ヒーロー症候群   作:夜行列車予行

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晴れのち曇りのち雨


儀式!!いざゆかん!夜の学校!

 自室にて鞄の中から教科書や筆記用具を取り出し、机の上に放る。それから空になった鞄にの中に必要な物を詰め込む。

 

 スマホ、覆面、クッキー缶、タッパー等、色々だ。何に使うんだよ、と思われるかもしれないが、俺にだって分からなかった。

 

 準備を終えた俺は鞄を持ち、自室を出て玄関へと向かう。

 

「あれー?赤司くん、まだ制服?ていうか、どこか行くの?」

 

 コーヒーカップを片手にリビングでソファに座り、テレビを見ていた春子さんが尋ねてくる。

 

「はい。部活でちょっと用事があって、いってきます」

 

 そう言うと春子さんはコーヒーカップをソファの前の机に置き、思い出したように語った。

 

「そういえば、言ってたわね!部活のお友達と天体観測しにいくんだっけ?いいわね!青春って感じで!」

 

 違います。俺が所属してるのはオカルト部という変人の巣窟で、今から謎の儀式を行いに向かいます。

 

 春子さんの純粋に俺を応援する笑顔に、俺の心の中の良心が動かされ、思わず本当の事を言いそうになるがぐっとこらえる。

 

 多分、春子さんは優しい人だから、俺の部活の実態を話したら心底心配してしまうだろう。主に呪山のせいで。

 

「まぁ、そういう事で、帰ってくるの八時頃になると思います」

「はーい、お風呂沸かして待ってるから、気を付けてねー。夜は、危ない人も多いから」

 

 ソファから玄関に移動し、手を振って俺を送り出してくれる春子さん。

 

「いってらっしゃーい!」

 

 その言葉を背に、俺は玄関の扉を開き、夜の学校へと向かった。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 集合場所は、学校前の正門だった。俺が着く頃にはもう三人がその場に居て、俺が四番目の到着のようだった。

 

「あ!赤司先輩来た!こんばんは!」

 

 正門前でしゃがんでいた花火が俺を見つけ、手を振って俺に呼びかける。

 

「こんばんは。俺最後か、みんな早くね?」

「常識ある人間は五分前行動を心掛けるものだ。ひとつ賢くなったな、赤司後輩」

 

 花火の横で分厚い本を読みながら立つ闇鴉がそう言う。夜の中でも真っ白い白衣が目立って見えた。

 

「あはは……まぁでも時間通りだし、そっちのが時間に無駄がなくていいよね!」

「まぁ、時間を過ぎても来ないよりは遥かにマシだな」

 

 雪乃道の言葉に、闇鴉がそう返す。その言葉に俺は辺りを見渡す。

 

呪山(あいつ)、来てねーじゃん」

 

 正門前に居るのは俺含めて四人。事前に説明を受けた参加者は五人だった。

 

「みどり先輩既読つかないよー……忘れちゃったかな?」

「えぇ……じゃあもうアイツ抜きで始めようぜ」

 

 スマホの画面を退屈そうに見つめる花火に俺がそう提案すると、読んでいた本から目を離した闇鴉が口をはさんだ。

 

「無理だな。呪山後輩は実験に重要な供物の調達係を立候補した。つまり彼女が来ない限り実験は始まらないし終わらない」

「みどりちゃん、張り切ってたのになんで……」

 

 不安そうな面持ちで雪乃道が言う。確かに呪山は今回のなんちゃら降臨儀式の話を聞き、必要な供物の調達係を請け負っていた。

 

『ここで活躍して、部内での地位を確保……うえへへ……』

 

 とか言って、気持ち悪い笑い方で張り切っていた。

 

「俺らの持ってきた道具でその……鶏悪魔召喚出来ないの?」

「鶏悪魔ではない。大悪魔コケッドゥルーだ。君たちが持ってきたのはあくまで成功率を高めるための補助具、彼女の供物がないとそもそも召喚出来ない」

「供物ってなんだよ」

 

 俺が訊くと、闇鴉は再び視線を本のページの上に戻し答えた。

 

「鶏肉、白い羽、赤いトサカだ」

「ぜってー鶏の悪魔だろ……」

 

