廊下を歩き、自分の教室の前までたどり着く。俺は鞄からスマホを取り出し、連絡を確認しつつ教室へ入る。
ロインから通知が来てたため、アプリを開いてその内容を確認する。友達一覧の画面の一番上、『オカルト部(5)』にメッセージが送られていた。
「おはよう、赤司。彼女から連絡か?」
「ちげーよ。部活のグループから連絡来てただけ」
スマホの画面を見せ、俺はそう言う。声を掛けてきたのは遊川だった。相変わらず人好きのする笑顔を浮かべる遊川は、けらけらと笑っていた。
「あー、言ってたな、赤司。なんの部活だっけ?」
「オカルト部」
俺はそんな笑みを横目に自分の席へと向かう。椅子に座り、改めてスマホに届いたメッセージを確認した。
『今日、次の実験に関して重要な話がある。参加希望のモルモット諸君は集合』
メッセージの送り主は、闇鴉だった。アイコンは白衣の写真で、雑談とかには一切参加せず、連絡事項だけをメッセージする。
『了解です!』
『わーい!久しぶりのレクリエーションだ!』
『レクリエーションではなく、実験だ』
ウサギのアイコンと線香花火のアイコンが闇鴉のメッセージに返事を返しており、白衣のアイコンが訂正するように送ったメッセージが最後尾だった。
「赤司くん、おはよう!」
「おぉ、飯田、おはよう」
俺の前の席に腰掛ける女子生徒、飯田に挨拶を返す。飯田は俺の前の席の女子で、バトミントン部に所属してる陽気な生徒だ。
「酒井くんも、おはよう!」
「は、はい!飯田さん、それに大川君も、おはようございます!」
「おう、おはよう酒井」
俺は右前方の席に座る酒井に向けても挨拶をする。酒井は、あんまり人との会話が得意じゃないらしいが、その分勉強が得意な頭の良い奴だ。
最近は授業中で分からない時は酒井に質問したり、休み時間に飯田にインスマの話をしたり、昼飯を遊川と食べたり、そんな感じで過ごしている。
まだ学校で一番多くの友達を作るには至ってないが、そこそこ周りとの交友を持ち始めた。これが最近一番の俺の成長。
「今日は数学と歴史かぁ……私、苦手だなぁ」
「分かるぜ、俺も数学と歴史があって体育がないから火曜日が嫌いだ」
「僕は逆に体育が苦手だから、火曜日は好きかなぁ」
そんな風に他愛もない会話を続けていると、不意に俺達の会話が亀裂が入ったみたに途切れる。
「へへへ、学校……教室……クラスメイト……全部、爆発……へへへ」
原因は明らかで、ぶつぶつと物騒な台詞を呟きながら俺の横の席に座った女子生徒にあった。淀んだ風が漂うなか、俺は一応挨拶を試みる。
「あー……おはよう、呪山」
俺がそう話しかけると、席に着いた呪山は目だけをぎょろりとこちらに向け、口を開いた。
「大川赤司……爆発」
そして何故か俺は爆発させられた。
それから俺の周りで会話は消え、スマホを見たり、教科書を読んだり、呪詛を呟いたり、各々が一人での時間を過ごし始めた。
俺は頬杖をついて、俯いて呪詛を呟く呪山を横目に見た。
この世の全てを呪わんとする女子生徒。この呪山が最近一番の俺の生活の変化。
俺はここ一週間の日々を思い出してみた。
――――――――――
色々な意味で衝撃的な自己紹介の後、何事もなかったかのように自分の席に座る呪山の表情は希望に満ちていた。
「ねぇねぇ!呪山さん、魔法少女って本当?」
「魔法少女になるって、どんな感覚?魔法ってどんなことができるの?」
「呪山さん、よく見ると可愛いよね……もしかして、魔法少女になるための条件は可愛さ!?」
そんな感じで質問攻めを受ける呪山。俺は危うく殺されかけたが、周りのクラスメイトは“お茶目”の範疇で済ませてくれた。
「うえへへ……み、皆慌てないで……わ、私を取り合わないで……!」
魔法少女の転校生と言う存在に釘付けなクラスメイト達に囲まれ、本人はまんざらでもなさそうな反応だった。
「魔獣って、どうやって倒すの?」
