ヒーロー症候群   作:夜行列車予行

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バカと紙はよく燃える


出現!!魔獣と魔法少女!

 『速報です。現在、世界各地で巨大な異形生物が発生し、街の破壊を始めているとの情報が入ってきました』

 

 家に帰った俺は、リビングにて鞄を椅子の上に放り投げ、テーブルの上のリモコンを手に取り、ニュース番組のチャンネルをテレビに映し出した。

 

 先程までシュゴレンジャー特集をしていたはずの番組が、緊急速報としてさっきの怪獣について取り上げていた。

 

『尚、現在龍竜(りゅうりゅう)市内で発生が確認されていた異形生物は、同じく突如出現した魔法少女を名乗る少女によって撃退されました』

 

 ニュースキャスターが淡々と話す横で、先程俺が目撃した白い髪のドレス姿の少女が謎の力によって怪獣を撃退する様子を撮った写真が映し出されていた。

 

 写真の焦点は少女の姿に向けられており、ほとんどぼやけていたが、画像の隅っこに赤いコスチューム姿のレッド(おれ)が居た。

 

『現在この全国各地で出現したこの異形生物と魔法少女の正体に関して、ネット上で多くの目撃情報や憶測が飛び交っており、事態の把握は困難を極めております』

 

 しかし、俺の存在に誰も気づく様子はなく、話題の中心は怪獣と魔法少女とやらで一杯であった。

 

 「なんだか大変な事になって……って赤司くん!帰ってたの?」

 

 その後、ニュースキャスターによって羅列される怪獣と魔法少女の出現情報を眺めていると、背後から声が聞こえた。

 

 振り返るとそこには玄関にて、段ボールを抱えるエプロン姿の春子(はるこ)さんが立っていた。

 

「あ、すません。さっき帰りました。手伝いますよ」

 

 俺はそう言って春子さんの方へと小走りで近づこうとするが、それを制するよう、春子さんは首を横に振った。

 

「ううん、別にいいよ!もうこれ運んだら今日のお仕事終わりにするから!」

 

 春子さんはそう言うと、玄関横の倉庫部屋の扉を肘と足を使って器用に開け、その向こうへと姿を消した。

 

「そうっすか。今日は店閉めるの早いんですね」

「なんかねー、よっと、強盗かな?なんかとっても危険な人が街に現れたらしくてねー、宗田のおじいさんに今日は店を閉めとけって、言われたから、今日はもう店じまいでーす」

 

 倉庫部屋の方から、声だけで春子さんから返事が返ってくる。宗田のじいさんは、近所に住んでる常連客だ。

 

「それ、多分、強盗じゃなくて『魔獣』って奴っすよ。俺帰りに会いました」

「まじゅ~?」

 

 春子さんはそう怪訝そうな声を上げながら倉庫部屋から出てくると、エプロンを外しながらこっちに近づいてきた。

 

 俺は無言で魔獣やら魔法少女やらの報道を行うテレビを指さす。

 

「なになに……『魔法少女』?近くで撮影でもやってるの?」

「違いますよ。ちゃんと見てください」

 

 俺はそう言うと、目を細めながらテレビを見つめる春子さんをぼうっと眺める。

 

 綺麗な長い黒髪がよく似合う、大人の女性って感じの美人だ。

 個人経営で花屋をやっていて、今は俺の親代わりであり、俺を拾ってくれた恩人でもある。

 

 いつもニコニコ笑っていて、ちょっと抜けてるところがある、見た目と裏腹に子供っぽい人って印象だ。

 

 俺が会った人間史上、多分ぶっちぎりでいい人。

 経緯は長くなるから省くけど、行き場がなかった俺を拾ってくれて、家に泊めてくれるし、学校にも行かせてくれた。

 

「えええぇ!なにこれ!大変じゃない!また怪人が出たの!?」

 

 ニュース番組を見てそう驚く春子さんを横目に、俺は冷蔵庫から取り出した麦茶のペットボトルを二人分のコップに注ぎながら答えた。

 

「多分、違うと思いますよ」

「え、違うの?」

 

 俺は両手にコップを持ってテーブルの前に移動しながら思い返す。さっき見た怪獣……『魔獣』の姿を。

 

 俺が見たのは、毛むくじゃらの一つ目の巨大生物って感じだったけど、ニュースで見た感じ色んな種類の魔獣がいるらしい。

 

 怪人はもっと小さいし、話せるし、人っぽいから違う気がする。

 

「なんか……違う気がします。見た目とか」

「確かに……こっちの方が可愛いわね!」

 

 可愛い……?

