こちら異世界サポートセンターでございます   作:いたまえ

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「前日に仕様変更してごめんね」

「いいよ!」








六話 仕様変更

 

 

 魔王とその部下が撃退された光景を見ていた王都の兵士達が歓喜に湧き立つ。その数、約100人ほど。王女や田中と一緒に魔王に対抗する為集まったものの、あまりの能力差に見ていることしかできなかった。

 

 王族の血を引くエイリーンは生まれながらに非常に優れた身体能力の持ち主で、剣術の英才教育を受けており、代々王族に伝わる剣を装備すれば世界屈指の戦闘力を誇る。もう一人、2日ほど前に王女が直々にスカウトして来た異国の少年タナカ。なんでも、王女によれば遥か遠い地に住む魔を討つのが生業の民族なんだとか。確かに、荒削りだが卓越した戦闘能力を見せ、将来は魔王との戦いに役立ちそうな片鱗を感じさせた。

 

 そんな二人が目の前でやられ、兵士達は今日が人類最後の日だと諦めていたのだが……突然現れた四条達によって救われれば、喜ばずにはいられない。兵士らには四条と三ツ橋がどこの誰かはわからないものの、あの強さはまさしく勇者と呼ぶべきもの。

 

「すごい歓声っすねぇ。王女様と田中様がやられて絶望的な状況だったから、無理もないですか」

「だろうね。俺が兵士の立場でもブチ上がるわ」

 

 自分達が称賛されているのにどこか他人事な二人。このあたりは、現地の人間と深く関わらないべしという新入社員の頃の教えが根付いているのか。

 

「あの黒髪に黒目。彼が王女様の言っていたヨジョウ様じゃないか!?」

「そうだ……!きっとそうに違いないっ……あの強さ、まさしく勇者だ!」

 

 兵士達は2日前に王女を助けた男の特徴が四条と一致するのに気がつき、更にボルテージを上げる。

 

「熱気やば、ライブ会場みたい」

 

 三ツ橋の例えを聞いたヨジョウは、アーティスト目線ってこんな感じかな?なんて呑気に考えた。自分が勇者と評されているのも知らずに。

 

「あ、王女様が目覚めたっぽいっすよ?」

 

 遠巻きから兵士たちの様子を眺めていると、気を失っていたエイリーンが上体を起こして。

 

「ま、魔王……は……?」

 

 まだ虚な目で側近の女騎士に問いかける。相当なダメージを受けているのか、口を動かすのも辛そうだ。

 側近が王女の身体を支えながら

 

「ご安心下さい姫様。魔王とその部下なら、あちらにいる勇者様方が退けてくださいました!」

 

 四条達の方を指差す。

 

「あれは……!!」

 

 四条の姿を視界に入れたエイリーンは数秒の硬直の後、みるみる顔に生気を取り戻して

 

「ヨジョウ様っ! やはり来てくれたのですねっ!」

 

 全身が痛んで仕方ないのに、そうは感じさせない足取りで四条まで駆け寄る。

 

「私、信じておりましたわ。ヨジョウ様がきっと助けに来てくださるとっ。貴方様は、一度ならず二度までも、私の命を救ってくださいました。このご恩……いかにして返せば良いのか。この身を捧げてもなお、到底及ばぬことでしょう」

 

 涙ながらに四条の手をとる王女。

 

「こ、これはこれはエイリーン様。ご無事で何よりです。恩を返していただく必要はありませんよ」

「ふふっ、わかっておりますわ。魔王を倒したのは仕事ですから、とおっしゃるのでしょう?」

「流石ですね、その通りでございます」

 

 エイリーンが四条の助けを希望に気を失うまで戦ったと思えば、無碍に手を振り払ったりは出来なかった。営業スマイルで再会の挨拶をする。四条の笑顔がいつもより歪なのは、エイリーンの勢いに圧されてのこと。

 

「ちょっ!? なんすかその距離感はっ!! 近い、近い!」

 

