あれから数分後、気絶した雪乃道を起こした後、一旦落ち着こうと俺達は適当な空き教室で休憩していた。
「で、もう大丈夫か?雪乃道」
俺は席を一つ挟んだ先に座る雪乃道に向けてそう話しかける。
雪乃道はまだ少し顔を赤らめてはいるものの、先程の様な沸騰寸前の赤さでは無かった。
「う、うん……落ち着いたかな」
俺は頬杖をつきながら、机の上を見つめてもじもじとする雪乃道に話を続ける。
「でさ、情報共有できる場所って、どこなの?」
さっきは部活の話から脱線してしまったが、思い返すと話題の内容は情報共有を行う場所だった。
スノーワルツとしての活動が外部に漏れないよう、人目が少なく、気軽に出入りできる場所……俺はシュゴレンジャー時代の作戦会議室の様な部屋を想像していた。
「あー、それはね。さっき赤司くんに部活の話をしたけど、それとちょっと関係があってね」
雪乃道は机の上を眺めていた顔を上げ、思い出すように天井へと視線を向けた。
「部活が?なんで?」
「えっと、部活動そのものにじゃなくて、正確には部室に、かな?」
雪乃道は首をひねって、見上げる様に俺の顔を見た。
「部室を集合場所にするってこと?」
尋ねると雪乃道は少し恥ずかしそうに、目を伏せて答えた。
「まぁ……そうかな。ちょっと悪いことかもしれないけど、中学の時も部活終わりに部室でお話するとかあったし、その感覚でさ」
部室でお話。部室に何が置いてあって、何をする部屋なのかも分からない俺には想像もつかなかった。
「ふーん……ま、良いか悪いかは俺には判断できないけど、人が居なくて部室をお話に貸してくれる部活ってあるの?」
俺は腕を組み、その絵図を想像しながら話す。
部活見学が一か月前くらいにあって、その時見たサッカー部や野球部には少なくとも10人以上の生徒が居たと思う。
それに大会やら優勝やらを目指してる部活で、理由は言えないけど部室だけ貸してください、って言って了承する部活があるとも正直思えなかった。
「うん。多分、だけど……あてはあるかな?」
そう言うと雪乃道は思い返すように語った。
「部活見学があったでしょ?この高校さ、色々部活があって、私気になって文化部を中心に見学して回ったんだけどさ」
言いながら、雪乃道は鞄の中に手を突っ込み、一枚の紙を取り出した。
「何その紙?」
「これ、部活見学の時に渡された部活動一覧の紙」
言われてから、そう言えばそんな紙を渡された事もあったなと思い出す。雪乃道はその紙を俺の方に突き出すと、部活動の名前が並べられる中、下の方に書いてある部活名を指さした。
「オカルト部?」
俺は椅子から身を乗り出して雪乃道の指が示す部活名を読み上げた。
「そう、オカルト部!一回覗きに行ったんだけど、勧誘とかも一切してなくて、チラッと見た部室もがら空きでさ。後で友達に聞いたら、その子の先輩が人気も知名度も低い部活って言ってたらしくて……」
俺は少し考えてから口を開いた。
「なるほどな。その人気のない、新入生の勧誘もしない、活動にもそこまで熱心じゃなさそうな部活を利用するってことだな!」
指をぱちんと鳴らして話す俺の気分は名探偵だった。
「そ、そうとも言えるかな……だから今日のお昼休みにオカルト部の顧問の先生を探しに職員室に行ったんだけど、今日お休みらしくて……」
強張った表情で話す雪乃道の言葉に、俺はふと思い出した。
そう言えば、オカルト部って字面を最近、って言うかついさっき見たような……
「あ!」
「わっ!なに?赤司くん、何か気付いたの?」
俺は思い出すと同時に席を立ちあがり叫んだ。俺の行動に驚いた雪乃道の疑問に答えるよう、俺は話した。
「さっき、雪乃道がぶっ倒れる前に現れた白衣の女!あいつの出てきた教室の扉、『オカルト部』って書いた張り紙が貼ってあった気がする!」