 

 どうみてもキモイ見た目なきがするが、春子さんの感性は独特だ、触れないでおこう。

 

 俺が持ってきた麦茶入りのコップをテーブルの上に置くと、何かに気づいた様子の春子さんがこっちを振り返り、口を開いた。

 

「って、赤司くんは大丈夫なの!?さっき帰りに会ったとか言ってなかった!?」

 

 春子さんはそう言うと慌てて俺の方に近づいてきて、身体の無事を確かめるように俺の頬をぺたぺたと触り、引っ張り始める。

 

ふぁいじょうぶですふぁら(大丈夫ですから)てふぁなふぃてくだはい(手離してください)いはいでふ(痛いです)

 

 俺がそう言うと、春子さんは少し落ち着いたようで、俺の頬から手を放してくれた。

 

「そ、そっか。ならよかったけど……」

「なんか、すのー……すのーかると?って魔法少女名乗る奴が倒してくれましたよ……お茶、良かったら飲んでください」

 

 俺はそう事情を説明すると、持ってきた麦茶を指さす。

 

 「わ!ありがとう!赤司くん!!」

 

 子供みたいな無邪気な喜び方をした後、春子さんは両手にコップを握って麦茶を飲みだす。

 

 俺も自分の分の麦茶入りコップを手に取り、口をつけ、コップを顔の前で傾ける。

 

 冷たい麦茶が喉の中を通過するのを感じながら、俺はあの魔法少女について考えていた。

 

 白い髪に、赤い目をしていて、うさぎみたいな奴だった。

 キラキラした装飾と、ドレスみたいにふわふわしてる服を着て、腕くらいの長さの杖を右手に持って、よく分からん竜巻みたいな攻撃で魔獣を倒していた。

 

「うーん、これからはシュゴレンジャーじゃなくて、魔法少女ちゃん達が守ってくれるのかしら?」

 

 コップを口から離した春子さんが、ニュースを眺めながらそう呟く。

 

 俺が変身してぶん殴るより早く、空を飛んでやって来て、魔獣を一発でぶっ倒していた。

 それから、たくさんの拍手と、アイツの名前を呼ぶ喝采の声が響いた。

 

 もし、もし仮に、アイツが来なくて、俺があの魔獣をぶっ倒していたら……

 

 あの拍手は、俺に浴びせられていて、あの呼び声はレッド(おれ)の名前に変わっていたんじゃないか?

 

 少し、考える。それから、あの魔法少女を名乗る女の姿を思い出す。

 

 そして俺は中身を飲み干したコップを叩きつけるように机の上に置き、唸る様に言葉を吐き出す。

 

「すのーかるとォ……!!」

 

 胸の奥で、ぐつぐつとマグマが煮えたぎるみたいな感情が沸き起こる。感情の矛先は、白い髪の魔法少女へと向けられていた。

 

「赤司くん……?麦茶、嫌い……?」

 

 そんな俺を見て、心配する様な声が春子さんの口から漏れ出た。

 

 

 ――――――――――

 

 

 次の日、学校に向かうと教室中がアホほどうるさかった。

 

 騒ぎの原因は、当然昨日の出来事だ。

 

「なぁ!見た!あの魔獣とかいう化け物!!」

「見た見た!てかさ、あの魔法少女って何者!?」

「ねぇ!ニュースの話って本当なの?」

「はぁ!?アンタ見てないの、凄いんだよ!スノーワルツって言う魔法少女がね……」 

「なんか俺、キモイ笑い方してる魔法少女見たんだけど……」

「マジめちゃくちゃ可愛いじゃん!私スノーワルツ推せるわ!」

「私もーー!!」

 

