ヒーロー症候群   作:夜行列車予行

6 / 15
ちょっと長い夜の終わり


炸裂!!燃えろ!正義の拳!

 魔獣は自身の心が満ちていくのを感じていた。

 

 街を破壊する度、魔獣の姿に怯える人間達を踏み潰す度、心の中の渇きが和らいでいくのを感じていた。

 

 そして何より、自身を命の危機に追いやった生意気な小娘、魔法少女・スノーワルツに復讐を果たしたその時、心の鎖が外れるようだった。

 

 今までの自身は、抑圧されていた。生物が貪り、呑み、交合い、眠るように、魔獣にとっては生まれたその瞬間から、破壊と虐殺だけが本能であり、生きる理由であった。

 

 それがどうだ?地上への顕現から誰一人として殺せず、あまつさえ、命の危機に陥り、怪しげな人間の女に拾われ、いいように使われる日々。

 

 魔獣は確信していた。自分は、この日のために縛られ、この日のために生きてきたのだと。

 

「はは、ハハハハハ!!」

 

 喜びに身体が震える。

 

 自身が成した破壊の痕跡を眺めた後、魔獣はより多くの人間を殺すため、進行方向を変える。

 

 遠くに見える、この場所よりも多くの建造物が密集し、光の多く集まる場所へと向かうため、振り返った時だった。

 

 自身の眼前に浮かぶ、白い亡霊の姿を目撃した。

 

「スノーワルツ……ッ!!」

 

 着飾った白いドレスは所々破れており、頭から血を流血させるその姿は明らかに手負い。だが、その目が、まだ光を失わずに自身を見つめる視線が、魔獣の心に再び復讐の火を点けた。

 

 殺し損ねた。魔法少女は頑丈であると聞いていたが、自身の増幅した力ならば殺し切れるとした、その計算が外れた。

 

 だが、問題は無い。殺し損ねたのならば、今度は確実に息の根を止めるまで。

 

 魔獣は勢いよく全身をうねらせるようにしてスノーワルツへとぶつかる。

 

 抉れるコンクリートの音が響く、しかし、先程のような手応えはない。

 

 スノーワルツは瞬間的に加速し、攻撃を躱すように魔獣の真横へと移動していた。

 

 その光景を眺め、驚愕する。

 

(何故、こいつはこの速度で動けている!?)

 

 それは、スノーワルツが魔力の噴出による高速移動を行ったことに対する驚きだった。

 

 ――――――――――

 

「魔法少女が空を飛べる理由、知ってる?」

 

 暗い部屋の中、机に向かい椅子に座った状態で、怪しげな液体の入った試験管を片手に持った黒いローブの女は訊ねた。

 

「……知らん」

 

 手のひらサイズの大きさのムカデの魔獣は、つまらなそうにそう返した。

 

 この人間の女とは、あくまで利害関係であり、馴れ合うつもりの会話には毛ほども興味がなかった。

 

「そ、じゃあ教えてあげるよ」

 

 そんな魔獣の内心など一切推し量る様子のない女は、試験管を見つめながら続きを話した。

 

「魔法少女は全身から魔力を噴出させて移動してるんだ。飛びたい方向に合わせて噴出量や角度をずらしてね」

「…………」

 

 魔獣は興味がないと伝えるよう、その顔を背けるが、女は構うことなく続けた。

 

「じゃあ服はどうして破れないの?って疑問が出るのは当然だ。魔法少女の衣装は特別製で、魔力の干渉を受けにくいんだ。これを利用すれば杖を使わずとも全方位への攻撃なんかも出来るだろう」

「……くどいな、興味がないと、言わんと分からんか?」

 

 魔獣がそう言うと、女は席を立ち、魔獣の方へと歩きながら答えた。

 

「それは悪いね。少し話過ぎる癖があってね。で、大事なのはここから、その魔力ってどうやって噴出してると思う?」

「……知らん。何度も訊くな」

 

