交差する次元、シュテルン   作:ろいど

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デュラクと、その作り手であるアルマの過去になります。
キャラの深い部分に触れているので、良ければ見て行ってください。

過激な描写が含まれます。ご注意を。


紡ぐは復讐の調べ

「書いておくべき事柄はこれくらいかな…。

…もう日が昇ってる。早くまとめないと…」

 

今日も薄暗い研究室で散乱したページをかき集めながら、

1人魔物の死体と共に夜を明かす。

ここには人もいなければ、リラックス出来る飲み物もない。

湧水を汲んだボトルを飲み干して、編纂作業に取りかかる。

 

私は天使長の命令で、このサンクトゥム研究棟で外界の生物を研究、

分析し記録している。

その目的は、魔物から採取できる生体器官の有用性の確認だったり、

戦闘時の効率的な対処の確率だったりと様々だ。

本来は提供された生物の研究を行うだけの孤独な役割だが、

今日は騎士隊長であるデュラクが来ることになっている。

先日討伐した新種の魔物について、騎士隊へ共有を行うために。

ちょうどその時、カランカランとドアベルが鳴らされる音がする。

 

「っ、今開けるわ!少し待って!」

 

彼は私の憧れだ。

聡明で、勇敢で、誰にでも平等に優しくて。

私のような日陰者にも、価値を見出してくれる。

 

「おはよう、アルマ。前回依頼した魔物の解析は終わったか?」

「えぇ、終わっているわ。ここ最近、魔物が増えてきたわね。」

「ああ、サンクトゥムに迷い込むことも増えてきた。

そろそろ結界を強化すべきなんだろうが、資源的にもなかなか厳しいな。」

「そうなのね。破られるのも時間の問題かしら。」

「……破られて欲しくは無いな。また多くの犠牲が出るのは避けたい。」

「魔力を持つ魔物から供給できないか研究してるけど、実用化には程遠いわね。」

「そうか。結局、俺たちはやれることをやるしかないってわけだ。」

「そうね。はい、今回の分析結果よ。体液に含まれる毒素が厄介だけど、

急所を的確につけば拡散しないみたい。狙うなら首がいいわね。」

「ありがとう。隊のみんなにも共有しておくよ。」

「…それともうひとつ、伝えたいことがあるの。」

「…?どうした?」

「なんだか嫌な予感がするの。上手く言えないけど、私の糸の先が震える感覚。

大抵は気のせいなんだけど、もしかしたらと思って伝えておくわ。」

「…わかった。具体的に何を警戒したらいい?」

「…そこまではわからないわ。ごめんね。」

「ふふ、構わない。最大限周囲に気を配っておくよ。」

「ほどほどでいいわ。あなたいつも気を配りすぎてるから。」

「そんなことはないが…お気遣いありがとう。」

「もう行くの?」

「ああ。この後は中央広場にて会議があるからな。」

「そう。相変わらず忙しいわね。」

「そうなんだ。隊長ってのも、なかなか楽じゃないな。」

「ふふ、そうね。くれぐれも気をつけて。」

 

デュラクはいつも忙しい。本当は1秒でも時間が惜しいはずなのに、

こうやって私の所へ情報を取りに来てくれる。

部下に任せたらって何度も提案したけど、「俺の仕事だから」って聞かなかった。

こういう律儀なところも、彼が信用されている所以なんだろうと思う。

それにしても、今朝方から妙な感覚がある。

糸の先が震えて、身体がぞわぞわする感覚。

不吉な予感を受け取りながらも、

徹夜で研究を行っていた疲労があるせいか、睡魔が急激に襲ってくる。

書いている研究日誌を途中で放り投げ、羽織を脱ぎ捨ててベッドに倒れ込む。

 

「…そろそろ仮眠取らなきゃ持たないわね。少し…3時間だけ…」

 

目覚まし時計もかけず、3時間で起きる気もないまま

私は気絶するように眠った。

 

次に目を覚ましたのは、もう日が落ちきってからだった。

いや、時刻的には日が落ちているはずだが何故だか外が明るいように見える。

 

「…あれ、こんなに明るかったかしら。」

 

この季節では既に暗くなっているはずだ。やけに光がオレンジだし。

嫌な、予感がする。

 

「…まさか。」

 

胸騒ぎがして窓の外を見た瞬間、ドンとなにか大きなものがぶつかってくる。

 

「きゃっ!?な、なに…?」

 

窓に張り付いたものは、白くて、赤く塗れた何か。

 

「嘘…でしょ…」

 

