ヒーロー症候群   作:夜行列車予行

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略してカス


転校!!魔法少女・カースティ!

 机に突っ伏して、顔だけ横に向けてぼうっと窓の外を眺める。今日は曇りで、朝から灰色の雲が空を覆っていた。

 

 朝礼前の僅かな時間。頭に浮かぶのは、昨日の出来事だった。

 

 

 ――――――――――

 

 

「あんたも……魔法少女?」

 

 突然の告白に驚き、逆に体中の力が抜けて行った。

 

「あぁ、証明しようか?ほら」

 

 そう言って広げていた腕を動かし、俺に向けて手を伸ばすと、光に包まれるようにしてその手の中に杖が現れた。

 

 杖先が俺へと向けられ、窓から差し込む夕日の光を反射して、杖先の宝石が光っていた。

 

「魔法少女としての力に覚醒するとね、魔獣の出現がなんとなく分かるんだよ。それから、具体的な場所は特殊な宝石に触れる事で分かる……私の場合はこれだな」

 

 白衣の女は右手の小指を立て、そこに煌めく小さな宝石のついた指輪を見せた。

 

「あの少女、モルモット二号君の場合はブローチなのかな。仕組みはまだ不明だが、それを利用し、魔獣の出現に合わせて現場に向かい、被害が大きくなる前に討伐する。それがスノーワルツのやり方ってわけだ」

 

 すらすらと自分の考えを語った白衣の女はそれから腕を降ろした。それに合わせ、握られていた杖も霧散するように消えて行った。

 

「……色々言いたい事があるけど、あんたがその、だーく……だーくぷれぜんたーって事は分かったよ。だけど一つ訊きたい事が……」

「待て」

 

 掌を突き出し、俺の発言を制止させるように告げた白衣の女は訂正を始めた。

 

「ダークブレンダ―、だ。それから私は闇鴉(やみがらす)あきな。闇鴉、部長、あきなちゃん等と呼ばれている。これが私の自己紹介だ。私がしたのだから君もするのが礼儀じゃないか?」

「まぁ……確かに」

 

 これから入部することになるオカルト部の部長が魔法少女という衝撃的な事実に気が動転してたが、俺はまだ自分の名前を告げてもいなかった。俺は一つ咳ばらいをしてから名乗った。

 

「俺、1-Bの大川赤司。好きな物は唐揚げ。で、闇鴉に訊きたい事が……」

「待て」

 

 自己紹介を終え、話の本題に入ろうとする俺を再び呼び止める闇鴉。

 

「言ってなかったな。私は3-Cの生徒だ。つまり、君より二つも歳が上だ。年功序列を掲げるつもりはないが、この部内では地位も年齢も私の方が上だ。相応しい呼び方って物があるんじゃないか?」

「……闇鴉、部長」

 

 俺が心の底から敬意をこめてそう言うと、闇鴉は満足そうに頷いた。

 

「うん、十分だ。いや、後輩という存在が久しぶりでな、敬意を向けられるのは新鮮だな。まぁ、想像してたよりは普通だな。もう興味ないから好きに呼んでくれていい」

 

 何なんだこいつ……口に出そうになった言葉を止め、俺は辟易とした目で見る。そんな視線を一切介さないよう、闇鴉は話した。

 

「で、訊きたい事とは?さっさと言いたまえ。私もこう見えて結構忙しいんだ」

 

 まったくそうは見えないし、話の腰を折って来たのはそっちだけどな!

 

 心の中で文句を言いつつ、俺はようやく話の続きを口にすることが出来た。

 

「結局、部長はどっちかって話だよ」

「どっちとは?」

「敵か味方か」

 

 俺は闇鴉の目を真っすぐ見つめる。その瞳には敵意は無かったが、それは決して俺達に優しいからとかではく、窓の外の雲を眺めるような、無機質な色だった。

 

 結局のところ、この闇鴉から雪乃道の情報が洩れ、またスノーワルツを狙う敵に伝わったら、それは大変厄介な話だ。

 

「敵……と言ったら?」

 

 全く物怖じしない目で、真っすぐにそう告げてくる。俺は両腕を上げ、再びいつでも動ける体勢になる。

 

「ま、取り合えず一発ぶん殴るかな。俺、特殊な訓練受けててさ、女でも殴れるんだよね」

「なるほど、男女平等って奴か。随分先進的な思想の持ち主なんだな」

 

 じりじりと、お互いに見つめあう時間が過ぎる。どちらが先制しても動けるよう、一挙手一投足に集中する。

 

 先に動いたのは闇鴉だった。両腕を高く上げ、掌をこちらに向けるよう開いた。

 