「えと、色々あるんだけど、お気に入りの方法は、巨大な釘を打ち込む魔法かな」
その返答に、周りの空気が一瞬だけ熱を引いた。しかし、呪山はそれに気づいていないのか、嬉々として続きを話した。
「釘を打ち込んだ瞬間、肉の弾ける感じが結構爽快で……生きてるって感じするよね……!」
「…………」
気まずい沈黙が流れる中、呪山の表情は極めて晴れやかだった。
「ほ、他に!もうちょっと優しいって言うか……過激じゃないやつ!ないかな!」
一人の女子生徒がその場の空気を戻そうと声を張り上げた。それから少しだけ騒がしさを戻した中、呪山は考え込むようにして答えた。
「うーん……過激じゃないやつ……その、魔獣と戦うと、肉片とか毛とか落とすんだけど、その一部にね、魔法を使って釘を打ち込むとね、魔獣がすごく苦しみだすの……!」
「……そ、そうなんだ」
質問をした女子生徒の声が妙に聞き取りやすかった。しかし周りの様子にお構いなしの呪山はウキウキで語り続ける。
「魔獣って、一見表情とか感情とかなさそうだけど、この魔法を使うとね、相当痛いのか、うめき声とか上げ始めるの!仕留めきれなかった蚊が動いてるのを見る感覚に近くて……すっごい生きてるって感じがする……!」
「…………」
もう熱が引くどころか、冷え始めていた。周りの生徒は何かを察し、信じられないものを見る目で呪山の笑顔を見つめていた。
「は、話変わるけどさ!呪山さんは、何で転校して来たのかな!親の仕事?」
もうだめかもしれない。そんな諦めの感情が漂う空気の中、一人の勇者が希望の光を差し込んだ。
魔法少女活動とは関係ない、呪山個人の事情に関する質問。これなら地雷発言を避け、呪山の人となりを知る事が出来るかもしれない。周囲は僅かに、熱気と希望を取り戻していた。
「えっと、私が魔法少女の事話したら、気持ち悪いって言ってくる男子が居て……殴ったら気まずくなっちゃって、お母さんとお父さんに頼んで転校させてもらったの……」
希望はの光は、断たれた。
周りの空気がお通夜の現場のように凍えつき、それと同時に授業開始を告げるチャイムが鳴った。
「助かった……!」全員の表情にそう書いてあるようで、呪山の周りに集まっていた生徒たちはそそくさと自分の席へ戻っていった。
「へへへ……私、凄い人気者……」
ニタニタと笑う呪山は何を想像しているのか、それを想像する事が少し残酷な気がして、俺は教科書へと目を落とした。
その後、休み時間になっても呪山の元に生徒が集まる事は無かった。
これが初日。呪山はそれから若干クラスの中で浮いた存在となったが、まだ呪詛連続詠唱系女子高生ではなかった。
大きく変化があったのは三日目だ。授業中の事だった、俺がぼうっと教師が黒板に文字を書き込んでいくのを眺めていると、隣の席からガタっと音がした。
目を向けると、呪山が机の上に両手を置いて立ち上がっており、その状態で教師に向け告げた。
「す、すみません!魔獣が近くに出たので、授業、ぬ、抜けます!」
そう言い切ると同時にその場を駆け出す呪山の首には、チョーカーに付属してる宝石がきらりと光っていた。
「おぉ!魔法少女っぽい!」
「すげぇ!魔獣が出現したの、分かるんだ!」
「呪山さん、いや魔法少女・カースティの実力は本物かも!」
その様子を見ていたクラスメイト達が盛り上がる。騒がしくなった生徒たちを教師が注意をした後、呪山が帰ってきたのは授業が終わる直前くらいだった。
教室の後ろ扉がガラッと大きく音を立てて開かれた。呪山が魔獣を倒して帰って来たのだと、クラス中の注目が後ろ扉に集められた。
「殺す……呪う……スノーワルツ……許さない……!」
そこには達成感や正義感に満ちた魔法少女の姿はなく、スノーワルツへの恨み言を吐く呪山の姿があった。
教室中の視線が呪山に注がれる中、俺は机の下でスマホを操作し、ネットニュースの速報を確認していた。