 ……うるさい奴らめ、ここは学び舎だぞ。勉強しろよ、勉強。

 

 俺はそこかしこから聞こえてくる魔法少女を称える声を聞きながら、窓の外を睨みつけていた。

 

 昨日一つ目の魔獣を倒した魔法少女、すのーかるとじゃなくて『スノーワルツ』と言うらしい、の話はもう街中に広まっているらしい。

 

 全国各地に出現し、多数の魔法少女が居るらしいが、この街、龍竜市ではスノーワルツが一番目立った活躍をしたらしい。

 

 昨日はシュゴレンジャー(おれたち)の最終決戦日から一周年だって言うのに、そのことは全く話題に出されてなくて、それが何だか腹立たしかった。

 

「なぁ、赤司お前も見た?魔法少女」

 

 そんな不機嫌な俺に声を掛けてくる人物が一人、声の方に目を向けると、そこには隣の席の遊川が立っていた。

 

「……見てねー」

 

 本当は見たし、目の前で魔獣を倒す姿を見たのだが、活躍を奪われたことが悔しくて、見てないことにした。

 

「まじ?じゃあ見せてやるよ、ほら、コレ。昨日テレビずっとこればっかりだったんだぞ」

 

 そう言うと、遊川は自分のスマホを取り出し、その画面を俺に見せてきた。

 

 画面に映るのは、昨日テレビで報道されてた、コスチューム姿の俺が隅っこにぼやけて映ってる、スノーワルツの活躍を捉えた写真だった。

 

「これ、この真ん中のが魔法少女・スノーワルツって言うんだぜ。な、可愛くね?」

「ふーん」

 

 俺は如何にも興味ないです、って感じの反応で遊川の写真を眺める。

 

 まぁ、確かにかわいいけど……なんかずるくないか?

 俺は全身赤いコスチュームだから顔とか見えねーし、見えてたらもっとこう……イケメン!!って感じで女子が褒めてた気がする。

 

「今このスノーワルツの正体が話題中の話題よ。他の魔法少女の中には、昨日の時点で本名とか、素顔を公開してる子もいるらしいんだけど、スノーワルツはどっちも不明なんだとさ」

「不明って……モロ顔出してんじゃん」

 

 俺も今日の朝のニュースを見てたから、魔法少女の内多くはその本名が公開されてるってのを見ていた。

 

 世界を救った英雄、って好きなモデルが褒めてるのを見て、俺も名前くらい公開しとけば良かったと思った。

 

 でも名前はともかく、魔法少女って奴らは揃いもそろって全員顔を出している。スノーワルツもこの写真でマスクもサングラスもない顔が激写されている。

 

「いや、これは変身状態だな。魔法少女って、この手に持ってるステッキを振りかざすと変身できるんだって。髪型とか、髪色とか、目の色とか……とにかく雰囲気がガラッと変わるんだってさ。ま、化粧みたいなもんだな」

「へー……けしょう、化粧ね」

 

 化粧ってそんな感じなんだ。よく分からんけど、化粧を知らないってバレたら女の人の事がよく分からないみたいで恥ずかしいから黙っていよう。

 

「……てかさ、その写真、右下の方にさ、なんか映ってね?」

 

 俺はさりげなく、自然な感じで変身姿の俺、つまりはレッドが映ってる部分を指さす。

 

「あん?右下?……確かに、ぼやけてるけど、なんか映ってるかもな。商店街だし、何かの看板とか?」

 

 遊川は俺に向けてたスマホを裏返し、写真の右下を見つめてそう言った。

 

 俺はわざとらしく首を振ってから口を開く。

 

「いや、違うと思うぜ。俺の予想だとな、それはレッドだと思う」

 

 俺がそう言うと、遊川は首を傾げた。

 

「レッド?……あぁ、シュゴレンジャーのか。いや、ないだろ、普通に」

「……なんでだよ?」

 