「降参だ。やめてくれ。私は荒事は得意じゃない、君のパンチ一つで瀕死に至る自信がある」

 

 先手を取った闇鴉の一手は降参。最速の決着に、俺は思わず「えぇ……」と声が出る。

 

「……で、結局どっちだよ。敵なの?味方なの?」

 

 俺は腕を降ろし、構えを解いて闇鴉に尋ねる。闇鴉は相変わらず変わらない表情で答えた。

 

「どっちでもないな」

 

 想定してなかった答えに、俺は首を傾ける。

 

「どっちでもないって……どういう事?」

 

 俺がそう言うと、闇鴉はてくてくと歩み寄ってきた。その手には一枚の紙が握られており、それを渡すように差し出してきた。

 

「敵か味方か以前に、私は君たちの事を知らないからな、判断のしようがない。てことで、今は味方でも敵でもない、部員仲間ってことで……名前、書いておいてくれ」

 

 俺は差し出された紙を受け取る。紙は『部員記入用紙』と書かれた、闇鴉が職員室から貰って来た紙だった。名前を書く欄、一番上には闇鴉の名前とクラスが書いてあった。

 

「……雪乃道……もう一人の分は?」

「彼女の分は、まぁ明日にでも部室に来るよう言っておいてくれ。どうせもう期限は過ぎてるんだ、少し遅くなってもいいだろう」

 

 そう言い残した闇鴉は部屋の奥、実験ルームの扉へと手を掛け、こちらを振り返った。

 

「じゃ、改めてよろしく頼む。大川後輩」

「……おうよ、俺も部活初めてだからさ、楽しみにしてるぜ。闇鴉部長」

 

 その言葉を聞き終えた闇鴉は初めて表情に変化を表し、薄く笑って実験ルームへと姿を消していった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 そんなやり取りを最後に、俺は部室を去って、魔獣を倒し終えた雪乃道と合流し、一緒に下校した。

 

 雪乃道に闇鴉が魔法少女である事を伝えたら、驚いて持っていたクレープを地面に落として、泣きそうな顔になっていた。

 

『ぐすっ……まぁでも、それなら却って遠慮しなくていいから、楽かもね……私の、クレープ……』 

 

 結局もう一度屋台に戻って、新しいクレープを買った事を思い出していると、誰かが俺の近くへとやって来た。

 

「また遊川……じゃねぇ」

 

 俺は窓の外に向けていた顔を横へと向けたが、そこに遊川はおらず、机を運ぶ男子生徒が立っていた。

 

 確か名前は……

 

「真沼……だったっけ?」

 

 俺がそう名前を呼ぶと、真沼は驚いた様な表情で俺の顔を見た。

 

「えっと、大川……だよな。珍しいな、大川から話しかけてくるの……」

「まぁな、俺実は最近心変わりしてさ。今世界で一番多く友達を作る計画を立ててんだ」

 

 自分とは違うと思ってる奴も、案外同じような所とか、良いところがある。

 

 俺が雪乃道の顔を思い浮かべながら、そんな風に考えていると、真沼が笑って答えた。

 

「そうなのか!いや、俺もちょっと話したいと思ってたんだよ。大川、遊川としか話してるの見た事なかったから、ちょっと勇気が出なくてな」

「俺も、真沼と話すの初めてだ。これからは色々話そうぜ。俺知らないこと多いからさ」

 

 俺がそう告げると、真沼は少し困った様な笑みを浮かべてから話した。

 

「俺、真沼じゃなくて、田沼なんだけど……」

「…………田沼ね、田沼」

 

 真沼じゃなくて田沼だった。それから田沼と一言二言話した後、今度は椅子を持った女子生徒がやって来た。

 

「田沼君、椅子持ってきたよ」

「おぉ、ありがとう。西村さん」

 

 西村と言われた女子生徒は持っている椅子を田沼の運んできた椅子の前へと置く。

 

「西村、西村な。覚えたぜ」

「え、な、なに急に……」

 

 西村は若干怯えるような表情で後ずさる。それを慌てて止めるよう、田沼が説明した。

 

「西村!大川、クラスの皆と仲良くしようって思ってるらしくてさ!よかったら仲良くしてやってくれ」

「そ、そうだったんだ……ごめんね、ちょっとびっくりしちゃって。あんまり大川君の良い噂聞かないから」

「噂?」

 

 聞き返すと、西村は言いづらそうに話した。

 

「えっと、上級生と喧嘩して病院送りにしたとか、生徒指導の長田先生に呼び出された回数、歴代更新したとか……そう言う噂」

 

 西村の説明を聞き、俺は腕を組んで思い出していた……全部本当の出来事だった。

 

