うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。 作:のろとり
時系列は第18話です。
具体的に言うと、うたちゃん達が学校に居る時です。
メロロンがプリルンとデートしたと言う話をうたから聞いたり、ハートキラリロックについて図書館で調べたりと、平和な日々を送っていた頃、その事件は起こった。
「ズキューン? ズキューン! ズキューン!!」
突如としてうたが同じ言葉しか喋らなくなった。
事の発端は分からない。ふとアイドルプリキュア研究会の活動はどんなものか気になり、外から少しだけ覗こうと研究会まで続く廊下を通ったに過ぎないのだ。
そしたらうたがズキューンしか言えない身体になっていた。
近くにはななちゃんとこころちゃんが居て、二人で何か話していたようだが、俺の存在に気付くなり此方へ向いてきた。
ここは先輩として何か言うべきだろうか。
いや、そもそも一連の流れが分からないのに、どう声を掛ければ良いのだろうか。
まずはうたがこうなった理由を聞くべきか? あぁでもそれはうた本人から聞くのも可能だ。ならば先にうたの様子を元に戻すのから始めるとしよう。
よし、そうと決まればやることは一つだ。
「急いでうたを再起動するか」
「うた先輩は機械じゃないですよ!?」
俺は混乱していた。
「それで、なんでこんなに同じ言葉しか喋らないか聞いても良いかい?」
うたの思わぬ様子に混乱してしまったが時間を置いて正気に戻った俺は、未だに明後日の方向を見つめながらズキューンと言葉を繰り返すうたへ一瞬だけ視線を向け、再度ななちゃんとこころちゃんの方へ向き直る。
理由は今のうたでは俺の声が右から左に流れ、マトモに返答出来ないだろうから。
見ただけでは事の経緯を推測するのは難しいが、少なくともななちゃんとこころちゃんの二人が何かしたとは思っていない。
それは理解しているので出来るだけ強めの言葉を使わず、いつもより優しめの口調で二人の事を疑ってないと雰囲気で伝える。
「実はこの前、アイドルプリキュアとしてうたちゃん達とライブをして」
「あー、あれか。怪物が出たと聞いたが大丈夫だったか?」
どうやら事の経緯は先日、うた達がアイドルプリキュアとしてゲストに呼ばれたはなみちタウンフェスかららしい。
フェス、及びライブは大成功だったのは俺も知っている。だがそれと同時に、何やら謎の怪物騒ぎが発生したのも耳にした。
俺は実際に見た事はないのだが、ここ数ヶ月のはなみちタウンは何故か怪物の目撃情報が複数上がっている。
あくまで噂に過ぎない。街の建物を破壊したり暴れてはいるようだが、実際に見た人は気のせいとか、何かの演出と思っているようだ。この前アイドルプリキュアのライブを見に行ったクラスメイトもそう語っていた。
危険な目にあったのにその認識は能天気すぎると思う。
なんにせよ、危険な目にあった人は少なくはない。
その認識を持っている俺はネットニュースで怪物が出たと知るなり、急いでうたに電話し、何事も無かったと知ると一安心した。
今考えると電話した時、何やら意識がハッキリとしていない雰囲気があったが、もしかしたらズキューンと言うようになったのは、今日からではなく先日のライブ後からかもしれない。
そうしてうた達の安否は確認出来たが、直接本人に聞かなければ安心よりも心配が優ってしまうのは、俺が単に心配性だからだろうか。
いや、今は怪我もトラウマも無いのを嬉しく思うとしよう。
「え!? えーっと……まぁ、はい。『キュアズキューン』と『キュアキッス』が助けてくれたので!」
「ズキューンとキッス? あぁ、確かクラスのみんなが言ってたな。新しいアイドルプリキュアのメンバーとかなんとかって」
俺はあくまでアイドルプリキュアのマネージャーでも無ければ、ボランティアで何かしている訳でもない。なので情報と言えば人づてかネットぐらいであるが、ズキューンとキッスに関してはさほど詳しくない。
フェスの際にキュアズキューンとキュアキッスと名乗る人物達がライブをし、その日以降から急激に人気を獲得していった事ぐらいである。
当然だが俺はその正体は知らない。
うたが自身がキュアアイドルであると隠しているように、ズキューンとキッスもそうなのだろう。
もしその二人がアイドルプリキュアならばうたは正体を知っており、それを隠そうとするだろう……あまりにも下手な嘘で。
だから俺はうたにズキューンとキッスについて何も聞かなかった。
もし少しでも話題にしていれば、その時点でうたの様子をおかしい判明しただろうが、そこを後悔しても意味は無い。俺の気遣いが空回りした結果と考えておこう。
「ねぇこころちゃん、やっぱりあの人達って」
「でもうた先輩も田中さんも知らないと言ってましたし」
「ん? もしかして違うのか?」
俺が自身の行動を振り返っていると、ななちゃんとこころちゃんが小さな声で会話を始めた。
もしここが教室なら誰かの声で掻き消されただろうが、誰も居ない廊下となれば話は別だ。他に音がしないのであれば小声だろうとも簡単に会話は聞こえる。
あくまで内緒話なら聞かなかった事にしてもいいのだが、今のどちらかと言うと確認の為の会話であった。
それに二人の会話から考えるに、ズキューンとキッスはプリキュアなのかも怪しいらしい。
しかし世間ではアイドルプリキュアの一員だと認識されて……あぁいや、情報と憶測が混ざりあった結果、そう認識されてるだけの可能性もあるか。
「知らない、と言うよりも分からないですね」
俺の問いにこころちゃんは渋い顔をする。
様子から察するに、助けてくれたのには感謝しているけれど、ズキューンとキッスの正体を知らないので、どんな人物なのか測りかねているのだろうか。
「本人達には聞かなかったのか?」
「ライブ前に怪物が現れて、助けてくれたと同時にライブして去っていったので」
「そうか……」
絵面だけ見ればライブを乗っ取ったように見えるが、本人達はそういうつもりは無かったのだろう。あくまでうた達を助けようとした結果、そういう結末になったに過ぎないのだろう。
それはそうと、怪物からうた達を助けたと同時にライブするのは理解が追い付かないが。もしかしたらズキューンとキッスは怪物を倒すと同時にライブしないといけない呪いにかかっているのかもしれない。
…………待て。ズキューンとキッスはどうやって怪物を撃退、もしくは退けた?
