ヒーロー症候群   作:夜行列車予行

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冷たい校舎の時は止まる


停止!!動かない夜空と止まった時計!

 状況の整理と情報の共有を行うため、俺達はグラウンドにて集合していた。

 

「よし、全員集まったな。各々、気付いた事があったら話してくれ」

 

 闇鴉がそう言うと、まず一番初めに花火が手を挙げた。

 

「はいはい!正門と裏門、どっちも近づくことが出来ませんでした!」

「俺もフェンスの登ろうとしたけど、そもそもフェンスに触れなかったぜ」

 

 ふむ、と考えるよう顎に手を寄せる闇鴉。

 

 門の扉が開かないとか、そう言う問題ではなかった。正門やフェンス、とにかく学校の敷地外に向かおうとすると遠くなるのだ。

 

「近づこうとすると遠くなるって言うか……前に向かってるはずなのにその場を歩いてるみたいだったね」

 

 雪乃道がそう言うと、その意見に同調するよう黒崎が口を開いた。

 

「歩いても歩いても目的地にたどり着かない……あれみたいだったね、無限に続く階段の絵……」

「ペンローズの階段か」

 

 闇鴉の言葉に「それ!」と指をさす黒崎。

 

 ちなみに石とかをフェンスの向こうに投げてみたが、どう頑張ってもフェンスの手前で落ちてしまった。

 

 また手が挙げられる。怯えたような表情を浮かべる呪山だった。

 

「あ、雨!雨粒が、ずっと空中で止まってます!」

 

 呪山の指摘する“それ”は最も分かりやすい異常だった。

 

 空中に浮かび並ぶ、球状の水滴。俺は指先でその一つに触れてみる。

 

「冷てぇ……けど、濡れるって感じはしないな」

 

 指先で触れた雨粒は形を崩し、サラサラ分解し、地面へ落下する。

 

 それから指を引っこめると、録画の巻き戻しみたいに地面から水分が浮かび上がり、やがて球状の雨粒に戻っていった。

 

「どうなってんだこれ……」

「……先程、君たちに外の探索を頼んでいる間、私は校舎内の探索をしてみた」

 

 闇鴉は白衣のポケットからスマホを取り出し、その画面を見せてきた。映っていたのはロック画面に表示される時刻だった。

 

「19:34。すべての時計がこの時刻で固定されていた。時計を見つめて何分待っても、秒針は一ミリたりとも動かなかった」

「それって……」

 

 誰かが息を呑む音が聞こえ、やがて黒崎が呟くように言った。

 

()()()()()()()()、か……漫画か小説のお話みたいだ」

 

 突拍子のない話のようだったが、そう考えれば雨粒が宙に並んで固定される現象にも納得が出来た。

 

「ええー……時間が止まっても、ここ圏外だから時間を有効に使えないよ……てかなんで圏外なの?」

「知らん」

 

 花火の疑問を闇鴉が切り捨てる。俺も浮かんだ疑問を口にする。

 

「てか、時間止まったのになんで俺ら動けてんの?」

「そういう()()()なんだろう」

「ルールって……何の?」

 

 俺が聞くと、闇鴉は部員の顔を見回し、それから告げた。

 

()()のルール」

 

 魔法。そう言いながら闇鴉は指さす。その指先は呪山へと向けられていた。

 

「えぇ!?ち、違います!わ、私そんなことしてないし、できな――」

「呪山後輩、君は魔獣の肉片に魔法を使って釘を打ち込むと、魔獣に苦痛を与えられるらしいな。それはどうしてだ?」

 

 自分がこの事態の首謀者だと疑われたと思った呪山は首を横に振りながら答えた。

 

 しかし、闇鴉の口から出たのは現状とは関係のない、カースティの魔法に関する質問だった。

 

「えぇ……?そ、それは、その……なんでなんでしょう?」

 

 突然の質問に戸惑う呪山は少し考え、それから聞き返した。

 その様子を見た闇鴉は満足そうに頷いて答えた。

 

()()()()()んだよ。魔法ってものは私たちの常識外の(ことわり)で成り立っていて、現状私達は常識外な状況にある……つまり?」

 

 闇鴉の投げかけた問に、首を傾けながら花火が答える。

 