それは、根元から引きちぎられた天使の羽だった。

無数の魔物が空を、浮島に住む天使たちを蹂躙し、

貪り食っている光景が広がっている。

まさに地獄絵図だ。

 

「ひっ…なんで…なんでこんな…うぅっ」

 

あまりに惨い光景に嘔吐する。頭が揺れる。

何故こんなに魔物がいるのか。

結界があるのだ、そう易々と侵入できるものではない。

なにか出来ることはないか。誰かに連絡をすべきか。

幸い研究棟は、情報の秘匿のため外から侵入しづらいよう頑丈に作られている。

ここに魔物が入ってくることはしばらくないだろう。

だが、1度扉を開いてしまえば、きっとその限りじゃない。

この扉を開いて匿えば、もしかしたら誰かを救えるかもしれない。

こんな私でも誰かを助けることができるのかもしれない。

震える手で、ドアに手をかける。

ドア1枚向こうでは、微かに人々の助けを求める声が聞こえる。

 

「…無理だ。」

 

ドアにかけた手を、震えながら下ろす。

今安全な状況にいるという安堵が、判断を鈍らせ、行動力を絡めとっていく。

 

「私には…人を助けることなんて出来ない…」

 

自分の情けなさに失望し、その場に座り込む。

彼に憧れているだけで、結局自分一人では何も出来ない。

 

「ああ主よ…臆病で卑怯な私をお許しください…どうか…どうか…」

 

首にかけた木彫りのシンボルを震える手で握り、誰にも届かない懺悔をする。

段々と外の悲鳴が小さく、遠くなっていく。

魔物が移動したのか、それとも恐怖のあまり意識が保てなくなっているだけか。

目が霞んできた。私は卑怯なまま、誰にも見られず、いつか魔物に食べられるんだろうか。

そんな考えばかり頭によぎっては、恐怖のあまり嘔吐いて蹲る。

このままこのサンクトゥムは、私の故郷は…

 

「アルマ!アルマ!無事か!」

 

誰かが私を呼んでいる声がする。

 

「返事をしろ!アルマ!」

「…デュラク…?デュラク!」

「っ!無事でよかった!」

「外は、大丈夫なの…?」

「1度魔物たちは退けた。今のうちに、逃げ遅れた者を安全な場所へ避難させているところだ。」

「そう…なのね…良かった…」

 

這いずりながらドアを開けると、返り血に塗れたデュラクと目が合う。

デュラクは血みどろの手袋を外すと、優しい目で手を差し伸べてくれる。

 

「もう大丈夫だ、私たちが魔物を片付ける。。アルマは中央へ向かうんだ。いけるな。」

「えぇ…大丈夫…っ」

「一人で行けるか?」

「大丈夫よ…子供じゃないんだから…」

「そうか。ちゃんと無事でいろよ。お前がいなくなったら困るんだ。」

「ふふ、そっか。じゃあ生きなきゃね。」

「ああ。これが終わったら忙しくなるぞ。」

 

そう言うとデュラクは翼を広げ、次の戦場へと飛び立った。

 

「…仕事かぁ。なんの励ましにもなってないけど。」

 

重い体を引きずりながら、中央広場へと向かう。

こんな私でも出来ることがあるなら、せめて生きていなければ。

私は中央広場にたどり着き、避難所に張られた結界の中へ入った。

暖かくもなく、周りは傷ついた人々ばかり。

天災の悲惨さを肌で感じながら、心身の疲労には勝てず、気絶するように眠りについた。

 

翌朝、サンクトゥムは未だ混沌に包まれていた。

家族を亡くした人、住居をなくした人、身体の一部をなくした人。

様々な不幸が重なり、人の心に影を落としている。

 

魔物の群れはデュラクたち騎士隊が殲滅したらしい。

隊員にも多くの犠牲が出たと言っていた。

悲惨な話を聞けば聞くほど、安全な研究棟で助けを待つだけだった自分の

卑怯さに苛まれる。

忙しくなると思われた研究も、街の復旧を優先した上層部がストップしてしまった。

結局、私には何も出来ないのだ。

1人安全な場所で、こうやって蹲っていることしか出来ない。

 

今、サンクトゥムの上層部は、今回の事案を手引きした者がいるとして

血眼で首謀者を探しているらしい。

多分、この混乱の中では見つからないと思うけど。

 

「…主よ。なぜ私は無傷生き残ったのですか。なぜ私だけが安全な場所にいたのですか。」

 

何も失わなかったことに心底安堵しているくせに、

贖罪のように主への祈りを捧げている。

生かされた意味など考えても意味なんてないのに。

 

