こちら異世界サポートセンターでございます   作:いたまえ

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三十五話 保護者同伴

 

 

 電車を乗り継ぎ、やっとの思いで吉田が用務員をしている学校の最寄り駅へ辿り着いた。ここまで来るのに精神を消耗した四条は途中、休憩する為にコンビニでコーヒーを購入する。

 異世界でもコンビニの姿に変化は見られず。買い慣れた、お店で淹れるタイプのホットコーヒーを会計した。

 

 店の前で湯気を息で飛ばしながら、挽きたての香りを楽しんでいると。

 

「ねえ」

 

 正面に立ったふくよかなオバさんに声をかけられる。道でも聞きたいのだろうか?しかし、四条には土地勘が無い。仕事で出張に来たと伝えて断ろうなどと考えていれば。

 

「お兄さん、幾ら?」

 

 脂で束になった髪の毛。流行では無い化粧。初夏の汗ばんだ様は、清潔感があるとは言い難い。そんなオバさんに値踏みされ、四条は暫く理解が追いつかなかった。

 

「一応聞いておきますが、海鮮のいくらでは無いですよね」

 

 いくら丼を奢ってくれるとか、日曜の夜にシンドロームを引き起こす国民的アニメの登場人物に関する話題の可能性もある。念の為確認すると。

 

「あらぁ?結構ウブそうな見た目だけど、割と明るい系?いいわねぇ。お兄さんが相手してくれるなら、【4】とかでもいいわよ?」

「なんの数字ですかそれは!?申し訳ありませんが、仕事中なので貴女の相手をする時間はありません」

「じゃあ、平日の昼間から男一人で突っ立ってんじゃないわよっ!……紛らわしいわね全く。見ない顔だから変だとは思ったけど」

 

 何故か罵倒されてしまった。プンプンと怒りながら去っていく値踏みオバさん。初対面の不潔なオバさんに値踏みされ、罵倒された四条がすするコーヒーはいつもより苦い。消耗したメンタルを回復する為の休憩で更にメンタルを抉られるとは。

 

「この世界……若い女の子に迫られるのみならず、ああいう年配女性にも狙われるって事か。吉田さんは自分で選んだのだから良いとして、転生者君は無事なのかな」

 

 実際にここへ来るまで、【何をサポートするんだよ】などと思っていた四条。だが、今のやり取りで転生者にも割と危険は多い世界なのだと認識を改める。男子高校生であれば、犯罪者集団に狙われる危険だってあるのかもしれない。そんな世界を寿命逸脱ケースの転生先に選ぶのはナンセンスだとさえ感じてくる。

 兎に角。ここから少し歩けばようやく高校に到着するぞと、四条がナビを片手に気を取り直して歩き出すと。

 

 ……道ゆく警察に職質されてしまった。

 

「ちょっと、そこの貴方!保護対象なのに一人で歩いてちゃダメでしょうっ?」

 

 三ツ橋と同世代くらいの女性警察官。警棒と拳銃をしっかり装備している。異世界の国家権力に目をつけられては業務に支障が出る恐れもある。ここは逃走の為、社員証にインストールしたスキルを使用すべきか。逡巡し、それよりも気になる単語があったので一旦応じる。

 

「保護対象……ですか。私が?」

 

 細く見えるが、元掃討部として鍛え抜いた四条はスキルやアイテムが無くとも卓越した身体能力の持ち主だ。三ツ橋を軽々と持ち運べる程度には。そんな大の男を捕まえて保護対象とは。四条が自分?と指を刺すと、女性警官は頷く。

 

「貴方以外に誰がいるの?さっきも女性に声をかけられていましたよね。女性と一緒じゃないんですか?」

「いえ……一人ですけど」

「危機感が無さすぎます!!」

 

 凄い剣幕だった。

 

 なんだか怒られてばかり。こんなことなら、この世界についての資料も読んでおくべきだったかと反省。一旦帰って三ツ橋を装備してくるのも検討しなくては。しかし、何度も世界を行き来しては流石に女神に勘付かれるかもしれない。

 

(やれやれ。社内でエクセルを開いて閉じてた方が良かったな、これなら)

 

 たかが吉田一人を探すだけなのに、世界の仕組みが違えばこうも勝手がわからないものか。四条は最早スキル・アイテムを贅沢に消費して目的を達する事も視野に入れ始める。

 

「常識ってものが無いんですか、貴方は!」

「常識て……」

 

 どうやらこの世界、男性一人で出歩くのは常識知らずらしい。

 

「とりあえず保護しますから、一緒に交番まで来てくれますか?それから、誰かおうちの人に電話して迎えに来て貰いましょう」

 