俺がそう言うと、俺達は目を合わせた後、空き教室を出て雪乃道が倒れた廊下の辺りへと向かう。
「あった!」
ほどなくして、目当ての教室を見つけた俺達は扉の前に立ち止まる。
扉の小窓の向こうはカーテンに阻まれ見えなかったが、『オカルト部』の張り紙がその場所の正体を物語っていた。
「さっきの人、もしかしたらオカルト部の部員の人かも……!」
雪乃道の言葉を聞いた俺は廊下の奥を指さした。
「あっち!白衣の奴、あっちの方向行ったぜ!」
「あっちの方向は……勘でしかないけど、職員室に向かったのかも!」
雪乃道の勘を信じ、俺は職員室へと走り出した。それから丁度職員室前の廊下を進んでいる時、白衣の女が職員室から出て来た。
「失礼しまー……って、何君たち。そっちの女子生徒、すごい息切れしてるけど」
オカルト部の部員と思われる白衣の女の前にやって来た俺は、その言葉にハッとして雪乃道の方を見る。
「ぜぇ……はぁ……あかしくん……足速い……てか廊下……走っちゃ、だめ……」
「す、すまん雪乃道!気づいたら走ってた!」
雪乃道も最初会った時、廊下爆走してたけどな。と出かけた言葉を呑み込み、ふらふらと歩く雪乃道に対し謝罪の言葉を口にした。
「職員室に用?じゃ私は退くから、さっさと入りたまえ」
そう言って俺達の間を抜け来た道を戻ろうとする白衣の女を雪乃道が呼び止める。
「待ってください!私達、あなたに用があって来たんです!」
その言葉を聞いた白衣の女は足を止め、俺達の方へと振り返った。
「私に?君たちは……よく見たら、さっきの握り合いカップルじゃないか。以前にどこかで会ったかな?すまない、興味がないことは三秒で忘れる特技があってね」
「か、かかか、カップルじゃないです!!」
雪乃道は白衣の女の言葉に段々と顔を赤くし、慌てて否定する様にそう言い放った。
ごめん、春子さん……ガールフレンド居るって、嘘でした……
俺は勢いよく否定する雪乃道の姿に若干傷つきながら、白衣の女に向けて要望を伝えた。
「入部希望の一年生でーす……」
「妙にがっかりした表情で言うんだな。ふむ、それにしても入部希望者か……」
白衣の女は手に持っていた紙を見始めた。
「なんの紙?」
「ん」
俺が尋ねると、白衣の女は紙を裏返しその内容を見せた。一番上に『部員記入用紙』と大きな文字で書いており、その下にはいくつかの名前を書き込むスペースがあった。
「一か月ほど前に顧問から渡されていたのだが、どうせ入る部員もいないだろうと放っておいたら、期限をとっくに過ぎていた上、紙を紛失してね。今取りに来てた」
実に丁度いいタイミングだな、と俺が浮かれていると、息を整えた雪乃道が口を開いた。
「あ、あの。実は私達、部活動に興味があるってわけじゃなくて……いや、勿論最低限活動に参加する意思はあるんですが!その、ちょっと部室を使いたいって言うか……」
そこまで正直に言う必要あるか?と言うくらい嘘も建前もなしに話す雪乃道。長田先生に呼び出された時もそうだったが、雪乃道は多分嘘が苦手なのだろう。
「あー……別に構わない。現に二年生に一人、所謂幽霊部員が居るしな。だが、もし部活動に参加するって言うなら条件がある」
白衣の女はびしっと俺達に向かって指をさすと言った。
「活動に参加する、それ即ち私の崇高な実験に参加するという事だ。なので、実験に参加する君たちは私のモルモットとして如何なる命令にも従ってもらう。これが条件だ」
そう言い切る白衣の女に、俺達は唖然とする。
「……なんとなく、この部活が人気のない理由が分かった気がするぜ……」
「まぁ、嫌なら所属だけはさせてやろう。だが、部室の使用は認められんな」
俺と雪乃道は目を見合わせ、それから諦めた様な表情の雪乃道がため息交じりに言った。
「仕方ない……従います……って言っても!良識の範囲内で、ですからね!」
念を押すように言う雪乃道に、白衣の女は頷いた。