それから2日後、何か食べなければと思い、

まだ傷がいえて街に食べ物を買いに出かけた時のことだ。

傷つき荒んだ民の1人が、私を見て誇張した声で言った。

 

『見ろ。唯一無傷だった研究棟にいた科学者だ。』

「っ…」

 

大丈夫。こういう扱いには慣れている。

普段から魔物の死体を扱ってるし、気味悪がられるのは仕方がない。

 

『今回の災害、あいつが起こしたんじゃないかって噂だぜ。』

『あいつがいる場所だけ無事だったからな。』

 

また根拠のない噂がたっている。犯人がわかるまでの辛抱だろう。

これは卑怯な私への罰なのだと自分に言い聞かせながら、

足早に買い出しを済ませて帰ろうとした時、

研究棟への帰路を1人の男に阻まれる。

 

「…何か用ですか。」

『お前のせいで…俺の妻は…!』

「根拠のない噂です。私じゃありません。」

『返せ…返せよ…!』

「だから私じゃありません!話を聞いてください!」

『死ね!裏切り者!』

 

男は隠し持っていた刃物を取り出し、こちらへ向かってくる。

血走った目、やつれた顔、震えた手。完全に精神が壊れてしまっているようだ。

 

「っ…人に使ったことは無いけど…!やむを得ないわね。」

 

指先から糸を紡ぎ、素早く男の腕を絡め取る。

 

『な…!?』

「怪我をさせたい訳じゃないの…落ち着いて…」

『クソ…!ざけんな…!!!』

 

男は無理やりにでも腕を解こうとして、糸がくい込んでいく。

 

「止まって…!千切れるわよ…!」

『るせぇ!お前はたくさんの命を奪った!死ななきゃいけないやつなんだ!』

 

そう言うと、刃物を持った手を無理やり振り回そうとする。切っ先が糸にあたり、繋いでいた糸が千切れる。

 

「っ…!いい加減にして…!」

 

糸をより強靭に繋ぎ直すと、刃物を持った腕を縛り上げていく。

 

『がっ…あ…』

「…最後です。お願いだから話を」

『お前の…せいで…!!!』

『……』

 

アルマは腕をいっそうキツく締め上げ、腕の間接を逆に捻って外す。

 

『ぐあああああっ』

 

男は痛みで気絶し、沈黙する。

 

「…はぁ、はぁ、うぅっ。」

 

初めて能力を人に使った。

人の腕を外す感触が生々しかった。吐き気がする。

驚くほど簡単に、人を傷つけられる能力なのだと気付いてしまった。

私は、こんなことのためにこの能力を身につけたわけではない。

 

「はぁ、帰らなきゃ、研究棟へ、私のいるべき場所へ…」

 

研究棟にもどると、買ってきた食材もそのままにベッドに倒れ込んだ。

あと何日、苦しい日々を過ごさなければならないのだろう。

 

「…早く犯人が見つかるといいけど。」

 

もう食べる気力も起きない。その日はそのまま気絶するように眠ってしまった。

 

次に目を覚ましたのは、大きな衝撃音が部屋に響いた時だ。

 

「なっ、なに!?」

『アルマ・アクラーネア!出てこい!!』

 

部屋に入ってきたのは、鎧に身を包んだ男たちだった。

 

「だ、誰なの!?ここは関係者以外立ち入り禁止のはず…!」

『貴様をサンクトゥムへの反逆の罪で拘束する!』

「反逆…!?私が何をしたっていうの!?」

『来い!貴様には裁きを受けてもらう!』

「ちょっと、いっ!?いやっ、私は何もしてないっ!離して!」

 

私は鎖で拘束され、中央広場へと連行された。

そこには傷ついた市民と、天使長の姿があった。

 

「…天使長様、どういうことですか!」

『多くの市民から、今回の襲撃で貴様が手引きしていると情報が寄せられた。』

「そんな…!それは誤解です!根拠のない噂話に過ぎません!」

『事実、お前がいた研究棟だけが魔物の襲撃を受けていない。

さらに、今回討伐した魔物から、このような糸の端も多数見つかっている。

これは貴様の魔術と一致しているだろう。』

「っ、そんな…濡れ衣です!誰かが私に罪を着せるために仕組んだんです!」

 

いつ?昨日無力化した男が仕組んだのか?

