こちら異世界サポートセンターでございます   作:いたまえ

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三十四話 貞操観念逆転世界で求めるは三ツ橋

 

 

 

 午前中の、まだ誰も外出していない社内。

 サポート課、課長デスク前。座る桜井の正面に立った四条は小声で

 

「課長。納品も終わって今ヒマなので、例の貞操逆転世界へ行ってあげなくもないですよ?」

 

 と、数日前には【決して行きたくない】と語った世界への意欲を見せた。ちょっとした事では動じない桜井でも目をパチクリさせ、後輩社員三ツ橋に至っては勢いよく立ち上がり

 

「下着姿のJK目当てっすか!? どうしたんですヨジョー先輩、藪から棒に!!」

 

 四条のToLOVEるを回避するため、ツカツカと課長デスク前にやって来た。

 

「あー、そうだよね。これだと俺が貞操観念逆転世界を担当する気になったように聞こえたよね。けど違うんだな。課長、これを見てください」

 

 四条はコピー機から、印刷したA4用紙を数枚桜井に手渡す。伝説の剣を納品し、緊急の要件も無いためイスタルテ案件の社内ファイルを適当に眺めていた四条。そこで無視できない内容を発見したのだ。

 

「どれどれ? ……これは、イスタルテ様の【A-27】に関する情報かしら」

「はい。前任者の吉田さんが残したものです」

 

 三ツ橋と、聞き耳を立てて興味がわいたのか児玉もプリントを交互に読む。

 

「四条君。再確認するけど、これは吉田君が作成したもので間違い無いのよね?」

 

 桜井が用紙を手の甲でパンッ! と叩く。

 

「はい、その情報は現担当の俺も知れませんでしたから」

 

 読み込んでいた後輩女子二人も、問題の文を発見する。吉田が退社する前に作られたとしたら、あり得ない内容があった。

 

「魔王の娘についてのメモ……ですか!?」

 

 三ツ橋は反射的に四条を見た。この情報は、先日の夜間対応時に四条と三ツ橋が魔王を倒して得たものだ。世界を担当する女神、イスタルテでさえ知らなかったというのに。当然、当時の吉田が把握している筈がない。

 

「要するに吉田さんは、イスタルテ様や上長への報告義務を怠ったという事ですか?」

 

 児玉が整理する。四条は腕を組んで

 

「怠ったのならまだ良いけど、あえて報告せずに会社まで辞める覚悟で隠蔽したんじゃ無いかな。魔王の娘をどうして隠す必要があったのか、この吉田さんにしかわからないようなメモでは読み取れない。可能なら本人に確認したいところだから、貞操逆転世界……【F-31】だっけ? に、行こうかと思う」

 

 ちゃんとした理由があって、三ツ橋は一人胸を撫で下ろす。このまま四条も永住するパターンは避けられそうだ。

 

「話はわかったわよ」

 

 桜井はため息を一つ。

 

「もしも吉田君がイスタルテ様の不利益になると知った上でこんなことをしたのなら、重大なコンプライアンス違反ね。お詫びに納品したばかりの伝説の剣を無料にするとかってレベルじゃなく、即座に終末対処部に応援要請をし、無償で【A-27】を掃討しイスタルテ様に謝罪しなきゃ駄目だわ」

 

 でなければ、あえて魔王の娘を隠しイスタルテに商品を売りつけた事になってしまう。

 

「吉田君の所在を追えるのは、仮の身分として用意していた高校の用務員ってとこまでよ。それ以降職を変えたりしてたらお手上げね。ただし、状況が状況だから捜索アイテムの使用許可は出しとくから」

 

 桜井が申請書を作成する為、キーボードのタイピングを始める。

 

「課長、ありがとうございます」

 

 四条は礼を告げ、早速出発するべく社用車のキーをボックスから取り出す。

 

「あ! 先輩、ワタシも同行を……」

 

 三ツ橋が慌ててデスクから鞄を掴み、ついて行こうとすると。

 

「ごめんね佳奈ちゃん、今回はひとまず四条君に一時対応をお願いしたいの」

「ええっ!? しかし、先輩がミイラ取りになったらどうするんすか」

 

 今となっては真実か怪しいが、吉田は貞操観念逆転世界で現地人と付き合って異世界サポセンを辞めたと聞く。男性の四条一人は少々不安だ。

 

「その場合、私が責任をとって四条くんを殺すから安心して!」

 

 ウインクと共に、課長はサムズアップ。

 

「殺されるのかよ、俺!? 吉田さんは見逃されて!」

 

 四条が社員証に色々とインストールしつつ律儀に突っ込む。

 

