リムルは赤髪と爺さんを、シズさんは紫髪の女を。
そして俺は、青髪と大男を相手に取った。
大男が振るう大槌を躱して、青髪の持つ刀の刃が俺に迫るがそれも躱して距離を取る。
こいつらは強い。
連携もいい。
だが、恐れるに足らない。
魔力が瞬時に形を成し、地面から鎖が這い上がる。
「お前は動くな」
「っ!?」
氷の鎖による拘束を破ろうと体に力を込めたが、鎖はびくともしない。
やはり、この大男は力は確かに強いが、あの紫髪の女程じゃないし他の奴らに比べても動きが拙い。
(恐らく、こいつは戦う者ではない)
仲間が簡単に拘束されたのを見て、青髪は腰の二刀目を抜く。
一瞬、互いの視線が交錯する。
「……」
「二刀使いか……いいね」
青髪の持つ二刀を解析して俺も同じ刀を複製する。
「
「ッ!?」
「そう驚くことはないだろう。そういう『スキル』を持っている。というだけだ」
複製した二本の直刀を構えて、青髪目掛けて一気に踏み込む。
「ッ————!」
疾走する刃、流れる一撃。
俺の振るう刀の一撃を、青髪は寸でのところで受け流して距離を取ろうとする。
だが、逃がさない。
距離を詰めて刀を振るう。
鋼と鋼がぶつかり合う衝撃音が森に響き渡る。
同じ武器、同じ条件での戦いなら、勝敗を分けるのは技量か策。
この男は確かに強い。
だが俺と正面からやり合うには少し足りない。
「ッ!」
俺が二刀を薙ぎ払うと、相手の刀は弾き飛ばされた。
無刀となった彼を静止させるように二刀を彼の肩に交差させるように添える。
「ここまでだな」
「くっ……」
そちらではシズさんと紫髪の女が戦っていた。
彼女の怪力によって振るわれるモーニングスターは木を粉砕し大地を砕く。
対するシズさんの振るう剣は以前のような炎を纏っていない。
イフリートがシズさんの中からいなくなったことで出来なくなったのだ。
だがそれでもシズさんの方が強い。
紫髪の女が振るうモーニングスターの攻撃を剣でいなして躱し、隙を見て弾き飛ばし、彼女の鳩尾に剣の柄を深く叩き込み、気絶させる。
「おぉっ!」
「流石ッス!」
「お見事です!」
雪菜とリグル、ゴブタは歓声を上げ、桃色髪の少女は嵐牙と対峙しながらこちらを見て驚いた表情をしていた。
残りはリムルが相手をしている赤髪の男と爺さん。
リムルは赤髪の攻撃を《身体装甲》を使って防ぎそのまま後退する。
「あっちは片付いたみたいだな。どうする?まだやるか?」
「……アーマーサウルスの《身体装甲》、ブラックスパイダーの《粘糸》・《鋼糸》他にも多数の魔物の技を体得しているやも知れません。ご油断召されるな若」
「!」
あの爺さん、リムルの捕食した魔物と獲得した『スキル』を一目見ただけで言い当てたのか。
やはりただものじゃないな。
「ここら辺にしないか? そろそろ俺の言い分も聞いて欲しいんだが」
「黙れ邪悪な魔人め。確かに貴様達は強い、だからこそ確信が深まった!やはり貴様は奴らの仲間だ!」
どうやっても、話を聞こうとしない。
確実に何か誤解しているというのに。
「あ、あのなッ————!」
「ぬぅ……」
あまりに突然の出来事だった。
突然爺さんが消えたかと思えばリムルの背後に一瞬で回り込んでいて、リムルの首目掛けて刀を振るった。
刀閃が走った。
次の瞬間、リムルの右腕が宙を舞う。
本能的に回避行動をとったであろうリムルは首を斬られはしなかったものの、代わりに右腕を切り落とされた。
「……ワシも耄碌したものよ、頭を刎ねたと思ったのじゃが」
「…………マジかよ」