 小馬鹿にする感じで否定をする遊川に、俺は思わず言い返す。

 

「いやだってさ、仮にレッドだとしたらさ、なんで魔獣を倒してないんだよ。真っ先に怪人に突っ込むレッドが、見てるだけなんてありえねーだろ」

「…………」

 

 何か言い返してやろうと言葉を聞いていたが、遊川のその意見に俺は黙る事しか出来なかった。

 

 本当は倒そうとしたんだけど、スノーワルツがそれより早く倒してしまいました、なんてダサい気がして言い出せなかった。

 

「いいよなぁ、スノーワルツ。不謹慎かもしれないけど、もう一回魔獣出てこないかね。そしたらまた見れるかもしれないしな」

「……次はレッドが倒すと思うぜ」

 

 俺は吐き捨てる様にそう言う。すると遊川が呆れたような顔で言葉を返した。

 

「なに赤司、レッドのファンだったのか?ま、確かにレッドもかっこいいけどさ……正直、時代は魔法少女よ、可愛い子ばっかだし、ビジュでは勝ってると思うぜ」

 

 遊川がそう言うと、ホームルームを告げるチャイムが教室に鳴り響き、クラスの皆が自分の席に戻る。

 

 席には戻ったが、それでも教室の中から熱気は抜けない。話題は変わらず魔法少女、主にスノーワルツの事ばっかだ。

 

 担任がやって来るまでの間、祭りの時みたいにうるさいクラスメイトの声を聞きながら、窓の外を見ていた。

 

 青い空に、真っ白な雲が浮いていて、何だかその白い雲が俺を嘲笑ってるようだった。

 

「スノーワルツぅ……!!」

 

 俺は小さく、しかし今日一番の感情を篭めてその名前を呟いた。

 

 

 ――――――――――

 

 

……来た!!

 

「春子さん!ちょっと出かけてきます!!」

「赤司くん!?えっと、気を付けてねー!!」

 

 俺はテレビの電源を落とすと、すぐさま靴を履き、玄関を飛びだし、一階の花屋で働く春子さんにそう言い放ち、通りを駆け抜ける。

 

 目的地は草糠通り!目標は毛むくじゃら魔獣!!

 

 俺は一秒でも早くたどり着くよう、最短距離を駆け抜け、やがて目的地である草糠通りにたどり着いた。

 

 そこには急に出現した毛むくじゃらの魔獣、俺はその姿を確認すると大きく息を吸ってから声を放つ。

 

「変s「これで終わりよ!!凍てつく風!〈アイスウィンド〉!!」ん……」

 

 俺がプロテクトギアを取り出すより早く、凍える様な冷たい風が魔獣へと吹き付けられ、気付くと魔獣は氷漬けになっていた。

 

「わぁ!見てあれ!スノーワルツが来てくれたみたいよ!!」

「すげぇ……あの魔獣を一発で氷漬けだぜ……」

「ありがとう!スノーワルツ!!」

 

 …………俺は氷漬けになった魔獣と、小さく周りに手を振るスノーワルツの姿を後に、俺はとぼとぼと来た道を帰った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 …………っ今度こそ!!

 

「行ってきます!!」

「赤司くん!?今日も!?えっと……怪我しないでねー!!」

 

 俺はテレビの電源はそのまま、玄関から飛び出し、通りを走り抜ける。

 

 目的地は駅前の商業ビル前!目標は羽の生えた魔獣!!

 

 自転車よりも速く走り、俺はこの間よりも早く目的地にたどり着いた。

 

覚悟しなさい!大地を揺るがす氷塊!〈アイスブレイク〉!!

 

 そして着くと同時に、羽のついた魔獣は巨大な氷塊に押しつぶされるようにして倒されていた。

 

「うおおおお!すげぇ!強ええ!スノーワルツ!!」

「ご覧ください!あれが噂の『氷の魔法少女・スノーワルツ』です!今日も魔獣を討伐した様子です!」

「やっぱスノーワルツが一番すごいや……強いし可愛いし」

 

 …………俺はぺしゃんこになった魔獣と、テレビ番組のカメラに向かって微笑みかけるスノーワルツの姿を後に、ため息混じりに帰り道を歩いた。

 

 

 ――――――――

 

 

 …………今日こそは!

