こちら異世界サポートセンターでございます   作:いたまえ

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師走忙しすぎて執筆遅れてすみません!!


二十七話 お疲れ様会

 

 小樽から高速道路で札幌へ戻り、社内で日報を作成する四条と三ツ橋。異世界帰りでやつれた二人を見た新卒の児玉は、気を遣って給湯室で熱い緑茶を淹れて来てくれた。湯気のたつ湯呑みをおぼんから各々へ差し出す。

 

「お疲れ様でしたお二人とも。F案件、なんだか凄いトラブルが起こっていたみたいですね? 課長が慌てて事務所を出て行ったりしてましたよ。無事に解決したみたいで良かったです」

「香織ありがとーっ! もう定時過ぎてるのに、わざわざごめんね?」

 

 タイピングの手を止め、ふーふーと湯気を飛ばしてから三ツ橋はお茶を啜る。

 

「ありがとう児玉さん。俺たちはまだしばらく帰れないから、自分がやるべき事が終わったら帰っても大丈夫だからね」

 

 四条は事務処理より先に【伝説の剣】が納品されていないかチェックしておく。明後日の到着予定なので、今日はF案件の事務処理……三ツ橋の手伝いに専念出来そうだ。ささっと済ませて帰って黒ラベルを流し込みたい欲に駆られる。

 

「はいっ! もう課長からも帰って良いと言われたので、PCの電源を落としたらお先に失礼しますね」

「うん。……そう言えば桜井課長は? 俺らが帰って来てからずっと、席にはいないみたいだけど」

 

 課長不在のデスク。児玉が流した報告書や、他部署から回って来た書類などが幾つも未処理の状態で机を埋めている。

 

「なんか、偉い人を接待するとかで夕方くらいにいなくなりましたよ?」

「なるほどね。そしたら今日頑張って報告書を作っても、どの道課長にチェックされるのは明日の夕方とかかな」

 

 雨野社長をジンギスカンのお店にでも連れて行ってあげているのだろうか。ならば四条らも明日の朝出社してから報告書を流しても良さそうなものだ。幸い、イスタルテ世界へ行くのも剣が届く明後日になる。

 

「……となると。やっぱ今日は帰っちゃうか! 異世界帰りで疲れてるし」

 

 早めの帰宅。早めの風呂。早めの就寝。

 日々の生活リズムを整えることこそが、社会人にとって得難く、とても大切。

 

「お。ヨジョー先輩それナイスアイデアっす! じゃあ時間もまだ早いですし、異世界で頑張った後輩と、労いでお茶を淹れてくれた後輩に晩ご飯のご褒美でもどうでしょう」

 

 早く帰れるとなって、途端にテンションを上げた三ツ橋がさりげなくただ飯に預かろうとしてきた。

 

「どうでしょうって三ツ橋お前ね、さっきの焼きそばでまだ胃袋埋まってるだろ? てか焼きそばがご褒美だったんだけども」

 

 食後にケーキまで平らげていたのは記憶に新しすぎる。

 

「大丈夫です、ワタシはちょこっとつまみつつワインが呑めれば! 香織はお腹すいちゃってると思うので、ご飯物もまあまあおいてあるお店が良いですね」

 

 自分のことは気遣わないで、という風に語っているがアルコールとおつまみを要求してくる時点で児玉の食費よりも高くつきそう。

 

「そんな、ただお茶を淹れただけでご飯を食べさせてもらうのは悪いですよ。三ツ橋さんと四条さんの二人だけで行ったら良いのでは……?」

 

 児玉は遠慮する。いつの間にか自分も奢ってもらう対象になっていてやや焦ったように両手を振る。

 

「香織が来てくれないとダメなのよ。ヨジョー先輩、女子社員と二人きりで食事は避けてるみたいだから。コンプラだかなんだかで」

 

 最近チャレンジした飲みの誘いの成功率はあまりにも低い。ここは第三者を交えてでも、ご飯を共にする機会を作るべきだと三ツ橋は思案した。仕事終わりに食事する関係が自然消滅してしまうのだけは避けておきたい。それが例え、自分より若い女子を参加させることになっても。最も、三ツ橋は児玉とも話が合うので打算100%で誘っているわけでも無いのだが。