 女は魔獣の前に立つと、掌を突き出し、そこから球状の黒い塊を出現させた。

 

「今やってるのが魔力の放出、感覚としては、体の中の血液を操作してる感覚に近いかな……って、血液は自由に動かせないか、例えが悪いね。忘れて」

 

 女は好き勝手にそこまで語ると、膝を曲げ、地面を這う魔獣に対し、持っている試験管を見せつけるようにして口を開いた。

 

「この液体は、その()()()()()()()()()()成分を含む液体だ。これから、この液体を君の毒に混ぜ込む。それ以外にもいろいろ改造(イジ)るけど、その前に説明しておこうと思ってね」

 

 魔獣はそこまで聞き、改めてローブの中を覗くよう、その顔を見た。

 

 その表情は、まるで新しい玩具を目の前にした幼子のようで、言い表せない不気味さを孕んでいた。

 

「興味、出た?」

「……毒を浴びせられれば、魔法少女は魔法を扱えなくなる、そういう認識でいいのか?」

 

 女は大きく頷き、魔獣はそれを見て後、試験管の中の液体に目を向ける。

 

 青紫色の、奇妙な色の液体だった。

 

 

――――――――

 

 

 意識は、不思議とはっきりしていた。

 

 アドレナリンが溢れ出ているのだろうか、意識がくっきりとして、景色が鮮明に映るようだった。

 

 飛びかかる魔獣を躱しながら、スノーワルツは俯瞰するように考えていた。

 

 さっきから、いつも通り飛べない。魔法陣を展開して、魔法を放とうとした時もそうだった。

 

 多分、この青紫色の液体が原因なんだろうな。スノーワルツは自身のドレスを染める色を眺め、そう結論付けた。

 

 毒か何か、効果は魔法が使いにくくなったり、空が飛びにくくなる、とかだろうか。

 

 そう分析したスノーワルツは、再び身体をしならせ、自身に攻撃をしてくる魔獣を、上昇するように()()()躱す。

 

「何故だ!何故動ける!?スノーワルツ!!」

 

 二度も攻撃を躱された事実を知った魔獣は、怒る様に声を荒げた。

 

 スノーワルツの分析は正しかった。その毒は魔獣が改造によって手に入れた、『魔力の操作を鈍らせる毒』であった。

 

 その毒を浴びた魔法少女は、普段呼吸をするように行っている魔力の操作の難易度が大きく上がり、まともに飛行する事すら不可能になる。

 

 このことは、事前に風の魔女への実験で明らかな事実であった。毒は、スノーワルツの身体に染み、その効果が今も尚スノーワルツを苦しめているはずだった。

 

 だが、スノーワルツはいつもと変わらぬ様子で空を飛び、二度も魔獣の攻撃を回避している。

 

 何故そのような芸当が可能であるか。理由はたった一つの単純な事で、スノーワルツという魔法少女が常軌を逸した存在であるからだ。

 

「吹いて。〈アイスウィンド〉

 

 唱えると同時に、ステッキの先より魔法陣が展開され、凍てつく風が放たれる。

 

 その風は魔獣の背を吹き付けると、一瞬にしてその一部を凍らせた。

 

(魔法の発動!?どうなっている!?まさか、毒が効いていない?)

 

 背を伝う強烈な冷気に、魔獣は危機を感じ、スノーワルツから離れるように地面を這って移動する。

 

 距離をとってからスノーワルツの方を見ると、自身の手を握ったり開いたりして、何かを確かめる様子で宙に立つ少女の姿があった。

 

 毒は、効いていた。毒はしっかりと効果を発揮し、スノーワルツは魔力の操作が困難な状態にあった。

 

 その上で、魔力の操作をほぼ掌握しきっていた。

 

 雪乃道ほのかと言う少女は、特に秀でた才能は無かった。

 

 勉学は人並レベルで、運動能力に関しては並以下の才能だ。当然、戦闘経験もなく、戦いの達人でもない。

 