 

「俺が!倒す!!」

「ええぇ!?赤司くんが降って来たぁ!?あ、足は大丈夫なのー!?赤司くーん!!」

 

 俺は既に手元に置いてた靴を手に取り、窓から飛び降り、着地と同時に靴を履き、その場を駆け出す。

 

 目的地は小学校前!目標は角の生えた魔獣!!

 この家から街のどこに向かうとしても、その最短距離と近道は調査済みだ!

 

 俺はとにかく最速で足を動かし、抜け道の路地裏を抜け、目的地である小学校前にたどり着く。

 

「またスノーワルツが倒しちまったよ!!」

「わぁ……!ありがとう!魔法少女のお姉ちゃん!!」

「かっけぇ……すのーわるつ!!」

「スノーワルツ最高!スノーワルツ最強!!」

 

 …………そこには既に何らかの手段で倒された魔獣の残骸と、目を輝かせる小学生たちに手を振って空中を飛んでその場を去るスノーワルツの姿があった。

 

 

 ――――――――

 

 魔獣と魔法少女の出現から一か月くらい、結構な時間が経ったって言うのに、その熱狂は収まるどころか激しさを増していた。

 

「なぁ!昨日のニュース見た?もう魔法少女止まらねぇな!!」

「最近、魔法少女・プロミネンスがインスマ始めたの知ってる?」

「見た見た!最近流行ってるよね!魔法少女インスマ!」

「スノーワルツもインスマ始めてくれねぇかなぁ……気になり過ぎるぜ」

「俺疲れてんのかなぁ……昨日、笑顔で魔獣に釘打ち付けてる魔法少女を見た気がする……」

「スノーワルツ、通算十回目の魔獣討伐だって!」

「本当憧れだよね!魔法少女!!」

 

 ……今日は一限から移動教室か。早めに移動しないとな。

 

 ホームルームが終わり、担任が教室を出るや否や、クラスメイトは口を揃えて魔法少女の話ばっかりをしていた。

 

「なぁ、昨日のニュース見た?やばくね?」

 

 一限の理科で使う教科書と筆箱を机の上に出していると、隣の遊川が話しかけてきた。

 

「……見てないな。俺は優等生だからな、課題で忙しかったんだよ」

「それ、補講対象者限定の課題だろ?ま、知らないなら教えてやるよ、ほらこれ」

 

 そう言って遊川は自分のスマホの画面を俺に見せてくる。

 

 聞く前から分かる、どうせ魔法少女関連の話だろう。俺はもう既に半分くらい会話に嫌気がさしながら、遊川のスマホを見る。

 

 それはニュース記事だった。見出しに『ついに決定!政府から正式に魔法少女への援助が発表!!』と書かれていて、その下に小さな文字で記事の内容について書かれていた。

 

「……なにこれ?」

「まじで知らないんだな……結構大騒ぎになってたけど」

 

 魔法少女が現れてから毎日大騒ぎだろ。と心の中で毒づく。

 

「政府が魔法少女への援助を始めたってさ。政府公認に登録された魔法少女には、国から援助が出るし、活動の支援も行うらしいよ。実は一週間前くらいから試験的に運用してたとか」

「ほーん……シュゴレンジャーとかと一緒ってこと?」

 

 俺もレッドとして戦ってた時は、政府から三食宿付きの手配をしてもらってたし、他の四人も金とか、ある程度の我儘を聞いてもらってたらしい。

 

「そんな感じかもなー、違う点は、魔法少女は数が多いから、実名報道済み、素性が割れてる者に限定するらしいぜ。シュゴレンジャーみたいにメディア露出なしは無理ってわけだな」

「へー……」

 

 そうか、俺達と違って魔法少女はいっぱい居るのか。民間人からも、政府からも認められて活動が出来んのか。

 

