うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。   作:のろとり

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 キミプリで好きな所はちょっとしたモブ(喫茶店のお客さんやくりきゅうたなど)が一話限りの登場で終わらず、何回も登場してくれる事。物語の起承転結を作る舞台装置じゃなくて「実際にこの街で暮らしてるんだなぁ」って気持ちになる。楽しい。

 作中の時系列は第13話です。
 具体的に言うと、うたちゃん達が球技大会の種目を決めた後~球技大会開催日の間。


第9話 二人とも、俺は二人の手助けしか出来ない。ただし出来る限りの事はしよう。

「お願い台助くん、私達をバレーボールで優勝出来るぐらい鍛えて!」

 

「お願いします!」

 

「え、なに。急にどうした」

 

 放課後の教室。

 アイドルプリキュア達の新しい動画がアップされていると───今回はアップ前に許可をうた達に取ったと、プリルンが前に喋っていた───廊下から聞こえる誰かの声を尻目に、俺は帰る為に荷物を纏める。

 

 すると俺以外誰も居ない教室に、うたとななちゃんが入ってきて突如として頭を下げてくる。

 頭を下げるほどにうた達にとって大きな頼み事なのは見れば分かるが、唐突に「優勝出来るぐらい鍛えて!」と言われても困る。そもそも俺はバレーボールは得意ではない。授業で軽くやったことある程度だ。

 

「えっと。まず事情を説明してくれ」

 

「ほら、今度球技大会があるでしょ?」

 

「まぁあるな」

 

「そこで私達はバレーボールをする事になったんだけど、一緒のチームのわかばちゃんがバレー部の翔太先輩の事が好きで」

 

「良いところ見せたいって所か? ってか、確か翔太は今度転校するって聞いたが」

 

「そうなの! だから球技大会で優勝して告白の願掛けをしようって話になって」

 

「わかばちゃんの力になりたくて俺に協力を仰いだのか」

 

「そうなんです」

 

 ハードル高くない?

 俺は表では冷静に話を聞きながらも、内心では願い事に対するハードルの高さに冷や汗をかいていた。なんなら俺の教えだけで優勝行くの無理じゃね? とも思った。

 

 今度学校で行われる球技大会は男女別の学年合同である。

 例えを出すと、一年生VS一年生だったり、一年生VS三年生も有り得る。身体が成長途中の一年生と、殆ど成長しきっており授業程度でありながらもバレーボールの経験がある三年生、どちらが勝つか。大半の人間は後者と答えるだろう。

 端的に言えば優勝は難しい。体格差や経験を考慮した上で運の要素を含めたとしても、精々準優勝が手の届く範囲だろう。

 

 しかし、頼まれた以上は出来る限りの事をしよう。

 あくまでさっきの説明は確率の話であり、勝負の世界ではたった1%の可能性でも勝利にも敗北にも天秤は傾く。その天秤が0%になるのは勝負を諦めた時だけだ。

 

 俺がするのは勝利に導く事ではない。

 それは俺自身の実力では無理と理解しているし、必ずと言う言葉が使えるほど優勝を甘く捉えてもいない。

 

 俺がするのはただ一つ。勝利までの確率を上げる事だ。

 付け焼き刃程度の知識と基礎をうたとななちゃんに授けて、残りは本人達の頑張りに任せる。人任せに思えるかもしれないが、一緒のコートで戦えない以上、俺が出来るのはこの程度である。

 

「話は分かった。それで、うた、ななちゃん。それと俺とこころちゃんの四人で練習するのか?」

 

「あー……実はこころにはわかばちゃんが優勝したら告白するって話はしてないんだよね」

 

「話してない?」

 

「はい。こころちゃんに気を遣わせるのは悪いと思って」

 

「なるほどな」

 

 この場に居ないこころちゃん───恐らくはアイドルプリキュア研究会で活動中である───も含めて練習するのか確認を取ったが、こころちゃんは抜きで練習したいようだ。

 