「……俺、心入れ替えた優等生だから、安心して?」

 

 そう言い聞かせるように言うが、西村の表情はまだ引き攣っていた。まぁ、過去は消えないからしょうがない、これからを考えよう。

 

 そう思い、俺は沼田と西村が運んできた机と椅子を指さした。

 

「気になってたんだけど、その机と椅子、なんで俺の横に持ってきたの?」

 

 つい昨日帰りのホームルームにて俺達のクラスは席替えを行った。結果、横の席の遊川は右前方の方へ、俺は一番後ろの左隅になった。

 

 で、そんな俺の横に二人は机と椅子を持ってきた。

 

「あぁ、これな。先生に頼まれてさ、今日、転校生がくるらしい」

「転校生って……他の学校から新しい生徒が来るって事?」

 

 俺の問いに、二人はうんうんと頷いた。

 

「どんな子かなぁ……男の子かな?女の子かな?」

「さぁな……噂だと、前の高校では問題児だったとか……」

 

 二人は今日やってくるらしい転校生について話しているのを聞いて、俺は言い放つ。

 

「ま!どんな奴でも今の俺なら仲良くなれる自信があるぜ!」

 

 

 ――――――――――――

 

 

「は、初めまして……りゅ、龍竜西高校から転校してきた、呪山(のろいやま)みどりって言います……」

 

 黒板を背に、背筋を曲げた状態でニタニタと笑う女生徒が自己紹介をしていた。

 

 自己紹介を聞く周りのクラスメイト達は、互いに目を合わせたりして、何かを確認していた。

 

「はい。呪山さんありがとうね。じゃあ席は後ろの空いてる所、大川の横で……最後に、何か呪山に質問がある人、いるか?」

 

 担任がそう聞くと、席に座る生徒たちはざわざわと騒がしくなりだし、一人の女生徒が手を挙げた。担任が指名した後、女生徒は立ち上がり、呪山へと質問した。

 

「あ、あの!呪山さんって……あの魔法少女・カースティですよね!!」

 

 その言葉に、呪山の返事を待つよう、教室中が静かになった。

 

 ごくりと、誰かが固唾を飲む音が聞こえた後、待ってましたと言わんばかりのニヤニヤとした笑顔で呪山は答えた。

 

「へへへ……そ、その通り!わ、私は昨日新聞にも載った、超有名魔法少女!カースティですっ!」

 

 呪山の宣言に、周囲からおおっと歓声が沸く。担任も驚いた様な表情をしていた。

 

「へぇー……呪山さん、魔法少女だったの。まぁ、取り合えず席に「しょ、証明します!!カースティ・変装開始(メイクアップ)!」って、ちょっと!呪山さん!?」

 

 担任の声なんて聞こえてないと言わんばかりに、呪山は担任の言葉を遮るようそう言うと、何処からか取り出した金槌みたいな物を手に持ち、そう叫んだ。

 

 瞬間、緑と黒の光が呪山の身体を包み、瞬間的にドレス姿へと変身した。

 

「で、出来た!昨日練習した、瞬間変身!……あ」

 

 変身が成功すると同時に、光が爆発するように霧散し、その余波か何かで呪山の目の前の教卓が吹き飛ぶ。

 

 教卓は教室の中を飛び、勢いよく一点に向かって突き抜けていく。

 

「え?」

 

 その一点とは、一番後ろに座る俺であり、もうすぐ目の前まで教卓が迫っていた。

 

 上がる女子の悲鳴と、驚く男子の声。遠くで、遊川が焦った表情で俺を見ているのが見えた。

 

 例えるなら、鉄球が車の上に落下した時みたいな、金属同士がぶつかりあう鈍い音が、俺のすぐ後ろで響いた。

 

「あっぶね……!」

 

 間一髪で椅子を飛び降りた俺は教卓の吹き飛んでいった先を見る。

 

 命中したのは俺の席の後ろに設置されていた掃除用具の入ったロッカー。教卓との衝突によりロッカーの扉は歪み、教卓は足が折れていた。

 

「えと、あの……せ、セーフ……って事でいいです、よね?」

 

 恐怖と驚きに静まり返った教室に、一人の声が大きく響いた。声の方に目を向けると、顔の前で両手で金槌を握りしめる魔法少女・カースティの姿があった。

 

「仲良く……なれる……自信」

 

 俺は何事も無かったかの様に笑みを浮かべる呪山を見て、自分の言葉に自信が持てなくなっていた。

 

 

 

 

 

 




闇鴉あきなのヒミツ☆

食欲より性欲が強く、性欲より自身の知的好奇心を満たす欲の方が強い
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