 三ツ橋が王女の態度に目を見開く。高貴なお姫様な上に強いなんて、幼いのに凄いなぁ、なんて気持ちで見守っていれば。四条に抱き付かんとばかりに寄ってくるだなんて。

 

「な、なんですの貴女はっ!?」

 

 王女が初めて三ツ橋をまじまじと見る。四条しか見えていなかったらしい。

 

「ワタシは三ツ橋と言って、四条先輩の部下ですっ! というか王女様こそ、何勝手に先輩の手を取ってんですか!」

 

 三ツ橋が四条とエイリーンの間に割り込もうとするが、固く握られた手は離れない。

 

「ミツハシ様ですか。勝手ではありませんっ! 二度も命を救ってくださったのですから当然ですわ!」

「当然って……! ちょっと先輩、どういうことっすか? 吉田さんみたいに、ここに永住するつもりじゃないですよねっ!?」

 

 矛先が四条へ。

 

「なわけないだろっ!? 落ち着けよ三ツ橋」

「これが落ち着いていられますかっ!」

 

 すすきののバニーガールにデレデレするこの先輩社員には、こうした伏兵も存在するのかと三ツ橋が認識を改める。異世界での戦闘など朝飯前だとして、例えばこの王女が「ずっとここにいて下さい!」と土下座でもしてきたら断り切れるのか。

 

「王女様も、身を捧げるとか簡単に言っちゃダメですよっ、お立場あるお方なんですし。そう言うのは結婚する時に言うもんです!」

 

 三ツ橋が人差し指を立てて年下の王女を叱る。今の時代男だ女だという考えは変わってきているが、それでも言わずにいられない。

 

「結婚……ですの? 私と、ヨジョウ様が……」

 

 目を輝かせる王女。

 

「そうですわね、それも……この国には良いのかもしれません。民心を鎮め、諸侯を束ねる【象徴】としては、ヨジョウ様とのご婚姻は理に適っております。元老院での審議は要しますが、これだけ多くの兵士が見る中で魔王を退けたのなら皆納得するでしょう」

「満更でも無い顔すんなっ、……この小娘!」

 

 なかなか引き剥がせないエイリーンに、ついに痺れを切らした三ツ橋が小娘呼ばわり。現地人との距離が近いのは果たしてどちらなのか。

 

「ええっと、お二人とも落ち着いて。三ツ橋、エイリーン王女に失礼ですよ? 言葉遣いに注意してください」

 

 冷や汗をかきつつ、四条がどうにか沈静化をはかるも

 

「【必要以上の現地人への干渉は禁ず】。新人研修の時、先輩がワタシに教えてくれましたよね。……やっぱ帰らずについて来て正解でしたよ、ヨジョー先輩?」

「うーん、それはそうなんだけど」

「こんな幼い王女様にも鼻の下伸ばすとか。ワタシがシャワー浴びるのも禁止してくるし、先輩の性的嗜好はイチローの外野守備くらい範囲広いっすね」

「確かにイチローは10年連続ゴールドグラブだけども」

 

 三ツ橋の昂りは収まらなさそうだった。このままだと帰りの車内も冷え冷え間違いないのでどうしたものかと四条が思案していると。

 

「……ぐぅっ」

 

 背後で倒れていた魔王が起き上がった。これを逃す手は無い。

 

「あ! 三ツ橋にエイリーン様、大変ですっ。魔王さんが起き上がりましたよ!」

「「えっ!?」」

 

 言い合う女子二人も、周囲の兵士たちも。皆起き上がった魔王に最大限の警戒。ようやくエイリーンが離れてくれたので四条は息をつく。

 

「ヨジョウ……まさこの私の全力を……やぶるとは」

 

 視線だけで四条を殺さんとばかりに睨む魔王。

 

(あのダメージで立ち上がるか? 普通)

 

 魔王の想像以上のタフネス。四条が過去に戦った敵よりも遥かに高い生命力。こういう予想外の動きを見せた敵は警戒しないと思わぬ痛手を負うかもしれない。

 

