ヒーロー症候群   作:夜行列車予行

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影に潜む者


後始末!!光る!鈍い銀色と赤色!

「にしても、コイツ何者なんだよ」

 

 俺は道路の真ん中に落下した風の魔女ことストーカー女を道の端に運ぶと、ボロボロの眼鏡を取り、その顔をまじまじと見つめる。

 

 俺に知り合いは少ない、それに女となればより一層に関りが少ない。最近は雪乃道とよく会うが、それ以外の女の友達なんて覚えがない。

 

 クラスメイトにもこんな眼鏡をつけた顔の奴はいなかった気がするし……てかコイツ魔女とか名乗ったけど、魔女って何なの?魔法少女のパチモンか?

 

 雪乃道の事狙っていたり、俺がレッドだってことが分かると俺のこと殺そうとしてくるし。

 

「そう言えば影とか言う奴に話しかけてた気もするな……ひょっとして、コイツの仲間がまだ居るのか?」

 

 俺はそう考え辺りを見渡すが、人影一つ見えず、ただ夜の住宅街の景色が広がるだけだった。

 

 遠くからはサイレンの音が聞こえた、恐らく近くの住民が通報をしたのだろう。

 

「てか俺も帰んねーと、春子さんが無事か確認しないと」

 

 そう思い、プロテクトギアを手に取り、変身を解除しようとした時だった。

 

 遠くの空にふよふよと浮かぶ白い髪の少女を見つける。スノーワルツ姿の雪乃道だ。

 

 俺は気絶するストーカー女を抱えると、近くの屋根の上に跳び上がり、雪乃道へと声を掛ける。

 

「おーい!スノーワルツ!こっちだ!」

 

 その声に気づいたのか、雪乃道はこちらに向かって近づいてくる。

 

「レッド!大丈夫ですか!?」

 

 俺の無事を尋ねる雪乃道に向け、俺は抱えるストーカー女を見せつけるようにして言葉を返す。

 

「おう。余裕よ余裕。ほら、コイツが主犯だ」

「す、すごい……!傷一つ負わないで敵を捕まえてる……!」

 

 雪乃道からの称賛の声に俺は自然と口角が上がる。しかし、その言葉にふと、俺は雪乃道の姿を再確認する。

 

 遠くからだと気づかなかったが、ドレスは結構ボロボロで、出血はしていないが、怪我の跡が所々に見られた。

 

「雪乃……スノーワルツは大丈夫か?」

 

 そう訊ねると雪乃道は自身の体を見下ろすようにして答える。

 

「あ、はい。毒とか喰らっちゃって、怪我もしちゃったんですけど、ちょっと時間経ったら毒も消えて、魔法を使って血を止めたりして、今は平気です!」

 

 笑顔で語る雪乃道の表情には確かにまだ元気がありそうだった。

 

 無事をアピールするようにくるりとその場を一回転した雪乃道は、それから少し顔を俯かせ、頬を赤く染めて口を開いた。

 

「そ、それでその、さ、サイン貰えるって話は……」

 

 落ち着かない様子で身体を揺らしながらそう話す雪乃道の言葉に、俺は思い出す。

 

 そう言えばそんな約束もしてたな。

 

「あぁ、いいぜ。何か書くものは……」

 

 俺はそう言って抱えてたストーカー女を屋根の上に降ろし、サインを書くことを決めた。

 

「ほ、ほんとですか!?ふ、服!この衣装の上に書いてください!ペンっ!持ってます!」

 

 そう言って、サインを書くためのペンを取り出そうとする雪乃道を見ていると、視界の端に赤と青の光が入る。

 

 サイレンの音共に近づいてくるのは、警察の車両だった。丁度いい、雪乃道にサイン書いて、このストーカー女を警察に突き出して、とっとと春子さんのもとへ……

 

 そう考える俺だったが、その時脳内にある未来図が浮かぶ。それは俺の存在が警察に見つかった場合だ。

 

 シュゴレンジャー時代は、大体ブルーが警察とのやり取りを担当してくれていたが、今はいない。となると俺が警察と話すことになるが……

 

 俺は嬉しそうな表情でペンを手に持つ雪乃道を眺める。

 

 もしそうなったら、場合によってはレッド(おれ)の正体がバレることになるかもしれん……いや、むしろ今まで待ち望んでいた展開ではあるんだが……

 

「サイン!お願いします!!」

 

 そう言って俺にペンを渡した後、背中を向けてくる雪乃道を見ていると、屋上でのやり取りが頭に浮かぶ。

 

 シュゴレンジャーはみんなの為に正体を隠しているとか、そう言う話。

 

 別にそんなの雪乃道の勝手な考えだし、俺はその結果レッドを騙ったクズとして頬を打たれたし、そんな必死になって正体を隠す必要はないんだが……

 

「……すまん、スノーワルツ。サインは今度でいいか?」

 