 今まで日常生活で決して気づくことのない才能、魔法少女としての才能が、まさに開花している最中だった。

 

 魔力の操作が難しくなったのなら、それに適応するよう、自身のやり方を変えればいい。

 

 言葉にすれば簡単だが、それは唐突に出来なくなった呼吸を止め、別の方法で肺に酸素を送る如き荒唐無稽な話だ。

 

 それを、毒の成分を分析するより前にやってのけたのだ。正に鬼才、その才能を目の当たりにし、魔獣の本能が警鐘が鳴らす。

 

 逃げる?どうやって?この形態では逃走は難しい、ならばこの間のように魔核を移動させ、それから身体を切り離し……

 

 思考を巡らせる魔獣に向け、スノーワルツは口を開く。

 

「もしかして、怯えてる?」

 

 その言葉を聞いた途端、魔獣の思考から逃走の選択肢が消え、代わりに大量の怒りで埋め尽くされる。

 

「少し動けるようになった程度で!驕るなよ!人間如きがァ!!」

 

 確実に、絶対に殺す。魔獣は全速力でスノーワルツに向け移動を開始する。

 

 大丈夫だ。勝算はある。魔獣は怒りに震える脳内を落ち着けるよう、言い聞かせる。

 

 先程背に喰らった魔法も、前に喰らったものよりずっと威力が低い。毒はきちんと効いていて、高威力な魔法を放てないのだ。

 

 故に、自分を一発で殺し切ることは出来ない。魔獣はスノーワルツの目の前に近づくと、大きく口を開き、噛み殺さんと迫る。

 

 魔獣の認識は正しかった。

 

 スノーワルツはステッキを構え、魔法陣を展開しながらつぶやく。

 

「ありがとう……挑発に乗ってくれて!」

 

 スノーワルツは二度の攻撃を放ち、自覚していた。自身の現在の魔力操作では、大きな魔法を放つことが出来ない。

 

 大きすぎる魔法陣では、魔法を放つ前に壊れてしまう。かと言って小さな魔法陣で放った魔法では威力が低く、魔獣を倒し切ることは出来ない。

 

 だが、これ以上の被害を抑えるために、魔獣が逃げ出す前に、一発で倒し切る必要がある。

 

 だから、誘った。威力の低い魔法でも倒せるよう、硬い甲殻に覆われた()では無く、()へ向けて魔法を放つ。

 

「逆巻く氷の渦!〈ダイヤモンドウィルプール〉!!

 

 魔獣の口がスノーワルツを喰らうより速く、口内を狙った氷の渦が、魔獣の頭を貫いた……

 

 

 

 

 かのように見えた。

 

 「っ!?まだだ!!」

 

 スノーワルツはそう叫び、意識を切り替える。

 

 魔法が貫いた、そう傍から見ればそう見えたかもしれないが、前回の戦いを経験したスノーワルツは気付いた。魔法が当たる直前、爆ぜるようにして魔獣の身体が分裂した。

 

 スノーワルツはすぐさま辺りを見渡し、飛んでいった肉片を観察する。どれかには、心臓部になる本体があるはずだ。

 

 そう考え、自身から()()()()()スノーワルツへと、その口を大きく開く。

 

 

「だから!貴様ら人間は愚かで、脆弱なのだ!!」

 

 

 攻撃が当たる寸前、心臓部の魔核移動させ、身体を弾けさせた。だが、移動させたのは、吹き飛んだ肉片では無く、その場に倒れるようにして残した方の肉体であった。

 

 前回の戦闘の経験から、わざとらしく肉片を飛ばせば、そちらが本体であると錯覚するだろうという(ブラフ)

 

 残した肉体に魔核を移した魔獣は、残った力で頭部を再生させ、スノーワルツの油断を狙っていた。

 

 スノーワルツはその事実に気づき、慌ててステッキを魔獣へ向けようとするが、もう既に魔獣の口が自身を食い殺す直前まで迫っていた。

 