 こころちゃんの性格から考えて球技大会で手を抜くのは想像つかない、もっと言えば「でも私も全力で戦います!」と宣戦布告するタイプだろうが、それでも自分達にはこういう事情があると話すのは止めた方が良いと考えた結果のようだ。

 

 そうなると俺含めて三人での練習か。

 こころちゃんが居るなら2:2で練習出来たが、それが難しいとなるとうたとななちゃんの二人で練習するのを俺が監督するような立ち位置になるとしよう。

 なら教え方は二人でラリーをしてもらうよりも、俺が動きを一つ一つ交互に教えてある程度慣れたらパスの練習だな。実践による経験は球技大会本番で積んでもらう他は無いが、その辺りは人数の関係仕方ないとして……練習メニューを詰める必要がありそうだ。少なくとも今日から練習するのは難しそうだな。

 

「今日はちょっと用事があるから無理だが、明日から引き受けよう」

 

「やった! 台助くんありがとう!」

 

 俺は今日は用事があるからと、バレーボールの知識を詰め込む時間を欲しいとは具体的に言わず───二人に気を遣わせてしまうため───、一日だけ時間を貰うのであった。

 

 

 

 

 

「二人とも、準備は良いか?」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 翌日。

 うた経由で毎回連絡するのは面倒だからとななちゃんと連絡先を交換し、大きく動けて尚且つボールが飛んでも人や通行の邪魔にならない場所として浜辺を指定した俺は、ボールを持って二人に準備出来たか問う。

 

「俺が教えるのはあくまで基礎的な部分だ。それでも付け焼き刃程度の効果はあるだろうな」

 

「はい、台助先生!」

 

「俺は先生になった覚えはない。それでうた、なんだ?」

 

「まずは何を教えてくれるの?」

 

「そうだな……サーブ、トス、レシーブ、ブロック、スパイク。ルールは座学になるし厳しい判定は出ないだろうから置いとくとして、練習するのはこの辺りだな」

 

「結構多いね」

 

「あくまで始め、繋ぎ、防御、攻撃だ。決まった型は一応あるが、別に脚や顔面でボールを味方に繋ぐのもありだ」

 

「脚もありなんですか?」

 

「あぁ。俺も最近知ったけどな」

 

 正確には昨日知った事ではあるが。

 実際に球技大会で脚や顔面を使ってボールを繋ぐ場面が訪れるか分からないが、もし脚が届く場所にボールが飛んできた際に「あれ、脚でボールって弾いて良いんだっけ?」と悩む可能性を潰せるなら、勝利までほんの少し近付けるだろう。

 

「まずはトスだ。俺がボールを打ち上げるから、それをトスして高く打ち上げろ」

 

「よーし、まずは私の番だね!」

 

 ちょっとした座学もそこそこに、俺は最初にトスをするよう指示をする。

 するとうたが自信満々に手を上げて自分から始めると宣言し、いつボールが来ても良いように両手を組み、胸より低い辺りの位置で腕を伸ばす。

 

「うたちゃん、それはトスじゃなくてレシーブだよ!」

 

「あれ?」

 

 しかしうたの構えた姿勢はボールを高く上げるトスではなく、相手からのボールを味方にパスするレシーブであった。

 ななちゃんに指摘されたうたは首を傾げて、小さく「トスってこれじゃないの?」と呟く。

 正直よくどっちがどっちか分からなくなる事があるのは否定しきれないので、練習時に確認出来て良かったと前向きに考えよう。

 

「うた。トスは腕を前に伸ばすんじゃなくて、上にあげるんだ。バスケでシュートする時をイメージしろ」

 

「えっと、腕を上げてシュートするみたいにボールを……」

 

「行くぞ。ほれ!」

 

「よっとと……えい!」

 

 うたは俺が高く投げたボールを飛ばそうと、腕を頭より高い位置まであげて弾くようにボールを上へと飛ばす。

 しかしボールは太陽と重なる事は無く、まるで地面へ落ちたボールのように重力へ従ってうたの手から砂浜へとバウンドした。

 

「あれ、あんまり飛ばなかった」

 

