悪魔よりもピザとストロベリーサンデーを 作:あるく天然記念物
私はレゼ編を観るのが好きだ。
だから、こんな駄作で少しでも興味が出たら
映画館にいってほしい。
その代わりに、私は駄作を続けよう
えっ? 映画に行かなかったらこの駄作が更新されずに済む?
それはそう。
それは奇跡に近かった。
「がァッ!?」
ガツン、と。
物凄い衝撃がレゼの左肩に走る。
視線を向ければ、左腕が肩から消失していた。
トス。
ドス、ドス!!
落下するように、悪魔の近くに降り立つレゼ。同じように悪魔の元に、二つの鉄球が落ちてきた。
それと同時に、悪魔もゆっくりと立ち上がる。
「おやおや、上手く避けたねぇ。両手を取るつもりだったのにぃ」
落ちてきた鉄球。その鎖の先についている取っ手には、千切れた腕らしき物がついていた。
どうやら、遠隔で動かしたみたいだ。
咄嗟に小規模の爆発を足元で起こし、悪魔から距離をとったことで二撃放たれた攻撃の内、一発を避けることができた。
意識を完全に手元に誘導し、切り札を虎視眈々と用意する。
同郷故に分かってはいたが、相手の戦闘技術が高い。
「さて、そろそろ回収しようかな」
「えぇー、もう勝った気でいるの?」
「強がりは止めなって。確かにあんたは強い。流石はモルモットの優等生、私よりも戦闘力も火力も上だ」
「………あはは、褒め言葉として受け取っとくよ」
「でも今のあんたじゃ私に勝てないよ。こんな状況でも“手を抜いている”あんたはには」
「………………にゃはー」
少しおどけてみたが、やはり見抜かれている。
実のところ、倒そうと思えば倒せる。だが武器人間を無力化するには、気絶させる程の攻撃をする必要がある。それが実力のある相手なら、その難易度と必要な火力は桁違いだ。
対峙して理解した。あれを倒すにはこのスーパー一軒は軽く吹き飛ばす火力をぶつける必要がある。
しかし、そんな攻撃をした日にはここら一帯が更地になる。一体どれ程の人が犠牲になるのか想像もしたくない。
ならば被害を抑えるため、相手がバテるまでやり合うのも一つの手。だが、こちらは左腕の欠損が痛い。痛覚もそうだが、継戦の面でもだ。血は爆破の熱で塞いだが、結構な量を失った。流石に一般女子高生が血液パックを持っているわけもない。また欠損部位を復活させようと首のトリガーを引こうとしたら、次こそ確実に頭部と胴体が鉄球によって別かれることになる。
あれ? もしかして、これって詰んだ?
「さて、公安もそろそろ来るし、終わりにさせてもらおうかなぁー」
悪魔が両腕を振り上げ、
「ねぇッ!!」
一気に振り下ろす。
ブォン!! 空気を破裂させる音と共に鉄球が迫ってくる。
「ッ!!」
足を爆破させ、鉄球を避ける。
「避けたか。なら、こういうのはどうだ!!」
悪魔は乱雑に右手を振り回し、不規則に攻撃を仕掛けてきた。
速度も合わさり、簡単な爆発で避けるのは困難になってきた。
「………ちぃッ!!」
脚を小刻みに爆破させ、前後左右。小回りを効かせて動く。
今のところ、敵の攻撃はどうにか避けることができる。
だがそれだけだ。避けるのに精一杯で反撃が出来ない。相手の実力から、先ほどの鎖に巻き付ける不意打ちも次は効かないだろう。というより、攻撃の速度が速すぎて巻き付けられない。
さらに悪いことは重なり、失血の具合から爆破できるのも残り数回。
被害を抑えることを踏まえたら、倒すのは困難か。
「はぁ……はぁ……はぁー」
避け続けること数分。
レゼは肩で息をし始めた。
「もうさぁ、諦めなよ……ちゅー」
どこから取り出したのか、悪魔は輸血パックにストローを刺して飲んでいる。
実に余裕そうだ。こっちは満身創痍で補給物資すら望めないというのに。
「誰が諦めるっての。それに勝負は、これからでしょ」
「ボロボロな状態でなに言ってるの?」
強がってみたら、真顔で返された。
「もういいや。武器人間だから死ぬことはないんだし、徹底的にバラバラにする事にした。うん、今決めた」
ブォン、ブォン!!