「分かってる、オカルト部の部室は無駄に広い。好きに使っていいが……君たちこそ、"良識の範囲内”で行為に及んでくれよ」
白衣の女がそう言うと、何かに気づいた様子の雪乃道は、また顔をトマトみたいに真っ赤にした。
「だ、だか、だから!!そういう事に使うんじゃありません!!!」
悲鳴のような声で必死に否定する雪乃道だったが、俺にはいまいちピンとこなかった。
「そういう事って、なんだよ……」
「さぁね。私にはさっぱり」
どう見ても理解してる様子で、白衣の女はやれやれとポーズを取りながら言った。
「まぁ、ならば君たちは歓迎すべき新入部員って訳だ。どうだ?部室を見ておくか?どうせならそのまま使ってくれてもいい」
白衣の女はそう言い残すと廊下を歩きだし、部室の方へと進んでいく。まだ顔の赤い雪乃道が白衣の女について行くのを見て、俺もその後ろを歩いた。
――――――――――
白衣の女が開いた扉を通り、目の前に広がる教室の内部は、思っているよりも広かった。
普段使っている教室よりは当然狭いが、少し長めの机とそれを囲う椅子が並んでいるだけで、それ以外は壁際に置かれた本棚があるくらいで、すっきりとしていた。
「おぉ……思ってるよりも広い……てか綺麗」
俺の後に入ってきた雪乃道がそう呟くと、更に雪乃道の後ろから教室に入ってきた白衣の女が説明をした。
「まぁ基本は本を置いてるだけだね。私が個人的に使ってる部屋は奥にあるから、こっちはほぼ手つかずだ。時々暇そうな顧問に掃除をさせてるから、そこそこ整頓されてるだろう」
少し自慢げに語った白衣の女は部屋の奥にある扉へと向かって行く。
「せっかくなら見ていくか?私の実験ルーム」
「見たい見たい!俺、漫画の中のマッドサイエンティストの実験シーンが好きでさ!実験室、実際に見てみたかったんだよ!」
「マッドサイエンティストって……まぁ、でも私も見た……っ!」
言い終わる前に、雪乃道の表情が引き締まったものに変わる。それから鞄にストラップの様につけてある宝石のブローチを手に取り、俺へと近づいてきた。
「ごめん……ショッピングセンター前に魔獣が出現するっぽい」
「……おっけー、警察に連絡しとくから、行ってこい」
俺がそう言うと、雪乃道はその場を駆け出し、教室を飛び出す。
「あー、すみません、何かトイレ限界っぽくて、行っちゃいました」
「ん?なんだトイレか。てっきり魔獣を倒しに行ったかと思ったよ」
そうそう、本当は魔獣を倒しに……
心の中でそう返事をしようとする俺だったが、白衣の女の言葉の意味する事実に気づき、警察に通報しようと手にしたスマホを床に落とす。
カタン、とスマホが床にぶつかる様子を眺める白衣の女に向け、俺は呟くように話す。
「今……なんて……」
「うん?いや、私はてっきり
やっぱり、聞き間違いじゃなかった。喉の奥が震えると言う経験を、初めて味わった。
「え……なんで知ってんの……?もしかして……アンタ、昨日の連中の仲間……」
俺は最悪の想像をし、いつでもプロテクトギアを取り出せるよう心の準備を開始した。しかし、白衣の女は全く身構える様子もなく話した。
「昨日の連中?……よく分からないが、その反応的に、彼女がスノーワルツってのは合ってるのか」
俺はその言葉に、白衣の女に向け構えを取る。いつでも踏み出せるよう、膝を軽く曲げ、踵を紙一枚分浮かせた。
「どこで知ったかしらねぇけど……俺は
脅すようにそう言うと、白衣の女は合点がいったように掌の上に拳を置いた。
「あぁ、そっか、してなかったな。自己紹介」
それから自身を顕示するように両腕を広げ、俺に告げた。
「
平然と正体を明かしたその人物は、俺にとって二人目の魔法少女の女子高生であった。
雪乃道ほのかのヒミツ☆
少女漫画や恋愛小説の少し過激なシーンを見た日の夜は卑猥な夢を必ず見る