 間に合わない。このまま、食べられる。目の前に迫った鋭利な顎が自分を貫く、その時だった。

 

 

 唐突にして、魔獣の動きが止まる。もうあと少しでも動かせばスノーワルツを殺せるという時、唐突に動きを止めた。

 

 スノーワルツは痛みに備え、閉じていた目を開き、何が起きたのかを確認する。

 

 そこ映るのは、今にも自分を噛み殺そうとする魔獣の身体、それが小刻みに震えてる姿だった。

 

 ガタガタと震え、全身が何かに耐えるかのように、必死に堪えていた。

 

(なんだ……この……心臓部(魔核)が締め付けられるような……この痛みは!?)

 

 身動きが取れないほどの痛み、毒による痺れではない、まるで直接心臓を鷲掴みにされた様な痛み。

 

 

「ひ、ひひひ……効いてる、効いてるよね、これ……魔獣もやっぱり、苦しいんだねぇ……」

 

 

 魔獣でも、スノーワルツのものでもない、第三者の声が聞こえた。その方向へ目をやると、そこには宙に浮く、1人の姿があった。

 

 緑と黒を基調としたドレスを着て、露出させる肌の部分には包帯を巻いた、ぼさぼさの髪で目元に隈をつけた、ニタニタと笑う少女の姿。

 

「あ、明日の新聞っ!わた、私、魔法少女・カースティが載るんだからっ!」

 

 その言葉に魔獣は理解する、現れたのはスノーワルツ以外の魔法少女、つまるところ自身を殺しに来た敵であると。

 

 魔獣は一度視線をスノーワルツへ戻す。スノーワルツは自身の死を目の前にした恐怖からか、まだ動けないままだった。

 

 現在行うべきはこの場からの逃走。しかし、魔獣には直接攻撃を受けていないというのに、心臓部へ走る痛みがあった。

 

 恐らくは新手の魔法少女の魔法による攻撃、物理手段以外の方法で攻撃する手立てがあるのだろう。

 

 魔獣はそう思い、奇妙な笑い方をする魔法少女を見る。その右手には金槌の様な物が握られており、もう片方の手には自身が弾けさせた肉片があった。

 

 あれが攻撃のタネか。そう見当をつけた魔獣は、現在自分のすべき優先順位を再認識し、もう一人の魔法少女へと迅速に向かった。

 

「わっ、こっち来た……えい、えい……効いてる、よね?」

 

 魔法少女・カースティを名乗る少女は、金槌を肉片へ打ち付けるようにして振るった。それに連動するよう、魔獣の心臓部に痛みが走る。

 

 思わず動きを止めてしまいそうになる痛み、だが、来ると分かっていればある程度耐える事は出来た。

 

 この魔法少女・カースティを殺し、身体を縮小させ、この場から逃走する。それが魔獣の生き残る道だった。

 

 いくら強力な能力を持とうと、所詮はただの人間の小娘。ムカデの魔獣の力は並の魔獣の次元にはない。戦闘慣れしてない魔法少女を一人殺すくらい、造作もなかった。

 

 魔獣は口を開き、その顎で貫くよう、その魔法少女を噛み殺そうと動かした。

 

「うわっ、っと……む、虫の癖に、わ、私喰おうとしてきた……!」

 

 しかし少女は何一つ怯える様子もなく、慣れた様子で魔獣の攻撃を躱すと、怒りを表情に浮かべ、右手に握る金槌に力を篭めた。

 

「し、死んじゃえ!五寸釘、打ち込み(ごっすん!ぐきっ!)〉!