再び乱雑に腕を振り回し始める悪魔。
「ちょっと、その技禁止にしない?」
無駄だと思いつつ言葉を投げるが、やはり無駄な結果に終わる。
悪魔はレゼの言葉を完全に無視し、攻撃を継続。
「まっ、言って止まるとは思ってないけど──ね!!」
レゼは再び小刻みに脚を爆破させ、回避を行う。
一撃一撃、的確に、そして最小限度の爆発で。
そうして数回ほど回避を行うと、爆破に明確な変化が生じ始めた。
(爆破の威力が一発毎に落ちてる。これは………本格的にマズイね)
刻一刻、と。確実に限界が近づいてくる。
今のレゼはガス欠の車に近かった。
メーターではゼロを指し示すが、測れない微量な量の血液をやり繰りしている状態。
いつ止まってもおかしくない状況だった。
(早く決着をつけないと、応援が来る。下手な民間や公安のデビルハンターだと被害が大きくなるだけ。ははっ、無理ゲーじゃん)
既に攻防を開始してから十数分は経っている。
どんなに遅くても、関係各所へ通報はされているだろう。
被害の大きさから民間ではなく公安が来ると思うが、それも下手な人物では耐久力が紙のデコイにしかならない。
岸辺さんや、マキマさん、最高でアキさん辺りが来てくれたら万々歳なのだが、彼らはダンテ程ではないが凄腕。公安の中でも飛びっきりで忙しいため望みは薄い。というか、マキマさんは司令塔だからまずもって来ないし、気まぐれで来た日には私ごと嬉々として殺しに来るだろう。
となれば、無茶だろうが何だろうが、私がどうにかしなくてはならない。
(それに…………勝機ならある)
相手の猛攻は激しく、最早嵐とも言える状態だが、防御はそこまでではない。
攻撃が通ればそれなりにダメージは見込める。
それに今は攻撃に意識が向いている。防御に変わる可能性は低い。どうにかして一瞬だけでも隙を作れば、今の自分でも一撃程度は確実に叩き込める。
そこで渾身の一撃を叩き込めれば、意識を持っていける筈だ。
今のところ、相手は自分を防戦一方だと思っている。
意表を突くため、動くなら今しかない!!
レゼの決断は速かった。
「そラソラッ!!!! もうおしまいかい? 優等────」
(そこだッ!!)
レゼは悪魔に向けて右手を広げた。
次の瞬間。
パンッ!!!!
店舗内が眩い光に包まれた。
「セェッ?!」
それは所謂スタングレネード。目眩ましだ。
圧倒的光量を目に焼き付けた悪魔は視界が白一色。さらに炸裂音により数秒は耳が使えなくなる。
いかに武器人間と言えど、その生命体構造は人間と同じ。つまり、弱点は弱点だ。
目は強い光に弱く、耳は爆音に弱い。
そして損傷とは違い、丸ごと取り替えない限り、機能回復に必要な時間は人間とあまり変わらない。
「────ッ!!!!」
レゼはこれまでの小規模の爆破から一転。普段と同じ規模の爆発加速を行い、悪魔の元へと突っ込む。
「ちぃっ!! 死に損ないがぁッ!!!!」
悪魔が防衛で攻撃するも、聴覚と視覚を奪われた状態のため、避けることは容易かった。
数秒とかからず、悪魔の元へとたどり着く。
拳を強く握り、全力で悪魔の顔面を殴り抜いた。
「そこぉおッ!!!!!」
「ぎぁッ?!」
バキぃッ!! と鈍い音を響かせ、悪魔の身体が数メートル後方へと吹き飛ぶ。
そう……………数メートルだけ、だ。
レゼが“全力”で殴ったのにも関わらず。
(嘘………でしょ)
レゼの作戦は完璧だった。
文字通りの全力で攻撃できていれば、悪魔を倒すことができた。
だが、レゼは自身のタイムリミットを計算に入れて無かった。
その結果。
「……………死ねよ」
レゼの攻撃は不発弾となってしまった。
「ッ?!」
ブチブチ────。
レゼの両サイドから突風が吹き荒れた。
ふと、右腕が軽くなった気がした。
いや、気がしたのではない。実際に軽くなったのだ。
ダバダバ、と。自分の血が止めどなく流れる感触がする。
思わず、レゼは膝を付く。
前へと倒れそうになる身体を支える両腕が、綺麗に無くなった。
ゆっくりと、鉄球を手元に戻しつつ悪魔がやってくる。
「…………もう、油断はしない。これで終わらせる」
悪魔は立ち止まり、鉄球をレゼの顔面へ向けて投擲。
殺意のみが込められた一撃。
投げられた瞬間、レゼは感覚でわかった。
これは避けられない。