『今日も街の危機に颯爽と登場!スノーワルツの躍進は止まらない!?』
そんな見出し文字の下に映る画像は、スノーワルツが魔獣を倒すその瞬間であり、よく見ると画面の端に金槌を持ったカースティの姿があった。
俺が取りあえずロインで雪乃道へ『お疲れ』とメッセージを送ると、数秒後、屈託のない笑顔を浮かべる熊のスタンプが送られてきた。
その熊のスタンプを見た後に、横に座る呪山の表情を見ると、その表情の落差に断崖絶壁の崖が連想された。
授業の終わりを告げるチャイムが冷え切った教室に響いた。
――――――――――
「……爆発……下校……スノーワルツ……爆発……」
授業が全て終わり、放課後を迎えた教室の中、相変わらず呪詛を呟いてる呪山が居た。
今日も昼休みの途中に魔獣が現れたらしく、呪山もカースティとして向かったが、着く頃にはスノーワルツが倒していたらしい。
「許さん……スノーワルツ……私の歓声を、私の称賛を奪って……おのれ!スノーワルツぅ……!!」
ギリギリと歯を噛み締めて放つ言葉に、俺はスノーワルツの正体が雪乃道である事を知る前の自分を思い出す。
そう言えば、俺もスノーワルツに対抗心を燃やして、躍起になってた時があったなと。
「……なぁ、呪山」
俺はなんだか呪山が他人の様に思えなくなり、気付くとそんな風に声を掛けていた。
「え、大川赤司……君。えっと、私に何か……?」
負のオーラ全開だった呪山は一旦その恨み言を止め、俺の方を見た。
「いや、スノーワルツ、そんなに嫌いなのかって……」
スノーワルツ、俺がその単語を発した途端、ギリと何かが潰れる音が呪山の方から聞こえた。
「す、スノーワルツは敵……!私の手柄を全部奪っていく……私の、私が倒すはずなのにぃ……!!」
そう言いながらいつの間にか手に持っていたシャーペンの芯を出しては折るを繰り返した。
「まぁ、落ち着けよ……案外、スノーワルツは周りの人を助けたい一心で活動してる、心優しい奴かもしれねーぞ?」
俺がスノーワルツ、もとい雪乃道を擁護するよう言葉を述べると、呪山はシャーペンの芯を出すのを止め、睨むように俺の目を見てきた。
「な、なに?赤司くんも、チヤホヤされたいからって魔法少女やってる私のこと、馬鹿にするの!?」
癇癪を起すように叫んだ呪山の言葉に、俺は自分を思い出した。
「……俺も、魔法少女、嫌いだったぜ。俺、シュゴレンジャー好きだったんだよね」
シュゴレンジャーと言った辺りで、呪山は怒るような表情を変え、驚くように目を見開いた。
「赤司くん、シュゴレンジャー、好きなの……?」
「あぁ。だから俺、なんでシュゴレンジャーが活躍してなくて、魔法少女ばかり持ち上げられるんだって、結構キレてた」
今はそこまでだけど、あの時はテレビや教室で魔法少女の話題が出る度、嫌気がさしていた。多分、呪山もそんな感じなんだろう。
「まぁ、だから魔法少女が嫌いって訳じゃないだけど……知り合いに魔法少女の奴が居てさ、そいつすげー良い奴なんだよ」
「…………」
呪山は黙って俺の顔をみつめ、話を聞き続けた。
「魔法少女の中にもそんな奴がいるって分かったら、なんか自分が馬鹿らしくなってきて……ま、だからって呪山のチヤホヤされたいって理由がしょうもないとかは思わねーけどさ」
そこまで言うと、俺は呪山の目を見て告げた。
「そんな目の敵にする必要もないんじゃねぇかなって、思うってだけ」
「…………あ、赤司くんってさ……」
呪山は何かに勘づいた様な表情で俺にそう呼びかけると、きょろきょろと辺りの様子を確認し、誰にも聞かれないよう席を立ち、俺の耳元に近づき話した。
「赤司くんってさ……実は……」
もったいぶった言い方に、俺は何だかドキドキする。もしかして、俺がシュゴレンジャーの話題を出した事で、俺がレッドっていう事に気づいたとか……
もしかして、呪山も
ある!十分あり得る!なんか最近レッドのファンに会うこと多いし!