 

「そう、ですか。ならご一緒しようかな……」

 

 児玉にとっては数時間前の会話で、昨晩三ツ橋が四条から呼び出しを受けた云々のくだりを思い出す。ここはきっかけ作りを手伝っておこう、と優しい先輩思いっぷりを発揮した。

 

「さすが香織ね! 付き合いいいわぁ。食べたい物があればどこでも連れて行ってあげるわよ、ヨジョー先輩がっ」

「マジで行くのかよ。俺がまだ満腹なんだけど」

 

 実際問題、お腹が苦しいので晩ご飯はサラダなどで済ませようとしていた四条は、せめて児玉がガッツリ焼肉系に行きたがらない事を祈る。

 

「そしたら、オイスターバーなんかどうでしょう。三ツ橋さんのワインにも合うと思いますし、四条さんの満腹具合でも貝ならつまめるんじゃありませんか?」

「満点解答すぎるじゃん、児玉さん!」

 

 乗り気じゃなかった四条をもその気にさせてくれる気遣い。

 

「むーん、良いチョイスだねぇ。ロートシルドのお屋敷でも王城のパーティーでも、生牡蠣は無かったし。丁度食べたいと思っていたのよね!」

 

 生牡蠣、焼き牡蠣、蒸し牡蠣、アヒージョ。イメージだけでワインが飲めそうだ。

 

「すすきのに何軒かありますね。先輩達がPC落としてる間に予約してみます!」

「お願いね! すぐシャットダウンするからっ」

 

 四条は静かに財布の中身を確認する。牡蠣は成人でも一日の摂取量は多くて10個ほど。最悪はカードや電子マネーで支払えるが、3人ならばそこまでの金額にはならないだろうと読む。三ツ橋が飲む気満々なので、問題はむしろそっちだろう。

 

 ◇

 

 すすきのにあるこぢんまりとしたオイスターバーは、平日というのもあってすんなり席を確保出来た。着席してメニューを開くと、店員さんがニコニコと注文をとりに来てくれる。

 

「いらっしゃいませ! お飲み物はお決まりでしょうか?」

「まずは生牡蠣をせめましょう! 店員さん、とりあえず生牡蠣を6つ!」

 

 右手で5、左手の人差し指を添えて6を作る三ツ橋。

 

「かしこまりましたっ!」

 

 威勢よくメモる店員。

 

「ヨジョー先輩と香織は何飲みますか? ワタシは白にしますけどっ」

 

 パパッと乾杯まで持っていきたい三ツ橋の速度に、やや置いていかれる2名。

 

「俺はビールで」

「えっと、私もじゃあ白ワインでお願いします」

 

 一通りオーダーを控え、店員は厨房へ戻った。

 

「先輩、生牡蠣にもビールっすか」

「俺だって生牡蠣なら日本酒でいきたいよ。でも、いきなりは少しなぁ……一杯ビール入れてからシフトするわ」

「牡蠣にはシャブリとよく聞きますが、日本酒も合うみたいですね。二杯目はワタシも日本酒試してみようかなぁ? 酔っちゃうかもしれませんがっ!」

 

 頬に手を添えて、何やら意味深な視線を送る三ツ橋。

 

「まるでワインだと酔わないみたいだぞ、それだと」

 

 本日一杯目のお酒。スタートから日本酒とはいかず、まずはアイドリングがわりのビール。欲を言えばオイスターバーは二軒目に選びたいようなお店。胃袋にはまだ焼きそばがいる気がしなくもないので、その気になれば初手日本酒でもいけたのだが。

 

「お待たせしました! ビールに白ワインがお二つ、生牡蠣です」

 

 あまりにも早い提供。ジョッキとワイングラスが置かれ、テーブルの真ん中には主役の生牡蠣が。

 

「厚岸の牡蠣でございます。お好みで卓上の調味料をお使いください」

 

 海のミルクと呼ばれる美しい牡蠣の身。これには児玉もテンションが上がり、SNSにでもあげるのか写真を数枚撮影した。ワインやビールもいい感じに写るようにカメラの向きを調整しつつ。

 