まさかリムルの《魔力感知》を搔い潜るだけでなく、さらに《多重結界》と《身体装甲》をも破り一太刀入れるとは。
敵ながらその術技には感服するほかない。
「次は外さんぞ」
「……どうやら蛮勇の方だったようだな。右腕を失い発狂しない胆力は褒めてやる」
だが、腕を切り落とした程度で勝った気でいるならば甘い。
そんなものリムルには意味がない。
「一人で俺たちを相手取ろうとした、その傲慢さが貴様の敗因だ。冥府で悔やみ続けるがいい!」
赤髪の男は刀を構えてリムルに止めを刺そうとする。
そんな中、落ちた腕をリムルが拾い吸収し、すぐさま再生させる。
「っ!?化け物めっ!!《
発生した炎がリムルを飲み込む。
これも無駄だ。
「残念だったな。俺に炎は効かないんだ」
何事もなかったかのように炎から出てくるリムル。
「だが、確かに俺はお前たちを甘く見ていたようだ。少し本気を見せてやろう」
そして、仮面を外す。
仮面を外したことで押さえていた妖気が溢れだす。
リムルが手を頭上高く掲げる。
黒い炎がリムルの手から発生し巨大な竜巻となって天を覆う。
「どうする?まだやるか?」
そう言うと、赤髪の男は顔を歪める。
圧倒的差を目撃しても、震える体を抑える様に刀を握り直して、しっかりと構える。
「若。姫を連れてお逃げください。ここはワシが……!」
「黙れ、爺………凄まじいな。悲しいが、我らでは貴様らには遠く及ばぬようだ。だが、俺には次期頭領として育てられた誇りがある!無念に散った同胞の無念を晴らさずして、何が頭領か!叶わぬまでも一矢報いてくれるわ!」
「若………それでは、ワシもお供致しましょうぞ!」
赤髪、いや
(状況が悪化したんだけど……)
事情はよく分からないが、恐らく何者かに故郷を襲われ、同胞を虐殺されたのだろう。
そして俺たちをその仲間だと誤認している。というところか。
困ったな。こうなれば本当に倒すしかない。
その後話をすればいい。
そう思いリムルに加勢しようと思っていたら。
「お待ち下さい、お兄様!この方々は敵ではないかもしれません!」
リムルと頭領たちの間に桃色髪の少女が割って入った。
「そこをどけ!」
「いいえ!」
「何故だ!里を襲った奴と同じく仮面を付けた魔人では無いか!お前もそう言っただろ!」
「はい……ですが、冷静になって考えて見て下さい。これだけの力のある魔人様が姑息な手段を用いて、豚共に我等が里を襲撃させる等、不自然です。それこそ、お一人で我等全てを皆殺しにできましょうから。この方が異質なのは間違いありませんが、恐らくは里を襲った者共とは無関係なのでは無いかと」
それを聞いていたリムルはそれに強く頷き、それから口を開いた。
「少しは人の話を聞く気になったか?もうこれ要らないよな」
『黒炎』を捕食して消火するのを見てリムルに頭領が問う。
「何者なんだ、お前は?」
「俺?俺は唯のスライムだよ?」
「スライム!?」
「そう、スライムのリムル」
擬態を解き、本来のスライムとしての姿を晒したリムルに三人がそう困惑の声を上げるなか、リムルは仮面を取り出す。
「因みにこの仮面はそこにいるシズさんから譲られたもんなんだ。なんだったら、あんたらの里を襲った連中のものと同じものかどうか確認してくれて構わない」
仮面を受け取って確認する三人。
やはり、村を襲った連中のモノとは違ったようで、誤解だと気付いた頭領は跪く。
「申し訳ない、こちらの勘違いだった、謝罪を受け入れて欲しい」
「うむ、苦しゅうない」
その謝罪をリムルは受け入れ,それから今日の宴に誘う。