そもそも、もう既に出血多量で指1本たりとも動けないでいた。
この時、レゼの脳裏にあったのは相手に対する恨みでも、これからの自身に対する恐怖でもなかった。
後悔。その一文字だけであった。
(あぁ、こんなことならもっといろんな事をしておけばよかったなぁ)
部活で活躍したかった。
生徒会にも入ってみたかった。
友達ともっと遊びたかった。
テストで全科目100点取りたかった。
買い物もしたかった。
ゲームセンターで遊びたかった。
映画を飽きるほど見たかった。
バイト…………はダンテの事務所が大変になるからしないでいいか。
ダンテの食生活を正常にしたかった。
ダンテにピザとストロベリーサンデーは朝ごはんにはならないと教え込みたかった。
ダンテに依頼を選り好みするなと怒りたかった。
もっともっと。やりたいことが山ほどあるけど、一番やりたかったのは─────ダンテに感謝の言葉を伝えたかったことだ。
レゼはまだ、ありがとうの一言もダンテに言っていないことを思い出す。
某連邦から一般人になった時、実感がわかなかった。
学校に初めて行った時、感動しかしなかった。
ご飯を美味しそうに食べてもらった時、嬉しさしかなかった。
そこから一歩。一歩踏み出して感謝ができていない。
だって、それを言ってしまえば最後、この幸福な状況を享受してしまうと思っていたから。
幸福に生きてもいいんだと、自分を認めてしまいそうになるから。
薄汚れた田舎のモルモットは、都会に行こうと溝鼠にしかなれないと思っていたから。
でもそうしないと、命令を果たせなかったにも関わらず、唯一生き残った自分を許せそうになかった。
鉄球がどんどん目の前に近づく。
やれるだけの足掻きはしたし、もういいではないか。ダンテから色んな物をもらった全てが分不相応だったのだ。これはその清算に過ぎない。
それにこのままでいれば、自分自身の罪悪感に襲われなくなる。心のしこりともおさらばだ。
………………嫌だ。
痛みにはなれている。それに武器人間だから死ぬことはない。次に目を覚ましたら自分に相応しい溝鼠、モルモットに戻るだけだ。
………嫌だ。
幸福でいることが辛いのだろう? 毎日毎日、放課後になったらしこりができるんだろ? このまま終われば全て解決だ。
嫌だ!!
ピンチもピンチ。
命が風前の灯火になって、レゼはようやく自覚した。
あの生活に戻るのは嫌だ。例えいなくなったモルモット達に悪かったとしても、自分は幸福に生きたい。
溝鼠ではなく、人としての生を謳歌したい、と。
(なぁんだ。結局私、モルモットじゃなくて、浅ましい人間じゃん)
ようやく溝鼠から、人間になったレゼ。
だが、状況は一切好転していない。
目の前には命を刈り取るため、迫ってくる鉄球。
爆発どころか、指すら動かせないレゼにはどうしようもない現実である。
だが、せめて人として逝こう。
レゼは目を瞑り、笑みを浮かべる。
「ダンテ…………ありがとう」
後悔はある。でも、スッキリはした。だから大丈夫。これで最低限の心残りは無くなったから。
鉄球がレゼの顔面を捉えようとした…………。
「おいおい。俺はレディーからの感謝の言葉は、ちゃんと面と向かって貰いたいぜ?」
「………え?」
あり得ない声が聞こえた。
それと同時に、
ズガガガガガガガガガガッ!!
まるで機関銃を一斉掃射した爆音が響き渡り、レゼの顔面に数回軽い痛みが走る。
鉄球とは思えない衝撃だ。
恐る恐る、レゼは目を開ける。
すると目の前に鉄球は影も形もなかった。それと引き換えるように、自身の背後。軽く頭を撫でられる感触と共に、一人の男がやって来る。
「………あぁ」
「選手交代だ。そこでゆっくりしときな」
レゼの視界がどんどん歪み、頬に暖かい物が流れ出す。
そんなレゼを守るように、男は悪魔と対峙する。
「よぉ。随分と楽しそうにウチの従業員とダンスしてたみてぇだな。それにこの店の荒れよう。コイツは色々と高くつくぜ、お客様?」
赤いコートを羽織り、腰に白黒の2丁拳銃。
柄にドクロをあしらった剣を1本背負っているその背中は大きく、見ているだけで安心感が溢れだす。
その男の名は─────
「さぁ、きっちり耳を揃えて払って貰おうか」
最強のデビルハンター、ダンテだ。
実質バーベキュー。
次回はついにダンテが闘います。
秒で終わるだろうね。