「って、お前レッドファンの魔法少女アンチだっけ?だったら悪いな、こんな話して」

「いや、俺はむしろ魔法少女の大ファンだぜ。スノーワルツの魔獣退治の現場に欠かさず立ち会ってるからな」

 

 俺がそう言うと遊川は目を見開いて、驚いた表情を浮かべた。

 

「まじ?それ結構すごくね?赤司、伝説の生き証人になれるんじゃね?」

「かもな……次、移動教室だから、俺はもう行くぞ、お前も急げよ」

 

 俺はそう言うと席を立ち、教科書と筆記用具を持ってその場を移動する。

 

 まったく、どいつもこいつも揃ってスノーワルツ、スノーワルツってよぉ……

 

「次はぜってー俺が倒してやる……!」

 

 俺は決意を胸に理科室へ向かうため教室の外へ足を踏み入れた。その時、俺の真横に廊下を全速力で走る何者かが現れた。

 

「ぐえ!!」「うわっ!!」

 

 そいつは俺の胸に頭突きするみたいに突っ込んで来て、その衝撃で俺は教科書を落としてしまう。

 

「痛ぇ……誰だ廊下を爆走する奴は……」

 

 俺は衝撃と痛みで俯いた顔を上げ、突進をかましてきたソイツを見る。

 

「ご、ごめんなさい!急いでたものだから……えっと、大丈夫ですか?」

 

 そいつは見上げる様にして俺の顔を心配そうに覗き込んできた。

 

 黒いショートボブの髪型で、見上げるその目はくりくりと丸みを帯びて大きく、小動物みたいな印象の奴だった。

 

「お、おぉ……別に、大丈夫だけど……」

 

 率直に言ってめちゃくちゃ可愛かった。毎朝春子さんって言う美人を見てるから目が肥えてる自信があったが、春子さんとは異なるかわいらしさに、俺はドキマギしてしまう。

 

「そっか、ならよかった……って、急がないといけないんだった!!えっと、すみません!また後で謝りに行きます!それじゃ!」

 

 その女生徒はそう言うとその場を駆け出し、廊下の向こうへと姿を消してしまった。

 

「……廊下、走んなよ」

 

 何だったんだ、あの廊下爆速突進女(ろうか ばくそく とっしん おんな)は。

 

 物理的にも、精神的にもそこそこ衝撃的な出会いに、俺は反応が遅れてしまい、その声が女生徒に届くことは無かった。

 

 ま、急いでるなら仕方ないか。

 そう自分に言い聞かせ、移動教室へと意識を切り替えようとする俺だったが、その意識は突如として鳴り響く警報音に再び奪われる。

 

『ただ今、学校付近に魔獣が出現したとの情報が入りました!生徒は落ち着いて!グラウンドに集合してください!これは訓練じゃありません!繰り返します、ただ今……』

 

 警報音の後、避難勧告のアナウンスが廊下に響いた。その五秒後くらい、教室から騒がしい声が聞こえだした。

 

「え、まじ?これ?」

「俺魔獣見るの初めてかも」

「窓の外!見て!いるよ魔獣!ムカデみたいな!」

 

 その声に連れられて教室の窓の外を見ると、確かにこの距離からでも視認できる巨大な魔獣の姿が確認できた。

 

 それから少しして、辺りが慌ただしくなり、教室からどたどたと生徒が流れ出てくる。

 

「おい!赤司!お前も早くグラウンド行くぞ!」

 

 遊川が教室の外で窓の外の魔獣を眺めている俺にそう叫ぶ声を聞いて、俺はハッとした。

 

 もしかしてこれ……チャンスなんじゃないか?

 

 今まではテレビで速報が入ってから動いてたけど、多分まだテレビ局もこの事態を把握しきれてないはず。

 

 今から向かえば、スノーワルツより早くたどり着けるんじゃないか?

