうな)

 

 魔王軍幹部サタニールを殺してしまったからでは無い。度を過ぎた無償対応サービスを上司に咎められそうだからだ。

 

「サタニールを一撃とはな」

 

 魔王は今の斬撃が足元に向けられていたのを理解していた。四条に殺意は無かった事も。サタニールさえ割り込まなければ、被害は無かったのだ。

 

 魔王の危機を察知し瞬間移動して来たサタニールを責める事はない。この場にいなければ、あの斬撃が足元を狙っていた事実には気づけないだろう。

 

 何故四条がそんな手加減をしたのかまではわからなかったが。

 

「……ヨジョウ、貴様に免じてここは退こう」

「ありがとうございます!助かります。サタニール様につきましては、申し訳ありません」

 

 深々と礼をした。ここで退いてくれないと、流石にイスタルテさんに別料金を請求しなきゃいけないところだ。ついでにサタニールが死んだのは手違いだったアピールもしてみた。

 

「ふんっ。別に良い、アレはヤツの責任だ」

「そう言って頂けると……!」

 

 予想に反して魔王は咎めてこず。

 

(そりゃそうだろ、こっちのせいにされても困るし!あんなん、事故でしょ)

 

 頭は下げたまま四条は内心で自分を正当化した。

 

「だが……まさかあんな一撃を繰り出す人間がいたとはな。次は魔王軍の主力達と共に攻め込むとしよう。それまで、残された時間を堪能するが良い」

 

 魔王は言い捨て、闇のゲートへと消えた。

 

(これで、本州から剣来るまで時間稼げたかなぁ)

 

 日本時間で48時間くらいは来ないで欲しいものだと四条は思った。

 

「ヨジョウ様!!まさか魔王を追い返すだなんてっ、凄過ぎますわっ!!」

 

 言いつけ通り遠くで待機していたエイリーンが駆け寄る。

 

「それも、魔王軍幹部のサタニールまで消滅させるだなんて。貴方様は救国の英雄ですっ!!」

「いえいえ。そんな大したものでは無いです」

 

 言いながら、最後にイスタルテへ結果報告する為、四条は光のゲートへ歩みを進める。

 

「是非とも王城にて歓待の宴を……!もしよろしければ、城内にお部屋も準備させますわっ」

 

 エイリーンが付き纏ってくるも、四条は歩き続ける。一国の王女にこの態度。エイリーンとしては、やはり王家の力が及ばぬほど遠い地から来たのだと確信した。人間側にも秘密兵器があると知った魔王は当分やって来ないだろうが、四条には王都に留まって欲しい。そんな、幼い王女の願いを受けても四条は靡かない。

 

 何故ならば。あまりモタモタしているとランチタイムが終わってしまうからだ。

 

「お気遣いなくっ、仕事ですから」

「お、お待ちくださ……!」

「失礼します」

 

 王女を助けた時と同じセリフを言い残し、光のゲートを潜る。

 

「今のは……言い伝えに聞く女神様の……!?では、やはりヨジョウ様は神の……!!!」

 

 丘に一人残されたエイリーンは、しばらくの間ゲートがあった空間を見つめて立ち尽くした。

 

「また、お会い出来ますか……?」

 

 たった一人で魔王や幹部と戦ってきた10代の王女は、長い間待ち焦がれた一緒に戦ってくれる仲間が現れた事実に胸を熱くする。きっとまた会える日を信じて、少女はそれまでこの国を守ると先祖に誓った。

 

「やーっ、すいませんね四条さんっ。魔王軍幹部まで倒してくださるとは」

 

 ゲートの先にはニッコニコの女神イスタルテ。一部始終見ていたらしい。

 

「むしろすみませんなんか、事故って倒してしまいまして。転生者の方の大切な経験値が減っちゃいましたよね……」

「良いんですよ!そのくらい。それよりも、本当に今日の分は無償で大丈夫ですか?」

 

 イスタルテに聞かれて、本心ではお金を取りたい四条はどうにか平静を装う。

 

(こちとら昼休憩も潰してるのに、大丈夫じゃないよ!!)

 

 心の中で叫ぶくらいは許されるはず。

 

「……大丈夫ですよっ!お気になさらず」

 

 自分を自分で褒めたい営業スマイルを維持した。

 

「流石は四条さん!いつも神対応、ありがとうございますーっ!」

 

 女神様に神対応と言われてしまった。女神ジョークだろうか。ツッコミそうになるのを堪えて。

 

「それでは、【伝説の剣】が札幌に届き次第またご連絡しますね!もしもそれまでに魔王さんがまたやって来たら、逆にご連絡頂けると幸いです」

「はーい!その時は、すぐ電話しますねっ」

「今日の分の報告書は、後日メールで送ります」

「わかりました。お待ちしてまーすっ」

 

 車に乗り込み、女神に見送られながらアクセルを踏む。

 

「時間的に、まだランチ営業はやってるよな。でも、疲れたしコンビニでサクッと買うか……?」

 

 見慣れた札幌の街並みに帰って来たところで

 

「あ……!魔王の名前聞いてねー……」

 

 後日イスタルテに送るつもりだった報告書の文面には、魔王の名前が記載されないことが確定した。イスタルテは他の世界も担当しているため、本来なら名前も記載してあげるのが普通。【魔王】とだけ書いても、パッと見だとどの世界についてかわかりにくい。

 

 それは、報告書をチェックするサポートセンターの課長にも同じことが言える。

 

 後で四条は

 

「四条くーん、ちょっといいかなぁー?この報告書さぁ、魔王さんの名前書いてないけどぉ?あと、幹部まで倒したのにどうして無償なわけー?」

 

 という具合に、氷の笑みを浮かべたクールビューティーな上司に呼び出されることとなった。

 











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