周囲の市民は皆、天使長に同調している。

口々に私を罵倒し、早急に裁きを下すよう叫んでいる。

 

「待て!アルマはやってない!」

 

暴徒化する群衆の中をかき分けるように、1人の男が私を庇うように現れる。

 

「デュラク…!?」

「俺が討伐した魔物からは、そんな糸は見つからなかった!デタラメだ!」

『…デュラク、貴様も主を裏切るつもりか。』

「これは裏切りではない。この審判こそ不当だと言っているんだ!

彼女は我々騎士隊の任務に協力してくれていた!

今回の襲撃に迅速に対処できたのも、彼女が魔物の調査を行ってくれていたくれたからだ!」

『そんなものは冤罪の理由にならない。

第一、このサンクトゥムで魔物を操れるのはアルマしかいないだろう。』

「そんな、私は操ったことなんて…!」

『昨日この市民の腕をへし折っておいて、やったことがないと言えるのか。』

 

そこには、昨日襲ってきた男の姿があった。

右腕が力無く垂れている姿を見て、市民の罵声が激化する。

 

「わ、私はっ、命を守っただけでっ…」

 

周囲の怒号にかき消され、もう声は届かない。

庇ってくれていたデュラクも拘束され、共にサンクトゥムの浮島の端へ連れていかれる。

 

『裏切り者は、このサンクトゥムから永久に追放する。

二度とこの地を踏めぬよう、アルマの翼を折れ。』

「やめろ…!アルマは…やってないっ…!!!」

『…失くすのは惜しいが、デュラクの翼もだ。』

「ま、待ってください!デュラクは何も悪くない!ただ私を庇おうとしただけで…!」

『裁きを下すには充分だ。執行しろ。』

 

衛兵が持つ大きな槌が振り下ろされ、アルマの翼が砕かれる。

 

「がっ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

痛い、痛い、意識が飛ぶ。微かにデュラクの声が聞こえる。

 

「やめろっ!やめろ…彼女はサンクトゥムに尽くしてくれていたんだぞ…」

 

続いて、デュラクの翼も同様に砕かれる。

 

「ぐっ…あ…」

 

デュラクもまたほとんど意識を飛ばし、動かなくなる。

 

『2人を奈落へ落とせ。』

 

私とデュラクは、衛兵に奈落へ突き落とされた。

奈落へ落ちながら、ゆっくりと視界が暗くなっていくのを感じる。

何秒落ちるのだろう、底はどうなっているのだろう。

ふと、背中に温かさを感じる。

 

「…俺が、犠牲になる。」

「…デュラ、ク。」

 

デュラクの冷たくなっていく体温を感じながら、私は意識を手放した。

 

何時間、何日経ったのだろう。目を覚ました底は、暗く、冷たく。

地上から差す僅かな光が届くだけの洞窟のような空間だった。

 

「こ、こが、奈落?」

 

起き上がろうとして、地面が濡れていることに気付く。

むせ返るような血と、死の臭い。

 

「っ、そんな…」

 

私の身体の下で、デュラクが私を守るように地面に打ち付けられて死んでいた。

 

「デュラク…デュラク…!なんでっ、私を庇って…!」

 

私を庇って彼は死んだ。私が関わっていなければ、私が声を出さなかったら、

私が罪を認めていたら、彼は死ななかった。

 

「私のせいで…」

 

本当に?

 

「違う。」

 

私じゃない。

 

「私のせいじゃない。」

 

私は悪くない。何もしてない。彼の命を奪ったのは誰だ。

民か、天使長か、いや違う。

 

「悪いのは、サンクトゥム。」

 

そうだ。裏切ったのはサンクトゥムだ。私は、サンクトゥムに裏切られたんだ。

 

「はは、ははは。」

 

私が存在する理由。私が生き残った理由。全部、全部わかった。

 

「主よ、ありがとうございます!ようやく!ようやく進むべき道が見えました!」

 

胸から下げた神のシンボルを地面に叩きつけ、踏みにじる。

 

「私はサンクトゥムに復讐する!天使長も民も皆殺しにして、この奈落へ引きずり落としてやる!

はは、はははは!あはははは!!!」

 

アルマは糸を展開し、あちこちに飛び散ったデュラクの残骸を縫合し始める。

 

「待っててね、デュラク。私が必ず、甦らせるから。」

 

アルマはデュラクのツギハギだらけの顔を見つめ、愛しそうに笑うのだった。




お読みいただきありがとうございます!
小説はキリのいい所で終わってますが、
デュラクはこの後アルマに蘇らされています。
蘇ったのが今の姿ですね。
しかし、一人称が変わってしまっているとおり、
以前のデュラクの記憶がないです。

可哀想に、どこまでも報われませんね。

次はラナークとデュラクのお話を描く予定です。お楽しみに!
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