(何とかなったな……)
シズさんを《
『スキル』の効果自体を信じていなかったわけじゃないのだが、生命力を回復させるのに自分の魔素量が足りるかどうかが少し不安だったのだ。
「全体の三分の一くらいか……案外減らなかったな」
もっとスリープに入るくらいに減るかと思っていたんだが。
まあいい、終わったことだし。
……他にも、色々考えなきゃいけないことがあるけれど。
今はいったん忘れよう。
「……で、本当に大丈夫なんだな?」
「うん、大丈夫。ホントに信じられない。こんなに体が軽いなんて」
シズさんはベッドから立ち上がり少し体を動かしていた。
問題ないなら良かった。
「本当にありがとう。何かお礼しなきゃ」
「いいよ、俺がやりたくてやったことだし」
「でも……」
そう口では言いながら、内心では少し引っかかる。
……何も受け取らないのも、逆にシズさんに失礼かもしれない。
少し考えたあと、ふと妙案が浮かんだ。
「……なら一つだけ、リムルにシズさんの身体をコピーしてもらえないか?」
「えっ!?」
そんなに驚くこと……ではあるか。
「お前の『スキル』って確か捕食したものを吐き出すこともできたよな?」
「そうだけど」
「だったら、一瞬だけ飲み込んで《解析鑑定》した後吐き出せばいい。安心しろ、吐き出せなかったら解剖してやるから」
多分だけど腹の中に無くても飲み込んで《解析鑑定》したモノなら《擬態》出来るんじゃないかな~なんて思ったのだが。
「いや、やめろ!?っていうかシズさんは良いのかよ?」
「うん。命を救ってくれたんだし、お礼になるなら」
「それに、人間の町とかに行く用事ができたときにスライムの姿だと不便だろう?」
「……まあ、そうだな。それじゃあ……」
リムルはシズさんを捕食してすぐに吐き出す。
直後、リムルは変身を開始した。
身長130cm程、細い手足に水色の髪、幼さの残る顔。
まるで幼いシズさんみたいな姿に変身した。
「リムル様、シキ様、失礼します」
「あ……」
俺が返事をする前に、リグルドがテントの中に入ってきた。
隣にカバル、ギド、エレン、後ろに嵐牙も見える。
すると、中に入ってきたカバル達三人は今のリムルの姿を見て固まる。
「我が主………!」
「「「え?」」」
「その姿は………!?」
「「「えぇぇぇぇ!?」」」
嵐牙とリグルドの言葉に三人は一斉に困惑の声を上げる。
まあ、そうだよな。シズさんのお見舞いで知らない奴がいたと思ったらそれがリムルだって思わないよな。
スライムだったし驚くよな。
「み、見ないでぇぇぇ!」
「……はあ、服を着ろ」
「っわぷ」
顔を真っ赤にさせたシズさんがリムルの前に出て姿を隠すのと同時に、目を瞑って顔を逸らしながら手ごろな服を作ってリムルに投げつける。
……なんで裸なんだ。
ひとまずリムルに服を着させてから現状の説明を始めた。
シズさんはイフリートを分離させたことで瀕死の状態だったこと。
それを俺のスキルを使って救ったこと。
「シキさんありがとぉぉ!シズさんが助かってよかったぁぁっ!」
説明が終わるとエレンは俺に礼を言いながら、シズさんに抱き着いて泣いた。
「間違いありません!」
「見くびるな!姿形が変わったくらいで、分からないと思うか!」
「ああ、いやそういう事じゃ無くて、なんかちっこいシズさんぽいっつーか」
「まあ、元の肉体がシズさんだからな。ホレ」
人間としての姿から、スライムとしての姿に戻ってみせる。
カバルとギドが驚いた様な表情を浮かべる。
(ホント変幻自在だよなぁコイツ)
「へ〜」
「見事なもんでやんすね~」
「なんだか、人間の姿のリムルさんってシズさんと姉妹みたい」
さっきまでシズさんに宥められていたエレンがそんなことを言ってきた。
リムルの見た目はほぼ幼いシズさん。身長もシズさんの身長の半分くらい。
言われてみると確かにそういう風にも見える。
……というか、今更だけどシズさんって案外身長高いな。
164cmくらいかな、俺とそんなに変わらないのか。
……もうちょっと伸びないかな。
その日はもう、日が傾き始めてしまっていたため、カバルたちは今日まで村に留まり、明日発つことになった。
シズさんはエレンと同じテントでこれからのことについて話し合うらしい。
そして翌日。
「色々と世話になったな。じゃあ、そろそろお暇するわ。」
「国に帰るのか?」
「ああ、森の調査結果とシズさんのことをギルマスに報告しなきゃならねぇからな」
「リムルさん達のことも、伝えておくね」
「もちろん、悪い様には言わないっす」
ちなみに、シズさんはこの村に滞在することにしたらしい。
なんでもまだ恩があるから。とのこと。
別に気にしなくていいというのに。
……まあ、シズさん自身まだ悩んでいるというのもあるかもしれないが。
「旦那達も何かあったら頼るといいでやすよ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「皆、元気でね」