(課長には悪いけど、元掃討部のヨジョー先輩を殺すのは無理じゃないっすかね)

 

 三ツ橋は言葉には出さないが、四条と桜井のバトルを想像した。桜井の戦う姿は見たことが無いが、恐らく四条よりは弱いと予測する。

 

「あー、四条くん。今回は担当の女神様を経由せずに異世界へ行って欲しいの。つまり……」

「わかりましたよ、大丈夫です。では行ってきます」

 

 桜井が全てを説明する前に四条は了承した。異世界サポートセンターのブランドイメージを下げない為に、今日は担当女神にも秘密で異世界に行かなくてはならない。

 

「先輩! 女子に気をつけるんすよー!」

 

 三ツ橋の気の抜ける見送りに肩を落としながら、四条はエレベーターに乗った。いつもなら駐車場から社用車で目的地へと向かい、女神に挨拶してから異世界へ送ってもらうのが通常。

 しかし今日目指すのはビルの最下層。一度地下2階で降り、厳重ないくつものゲートを通り抜け、そこから更に専用のエレベーターで更に地下へ。

 

 そこには、異世界サポートセンター札幌支店の終末対処部が構えられていた。

 

「やれやれだな。こんなとこ来たくも無いのに」

 

 久しぶりに古巣に戻った四条のテンションは低い。が、入らなくては始まらない。

 

「おじゃましますー」

 

 元々自分もいたとはいえ、他部署に入るのは妙に緊張する。終末対処部の広々としたフロアにいた数十人全員が四条を見た。何人か知った顔もあるが、これだけ大人数の視線は居心地が悪すぎる。フロアの一番奥に座っていた無精髭のおじさんがニヤニヤと歩み寄ってきた。

 

「おつー! 四条ちゃん、おひさー。桜井からメッセージで聞いてるよぉ? 詳しくは知らないけど、大変みたいね」

「お久しぶりです、丹波部長。よろしくお願いします」

「うんうん。これでサポート課に貸し一つだからいいのよ? 気にしなくてもさぁ」

 

 終末対処部部長、丹波は朗らかに四条の肩を叩く。フロアの中で、ソワソワと四条を見つめていた男が我慢できず駆け寄ってきた。

 

「四条さん!」

「お、鷹野か。元気?」

「はい! またお会い出来て嬉しいです」

 

 かつての四条の後輩、鷹野。小柄な体格に幼い顔立ちで、幾度も苦難を共に乗り越えた戦友だった。基本的に終末対処部はこのフロア以外で社内の人間と会話する事は無い。時々遠目に顔は見ていたが、言葉を交わすのは数年ぶりだ。こうした【イレギュラー】が無ければ、旧交をあたためる事も無い。

 

「鷹野も、四条ちゃんに戻ってきて欲しいみたいよ? どうかな、数年ぶりにさ! サポートしてばっかなんか退屈しちゃうべさ」

 

 丹波が肩に手を回し、鷹野が目を輝かせる。

 

「四条さんならブランクがあっても即戦力ですねっ」

「いえいえ、もう足手まといですから俺なんて」

 

 鷹野には申し訳ないが、掃討部には絶対戻りたく無い四条は謙遜しつつお断りした。悲しそうにする後輩男子には心が痛いが、戻ったら今度は四条のメンタルがヤバい。

 

「積もる話は戻ってからでいんじゃなーい? ほら、もう準備はしてあるからさっ」

 

 丹波が指差す先には複数のゲート。女神を経由せずに、異世界サポートセンターが管理する異世界へダイレクトに行ける特別なもの。存在が秘匿される終末対処部には必要不可欠なので、こうして事務所から直通で異世界へ向かえるようになっている。

 これは社内的にも一部の人間にしか知られておらず、だからこそ三ツ橋は同行出来なかったのだ。

 

「F案件だなんて、四条さんの無駄遣いですよ」

 

 鷹野は肩をすくめる。

 

「だよねぇ、部長もそう思うなぁ! うっかりゲートの目的地をS案件に間違えとこうかな? なんて」

「それは本当に勘弁して下さい……装備も無いし」

「いやいや! あるでしょ? 社長の傑作がさぁ」

 

 四条専用の武器は掃討部なら皆知っている。社員証の設定に関係無く、肉体に常備されていることも。桜井よりも上の立場である掃討部部長。おちゃらけた雰囲気も、したたかだ。

 桜井と四条の二人が同時に終末対処部からいなくなった際には、かなり不機嫌だったと聞いたこともある。四条の能力を随分買ってくれているらしい。

 

「……では。いってきますので!」

「お気をつけて、先輩。帰ったらあの当時のメンバーで雑談しましょうね!」

 