「あっ、乾杯の前にすみません……! でも、牡蠣があまりにも美味しそうでつい」

 

 友達とご飯に行く時と同じノリで撮影してしまったことに気がつき、慌ててスマホをしまう。

 

「なんならもっと撮影したって良いのに。ワタシもヨジョー先輩も、そういうマナーとかはあまり気にしないタイプだからねっ」

 

 SNS文化に理解がある……というより自身もどっぷり世代な三ツ橋は、謝る必要は無いしもっと撮影しても良いと言いながらも、既に自分の分を小皿に移動させ始めた。もうどの調味料で牡蠣をいただくかしか頭に無さそうだ。児玉はとても「もうちょっと写真撮りますね」とは言えなかった。

 

「てなわけで、まず乾杯しましょう! F案件お疲れ様でしたーっ!! かんぱーいっ!」

「「かんぱーい」」

 

 ジョッキとグラスが軽くぶつかる音。レモン汁で一つ目の牡蠣をちゅるんと口に含んだ三ツ橋は、恍惚の表情でグラスを傾ける。ミネラルたっぷりの海の香りが口内で増幅し、実に素晴らしいマリアージュ。無限に牡蠣を食べられそうな気がしてくる。

 

「おおっ、久しぶりに食うと美味いなぁ」

 

 ポン酢で食べた四条は鮮烈かつ引き締まった牡蠣の旨みをビールで流し込む。児玉は何もつけずにそのまま味わい、笑顔で隣の三ツ橋に

 

「オイスターバーにして正解でしたね! 三ツ橋さん、牡蠣とワインめっちゃ合いますっ」

「だね! お肉と赤ワインも良いけど、やっぱ魚介に白も鉄板なわけ。牡蠣って一日の摂取量が10個くらいらしいんだけど、ワタシ達は【回復】出来るから無限に食べて良いからね! 胃袋の許す限り」

「わかりましたっ!」

 

 2個目の牡蠣も飲み込み、ご機嫌にグラスを空にする女性陣。

 

「無限はダメだぞっ!? 俺の財布は回復出来ないからな!!? 児玉さんも、わかりましたっ! じゃないからね?」

「えーっ。最近ワタシの誘いを断りまくってたから、数回分の飲み代が貯まってるんじゃないんですかぁ?」

 

 飲みを断られまくっている現状に不満たらたらな三ツ橋はチクッと言葉の棘を刺してくる。

 

「こんな線の細い女子二人がお腹いっぱい食べたところで、そこまでお会計高くはならないっすよ!」

「無限に食えるって自分で言ってたじゃん……」

 

 この後のお会計が恐ろしく、途端にビールの苦味がエグ味に変化した気がする四条だった。

 

「四条さん、結局F案件のマティアス王太子はなんで婚約破棄したんですか? やはり、別の女性に目移りしてしまったのでしょうか」

 

 追加注文でやってきたアヒージョ。そのオリーブオイルにバゲットを浸して堪能する児玉は、マティアスとセラフィーナの結末が気になっていたらしい。それを語るにはまず、ロスト特典の説明からしなくてはならない。異世界サポートセンター社員としてこれから対応を始める児玉には特に気をつけて欲しいポイントでもある。

 

「それがね。実は現地時間で50年ほど前、あそこは【掃討案件】だったんだ。その時に回収し損ねたウチの製品を、マティアスの新しい婚約相手……アンナベルが手にしてしまっていたんだよ。マティアスとしては、チートアイテムから本来の婚約者であるセラフィーナを護るために遠ざけたってわけ」

「情報量が多いですね! でも、王太子が浮気したんじゃなくて良かったです。セラフィーナさん……日本からの転生者の方が裏切られた訳じゃなくて一安心というか。ロスト特典は予想外でした。それで桜井課長が慌てて出て行ったんですね」

 

 入社したてにして、ロスト特典の重大性を理解出来ているのは見どころがある。

 

「当然、ロスト特典についてはワタシとヨジョー先輩で回収して来たから! マティアス殿下とセラフィーナさんも無事に仲直り出来て、割と良い感じに解決したからこその打ち上げなのよ。香織が異世界を担当する時も、今回みたいなケースは稀とはいえ無くもないから、頭の片隅にでも留めておいて!」