「シズさんも」
「シキの旦那。シズさんを助けてくれて、ありがとうございます」
「もう何度言ったか分からないな……気にするな。俺のエゴで助けただけだ」
カバルたちは自分たちの荷物を整えて後は村を発つだけの状態。
そんなときに何かを思い出したのか、三人はシズさんの前に立ち止まる。
「あっとそうだ。最後にシズさんにお話があります」
「どうしたの?」
カバルの言葉にシズさんは首を傾げながら三人と向き合う。
「「「シズさん!今までありがとうございましたっ!」」」
次の瞬間、三人はシズさんに頭を下げながら感謝を述べる。
「俺、あなた達に心配されない様なリーダーになります!」
「あなた達と冒険できた事、一生の宝にしやす!」
「ありがとう……シズさんの事、お姉ちゃんみたいって思ってました!」
抱きしめて泣きながらそう言うエレンに対し、シズさんは優しく抱きしめる。
「……うん。三人とも元気でね。いつでも遊びに来て良いから……」
臨時のメンバーだったシズさんにわざわざ感謝を述べる。
普通ならしないだろう。この三人がどれだけいい奴らなのかが改めて分かる。
「ところで、お前らの装備、ボロッボロだな。」
「確かに」
「「「ひどっ!」」」
「あはは……」
リムルがそう言うと、三人は装備を隠す様にして俺は笑い、シズさんは苦笑した。
まあ、リムルの言う通り三人の装備は所々が破れたり壊れたりしており、貧乏冒険者にしか見えない。
イフリートとの戦闘があったからな。しょうがないか。
そこで、リムルと俺はカイジン達の鍛冶工房に連れて行って、三人に新しい装備を渡すことにした。
「おおっ!憧れのスケイルメイル!」
カバルには軽くてかたい鋼を使用した鎧と剣。
「スゴい!なにコレ!?軽い上に頑丈、ていうかめっちゃキレイ!」
エレンには魔法詠唱に適したローブと杖。
「いっ、良いんでやすか、あっしにはもったいない代物で!?牙狼の毛皮まで使用されってやっせ!?」
ギドには動きやすさを重視した軽装の防具と短剣。
「餞別だよ、ウチの職人の力作だ」
「職人?」
「おーい」
俺が呼ぶとカイジン達が奥から出てくる。
「まっ、力作つっても、試作品だけどな。」
「着心地はどうだい?」
「細工は隆々ってね」
「…………」
いや、なんか言えや。
相変わらずミルドは喋らない。
この村に来てからもしゃべったのを見たことがないそれでも意思疎通できてるからいいけど。
「紹介する、カイジン、ガルム、ドルドにミルドだ」
「カ、カイジンってあの伝説の鍛冶職人!?」
「ガルムにドルド、ミルドってあのドワーフ三兄弟!?」
どうやら四人は他の国でも有名な鍛治職人だったらしい。
優秀なのは知っていたがここまでとは思わなかった。
名前を知った三人は大はしゃぎ。とても喜び感謝した後に村を発った。
「最後まで騒がしい奴らだったな……」
「それがあの子達の良いところだよ」
「そうだな。じゃあ、村の復興と発展を頑張るか」
干上がった荒野を、一体の
飢えと渇きに耐えきれず、その巨体はついに膝を折り、乾いた大地に崩れ落ちる。
息は荒く、視界は霞み、やがて死が訪れることを本能で悟りながら。
そのときだった。
——コツ、コツ、と乾いた音が荒野に響く。
倒れ伏したオークの前に現れたのは、異様な風体の男。
鳥の嘴のような仮面を顔にかけ、真白な紳士服に身を包み、片手には杖を携えている。
仮面の男は、ゆっくりとオークを見下ろし、低く囁く。
「……お前に名前と食事をやろう」
虚ろな視線を向けていたオークは、その声に反応し、震える唇で問いかける。
「……あな……たは……?」
仮面の男は愉快そうに肩を揺らし、名を告げた。
「ゲルミュッド。俺のことは――父だと思えばいい」
その言葉を聞いたオークは、一瞬、訝しげに眉をひそめた。
意味もわからぬまま、ただ渇いた喉を鳴らす。
ゲルミュッドはその様子を見て、嗤った。
「……このまま、何も得ぬまま飢えて死ぬか?」
冷酷な言葉。
しかしそれは同時に、唯一の救済を選ばせる問いでもあった。
オークはしばし迷ったが、やがて深く息を吐き、必死に声を絞り出す。
「……名を……そして……食事を……」
ゲルミュッドは満足げに頷き、宣言する。
「——お前の名は、ゲルド」
その瞬間、魔力の奔流がオークの全身に流れ込み、魂が震える。
与えられた“名”が、存在そのものを変えていくのを感じながら、オークは呟いた。
「………………ゲルド……」
ゲルミュッドは愉悦に満ちた声音で続ける。
「やがてお前は、ジュラの大森林を手中に収め、
そう言って、彼は肉片を差し出す。
ゲルドは震える手でそれを受け取り、むさぼるように食らいついた。
乾いた大地に響く咀嚼音は、大いなる災厄の前触れのようであった。
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