 魔法陣の上にでかい鶏が現れる絵図を想像していると、花火が声を上げた。

 

「あ!みどり先輩からロインきた!……ってまじか……ほのかちゃん、見てこれ」

 

 絶句、その表現が似合う表情でスマホを見つめた花火は、持っていたスマホを横に立つ雪乃道に差し出した。

 

「え……うそでしょ……みどりちゃん……?」

 

 信じられない、その表現が最も適切な表情でスマホを見つめる雪乃道。気になった俺は、雪乃道の後ろからスマホの画面を覗いた。

 

『すみません。忘れてました。今から材料調達して向かいます』

 

 その文面に俺は言葉を失う。それから少しして、追加のメッセージがやって来た。

 

『橙香ちゃん、私が忘れてたことは秘密で、良い感じに誤魔化して時間稼いでおいてください』

 

「…………」

「…………」

 

 俺と雪乃道はその追いロインに絶望し、軽蔑の眼差しでスマホを見つめる。それから雪乃道は画面を操作し、呪山へ通話を開始した。

 

「……あ、みどりちゃん?ごめんね、橙香ちゃんじゃなくて、雪乃道なんだけど……嘘は、良くないと思うの」

 

 それから一言二言会話をした後、通話を終えた雪乃道は「勝手に使ってごめんね」と花火にスマホを返すと、その場でため息をついた。

 

「呪山、なんて言ってた?」

 

 俺がそう尋ねると遠い空を見つめながら、雪乃道は答えた。

 

「……嘘ついたのは謝るけど、赤司くんには黙っておいて欲しいって、それから私の性格の良さを褒められた」

「なんで俺には黙って欲しいって?」

 

 雪乃道は言いづらそうに視線を泳がせ、それから申し訳なさそうな目で俺の顔を見て告げた。

 

「……その、他の人ならいいけど、頭悪そうな赤司くんに馬鹿にされるのは、プライドが許さないからって……」

「…………」

 

 一つ、深呼吸をした。それから頭の中に呪山の顔を思い浮かべて、それから唸る様に呟く。

 

「あの性格カス女ァ……!」

 

 それから十五分後くらい、ビニール袋を手に提げた呪山がやって来たのだった。

 

 

 ――――――――――――

 

 

「ふむ。供物に問題はない。よし、これから実験開始といこうか」

「本当に全部あるの……?みどりちゃん、一体どうやって十五分でこれを……?」

「へへへ……これで帳消し……」

 

 ビニール袋の中身を確認した闇鴉がそう言うのを聞き、俺は口を開いた。

 

「場所は体育館だっけ?呪山のせいで時間食ったし、さっさと行こうぜ」

 

 俺がそう言うと、雪乃道が首を傾けて呟いた。

 

「でも、夜の学校って鍵とか全部閉まってるんじゃ……」

 

 その疑問に答えるよう、闇鴉は正門へと近づき、手に持っているそれを俺達に見せつけた。

 

「安心していい、今回は顧問の全面協力のもと行う実験だ。今の私達に立ち入り禁止の場所はない」

 

 手元の鍵の束が月光を反射し淡く光った。闇鴉は正門横の鉄柵の扉に鍵を差し込み、扉を開いた。

 

「顧問の先生……私、会ったこと無いかも……」

「俺もねぇな」

「わ、私もない……」

 

 闇鴉を先頭に中庭の中を歩く。

 

「体育館前で待っているはずだ。直に会える」

黒崎(くろさき)先生、会うの結構久しぶりかも!」

 

 黒崎。花火の言ったその名前に聞き覚えがないか脳内で検索を行うが、一向に見当がつかない。

 

「……俺、人の名前覚えるの苦手なんだよね」

 

 俺がそう言うと、隣を歩いていた雪乃道が口を開いた。

 

「確か、三年部の先生だった気がするなぁ……職員室で呼ばれてるの、見た気がする」

 

 雪乃道の言葉に補足を付け加えるよう、花火が話した。

 

「黒崎先生はねー、アルコール依存症でニコチン依存症でギャンブル依存症の真人間の反対みたいな先生なんだよー」

「そ、そうなんだ……」

 