 鷹野の見送り。女性関係で四条を信頼していない三ツ橋との差が凄い。

 

「部長も、四条ちゃんの帰り待ってるからねぇっ」

「……はい」

 

 一人称が部長の髭面に呆れつつ、四条はゲートをくぐった。否が応でも当時を思い出し、とんでもなく鬱な気分になる。これから異世界のモンスターを掃討しに行くようなメンタルに、どうてしてもなってしまうのだ。

 

 ◇

 

「ここは、もう異世界なのか……?」

 

 ゲートをくぐると四条は屋外にいた。人のいない路地裏が出現位置に設定されており、大きな通りへ出てみた。見知らぬ街だが、日本のどこかと言われれば納得出来る。ビルや車、道路に草木。さっきまでいた現実世界と何も変わり映えしない。

 だが、ビルに設置された広告、看板には心なしか男性が多い。それも少々センシティブなものが。

 

「貞操観念逆転の影響とかだったりするのかな、アレも」

 

 まだピンと来ていないが、注意するとしたら女性との接触になるのだろうか。掃討部のゲートを使用する関係上三ツ橋を連れて来れなかったが、彼女は貞操逆転世界のサポート経験者。いてくれれば心強かったというのに。

 ふと気がつけば、道ゆく女性が四条の顔をジロジロと観察してくる気がする。すれ違い、通り過ぎた後に振り返ってまで見てくるのはあまり無い。気のせいか? と、これは自意識過剰なのかと四条は意識しない事に。

 

 今度は若めの女性二人とすれ違う。

 

「今の見た? スーツ、エロくね?」

「ね! でもやっぱ夏の薄着がいいわー」

「あー、確かにぃ」

「なんなら裸で街歩いててもいいまである」

「それは……良すぎん? しかも若い男だけね!」

「それな! きゃははっ!」

 

 品定めされた後に、およそおじさんからしか出て来ない知能ゼロな会話が背後でされており、四条はとっとと吉田と話して帰ることを決意した。

 

 この世界は危険だ。アプロディテの世界でグラナダと対峙した時よりも警戒を強めなくては。

 

 吉田がいた学校の情報を見ながら、とりあえずはそこを第一の目的地と決めた。まだ用務員として務めていれば最善。次善でも手掛かりが掴めるかもしれない。社用スマホであれば異世界でもナビは機能する。

 

「いやいや、学校遠すぎるよ」

 

 丹波部長に細かい座標までは指示していなかった為、割と歩かされそうだ。交通機関も利用しなくては今日中につかないだろう。四条が【本気】で走れば話は別だが、この日本と変わらない世界では極力目立たぬよう行動しなくては。

 

 用務員の勤務形態はわからないが……とりあえず、放課後までに学校へ到着したい。四条は聞いたことも無い駅で電車に乗る事に。

 朝の通勤ラッシュ時のみ男性専用車両が存在しており、反対に女性専用車両は無さそうだった。結構混んでいるものの、もう時間外なのでどの車両にも女性が乗っている。さっきの二人組みたいな思考の女性も紛れているのだと考えると、ちょっと嫌だ。痴漢に間違われないよう女性が両手で吊り革を掴んだりしている。男が痴漢に怯える世界。

 

「早く帰りてぇ……」

 

 周囲にはたくさん人がいるのに、四条はつい独り言を漏らしてしまっていた。ギチギチの車内で、押されるようにして四条の背後にピッタリくっついて来た女性。その鼻息が少しだけ荒い気がするのも、きっと考えすぎだろう。これが噂に聞く新型痴漢なのか。手では無く、鞄で四条の尻をさするような動き。偶然か? どのラインなら駅員に突き出して良いか判断がつかない。

 

 そういえば、この世界には元々吉田がサポートしていた転生者もいる。恐らくはこうした状況を楽しめるタイプの人種なのだ。四条がもしも寿命逸脱ケースとなり、お詫びとしてこんな世界に飛ばされるとしたら。まだ消滅の方がマシだと感じた。

 

(助けてくれ、三ツ橋……! 或いは課長、又は児玉さん!!)

 

 普段、夜遅い時間に女性を送るのは男の役割だ。心配し過ぎだよ、なんて軽く考えていた面が四条にはある。いざ自分が狙われる側になって初めて、その心強さが理解できた。こんな世界、見知った女性が隣にいてくれるだけでどれだけ安心か。

 

 吉田の後釜として担当者を決める際には、絶対女性にした方がいい。帰社したら速攻で桜井にそう伝えようと、四条は忘れないうちにスマホのメモに残しておく事にした。











やっと吉田案件に触れましたね。三話から、結構長かったですな
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