俺はごくりと唾を飲み、言葉の続きを待った。
「赤司くん……私の事、好きでしょ?」
告げられた衝撃の台詞に、俺は固まった。
「…………なんて?」
念のため、ほぼ確実に聞き間違いだと信じて、呪山にもう一度言ってもらうよう頼む。
「いやだから……赤司くん、私の事好きなんだろうなって……あ、合ってるでしょ!ね!赤司くん、私の事好きでしょ!!」
呪山の大声で告げられた『赤司くんが私の事好き』の言葉は教室中に響き、一斉にクラスメイト達の視線が俺達に向けられる。
俺は一度落ち着き、深呼吸を挟んで、それからもう一度大きく息を吸ってから口を開いた。
「んなわけねーだろ!!!この!
俺の声も教室中に響き、「なんだ違うのかよ」と明らかにがっかりした表情を浮かべるクラスメイト達は自分たちの作業に戻った。
「え、は、は、はぁ!?あ、あああり得ないんだけど!!なんで!?明らかに私の事、す、好きだったじゃん!!」
「どこがだよ!俺今初めてまともに話したけど!!」
俺がそう反論すると、信じられないと表情に驚きと怒りを浮かべた呪山が言葉を続けた。
「う、嘘だぁ!!だって、赤司くん毎日挨拶してくるし!」
「人として当たり前の行動だろ!!」
呪山は少し苦しそうに唸り、それから再び話し始めた。
「この前も、私が教科書忘れたら見せてくれたし!さ、さっきも私の話に共感して、価値観を合わせてくれたじゃん!!」
「それは俺が優しくて、奇跡的にお前に近い価値観を持ってただけ!てか俺は断じて毎日呪詛呟いて登校する女と同じ価値観ではない!!」
お互いに肩で息をし、そこまで言い合うと、呪山は顔を真っ赤にして震え始めた。
「ゆ、許さん……期待させる事ばっかり言って……いや、私に間違いはない……私はみんなに好かれる、超人気者ォ!!」
言いながら呪山は拳を握り、俺の顎目掛けて振りぬいた。
「あぶねぇ!!てめぇ!転校初日といい、お前は俺に恨みでもあんのかよ!!」
「今出来た!死ねぇ!!」
次いで俺の頬へと左拳が振るわれる。躊躇のない一撃は、今まで喧嘩してきたどの相手よりも恐ろしかった。
「おい!殴りかかってくんな!俺は女でも容赦なく殴れるぞ!いいのか!!」
「い、いいよ!そしたら私は赤司くんに殴られた怪我を証拠に訴えて、赤司くんの人生終わらせるから!」
そう言って今度は頭へと足を振り上げてきた。綺麗な上段回し蹴りが俺の目の前を通り過ぎる。
「だったら俺も訴えるぞ!」
「私は魔法少女として社会に貢献してるから無罪!!赤司くんは有罪!!」
だったら俺もシュゴレンジャーとして世界を救ったぞ!誰よりも社会貢献してるだろ!