こちらからも聞きたいことがあるため
その日の夜。
町は飾り付けられ、料理もの準備も整い宴会の準備も終わっていた。
そんな中、町は宴会という空気ではなかった。
「…………」
周りにいたゴブリン達は、リムルが食べている姿を息を呑んで見守っている。
当のリムルは、ゴブイチが丹精込めて焼いた串焼きをゆっくり味わいながら、プルプルと震えだしていた。
「……リムル様?」
不安そうに見つめるリグルドだったが、そこまで心配する必要はないだろう。
「うんっまぁぁい!」
味を噛み締めるように食べていたリムルが、弾ける様な笑顔で喜んでいるだけだ。
周りにいたゴブリン達が騒ぎだし、各々料理に手を付け始める。
宴会場から少し離れた木下で、俺とシズさん、カイジン、リグルド、リグルが
「
頭領が言ったことに驚きカイジンが声を上げて驚き、シズさんも声には出さずとも驚いた表情だった。
俺の認識では
様子を見るにどうやら違うようだ。
「そんなに可笑しい事なんすか?」
「当然だ。
「……だが、奴等は来た。いきなり俺達の里を襲撃して来た」
頭領は当時の光景を思い出しているのだろう。
忌々しそうに続きを話す。
「武装し、鎧を身につけ、森を埋め尽くす程の圧倒的な戦力。あの忌まわしい豚どもに……里は蹂躙され尽くしたのだ!」
「豚頭族が鎧を?」
「ああ。人間の着用する様な、
「
「いいや、
「だとすれば、それらを提供した何者かがいる」
「ああ、その通りだ…………軍勢の中に、仮面をつけた魔人がいた」
頭領が言うにそいつは
仮面をつけた魔人……どこかで似たようなことを聞いたような気がするのだが。
「そいつとリムル様を間違え、戦いを挑んだという訳ですな?」
「ああ、はっきりしているのはもう、たった六人しかいないと言う事だけだ……」
仲間を、家族を、そして故郷を失った悲しみと怒り。
それらは俺たちが想像する以上に深く、重いだろう。
「成る程ね。そりゃ悔しい訳だ」
話がひと段落したところで肉を食っていたリムルがこちらに来た。
「リムル殿、肉はもう良いのか?」
「ちょっと食休み」
リムルは彼の妹の、ゴブリナ達と仲良く話している桃色の少女に視線を向けてから続けた。
「お前の妹、凄いな。薬草や香草に詳しくて、あっという間にゴブリン達と仲良くなった」
「箱入りだったからな。頼られるのが嬉しいのだろう」
「……で、お前ら、これからどうすんの?」
「どう、とは?」
「今後の方針だよ」
「知れたこと、力を蓄え再度挑むまで」
「当てはあるのか?」
「……」
リムルの質問に頭領は黙って酒を飲んで誤魔化した。
どうやら全く考えていなかったらしい。
まあ、仕方がないと言えば仕方がない。
復讐心だけでここまで来ているのだから。
……そして、この状況でリムルの言いそうなことは予想がつく。
「提案なんだけどさ、お前たち全員、俺たちの部下になる気はあるか?」
「なっ……部下?」
「まっ、俺たちが支払うのは、衣食住の保障のみだけどな」
「しかし……それでは、この街を俺たちの復讐に巻き込む事に……」
「なにも、そちらだけに利益があることじゃない……もし
襲撃されたとしても、迎撃は可能だろう。
だが、その時に
「勿論、おまえ達が戦う時は俺達も一緒に戦う。俺は絶対に見捨てたりしない」
「……悪いが少し考えさせてくれ」
焚火の炎が彼の背を照らし、暗い森の中に消えていった。
彼にとってこれは一族のこれからを掛けた選択なのだ、悩んで当然である。
どのような結論を出すかはわからないが、彼が選んだ選択を受け入れよう。