ヒーロー症候群   作:夜行列車予行

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赤は情熱と嫉妬の炎の色


魔女襲来編
決着!!さらば怪人!ありがとうシュゴレンジャー!


 世界は、滅亡の危機にあったんだ。理由は、突然日本中に悪くて強い奴ら、『怪人』が現れたからだ。

 

 怪人どもは世界征服をしたくて、そのために手当たり次第に人を襲い始めた。

 警察とか、軍隊とか、いろいろ戦おうとしたんだけど、怪人の強さには敵わなかった。

 

 で、そんなときに現れたのが俺達、シュゴレンジャーってわけ。

 

 怪人が現れるのと同時に、その各地で怪人に挑む五人が現れたんだ。

 で、そいつら不思議と同じような恰好をしていて、それはまるで特撮ヒーローのコスチュームだったんだ。

 

 赤いコスチュームのレッドは、素早い身のこなしで怪人を次に次に殴り飛ばしていった。

 青いコスチュームのブルーは、様々な生き物を使役して怪人を圧倒していった。

 緑のコスチュームのグリーンは、人間離れした怪力で怪人を叩き潰していた。

 黄色のコスチュームのイエローは、様々な武器を利用して怪人を伏せて行った。

 桃色のコスチュームのピンクは、その力を使って怪人に襲われた人々の怪我を癒して回った。

 

 それぞれコスチューム姿の五人は異なる力を持っていて、怪人を倒して回った。いつかそれが世間に認知され、日本中に知れ渡る事になった。

 

 やがて俺達は一つの場所に集まり、名乗りを上げた。

 日本を、世界を怪人の魔の手から守るための五人。特撮戦隊モノからもじって、シュゴレンジャーと呼ばれるようになった。

 

 正直俺はこの名前にそんな納得言ってないけど、でも世間の人たちが俺達を認めて、名前を付けてくれることが嬉しかった。

 

 それから俺達は日本各地を回り、怪人を倒していった。

 ある時は怪我を負いながら。

 ある時は人質をとられながら。

 ある時は、仲間内で喧嘩をしながら。

 

 それでも俺達は怪人を倒して、倒して倒して……

 いつしか、最後の怪人へと対峙した。

 

 正直言って、五人で挑めば怪人はそれほど強くはなかったが、そいつだけは割と苦戦した。

 

 怪人の親玉を名乗るだけあって、適当にぶん殴って勝てる相手では無かった。

 最後はなんかよく分からないけど、イエローが創り出した合体最終兵器とやらを全員で撃って、それで勝った。

 

 その時俺達を称える声は凄かった。

「ありがとう!シュゴレンジャー!」「君たちのおかげで救われた!!」「結婚してーー!!!」とか。

 どれも、今も頭の中に残ってた。

 

 あんなに拍手を受けたのも、花吹雪ってやつを見たのも初めてだった。

 

 後日ニュースで、俺達五人が合体最終兵器を使うシーンが、繰り返しニュースで報道されているところだった。

 作戦会議室俺達を集めたブルーは、テレビの電源を落とすと言い放った。

 

「今日で僕達シュゴレンジャーは解散にしようと思う」

 

 いつもの声量で放ったその言葉は、やけに大きく会議室の部屋に響いた。

 

 ブルー以外の俺達は、と言うか主にグリーンが猛反対をしていたが、そんな俺達にブルーは淡々と理由を語った。

 

「僕達がシュゴレンジャーと呼ばれるようになってから約三年間、知っての通りずっと戦い続けてきたわけだが……ここにいる皆にも、待たせてる存在が居るんじゃないかと思う」

 

 その言葉に、騒いでいたグリーンは口を閉じ、何かを考えこむようだった。

 

「急に思うかもしれないが、実はずっと前から考えていた事なんだ。怪人はいなくなり、この国では警察は十分に機能するだろうし……僕達は十分、役割を全うしたんだ」

 

 その後、ブルーの言葉に反論する奴は、俺含めていなかった。

 俺は正直、あんまり納得してなかったけど、ブルーに言い返せるほどの理由も思いつかなかったから、黙っていた。

 

 待てせてる存在。ブルーが言ったその言葉が頭の中で反響するみたいだった。 

 

「どうした、レッド。何か考え事か?」

 

 そうやってぼうっと考えていた俺に、ブルーが話しかけてきた。ブルーの後ろに目を向けるが、もう俺とブルー以外は部屋から出た後のようだった。

 

「いや……俺達、本当に解散でいいのかって……」

 

 俺が呟くように返事を返すと、ブルーは少し考えた後言葉を続けた。

 

「……最初に、五人で出会った時に決めた事があっただろう?覚えてるか?」

「……殴り合いの喧嘩はナシ?」

「違う、君とグリーンが喧嘩を始める前に決めた事だ」

 