言いたくなる気持ちを抑え、俺は呪山の攻撃を躱すと、鞄を持ってその横を通り抜け、教室の扉前まで走る。
「もうお前知らん!俺部活行くから、じゃあな!!」
俺はそう言い放つと返事を待たずに廊下に出て、オカルト部の部室へ向かう。
あぁ言う話の通じない奴には逃げるに限る。俺は後ろを振り返り、呪山が追って来てない事を確認すると、部室の前で足を止める。
「まったく、災難な目に遭ったぜ……」
俺は一呼吸いれてから、教室の扉を開いた。
「えー!それで転校して来たんだ!!なんかすごいロックって感じ!!」
「へへへ、ロック……私、ロックな女だからさ……」
信じられない光景を前にし、俺は固まる。それから目を閉じ、もう一度深呼吸をしてから目を開いた。
「アタシも中学校卒業する前に、悪口言ってきた男の子ぶん殴っておこうかなぁ」
「い、いいね!私も、協力する!と、
その光景を前に、俺は開いた扉に再び手を伸ばし、勢いよく閉じた。
よし、冷静になれ、俺。俺は馬鹿だから、きっと部室を間違えたんだ。だってオカルト部の部室に呪山が居るなんて事実、あってはいけないからな。
俺は冷静になった頭で扉に貼られた紙を確認する。手書きの『オカルト部』、うん、間違いなく闇鴉の書いた文字だ。
「なんでお前が居るんだよ!!」
俺は叫びながら再び扉を開け放つ。扉の先にはやはり幻覚ではなく、机を挟んで茶髪のサイドテールの少女と楽しそうに話す呪山の姿があった。
「あ!赤司先輩!昨日ぶりー!」
そう言って快活な笑顔で手を振って来るのは
なんで中学生が高校のオカルト部に居るんだよって疑問は一旦置いておく。問題はその対面に座る女だった。
「あ、赤司くん……さっきぶり……」
当たり前の様に俺の名前を呼ぶ呪山。
もしかしてコイツはドッペルゲンガーの分身で、さっきのとは別個体なんじゃ……一瞬そんな思考が浮かぶが、さっきぶりとか言ってるいし、多分同一個体。
なんだか風邪の日の頭痛のような痛みが頭にやって来て、頭を押さえる。
「……なんで俺より先に部室に居るんだよ」
「あ、えと、赤司くんが教室出て行ったのを見て、私も変身して窓の外から部室に向かったの。は、速いでしょ……!」
よくよく見ると呪山の服は制服ではなく、黒と緑の色のドレスで、首や手首には包帯が巻き付けられていた。
「……じゃあなんでオカルト部来たんだよ。お前部員じゃないだろ……」
「赤司くんが部活って言うの聞いて、わ、私部活入ったこと無くて……入ってみたいって思って、追いかけたみた……!」
「アクティブだねー!」
呪山の主張に能天気な花火の言葉も加わり、頭の痛みが強くなるようだった。
「……なんでよりにもよってオカルト部なんだよ」
「運動部とかは、熱血って感じで嫌だし……文化部も、なんかしっかりした所入りたくないし……いい感じに適当な部活ぽかったから……」
「アタシも陸上部止めてこっち入りたーい!」
俺はガンガンなってきた頭で、それでも力を振り絞って質問を続けた。
「……最後。俺がオカルト部って、なんで知ってんの?」
「く、クラスの、金次くんと話してるの、聞いて……赤司くん、私のこと好きかもしれないから、部室の場所知っておこうと、尾行してみた……へへへ」
へへへじゃねーよ。これからは誰かに
「え!赤司先輩、みどり先輩の事好きなの!?てっきりほのかちゃんが好きなのかと思ってた!」
「どっちもちげーよ……花火、お前の分も買っていいから、飲み物買ってきてくれない?」
俺はそう言って鞄から財布を出し、ジュースが二本分買える程度の小銭を取り出す。
「まじ!?アタシ、赤司先輩大好きー!!」
「おう、俺炭酸系で頼む」
俺の要求を聞き取るより早く、花火は部室を飛び出していった。俺はなるべく呪山から一番遠い椅子に座り、机の上に項垂れる。
「なんだ、騒がしいな。集中できないから静かにして……って、誰だ君は。魔法少女?」
俺が席に着くと同時くらいに実験ルームから出て来た闇鴉は呪山の姿を見て、そう尋ねた。
「あ、はい。あの、一週間前くらいに転校して来た、入部希望の呪山みどりって言います……す、素敵なファッションですね……」
花火が気に入ったのか、オカルト部が気に入ったのかは知らないが、どうにかオカルト部に入りたいらしい呪山は白衣姿の闇鴉を褒める。
あれ、ファッションで着てんのか?