 俺は受け取ったペンを返すようにして、そう言葉を告げる。

 

「え……だ、大丈夫、ですけど……」

 

 目の前で餌を取り上げられたペットの様な、物悲しい表情を浮かべてそう答える雪乃道。

 

 その姿に少し心が痛くなるが、俺は今サインを書くことより、雪乃道(ファン)の理想を守る事を選んだ。

 

「俺は姿を消す。この女は、スノーワルツが警察に引き渡してくれ」

 

 俺はそう言うと踵を返しその場を後にし、隣の家の屋根の上に飛び移り、逃げる様に走り出す。

 

 もっと遠くへと走り出す前、俺はチラッと後ろ振り返る。そこには走り去る俺の姿を悲しそうに眺める雪乃道の姿があった。

 

「……これで許してくれ、雪乃道」

 

 俺は雪乃道の話を思い出し、右手を突き上げる様に掲げ、その場から姿を消した。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 その場所は、レッドが風の魔女と戦った場所と、スノーワルツが魔獣と戦った場所の丁度中間に位置するくらいの場所。

 

「うわ、ムカデ君やられちゃってるじゃん」

 

 黒いローブ姿の女は、廃ビルの屋上にて、その戦いの様子を眺めていた。

 

 地面に広がる黒い影の様な闇から身体を覗かせ、上半身だけを晒すようにして、ローブの女はその場所に居た。

 

 手に持っているのは双眼鏡、風の魔女の合図でムカデの魔獣を解き放った後、このビルの屋上にて戦いの行く末を見守っていた。

 

「あれは……ちょっとだけ噂になってた魔法少女かな?この街はほとんどスノーワルツが魔獣を倒してるけど、他にも魔法少女は居るんだね」

 

 女が覗く双眼鏡に映るのは、スノーワルツではないもう一人の魔法少女、確か呪いの魔法少女とか言うこの街にいるもう一人の魔法少女の姿。

 

「あんなに動ける魔法少女が居るとはね、想定外だなぁ~っと、風の方はどうかな?」

 

 女は双眼鏡を動かし、その方向を住宅街の方へと変える。

 

「……なにアレ?レッド、飛んでる?そんな事出来たんだ……」

 

 見えたのは空を飛んで逃走を試みる風の魔女と、それを追いかけるよう、足先から火を噴きだし空を飛ぶレッドの姿だった。

 

 速度はわずかにレッドの方が速く、じりじりと距離の差を埋められていくようだった。

 

 これはもう長くないだろう。

 

「撤退だなぁ……風は後で回収するとして、ムカデ君の方は出来るだけ死体を回収したい所だなぁ……あれまともな部位残ってるかな?」

 

 後の実験に役立てるため、改造済みのムカデの魔獣を回収したいと、考えている最中だった。

 

 

「ムカデ君ってのは、さっきまであそこにいた魔獣のこと?」

 

 

 背後から、ローブの女に向け声が放たれる。

 

「っ!!」

 

 それは反射的な行動だった。誰の声かも分からないが、その冷たい声色に含まれた殺意に反応し、女は安全な影の中に身を潜めるよう、急いで影の中に潜り込もうとする。

 

「動かないで。動いたら殺す」

 

 が、それを行動に移すよりも速く、ローブの女の首元に冷たい感触が迫る。

 

 首に走る、僅かな痛み……切り傷だ。女は現在、首元に包丁を突き付けられていた。

 

 一体どうしてこの場所が、どうやって足音一つ立てずにこんな近くまで、一体誰が……

 

「うっ!や、やめて……」

 

 その姿を確認しようと、首を動かそうとすると、再び走る鋭い痛み。思わず、懇願の声が漏れる。

 

「振り向いても殺す。次はないから」

 

 浅く突き刺すように向けた包丁を、僅かに首から離し、声の主は言葉を続けた。

 

「じゃあ、質問に答えて?あなたの名前は?」

 

 淡々とした声で放たれた言葉は、ローブの女へと向けた質問の言葉だった。

 

「か、影!影の魔――」

 

 言葉を言い切るより前に、ローブの女の目の前に包丁の先端が迫る。金属の鈍い輝きが目に突き刺さるようだった。

 

「そっちじゃない、本名。答えて?」

 

 嘘や誤魔化しは死に直結する。目の前の己に向けられた刃とその冷たい声がそれを伝えていた。

 

「影内!影内(かげうち)きりこぉ!」

 

 叫ぶよう、縋るよう声を張り上げると、目の前の刃は姿を消し、再び首元に刃の先端が置かれた。

 

「次、今回の襲撃の目的は?」

「魔法少女、スノーワルツを殺すための、人質材料として大川赤司の連行っ!!」

 

 ローブの女は慎重に言葉を選び、しかし嘘や誤魔化しと思われないよう、出来るだけ迅速に話す。

 

「じゃあ、アレは何?」

 