「今のこの状況も魔法のせいってこと?」

 

 その言葉に俺は反射的に雪乃道の方へ目を向けた。

 

「…………」

 

 ふるふると小さく首を振る雪乃道。どうやらこの事象には関与していないらしかった。

 

 まぁ、それは当たり前の話だった。雪乃道も呪山も変身していないから魔法は使えないし、そもそも自分を含め閉じ込めるような真似をする理由がない。

 

 

「フフフ……お困りのようだね、オカルト部諸君……!」

 

 原因は魔法。そう結論が出た時、図ったようなタイミングで声がした。

 

 俺達六人以外が存在しないはずのグラウンドに、聞きなれない声が響いた。 

 

「誰だお前!」

 

 俺は空中に浮かぶソイツに向け叫ぶ。

 

「ボクの名前?……そうだね、君とは初対面だから、名乗るのが礼儀か……」

 

 男物の白いスーツを着用する、端正な顔立ちを仮面で覆った金髪の女だった。

 

「ボクは時を操る者……魔法少女・クロックオーバーだ。今宵はボクの主催するショーへと足を運んでくれてありがとう……仲よくしよう!」

 

 そう言って丁寧に腰を曲げ礼をするスーツ女。

 

「いつ俺たちは観客になったんだ?」

「ほえー、あれが魔法少女……少女ってよりは、王子様って感じ?」

 

 珍しいものを見たという表情で感想を語る花火。確かに今まで見てきた魔法少女はふわふわした感じのドレスだったが、コイツはスーツに仮面と異質な恰好だった。

 

「君か?私達をこの場に閉じ込めた首謀者は」

「君、か……傷つくなぁ。名前で呼んでくれよ、部長……いや、闇鴉さんと呼ぶべきかな?」

 

「知り合い?」俺は訊く。「いいや、初めて会う」闇鴉がそう返す。

 

 宙に浮いていたスーツ女はふわりと地面に降り、それから見栄えを意識した動きで腕を広げた。

 

「さぁ、今宵はいい夜だ……最高のショータイムを、始めよう!」

 

 言い切ると同時に、女の背後に渦が現れる。

 

「なにあれ!」

「おいおい……魔法ってのはなんでもありなのか?何か、出てくるよ」

 

 花火と黒崎がその光景を前に驚く。

 黒い闇が、波打ち、波紋の様に広がる。やがてその向こうからソレは姿を現した。

 

「魔獣……!?」

 

 驚きの声が雪乃道の口から漏れ出る。

 

 黒い色のミミズの様な姿だった。

 闇から這い出てきたそれは、うねる様に身体をしならせると、全身の瞼が目を開く。

 

「きもっ」

「うわぁ……む、無駄に目が多い……」 

 

 体中の至る所に目があり、その全てがぎょろぎょろと何かを探し回るように動いていた。

 

 やがてその内の一つが俺達の存在を捉えると、連動するように一斉にすべての目玉がこちらを見た。

 

 獲物を見つけた、捕食者の目だった。

 魔獣はこちらに向かって勢いよく移動を開始した。

 

「っ……!」

 

 俺は咄嗟に雪乃道へと視線を向ける。雪乃道は魔獣へ向け、いつでも動き出せるよう構えてはいたが、まだ迷いがあるようだった。

 

 俺と雪乃道は両名正体を隠している。魔獣を撃退しようにも、迷いが足を引っ張った。

 

「ま、魔獣……わ、私の出番!カースティ・変装開始(メイクアップ)

 

 その一瞬の迷いの間、先んじて撃退に打って出たのは呪山だった。

 

 転校初日に自己紹介で行った時と同じ光景だった。

 暗い光が呪山の全身を包み込み、それから爆発するように霧散すると、魔法少女・カースティが現れた。

 

「よ、よし!あいつ倒して、さっさとお家に帰るんだぁ!」

 

 教卓が吹き飛ぶようなアクシデントは無く、カースティとなった呪山は低空飛行で魔獣へ飛び込む。

 

「おぉ!みどり先輩……いや、カースティ!頑張って!」

「うへ、うえへへ……橙香ちゃんに、カッコいいところ、見せる!」

 

 魔獣へと接近するカースティ、それを迎え撃つよう、魔獣は体を縦に裂き、カースティを挟み込むよう食らいつく。

 

 後一歩でもタイミングが遅れたら全身を食われる。その一瞬でカースティは身を翻し、魔獣の噛みつきを避ける。

 

「死んで……!五寸釘、打ち込み(ごっすん!ぐきっ!)〉!