「ほう!違いの分かる目を持っているようだね。ふむ、いいだろう、今日から君も私のモルモット三号だ。この紙に名前を書いておいてくれ」
そう言って闇鴉が渡した紙は、一週間前に俺と雪乃道が記入した『部員記入用紙』の紙だった。
「まだ出してなかったのかよ……てか部長、
「うん?別にいいだろ、実験体は多いに越したことはない。それに彼女は類まれなる審美眼を持っている。有用な人材だ」
「ゆ、有用……久しぶりの誉め言葉……気分がイイ……!」
ファッションで着てんのかよ、その白衣……
色々言いたい事はあったが、言葉にするほどの気力が無かった俺は何も言わなかった。
「買ってきたよー!って、あきなちゃん!実験ルームの外に居るなんて珍しい!」
スポーツドリンクとコンポタ缶を両手に持つ花火が部室に戻ってきた。それからコンポタの方を俺の前に置くと、花火は俺の横の椅子に座った。
「もう深くは聞かん、なんでコンポタ?」
「小銭使い切る組み合わせ、それしかなかった!」
元気よくそう言い切る花火はスポーツドリンクの蓋を開け、一気に飲みだした。俺は諦めてコンポタの缶を開け、中身を飲む。
まぁ、美味いからいいか。
そう考えてると、部室の扉がまた開かれた。見ると、入って来たのは雪乃道で、少し慌てた様子だった。
「すみません!ちょっとクラスの子と話し込んでて……って、あ、あなたはあの時の……!!」
雪乃道が呪山を見て口を手で覆い、驚いた風に言う。コンポタで回復した俺の脳がその光景に警鐘を鳴らす。
『あの時の魔法少女!』
『あの時って、わ、私あなたに会った事ありましたっけ?』
『あ!実は私魔法少女スノーワルツでして、この間魔獣が現れた時……』
『スノーワルツ!殺す!!』
となって呪山が殴りかかる所までが想像できた。俺はその未来を変えるため、スマホを取り出し雪乃道へ通話の呼び出しを行う。
「って、すみません。誰かから連絡が……ってこれ……」
雪乃道が鞄の中で鳴り出したスマホに気づき、手に取って画面を見ると、俺に向かって訝し気な目線を送って来る。
俺は通話中止ボタンを押し、それからメッセージで雪乃道に伝える。
『こいつ』
『スノーワルツ』
『めちゃ嫌い』
『話すな』
簡潔になるべく素早く送った俺のメッセージを確認した雪乃道は、少し戸惑いながら頷いた。
「あの時の?雪乃道後輩、彼女と面識があったのか?」
「い、いや、あの時の……通りがかって見た、とっても可愛い人!」
少しの逡巡の後、雪乃道がそう言うと、言葉を受けた呪山は分かりやすく頬をほころばせて喜んだ。
「うえへへ、可愛いって……やっぱり私、人気で可愛いんだ……
それから雪乃道が呪山の隣の椅子に座ったのを確認した闇鴉は、俺達の顔を見渡した後告げた。
「うん。丁度揃ったから次の実験について説明をしようと思うが……えっと、呪山後輩?君はこの部活に入部でいいのか?」
闇鴉は机の上に置かれた、呪山が記入した『部員記入用紙』の紙を眺めて訊ねる。
呪山はニタニタとした笑みを浮かべ、それから答えた。
「は、入ります!私、オカルト部大好き!」
「そうか、入る前から好きになるとは、余程相性がいいのだな」
そんなこんな色々とあり、本格的にオカルト部の活動が開始するのだった。
俺は広がった先の見えない暗闇に飛び込むような気持ちで、闇鴉の話を聞くことを決めた。
呪山みどり
呪いの固有魔法を持つ、魔法少女・カースティに変身することが出来る。
性格は根暗。基本的に自分に甘い。癇癪で他人をぶん殴る。人を好きになりやすいが、嫌いにもなりやすい。
世の中の不幸は大抵本人の責任、ただし自分の不幸は誰かのせいだと本気で思ってる。
猫背のせいで実際より背が低く見える。きちんと整えれば見た目は良いが、ぼさぼさの髪とキモイ笑い方と隈のせいで怖がれがち。