 雪乃道が苦笑いをする。アルコール、ニコチン、ギャンブル……俺は脳裏に親父の姿を思い出した。

 

「……ロクでもない奴ってことだな」

「わ、私よりも救えない人間……自己肯定感高まる……!」

 

 こいつも二十歳になったら同じような属性を手に入れそうだけどな。俺は喜ぶ呪山の姿を横目に見てそう感想を抱く。

 

「もう着くぞ。ほら、あれがオカルト部顧問の黒崎だ」

 

 闇鴉がそう言って指さす先には、ワイシャツ姿の大人の男が立っていた。口元に煙草を咥え、頭上を灰色の煙が昇って行った。

 

「まじで吸ってんじゃん」

「学校の敷地内での喫煙って、禁止されてるんじゃ……」

 

 雪乃道が小さく呟く。少し近づくと、俺達の存在に気づいたのか、男は咥えていた煙草を手に取り、煙草の箱で火を消すと俺らに話しかけた。

 

 

「やぁ、未来ある少年少女達!青春、謳歌してるか?」

 

 

 漂う煙の匂いとは正反対の爽やかな笑顔と声だった。先頭を歩いていた闇鴉は男の隣に立ち、俺達に向き直ると、男を親指で指して言う。

 

「これがオカルト部顧問の黒崎、黒崎明人(くろさき あきと)だ。女子高生だろうと当たり前の様に口説いてくるから、言葉の八割は適当に受け流した方がいい」

「君、可愛いね。その頭のリボンとかとってもチャーミング!君の事、もっと知りたいな」

 

 黒崎は雪乃道に向け、首を傾け、顔を覗き込むようにして話しかけた。

 

「あ、あははー……ゆ、雪乃道です。よろしくお願いします」

「俺、大川赤司、好物唐揚げ」

「わ、私の方が可愛いですよ……の、呪山みどりです……」

 

 新入生の俺達が名乗ると、黒崎は満足そうに頷き、隣の闇鴉に話す。

 

「うん!久しぶりの新入部員って聞いてたけど、皆いい子そうだな!」

 

 雪乃道は分かるが、ぜってー呪山だけは“いい子”ではない。

 

「自己紹介が終わったなら、さっさと始めるぞ。空模様が怪しい、私は雨に濡れるのが嫌いだ」

「えー!私傘持ってきてないよ!」

 

 闇鴉はそう言って体育館の中へと入っていく。花火がそれに続いて入り、雪乃道と呪山も花火を追いかけるよう体育館へ入った。

 

「ん?赤司くん、だっけ?俺達も早く入ろう、あきな達が待ってるよ」

 

 俺はじっと黒崎の顔を見つめる。これと言って特徴のない、強いて言えば女子達からモテそうな年上の男って感じの顔だった。

 

「……いや、なんでもないや。早く行こうぜ」

 

 そう言うと黒崎は頷き、体育館の方へ進む。俺も黒崎の背中を眺め、その後ろをついていく。

 

 体育館を出る手前、チラッと見た空の様子は確かに雨が降り出しそうな色で、灰色の雲が月を覆い隠そうとしていた。

 

 

 ――――――――

 

 

 月明りが雲に阻まれた事により、窓から差し込む光が消える。薄暗い空間の中、ろうそくの火が静かに揺らめく。

 

「……うん。失敗だな。これは」

 

 魔法陣を囲む覆面姿の六人。そのうちの一人、白衣姿の覆面女がそう呟く。

 

「えー!また失敗!?あきなちゃん、これ系で成功したことないじゃん!」

 

 両手を広げてそう叫ぶ覆面女。その言葉に答えるより前に白衣の女、もとい闇鴉は覆面を脱ぎ捨てる。

 

「やはりもも肉じゃなくてむね肉だったのが良くなかったか……?改善の余地ありだな」

 

 闇鴉が脱いだことで、他の全員が覆面を脱ぎだす。俺も覆面を脱ぎ、魔法陣の真ん中に置かれた供物を見てつぶやく。

 

「そもそも材料が本物か怪しいぜ。トサカとか、十五分で持ってこれるわけねーもん」

「わわわ、私が嘘ついたって言うの!?そ、そんな事しないし!本物だもん!」

 