 

 呟くと同時に巨大な釘が現れ、カースティが手に持つ金槌を振りぬくと同時に釘が魔獣へと打ち込まれる。

 

 肉の弾ける音。大量の血しぶきを受けて半身を血に染めるカースティだけが残った。

 

「か、勝ち!つ、次はあのヘンテコ仮面の魔法少女を倒して、終わりっ……!」

 

 カースティの目線は魔獣の死骸から奥のスーツ女に向けられる。

 

 しかし、肝心のスーツ女に異常があった。

 

「あ?なんであの女倒れてんの?」

「本当だ……倒れてると言うか……座り込んでる?」

 

 雪乃道の言葉を聞き、よくよく見てみると、確かにスーツ女は地面に座り込んでいるようだった。

 

 というかあれは……

 

「腰を抜かしてる?」

 

 スーツ女は血まみれのカースティを見て、がくがくと身体を震わして座っていた。

 

 その様子はまるで怯えているようで、先程までの余裕綽々な様子の姿とは別人に見えた。

 

「えと……とりあえず、こ、殺しますね……」

 

 怯えて震えるスーツ女に向け、カースティは容赦なく金槌を振り上げた。

 

「待て!呪山!」

 

 その姿に、俺は声を張り上げる。

 

「え……な、なんで……この人が犯人だよね……だったらこの、ひと、を……」

 

 制止の声に振り返ったカースティが表情を驚愕の色に染める。

 

 巨大な体躯で地面を這い、無数の目がカースティへと視線を向けていた。

 

「なにあれ!?」

「再生……が一番ふさわしい表現か」

 

 花火の質問に闇鴉が答える。

 釘を打ち込まれ、身体が複数の肉片になり弾けた魔獣は、その後肉片同士を集結させ、再び一つとなり、再生を遂げた。

 

「コ、コロ……コロス!」

 

 一度身体を破壊された事で怒っているのか、魔獣はそう叫んでカースティに再び噛みつく。

 

「うわぁ!?い、意味わかんない……ちゃんと死んでよ!五寸釘、打ち込み(ごっすん!ぐきっ!)〉!

 

 驚きつつも攻撃を躱したカースティは再び釘を打ち込む。

 

 魔獣の身体を釘が貫き、弾けるが、その直後肉片同士が繋がりあい、振り出しに戻る。

 

「どうにかして再生を防ぐか、釘以外の手段で倒さなきゃだけど……ひょっとして彼女、それ以外に手段ない?」

 

 冷静に分析内容を語る黒崎の推測は、多分当たってた。

 

「ひぃ……し、死なない……!この魔獣、何度やっても生き返る……!?」

 

 カースティは何度も釘を打ち込んで魔獣の身体を砕くが、魔獣もその度蘇る。

 

 圧倒的に致命傷を負わせた回数が多いのはカースティ。しかし、効かない攻撃をいくら試しても無駄に終わる。

 

 やがて疲弊が身体を蝕み始め、集中力の緩んだカースティへと魔獣が飛び込み……

 

「あ……」

 

 魔獣が開いた口に、カースティの全身が呑み込まれようとしていた。

 

「スノーワルツ・変装開始(メイクアップ)!」

 

 その光景を前に、迷いの枷を外した雪乃道が飛び出す。

 

 呪山が行った、それよりも速い速度での瞬間変身。光が身体を覆いつくすと同時に空を飛び出した。

 

 〈ダイヤモンドウィルプール〉!!

 

 杖先に小規模の魔法陣が展開される。

 恐らく、威力よりも速度を重視した小型の攻撃を行ったのだろう。

 

 魔獣がカースティを呑み込むより速く、魔獣の身体を氷の礫が貫いた。

 

 痛みと衝撃に悶える魔獣の口の中から、カースティが飛び出す。

 

「みどりちゃん!大丈夫!?」

「うえ……?私食べられて……って、す、スノーワルツぅ!?」

 

 間一髪、無傷で済んだようで、何が起きたのかを把握できていないカースティは突然目の前に現れたスノーワルツに驚く。

 

「ええっと、説明はとりあえず後で……後は私に任せて!」

 

 言うや否やスノーワルツは空へと飛びあがり、再生を始めた魔獣に向け杖先を向ける。

 

「直接攻撃がだめでも、凍らせれば……!吹いて!〈アイスウィンド〉!!