 

 そこらの異世界人が突然チートアイテムを使用してくる危険性は、常にある。

 

「だがその場合は、速やかに帰還して桜井課長へ報告すれば良いからね。俺達は今回直接ロスト特典を回収して来たけど、本来は【回収・封鎖課】に交代して貰うべきだし」

 

 四条はどんどんテーブルを埋めていく焼き牡蠣や蒸し牡蠣、氷下魚の一夜干しなんかで本命の日本酒を煽る。キリッと強い冷酒は牡蠣を食べる手を止められなくする。三ツ橋が無限に食えると言ったのも頷ける。

 

「わかりました! というか、私ではロスト特典持ちの現地人に勝てそうも無いですし」

 

 まだ戦闘訓練も碌にしていない児玉。研修で少しだけトレーニングさせられたが、いまいち戦闘のセンスは無さそうだという認識がある。

 

「ワタシだって、ヨジョー先輩がいなかったら危なかったよ。サポート課でも、もうちょっと訓練しなきゃ! ってなったかな」

 

 掃討部出身の四条くらい強く……は贅沢だけれど、現地人の攻撃を防ぐ程度にはなっておきたい。仮に今回、三ツ橋と児玉が二人でアプロディテ案件に対応していた場合。二人ともグラナダに負けていたかもしれない。

 

「三ツ橋さん、常に言ってますもんね。【掃討部のアポロン】さんに憧れているって」

「そりゃそうでしょ! 全女性社員の憧れじゃない? 男社員ばかりの終末対処部でも群を抜いて強いだなんてさ!」

 

 また言ってるよと、四条は半ば呆れながら塩の効いたポテトフライを頬張る。三ツ橋がアポロンを崇拝している事に呆れたわけでは無く、自分の直属の上司がそれだと知らずに憧れまくっているすれ違いの現状に。今は【サポート課のぶりっ子お姉さん】でしか無いのだが。

 

 とっくに一人10個の牡蠣制限を超過した頃。お酒を各々何杯のんだかもわからなくなってきたあたりで。

 

「ヨジョーせんぱぁい、ちょっとワタシ酔いがまわってきましたぁー」

 

 すっかり顔を赤らめた三ツ橋。ワインをあれだけゴクゴク飲んでいれば当然だ。呂律も少し怪しい。

 

「みつはしさん、らいじょうぶれすか? そろそろ帰りましょーか!」

 

 児玉も、いつもは飲み慣れていないワインが進みすぎたらしくベロベロだった。

 

「かおり、飲み過ぎじゃーん!」

「みつはしさんこそー!」

 

 ぐでんぐでんに、お互いの身体をさすり合う女子達。一軒目でここまで出来上がるとは。

 

「ちょっと私、トイレいきますぅ……」

 

 児玉が怪しい足取りでお手洗いへ向かった。この間に四条は店員を呼び、お会計でもするかと店内を見渡すと。

 

「せんぱぁい、この後……どうします?」

 

 三ツ橋の、アルコールで火照った顔。

 

「かおりにはこれ以上付き合ってもらうのは悪いので、タクシーで帰してからぁ……二人でどこか寄りますかぁ?」

「三ツ橋……! お前がそんなに酔っ払うなんて。ペース配分間違えてアルコールが変にまわったんじゃないか? 今日はこのくらいにしておこうか。俺もトイレ行きつつ会計してくるよ」

「えっ!?」

 

 サッと立ち上がる四条。入れ違いで戻って来た児玉は、テーブルに突っ伏する三ツ橋を見てギョッとした。

 

「みつはしさんっ!? どうしました!」

 

 背中をさすってくれる児玉。三ツ橋はゆっくり上体を起こしてから、真顔で

 

「ちょっとアプローチの仕方を間違えたわ。四条先輩には正攻法じゃ無いと駄目だって知ってたのに……! 酔った後輩女子に手を出す人間じゃ無いのに……!! ワタシのアホっ」

 

 とても良い滑舌で何やら反省を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














肉には赤、魚介には白って誰が決めたんだ?と心の中の雫さんが聞いてきましたけど、まあいいじゃん


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