 声の主が包丁の刃先で指したのは、住宅街の方、レッドと風の魔女が交戦していた場所だ。

 

「し、知らない!気づいたらレッドが居て、風の魔女と戦っていて……」

 

 そう話すと、先程の傷口をなぞるように包丁の刃が触れた。

 

「う、嘘じゃない!ほ、ほんとう!私も、何が何だか分からない!!」

「…………」

 

 それから少しの沈黙。次の瞬間にでも自分の首を包丁が貫くんじゃないかと、死の恐怖が身体を包む。

 

 数秒程度の間が、とても長く重く感じられた。それから少しして、背後から声が聞こえた。

 

「ま、いい。次、レッドを狙う理由は?」

 

 その質問に、女は口の中の唾液を飲みこむと、ゆっくりと語り出した。

 

「そんなの、ない……目的はスノーワルツで、レッドはたまたま現れただけ……」

 

 そう言い終える前に、刃は首元を離れ、ローブの女の肩を貫くように突き刺さった。

 

「あ”ぁぁあ”あ”ぁぁぁ!?」

 

 唐突な肉を抉られる痛みに、女絶叫し、上半身だけでのたうち回る。

 

「嘘。貴女達はレッドが現れたら逃げるでもなく、殺そうと試みていた。そんな便利なものがあるのに逃げ出さなかったのは、それ以上にレッドの命に価値があったから」

 

 便利な物、そう言いながら肩から抜いた包丁で地面の影を指す。

 

「本当の理由、レッドを殺そうとした理由、言って?」

 

 地面へと向けられた刃先から、ぽたぽたと自分の血が流れ落ちるのを見て、女は確信する。

 

 答えようが、答えなかろうが、この先にある自身の結末は、死。

 

 ならば、僅かでも可能性があるなら、希望へと手を伸ばすべきだ!

 

「貫け!〈影の(シャドウ)――」

 

 魔法の発動。影の魔女は杖を持たずとも、影を媒介とし魔法を放つことが可能だった。これにより、ほぼ最速での攻撃が背後の声の主を貫く。

 

 その隙に影の中へと逃げて、風の魔女を回収して……

 

「あ……あえ?」

 

 そんなあり得ない未来を夢想したまま、影の魔女は自分の喉から吹き出る血を眺めていた。

 

 包丁は引き抜かれると、そのまま流れるよう、二度三度と喉を滅多刺しにする。

 

 それから少しして、完全に力の抜けたローブの女の髪を掴み、影の中から引っ張りだした後、女の瞼を開き、瞳孔の様子を眺めてからその場を移動する。

 

「……こちら捜索班、エリアBの2-3にて襲撃者の1人と思われるローブの女、影内きりこを殺害」

 

 コートのポケットから取り出したスマホに向け、そう話す。

 

『……命令は拘束だ。殺せとは言っていない』

 

 スマホの向こうから、重低音の声が聞こえる。コート姿の女は淡々と説明を行う。

 

「影内きりこは逃走と隠匿に関して我々では追跡不可能なレベルの能力を持っていました。逃げ出され、情報を渡される前に、殺すべきと判断しました」

『……なるほど、状況は理解した。だが命令違反は命令違反だ。忘れるな、君は政府に尽くす忠犬だ。下手に自我を持つなよ』

 

 電話越しの上官に向け、女は返り血に塗れたコートを脱ぎ捨て、返事をする。

 

「忘れた事はありません。死体の回収をお願いします。それから、住宅街、Aの4-2付近にてレッドがもう一人の襲撃者を気絶させました。そっちの回収もお願いします」

 

 女は住宅街の方へと目を向けながら、そう伝える。

 

「了解。回収班を向かわせる……今回は事態が急だったが、迅速な対応見事だった、銀狼(ぎんろう)。再び対象の監視に戻れ」

「はい。事件後の対象の様子も併せ、今日中に報告します。それから、銀狼(それ)は前の仕事での名前です」

 

 屋上の扉を開き、階段の手すりに置いておいた()()()()()()を手に取る。

 

「今の名前は、()()()()です。報告書にもそっちの名前で記載をするので、よろしくお願いします」

『了解した』

 

 そのやり取りを最後に、スマホの通話が終了する。

 

 コツコツと、階段を下る音が誰もいない廃ビルの中に響く。

 

 その顔に笑みは無く、目に光はない。自分は命令に忠実な犬であると、理解していた。

 

 任務の遂行に感情は要らない。射殺さんとする鋭い目つきも、廃ビルの外へ出る頃にはいつもの笑みへと変わっていた。

 

「んんっ……赤司くん、無事かなぁ~?」

 

 個人経営の花屋を営む赤司の親代わり、大川春子としての姿に戻り、赤司が帰ってくるより前に家に着くよう、歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




第一章終わりって感じです。こっからペース落ちるかもしれませんが、暖かい目で見守っていただけたら嬉しいです(ぺこり)。
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