 小学生ぶりの扱いを受けるアラサー四条。確かに言われてみれば、この世界に来てから男をあまり見ない。いたとしても、側には女性がいたように思う。先ほどのオバさんに声をかけられた件を女性警察官が危険視した事から、ここでは女性が男性を襲いかねないとでも言うのか。だとすれば、貞操観念が単に逆転したのでは無く、長い年月をかけて価値観、社会構造までもが歪んだ日本なのだ。

 

「生憎独り身なもので。頼れる女性もいません。なので、これ以上私にはお構いなく。襲われても自己責任という事で」

「独り身……頼れる女性もいない……」

 

 刹那。女性警官の目がキラキラしたが、四条に気づかれる前にキリッとした目つきに戻った。

 

「あのですねぇ、ならボディーガードを雇うべきでしょう?もしかして記憶喪失だったりします?このまんま貴方を解放するのは、警察官失格なので出来ないんですよね。抵抗すると公務執行妨害になりますから、大人しく従ってください!」

「ええー?そうなってしまいますか……」

 

 ボディーガードまで付けるレベルだとは。元の世界で考えると、スラム街だと思って差し支えなさそうだ。吉田も、転生者も、女性に怯えながら生きているのだろうか。

 

「さあ!行きますよっ」

 

 女性警官に手を握られ、先導される。これでは本当に迷子の子猫ちゃんだ。だんだんと女性警察官の手が熱くなり、汗ばんできてるのはきっと生理現象であって、やましい事を考えているわけでは無いと信じたい四条だった。

 

(少し付き合って、ここについて知っておくか)

 

 吉田が万が一敵対してきたパターンを考えれば、この世界についての知識の有無が結果を左右しかねない。なんらかの法律やルールで搦められ、女性警察官に包囲されては面倒この上ない。指名手配なんてされてしまえば、2度とこの世界での活動も出来ない。情報収集は大事だ。

 

「そういえば、貴方のお名前は?身分証ある?」

「ええっと、こちらに社員証が」

 

 四条は首から下げた社員証を見せる。最低限の機能がインストールされた社員証には暗示の効果が備わっている。異世界でのこうした職質などで、相手にそれ以上の追求をさせない便利なものが。

 

「四条さん……ね。ここへはお仕事?」

「そんなところです。男性一人って、やはり目立ちますか?」

「目立つなんてものじゃないわよ。四条さんを見てたのはあのオバさんだけじゃないんですから。なんせ高校が近いでしょ?ピチピチのDKを一目見る為に待機してる人だっているのよ。そこに一人、サラリーマンが立ってたら良い獲物です」

 

 DKがタルを投げてくるキャラクターでは無いのは、流石に四条にもわかった。

 

「なるほど」

 

 前に吉田が用務員室で下着姿の生徒に囲まれたという話、あれも今なら不思議では無いと思える。

 

「ところで、お巡りさん」

「なんです?」

「商談に遅れそうなので、その高校までついて来てくれませんか?それが終わったら交番へ行きますから」

 

 なんにせよ、女性と行動しないとオバさんや警官に目をつけられてしまう。ならばいっそ、この女性警官に同行して貰うのはどうか。

 

「四条さんのお仕事って学校関係なんですか?」

「はい。なのであの駅前のコンビニにいたんですよ。すぐ済みますので、どうかお願いします。私には頼れる女性が貴女しかいませんので」

 

 真正面から頭を下げる四条。用事が終わったら交番へついて行く条件もつけた。すぐそこの学校へくらい、一緒に来てくれても良さそうだが……

 

「頼れるのは私だけ……?な、なら仕方ありませんね。あくまでも目的は貴方の保護ですし。お仕事が終わったら、その後はボディーガードを雇うなりするのを見届けますからねっ?」

 

 あっさり了承してくれた。

 

「ありがとうございます、お巡りさん」

「……高瀬です」

 

 男性に真正面から見つめられる経験はあまり無いのか、女性警察官……高瀬は目を逸らす。ぶっきらぼうに名乗ったが、耳まで赤くなっている。

 

「はい。よろしくお願いしますね、高瀬さん」

 

 不気味で、どこに危険があるかもわからない貞操逆転世界で、幸先よく四条は国家権力について来てもらえる事となった。

 

(警察官を味方につけられたのデカいな。これなら三ツ橋や桜井課長に応援を出さなくても済みそうだ)

 

 なにせ、四条の目的は用務員の吉田に会うだけ。高校にいてくれれば言う事なしだが、いなければ出直しすれば良い。こんな面倒に巻き込まれなければ、吉田の痕跡まで追いたかったところではあるが。

 

(一応、義理立てとして交番には顔だけだして、適当に帰っちゃえばいいからな)

 

 少し肩の荷が降りた気分。こんな世界、とっとと去るに越したことはないのだから。

 






保護者 警察のお姉さん
保護対象 元終末対処部・掃討課:ネームレス
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