 

 唱えると同時に、魔獣へと先端を向ける様に巨大な五寸釘が現れ、少女が金槌を振ると同時に、打ち込まれるように釘が放たれた。

 

 魔核の移動も、自爆もする余地もなく、流れる様に、一瞬にして魔獣の身体はミンチになった。

 

 その様子を見ていたスノーワルツは、呆然と、魔獣の返り血に身を染めるもう一人の魔法少女へと視線を向けていた。

 

「や、やった!……私が、私が倒した!私が一番っ!一番人気で可愛い魔法少女っ!なんだぁぁぁ!!」

 

 歓喜に震えるようにして、少女の叫びが夜空に木霊した。

 

 

 ――――――――――

 

 

 魔獣へと向かって行ったスノーワルツを見送ってから数分間、俺はずっと空飛ぶ魔女に手を焼いていた。

 

「おい!いい加減降りて来いよ!いつまで経っても終わらねーぞ!」

「うるさい!馬鹿!黙って、死ね!」

 

 そう言うと女はもう何度目かになる魔法陣を杖先に展開し、無数の風の刃を放ってくる。

 

 上空から降り注ぐようにして放たれた風の刃は俺に当たる事はなく、屋根の上に切り傷をつけるだけだった。

 

「人の家だぞ!傷つけんな、よ!

 

 俺はそう言うと、走りながら屋根の瓦を引き剥がし、空を飛ぶ女に向けて投げ飛ばす。

 

 女の顔へと目掛けて放った瓦だったが、結果として瓦は顔の横を素通りし、命中はしなかった。

 

 やっぱり、空飛ぶ相手には軌道が読みずらいし、当てにくい。

 

「あっぶな……何コイツ……頭おかしいよ……」

 

 自分の頬をさするようにしてそう呟く女に向け、舌打ちをしながら次の手について考えていると、遠くで大きな音が聞こえた。

 

 先程から建物の壊れる音やらが聞こえてるし、雪乃道のやつ、苦戦してるっぽいけど、大丈夫だろうか。

 

 そう思いチラッと視線を魔獣の居る方へ向けると、そこに魔獣はおらず、弾け散る肉片が空を舞っていた。

 

 俺はそれを見て笑みを浮かべる。

 

「あっち、終わったっぽいけど、どうする?そろそろ降りてくる決心はついたかよ」

 

 魔獣が倒された、それは一目瞭然だった。となれば手の空いた雪乃道がこっちに増援に来てくれるから、あとは二人でボコって終わりだ。

 

 女もそれに気づいたみたいで、唖然と口を開いて呟いた。

 

「嘘……ムカデ君、やられちゃったの?」

 

 信じられないと言った様子で動きを止めた女に向け、俺は再び剥ぎ取った瓦をぶん投げる。

 

「ッ!クソが!……こうなったら、仕方ない……」

 

 瓦は寸前で躱され、女の頬に一閃の傷をつけるだけに留まる。

 

「仕方ない?まだ手があんのかよ?」

 

 また新しい魔獣でも呼び出すのだろうか。まぁ、呼ばれたとしてもスノーワルツが簡単にやられるとは思わないし、時間稼ぎにしかならないだろう。

 

 次に打って来る手に備え、俺が身構えていると、女が動き出した。

 

 くるりとその場を回転すると、背を向け、俺から遠ざかるように移動を開始した。

 

 次の一手はまさかの、ガン逃げだった。

 

「あ、おい!待てストーカー女ァ!逃がさねぇぞ!」

 

 俺は女を追いかける様にその場を駆け出し、住宅街の屋根と屋根を飛び越えるようにして追跡する。

 

 女は振り返る様子はなく、後ろ手に妨害の魔法を放ってくることもなく、一切の障害なく追えるのだが……

 

「くっそ!クソ(はえ)え!!」

 

 俺をぐんぐんと追い去り、女との距離は離れてしまう。

 

 あの女、風の魔女とか名乗っているし、多分風の魔法を利用して飛んでいるのだろう。スノーワルツよりも全然速い!

 

 どうにか、どうにか追いつかないと……このままじゃ見失う!