 

 魔法陣が展開され、凍てつく風が魔獣へと吹き付けられた。数秒後、氷像になった魔獣の姿がそこにあった。

 

「ほのかちゃんが、スノーワルツ!?」

「へぇ……あれがスノーワルツかぁ……生で見ると、可愛さ倍増だね」

「やはり彼女がスノーワルツだったか」

 

 俺以外の魔獣との戦いを観戦していた三人が思い思いの感想を漏らす。

 

「…………」

 

 俺はプロテクトギアを取り出そうと突き出していた腕を引っこめ、自分の掌を見つめる。

 

 結局俺は最後まで迷っていた。雪乃道が居る状況でレッドに変身する事を……

 

 もし雪乃道が躊躇って、変身が遅れていた場合、呪山は今頃魔獣に喰われていたかもしれない。

 

「俺は……」

 

 そう自分の心に問いかけてると、視界の端で何かが動く。

 

 顔を上げて前を見ると、先程まで座り込んでいたスーツ女がその場を走り出していた。

 

「あ!逃げた!」

 

 花火がそう叫んだ。

 スノーワルツとカースティはまだ氷漬けの魔獣に意識が向けられていて、スーツ女の逃走には気づいていない。

 

「逃がすかよ!」

 

 俺は叫ぶと同時にその場を駆け出した。

 スーツ女の向かう先は、校舎の方。多分中に侵入する気だろう。

 

 俺は校舎の入り口目掛け走り、スーツ女の行く先を阻むように立ちはだかる。

 

「おい!こっから先は通行料払ってからだぞ!」

「っ!……早送り(オーバー・スピード)〉!

 

 スーツ女がそう呟くと、唐突にその動きが超加速する。

 

「っと!通行料……払えよ!」

「うえぇ!?なんでついてこれるんだよ!!」

 

 ほぼ目の端で追う事しか出来ない速度、しかし動きを予測して手を伸ばす。すると、俺の手にはスーツ女の腕が握られてた。

 

 俺はスーツ女のスピードを利用して、そのまま顔面を殴りに飛びかかる。

 

「ひっ!巻き戻し(リコール)〉!!

 

 拳が当たる寸前、掴んでいたスーツ女の腕の感触が消える。

 

「あ?」

 

 拳が宙を通過し、空振る。

 掴んでいた腕が俺の手を透過して、消えて行ったのだ。

 

 女の消えて行った先を追うと、先程まで居た地点に戻っていた。

 

「もう、嫌だっ!!」

 

 スーツ女は悲痛の叫び声を上げると同時に窓ガラスを突き破り校舎内に入っていった。

 

「待てこら!」

 

 俺はその後を追うよう、破られた窓ガラスを飛び越えようとする。

 

 しかし俺が飛び込んだその瞬間、砕けたはずのガラスの破片が集まり、元の窓ガラスに姿を戻した。

 

「うえっ!?」

 

 俺は咄嗟に腕で顔を覆い、そのまま窓ガラスに突っ込む。

 

 二度目のガラスが砕ける音。俺は校舎へと転がりこみ、その顔を上げる。

 

「あ?」

 

 そこは用務員室で、様々な物が雑多に置かれていたが……スーツ女の姿は無かった。

 

 俺は部屋の中を探しつつ、部屋の奥の扉に手を掛ける。

 

「……開かねぇな」

 

 押しても引いても、扉は開かなかった。

  

 あの女がガラスに飛び込んでから、時間は数秒程度。 

 部屋から飛び出したと仮定して、部屋の中を移動し、扉を開け、再び鍵を閉める……間に合うとは考えづらい。

 

 つまりは……俺は部屋を見渡す。

 

「どこ隠れやがった……あのスーツ女……」

 

 言葉に返事はなく、俺の声は部屋の影に吸い込まれ、消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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