 

「赤司!……赤司?聞いてんのか?……って赤司!そっちじゃねぇよ!グラウンド、こっち!!」

 

 俺は引き留める遊川の声を無視し、魔獣の学校を出るための正門の場所まで駆ける。

 

 校舎を飛び出し、正門を抜け、とにかく最速で魔獣の元へ向かう。歩道を走り、横断歩道を超え、もう少しで目的地の、魔獣の場所につく直前だった。

 

 歩道橋の上を走ってる最中、近くに魔獣の姿が見えた。それと、魔獣に向かって魔法を放つスノーワルツの姿も。

 

「……くそっ!まだ遅いのかよ!」

 

 俺は走っていた足を止める。もう既にスノーワルツの魔法が炸裂し、ムカデみたいな魔獣は弾けて爆散していた。

 

 そうか、魔法少女は空を飛べるから、いくら俺が最短で移動しようが、俺より早くたどり着けるんだ。

 

 だったらどうすれば……

 

「……あ、やべ」

 

 そんな風にスノーワルツより早く移動する方法を考えるが、その内重大な事実に気づく。

 

 ノリと勢いで学校を飛び出してきたが、このことがバレたら反省文じゃ済まない事態になるんじゃないか?

 

 もし、前に三年生と殴り合いの喧嘩になった時みたいに、その事態が先生たちから春子さんの元に伝わったら……

 

「……春子さんが、すげぇ悲しむ!!」

 

 それだけは避けなくては!!もう俺は喧嘩も居眠りもしない優等生になるって、春子さんと約束したんだ!!

 

 俺は来た時よりも速く、最短の道のりで学校へと向かう。グラウンドに居ないことは……大便してたってことにしよう。

 少なくとも、事が大きくなる前に学校に着けば何とかなるはず。

 

 そう考え、なるべく早く学校に着くように、近道の路地裏の角を横切った時だった。

 

 そこには路地裏には似つかわしくない姿があった。

 

 雪を思わせる白い髪に、青と白を基調にしたドレスが冬の精霊を思わせる。

 間違いない、ここ一か月くらい嫌と言うほど見たその姿は、スノーワルツその張本人だった。

 

「スノーワルツ……?」

 

 なんでここに?そう口にする前に、スノーワルツのその姿が光に包まれた。

 

 その現象には見覚えがあった。変身する時みたな激しい光じゃなくて、仄かな光が身体を包み、無数の光の粒が立ち上るようにして消えてゆく。

 

 レッド(おれ)が変身を解除するときの、様子に、凄く似てた。

 

 光が全て消え、本来の姿へと戻る。

 

 変身時の白い長髪とは逆の、黒いショートボブの髪型に、目の色は、赤から緑に、キラキラしたドレスは、俺と同じ、学校の制服を着た姿に。

 

 その女の姿は……

 

廊下爆速突進女(ろうか ばくそく とっしん おんな)!?」

 

 驚愕の事実を目撃した俺は驚きのあまり大きな声で叫んでしまう。それにより、女生徒の方も俺の存在に気づいたようで、俺の顔を見て口を大きく開く。

 

「え……あ、あ……うそ、なん、なんで……」

 

 互いに口を大きく開き、驚きに表情を固める不思議な空間が、そこにはあった。

 

 

 

 




大川 赤司

元シュゴレンジャーのレッド。
基本殴る蹴るが戦闘の基本。3年間戦い続けた経験のおかげで、喧嘩では負けたことがない。

けど喧嘩をしたと親代わりの春子が知ると悲しむため、自分からは決してしない。

本当の母親の顔は見たことは無い。父の元で育ったが、父親は暴力暴言育児放棄のクズ親だった。

シュゴレンジャー解散後は政府からの援助の元、戸籍を大川春子の養子として変更、そして学校へと通う事となる。

ろくに勉強もしてないため、憧れだった学校の授業にもついていけず、社会についてもよく分からないため、周りのクラスメイトと話も合わず、孤立する。

クズでは無いが、常識と教養がないため粗暴な言動と問題行動が悪目立ちする。

現在はレッドとして活躍する機会を模索中。

自分に優しい人が好き
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