 勝負は下駄を履くまで……請求書通りに支払いがされるまで油断ならない。

 

「まだやるおつもりですか?」

 

 王女には手を握られ、三ツ橋には怒られ。二人の女性を相手にタジタジだった四条は、脅威を感じさせる魔王に対峙し別人のように冷たい表情に切り替わっていた。

 

「……憎らしい男だ。貴様さえ現れなければ……そこの王女だけであれば、なんて事は無いというに」

 

 魔王が喋る度、口から血を吐き出す。風前の灯だが、その目には力が残っている。逃亡どころか、まだ攻撃してくるかもしれない。

 

 しかし。

 

「私は……ここで果てる」

「えっ?」

 

 まだ即座には死ななそうな魔王からの、自分はここまで宣言。誰よりも焦ったのは四条だ。

 

「お、お待ちくださいっ! 魔王さん、貴方にはまだ余力がある筈では!?」

(ここで自害されるとイスタルテ様のシナリオも崩れる。被害の計算も、請求も、全部やり直しだ)

 

「何故貴様が焦るのだ、ヨジョウ」

 

「焦ってなどは……おりませんよ?」

(別料金と、シナリオ変更の手間が発生するからだよっ!)

 

「ふん。我が一族は一子相伝。私がここで自害すれば、この肉を形成している魔力が全て我が娘に引き継がれる。そうなれば、エイリーンなど塵も同じ。ヨジョウ、貴様すら凌ぐ強さを得るだろう」

「お嬢様……ですか?」

 

 魔王に娘がいるなど、イスタルテからは聞いたこともない。吉田の報告書にも。最近産まれたのだろうか。死んだ親の魔力を受け継いでパワーアップする特性も初耳だ。

 

「馬鹿な……」

 

 四条はショックで肩を落とす。ふらふらと、倒れてしまいそうだった。

 

「先輩! 気を確かに」

 

 咄嗟に三ツ橋が支える。

 

「フハハ! ようやく、真に絶望したようだな。貴様ほどの強者の恐怖……冥土の土産にいただいておくぞ」

「……確かに、貴方にご息女がいたとは存じませんでしたが」

 

 四条の反応は魔王からすれば実に痛快。最後の最後にしてやったりといった風。

 

「それはそうだ。アレの存在は、女神にさえ見つからないよう隠しておったからな。我が野望を引き継いでくれる者として大切に育てていたのだ」

 

 女神イスタルテから話が無かったのは、魔王が娘を秘匿していたかららしい。今頃はこちらを観察しながらイスタルテもビックリしていることだろう。女神に落ち度は無いが、こうなると必然的にシナリオも変更しなくてはならない。最初から剣を正しく発注し田中が魔王を倒せていても、平和は訪れていなかったことになる。

 

「まさか。魔王に娘がいただなんて……これでは、民の希望が……」

 

 エイリーンも顔を青ざめさせる。その存在は王族の情報網でも掴めていなかった。しかも、魔王にさえ到底敵わなかったというのに、それ以上の強さを持つだなんて。魔王の話が本当なら、頼みの四条でも勝てないのではと考える。……一縷の望みが消え去ったのかもしれない。エイリーンは四条に助けらたことで忘れていた身体のダメージを思い出し、目の前が真っ暗になる。

 

「さらばだヨジョウ。我が野望を打ち砕いた者よ」

 

 魔王は勝ち誇ったかに笑い、自身の手刀で【核】を貫いた。四条によるダメージで崩壊寸前だった核が完全に破壊されて、魔王も魔力に還り散る。

 魔力は分散することなく、規則的な動きで渡り鳥のようにどこか遠くを目指し離れていく。きっと、その先に魔王の娘がいるのだろう。

 

 魔力を追って娘の場所を突き止めようか思案したが、それも追加で費用を貰う内容だ。今やるべきでは無い。

 

「俺はてっきり、後は田中様が魔王さんを突き刺せばここのサポートも終わりだと思ったのに……」

「先輩、どんまいっす! 王女様に懐かれて良い気になってたバチが当たったのでは?」

「良い気になんてなってないよ。……お前、どんだけ気に入らなかったんだよ」

 