 

 俺は走り、跳びながら、あの女に追いつくための方法を考え始めた。

 

 

 ――――――――――

 

 

「はぁ……はぁ……本当に、意味わかんない!」

 

 風の魔女こと瓦風(かわらかぜ)ふうかは思い返しながら飛行する、今日の不運を。

 

 スノーワルツを殺すため、掴んだ手がかりとして、ここ最近スノーワルツの周りをうろつく大川赤司に目をつけたまでは良かった。

 

 後は大川赤司を拉致して、人質にとれば楽に殺せるだろうと、そう考えての今日の作戦だった。

 

 だが不幸は作戦決行と同時に始まった。まず、侵入した大川赤司の自室で、思わぬ反撃を喰らった。

 

 ただの一般高校生、そう認識していた瓦風は余裕ぶっこいていたが、何故か異常な身のこなしをする赤司に顔面を蹴り飛ばされ、さらにもう一発顔面に膝蹴りを喰らった。

 

 この時点でお気に入りの眼鏡が粉砕され、もう瓦風の怒りは最高潮だった。

 

 もういいや、殺そうと考えた瓦風だったが、その直後衝撃の事実が判明する。

 

 大川赤司が、シュゴレンジャーのレッドだった。

 

 もう、とんでもない偶然の、とんでもない不幸だった。それからはもうぐだぐだ。スノーワルツは来るわ、レッドは殺せないわ、挙句の果てに秘密兵器のムカデの魔獣が倒される始末だ。

 

 もう、これ以上挑んでも、痛い目を見るのは明白だった。スノーワルツが来る前に、さっさと逃げてしまおう。そう思い、逃走を始めた。

 

 大丈夫、大川赤司がレッドという情報だけで十分だ。後はレッドを撒いた後で、適当なタイミングで影と落ち合って……

 

 

 

 

 

 

「俺さ!最近さ!すげぇ考えてることがあったんだよな!」

 

 

 今後の予定を考える、そんな瓦風の耳に、信じられない声が入る。

 

 それは先程暗殺に失敗したレッドの声であり、それ自体にも驚いたが、問題はそこでは無かった。

 

 驚いたのは、声の聞こえる()()だ。

 

 屋根を跳びまわり、自分を追っているレッドの声は下から聞こえるはず。だが聞こえたのは真後ろだ。

 

 瓦風は振り返り、レッドの姿を確認する。

 

「どうすれば空飛ぶ魔法少女より速く移動できるか……簡単だったぜ!」

 

 そこには、足から()()()()()()、その勢いで自分に並ぶ速度を出して空を飛ぶ、レッドの姿があった。

 

「俺も!飛べばよかったんだ!!」

 

 悪魔の声が、すぐ後ろまで迫っていた。

 

「なん……何なのよ!それは!?」

 

 急いで杖を構え、飛んでいるレッドを落とすべく、魔法陣を展開する瓦風。

 

 だが、振り返ったその時には、既に構えは終わっていた。

 

 空中で屈むようにし、右拳を左手で抑え、引き絞るように腕を引く。

 

「こいつはなぁ!」

 

 直後、その速度は遥かに風の魔女を超える。脚に溜めた火力を解き放ち、瞬間的に爆発的な加速力を得る。

 

 同時に突き出した拳は風の魔女の腹へと放たれ、加速によって得た速度と重さが衝撃となり、魔女の身体へとぶつけられる。

 

ファイアジェットパンチって言うんだ……カッコいいだろ?」

 

 レッドは足先から吹き出す火の勢いを弱め、少しずつ減速し、空中に滞空すると、後ろを振り返る。

 

 そこには、気絶し、重力に身を任せ落下する風の魔女の姿があった。

 

 

 

 

 




シュゴレンジャー・レッド

プロテクトギアを持ち、使用する事で赤いコスチューム姿へと変身することが出来る。

プロテクトギアには、使用した者に特殊な『属性』と『能力』を与える力がある。

レッドの『属性』は炎で、『能力』は身体能力。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。