 ブルーはため息を零した後、言い聞かせるように話した。

 

「お互い、素顔も素性も明かさない。メディアへの公開もナシ、って話だ」

 

 ブルーのその言葉に、そういえばそうだったな、と俺は思い出した。

 なんでだったか、ブルーがそう提案をしたのだった。

 

「理由は……覚えてないみたいだからもう一度言うが、この時の為だ」

「この時のため……?どういうこと?」

 

 俺が聞き返すと、ブルーは以前もそうしただろう風に、その理由を語り始めた。

 

「解散の時の為だ。当たり前だが、僕達には本来過ごすべき日常がある。いつか怪人を全滅させた時、再びその日常に戻れるよう、僕たちはその正体をお互いにすら隠すことにした、だろう?」

 

 ブルーのそのセリフには、確かに覚えがあった。三年前は、そんな何時になるかも分からない未来の事を、よく考えられるな、と感心したのを思い出した。

 

 それからブルーは、一歩近づくと、俺の肩を叩きながら話した。

 

「素性は隠した、お互いにもだ……だが、普段の言動から少しは察せる部分がある。レッド、君はまだ……子供だろう?」

 

 子供。何歳まで子供なのかは分からないが、少なくとも三年前はそうだったと思う。

 

「学校に友達や趣味……君にはそれらの当たり前を享受する権利があるはずだ」

 

 学校、友達、とブルーのその言葉が妙に心に引っかかるようだった。

 学校には、行ったことが無かった。普通は、行くのだと知っていたが、父さんが行くなと怒鳴るものだったから、一度も行ったことはない。

 

 「俺は……」

 

 ブルーが言った『当たり前』に俺は自分の心が揺れているのを自覚した。

 

「僕たちは、君は、十分頑張ったさ。次に君がそのコスチュームを着るのは、再び怪人が現れた時だけ……今、君の役目はないんだ」

 

 ブルーその一言を聞き終える頃には、俺は会議室の外へと足を向けていた。

 

 

 ――――――――――

 

 

 それから一年くらい。俺は普通の生活を送っていた。

 

 年は、今が十六だと分かったので、今年の春から高校に通ってる。名前は、大川赤司(おおかわ あかし)になった。

 

 普通にベッドの上で起きて、普通に朝食を食べて、普通に学校に行く。

 

 全てが俺にとって新鮮だった。制服の窮屈さが、嬉しかった。

 

 だけどそれも、最初の一か月くらいだ。

 

「次のこれ、今日は七日だから、出席番号七番の……大川、分かるか?」

 

 数学の授業を教えてくれる西田先生が、俺を指さした。今は7日の4限だから、指名されるのも四回目だった。

 

 そして俺は立ち上がり、四度目のそのセリフを放った。

 

「わかりません」

 

 俺がそう言うと、少しの静寂の後、西田先生が首を小さく振ってから、俺の後ろの川崎に答えを聞いた。

 

 俺は静かに座って、川崎の答えを聞いたが、全く分からなかった。だが、西田先生が正解と言うので、あっているらしい。

 

 学校はクソだ……とまでは言わないが、思っているよりも楽しい場所では無かった。

 

 授業はよく分からないし、それが六時間もある。体育とか良いんだが、数学とか歴史とかが地獄だ。全く違う言語の言葉を聞いてるみたいだ。

 

 そのせいで火曜日が嫌いになった。火曜日は体育がない上数学と歴史が両方ある。

 

「よ、赤司(あかし)。相変わらず絶好調だな」

 

 よく分からない黒板の数式を眺めていたら、いつの間にか授業が終わっていた。

 チャイムの音の後、横の席の遊川が俺に話しかけてきた。

 

「どこがだよ……俺は火曜日の次は七日が嫌いになりそうだぜ」

 

 俺がそう言うと遊川は俺を見ながら大笑いを始めた。

 

 こいつは遊川金次(ゆうかわ きんじ)。俺の、一応友達だ。悪い奴じゃないんだけど、多分俺の事を馬鹿にしてる。

 

 実際俺は馬鹿だし、いいんだけど。いいんだけど……。

 

 俺は窓の外の空の青色を眺めて、心の中で呟く。

 

 なぁ、ブルー。俺、普通の生活を送ってるよ。

 

 普通に学校行って、普通に勉強できなくて、普通にクラスメイトと仲良くできなくて、普通に……一人で帰ってるよ。

 

 なぁ、ブルー。俺は再び心の中で呟く。

 

 ほんとにこれが、お前の言ってた享受すべき当たり前なのか?