 四条の絶望が魔王の娘に向けたものではなく、自分の業務が終わらなかったショックだったのを知らずに逝けた魔王は幸せだったのかもしれない。

 

「魔王の娘、言い方的にはまだ幼そうだったけど……この世界の1日は日本での5時間だから、俺らが半年地球で過ごせば魔王の娘は2歳半育つ。日本で1年ならこの世界で5年だ。早いとこ見つけて田中様に娘を倒して貰わないと、どんどん力を付けて厄介になるぞ……」

「ふーん、5倍速なんすねぇ。それは早いとこどうにかしなきゃですねぇー」

「あれ三ツ橋さんてば、なんか他人事……?」

 

 腕組みをして考えてる風だが、三ツ橋から熱心さは感じられなかった。

 

「だってワタシ、そもそも担当じゃないですし」

 

 今日はたまたま四条について来ただけで。

 

「結構薄情だなぁ……」

「なんかあれば助けてあげますけどねっ!」

 

 未だに気を失ったままの少年、田中をチラ見した四条は【伝説の剣:LS-80】を納品してもすんなりとは終わらない気がしてならなかった。

 

「課長にも報告だし、イスタルテさんとも打ち合わせしなきゃだし。とんだ世界を引き継いじゃったな」

 

 時間的にはまだぐっすり眠れるのに、心労が増えた為寝付けるかすら怪しくなってしまった。

 

「ヨジョウ様。ミツハシ様。今、城のものに急ぎで食事の準備をさせております。魔王の娘は無視出来ませんが……魔王を倒したのも事実。まずは英気を養いませんか?」

 

 2日ぶりのエイリーンからの誘い。四条達の答えは誘われる前から決まっていた。

 

「王女様。お誘い誠にありがとうございます。ですが、遠慮させていただきます」

「……やはり、そうですか」

 

 下を向き、服の裾を握る王女。断られるかもと予想はしていたが、実際に言葉にされると心にくる。王女の誘いに乗らない人間など会ったことがないので、慣れていないのだ。

 

「ではせめて、またお会いできますよね?」

「ええ、きっと」

 

 急な担当替えや異動が無い限りは。

 

「きっとですよ」

 

 エイリーンには、今はこの約束だけで心が満たされる。きっとまた四条は自分の危機に来てくれる。確証なんてものは無いが、そんな気がするからだ。

 

「……なんで、王女があんな親しげに話してるんだよ。誰だあの日本人」

 

 王女と四条のやり取りを、意識を取り戻した田中が遠くから見つめていたのだが、誰も気づくことは無かった。

 

 

 

 ◇

 

 その頃、遥か遠く。人間が一度も踏み込んだことの無い、魔族の聖域である大森林。

 

 その深い森に隠された洞窟の奥で、幼い少女がひとり眠っていた。

 

「……お父様?」

 

 夢を見ていた。父親に頭を撫でられている夢を。

 

 閉ざされていた瞼が開かれると、そこには幼さと、底知れぬ魔の光が同居していた。

 

 散り散りになった魔王の魔力が、まるで渡り鳥の群れのようにどこからかやって来て、次々と彼女の身体に吸い込まれていく。

 

 これは、少女にはわかる。

 懐かしい、優しかった父親の魔力なのだと。

 

 次の瞬間。洞窟の外に待機していた魔族の残党が、一斉に跪いた。

 

「……新しき主よ」

 

 幼い少女は、不思議そうに小首を傾げながらも、その小さな胸に膨大な魔の力を宿していく。

 

「じいや。主って、なんのこと?」

 

 昨日まで孫に接するような態度だった世話係の年老いた魔族も、今は従者のように幼き少女に傅いている。

 

「本日から、貴女様こそが……我々の王です」














エイリーン
「城のものに食事を作らせています。もちろん来てくださいますわね?」

ヨジョウ
「エイリーン、お前を殺す」

デデン!
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