「全身を使わずに腕の力だけだったからな」

 

「全身を?」

 

「うたに一つ質問だ。バスケでシュートする時に腕だけで投げるのと、脚をバネのように伸縮させてから投げるの。どっちが飛ぶと思う?」

 

 ボールが中々飛ばないと悩むうたの俺は例え話をする。

 何故に対する返答ならば本来、それに対する答えを伝えるべきなのだろう。実際にその方法が一番簡単であり、相手に結果がより伝わりやすいからだ。

 

 だがその行動は長い目、つまりは球技大会までの期間を考えれば悪手である。何故なら考える力を奪ってしまっているから、トスやレシーブはこうすべきと固定概念に捉えられてしまうから。

 

 実際、試合中に色々と考える余裕があるかは分からない。

 それでもいざボールが飛んできた時に「えっと、この場合はトスとレシーブどっちが良いんだろ……え、トス!? あれ、トスって腕上げるんだっけ、それとも手を組むんだっけ!?」と答えだけが知識として蓄えられてる状態で悩む可能性を考えれば、考える力は必要だろう。

 

「うーんと……脚を使う方!」

 

「理由は?」

 

「勢いがあるから!」

 

「正解だ。全身を大きく使えば力は強くなる、それはバレーも同じだ」

 

「バレーも?」

 

「あぁ。腕だけじゃなくて、膝を曲げてトスをした瞬間に膝を伸ばすと、腕の力+脚の力が働く。これだけでさっきよりもボールが大きく飛ぶ」

 

「なるほど」

 

 バレーで使われるボールは軽いので、あまり勢いを付けすぎると体育館の天井にぶつかる場合もあるが、うたちゃんやななちゃんも馬鹿力ではないので考えるだけ無駄だろう。

 

 むしろ高くボールを上げすぎた結果、誰もボールに手が届かなくて隙を晒したり、相手が体勢を整える時間が生まれたりするのが気掛かりではあるが……そこはもう初心者が対応出来る範囲を越えている。

 

 初心者が考えられるのは、精々自分の動きやボールの位置ぐらいである。バレーはチームプレイだからチームと息を合わせるべき。なんて声は中級者以上の行動だし、そもそもクラスメイト同士のチームと言えど、球技大会での急拵えで作られたチームだ。

 当然ながらアイコンタクトだけでやり取りが出来るほど結束が固まっているとは言いづらく、慣れない動きで相手にチャンスを与えてしまうかもしれないが、その辺りまでカバーしていたら逆に基礎が疎かになる。だから仕方ないと割り切るしかないのだ。

 

「次はななちゃんだな。行くぞ」

 

「はい!」

 

「それっ!」

 

「膝を意識、膝を意識……えいっ!」

 

 うたがトスを成功させたので、今度はななちゃんの番だと一声掛けてからボールを投げる。

 俺とうたのやり取りを見ていたからか、それとも元から筋が良かったのか。ななちゃんは少し不恰好ながらも膝を曲げ、ボールを上げる瞬間に伸ばした脚はまさしくバネそのものであり、空高く舞い上がったボールは太陽と重なり輝いていた。

 

「おお、ななちゃん上手!」

 

「えへへ」

 

「話してるところ悪いが、球技大会まで時間がない。次行くぞ」

 

 成功したのを喜んでいるうたとななちゃんには悪いが、球技大会まで一週間程度しか時間が無い。ここは二人の会話を途切れさせてでも、練習に時間を費やさなければ。

 

 二人とも、俺は二人の手助けしか出来ない。ただし出来る限りの事はしよう。




 こころちゃんと妖精組はお休みです。
 わかばちゃんの為に頑張ろう! って話なのに、対戦相手(こころちゃん)と一緒に練習するのは違和感のある絵面なので。
 きっと今回の裏でこころちゃんはダンスの練習、プリルンは応援の練習、メロロンはそんなプリルンを眺めてるでしょう。

 番外扱いで球技大会本番の話を明日投稿します。
 なんか気合い入れすぎて今回の倍のボリュームになりました。

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