 

 その答えに答えてくれる奴は、誰もいなかった。

 

 

――――――――――――

 

 

 夕方のオレンジ色に照らされた道を、一人で歩いていた。

 

 夕方の商店街は人で溢れてて、鳥の鳴き声みたいに人の声が聞こえてくる。

 

『今日で1年!平和の再開からシュゴレンジャーはどこに!?』

 

 その言葉に、俺は足を止める。

 目を声のする方に向けると、そこは家電販売店のショーケースで、ガラスの向こうのテレビがシュゴレンジャーについてのニュースを映していた。

 

『今日からちょうど一年前、皆さん覚えているでしょうか!彼らの存在を!』

 

 そんな語りで、シュゴレンジャー(おれたち)の存在について放送されていた。

 数えてなかったが、どうやら一年前が怪人を全滅させた日だったらしい。

 

『さて、そんな風に活躍した彼等ですが、唐突に姿を消してしまった事も、我々に同等の衝撃を与えました』

 

 そうなのか、そうだよな。結婚してくれとか、言ってたもんな。

 コメンテーターの言葉に、俺の心の中の何かがムクムクと起き上がるようだった。

 

「シュゴレンジャー、どこ行ったんだろうねー。私結構好きだったな」

 

 横で同じくテレビを眺めている女子学生らしき二人組の内一人が、そう呟いた。

 

「わかるー!ねね、誰推しだった?私はねー、レッド!」

「私もー!いつも最前線で戦ってるのが男らしくていいよね!」

 

 それ、俺だよ!レッド!俺だよ!!

 女子学生たちの会話に、思わず俺は割って入りたくなるのをぐっと堪えた。

 

 そうか……今まで戦うのに必死でそこまで気にしてなかったけど、もしかしてシュゴレンジャー(おれたち)って……レッド(おれ)って結構人気なんじゃないか!?

 

 心の奥の何かが、ジリジリと焼けていく感じがした。

 

『称賛の声も多いですが、中には「これから怪人が現れた時、どうすればいいのか」と、不安の声もありますね』

 

 俺は自然と一歩前に踏み出し、食い入る様にテレビに見入る。

 

『そんな時は、再び現れてくれることを期待しましょう!』

 

 それは光の様な、ひらめきだった。

 

 そうか、ブルーも言ってたけど、怪人が現れたなら、俺もう一回レッドになってもいいんだ……

 

 もう一回、あの歓声を聞いても、いいんだ。

 

 そんな時だった。割れるような大きな崩落の音が耳に入った。

 

 音のする方向、商店街の向こう側をみると、そこには見たこともない大きな生物が佇んでいた。

 

「なんだ、あれ……」

 

 俺のその呟きは、周りの悲鳴や逃げ惑う音に紛れて消えてしまった。

 巨大なその生物は、怪獣と表現するのが相応しいと思わせる姿と大きさだった。

 

「なにアレ!?」「地震!?怪人!?」「また、また怪人が来たのか!?」

 

 周りの人たちは、怪獣を見て驚愕していた。

 

「だれか……助けて!シュゴレンジャー!!」

 

 その声を聞くと同時に、俺は走り出した。脳裏には、あの日の、あの日までに受け取った賛美の声と視線だった。

 

 掌を掲げ、念じる事でプロテクトギアを取り出す。それから力を込めて叫ぶ。

 

変身!!」

 

 眩い光に全身が包まれ、瞬間的に赤が俺の身体を包む。

 

 全身に漲る力、溢れる全能感。変身を終えた俺は、見上げるようにして怪獣と向き合う。

 

「さあ!かかってk「喰らえ!逆巻く氷の渦!〈ダイヤモンドウィルプール〉!!」い……え?」

 

 

 そう叫び声を上げようとしたその時、俺の言葉を遮るように、その声が聞こえた。

 

 声が聞こえると同時に、辺りから巻き起こる様に氷が現れ、渦となり怪獣の脳天をぶち抜いた。

 

 唖然として、俺はその場に立ち尽くす。何が起きたのか分からず、眺める事しかできなかった。

 

 そんな俺を置いていくように、現実は進み、一人の少女が空から舞い降りるように現れた。

 

「安心してください!あの魔獣は私が倒しました。私が……魔法少女・スノーワルツが、成敗しました!!」

 

 その言葉は茫然とする俺達の間によく聞こえた。

 舞い落ちる氷の輝きも相まって、神聖にも見えた。

 

 気付くと拍手が辺りから聞こえ始めていた。

 

「「「ありがとう!スノーワルツ!!」」」

 

 そんな称賛の声が聞こえた辺りで、俺は静かにその場を後にしていた。

 

 

 




シュゴレンジャー
怪人の出現と共に力を手に入れた5人の人間で構成された戦隊の名称。

素顔も素性も不明。

それぞれ色に因んだ『属性』と『能力』を保有しているとか、してないとか
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