 呪山が立ち上がり、そう主張する。

 

「前科ありだろ、お前。さっき今日の実験忘れてたの誤魔化そうとしたし」

「ご、誤魔化そうとしただけで嘘ついてないし!て、ていうか赤司くんの覆面が不良品だったんじゃないの!?ぜ、絶対そうだ!!」

「あ?俺の覆面は悪くねーよ!これ探すの結構大変だったんだぞ!」

 

 俺と呪山はお互いに指をさし、言い合いを始める。それを止めるよう、雪乃道が仲裁する。

 

「ま、まぁまぁ……ほら、結果はどうあれ終わったんだし、雨が降り出す前に片付けよう?ね?」

 

 雪乃道はそう言うが、その言葉を聞いた闇鴉が待ったをかけた。

 

「いや、片付けはしなくていい。全部黒崎にやらせるから、私達は先に帰ろう」

 

 その言葉を聞いた黒崎が「ええー!?」と声を上げる。それを不憫に思ったのか、雪乃道が口を開いた。

 

「流石に黒崎先生一人に任せるのは可哀想かな……って」

「いいぞ!雪乃道さん!もっと言ってやって!」

 

 便乗するよう、黒崎が拳を突き上げ、講義する。闇鴉は黒崎に目を向ける事無く言葉を放った。

 

「その男は先月分の部費を無断でパチンコに使って、それを隠蔽しようとしていた」

 

 そのカミングアウトに、全員の冷ややかな視線が黒崎へと注がれる。

 

「で、でも勝ったし……」

「そのお金、どこに消えたの?」

 

 花火が質問すると、黒崎は視線を逸らして呟くように答えた。 

 

「さ、酒と風俗に……」

「みんなー!早く帰ろー!」

 

 花火のその声を最後に、全員が無言で立ち上がり体育館の入口へと向かう。その途中、ある事を思い出した俺は雪乃道に話す。

 

「思い出したぜ、あの黒崎って奴。どこかで見た覚えがあったんだよな」

「黒崎先生と?どこで?」

 

 雪乃道の言葉に俺は思い返す。

 

 あれは確か遅刻寸前で急いでいた俺が廊下の花瓶を割ってしまい、その証拠を隠滅しようと花瓶の破片をまとめて校舎裏に埋めようとした時の事だった。

 

『あ』『あ』

 

 校舎裏には先客が居て、それが煙草を吸ってる黒崎だった。

 

「で、その後まとめて長田先生に見つかって、一緒になって拳骨を喰らったんだ」

「そ、そうなんだ……衝撃的なファーストコンタクトだね……」

 

 だからどこかで見た覚えがあったんだなー。俺は頭の中の靄が晴れたようで、清々しい気分で体育館の入り口まで歩く。

 

 しかし、入り口には外を見て立ち止まる闇鴉がおり、それ以上先には進めなかった。

 

「部長?なにしてんだ、さっさと帰ろうぜ」

 

 俺がそう言うと、闇鴉はこっちを振り返りながら外を指さして答えた。

 

「いや、雨が降ってきたらしくてね……大変面白いことになってる」

「面白い?」

 

 闇鴉の言葉に違和感を覚えた俺は、闇鴉が指さすその先を見る。

 

「は?」

 

 そこに映っていたのは、降り注ぐ雨。いくつもの雨粒が目に映る。

 

 驚いたのは、その雨粒がどれも()()()()()していた事だ。

 

 地面に落ちる事はなく、まるで空中で固定されたかのように雨粒がまばらに並んでいた。

 

「な、なにこれ……」

 

 俺の後ろからその光景を眺める雪乃道が困惑の声を漏らす。

 

「……これ、実験成功ってこと?」

 

 俺は闇鴉に向けてそう訊く。

 

「いや……思わぬ副産物と言うやつだな……困ったものだ」

 

 そう言う闇鴉の顔は、言葉とは裏腹に、不敵な笑みが浮かべられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




黒崎明人のヒミツ☆

バレないように学校で酒を飲みながらタバコを吸って競馬に興じてる場面をカメラで闇鴉に撮られ、それを弱みとして握られている。
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