人づての情報だから誤った内容が混ざっている可能性はあるが、怪物は人間の身長を優に越すと聞いた。素手で建物を壊すほどの怪力を持つとも。
そんな怪物と対峙するには恐怖に立ち向かう勇気が必須であるが、それと同時に怪物をどうこうする力が必要だろう。
特に撃退するともなれば、怪物の巨体をどうこう出来るほどの力が。
少なくとも普通の人間には不可能だ。
倒すではなく、その場から退けただけと仮定しても結局の所、力は必要である。ズキューンとキッスの歌を聞いて感動した結果、暴れるのを止めた……なんてファンタジー寄りの予想も一応は俺の中に存在する。
あまり想像は出来ないのだが、妖精やキラリランドのが存在している以上、ファンタジーだからと頭ごなしに否定するのは難しい。実際にファンタジーの存在を目にしているのだから。
そしてもし、あくまでもしの話だ。
ズキューンとキッスがうた達と同じ存在。つまりはアイドルプリキュアだとしたら、プリキュアとしての活動は、うた達は───
「台助先輩?」
「ッ! 悪い、ななちゃん。ちょっと考え事をしてた」
俺はななちゃんに声を掛けられ、思考を中断させて意識を内側から外側へと向ける。
気にはなるのだが、この辺りはきっとうたの秘密に関わる部分なのだろう。秘密は秘密、相手の隠し事を無理に聞き出したりするのは避けるべきだ。
仮に
「そうえばプリルンとメロロンにはズキューンとキッスについて聞いたのか?」
「「…………」」
「どうした?」
様子のおかしいうたや、ズキューンとキッスに意識が向いて今まで気付かなかったが、今日はプリルンとメロロンがうたの近くに居ないようだ。
単に今日は気分じゃないからと、学校に付いてきてないだけ。その可能性も考えたが、ななちゃんとこころちゃんは何故か俯いている。
プリルンとメロロンに一言「キュアズキューンとキュアキッスについて知ってる?」と聞くのは簡単だ。
仮に質問しなかったとしても、自分から興味を示すのは想像が付く。そして知ってるなら「久しぶりプリ!」と挨拶し、知らないなら「初めましてプリ!」と、人見知りせず話し始めるだろう。
しかし二人の様子から、そもそもプリルンとメロロンがズキューンとキッスに出会う場面に遭遇していないようだ。
フェスで出会ったのなら、一緒に来ていたであろうプリルンとメロロンが何かしら反応してもおかしくないと思うのだが。
「えっと……実はプリルン達、キラキランドに戻っているので此方に居ないんですよ」
「居ない?」
「はい。そうなんです」
あまりにも急な話に俺は首を傾げる。
理由を聞こうにも、こころちゃんもななちゃんも不思議そうな顔をしている。きっとプリルンとメロロンは誰にも戻る詳しい理由も言わずにキラキランドへ帰っていったのだろう。
違和感こそはあるが、プリルンが「キラキランドのみんなにもアイドルプリキュアを教えるプリ!」と、サプライズのような感覚で戻ったと考えれば一連の行動に納得は出来る。
大変な状況に陥っているキラキランドのみんなを元気にしようと、自分の大好きなアイドルプリキュアを教える為にライブ前夜にキラキランドへ帰宅。
メロロンもプリルンに付いていってキラキランドに戻ったが、はなみちタウンからキラキランドへの移動時間まで計算していなくて、ライブに間に合わなかった。
結果的にはなみちタウンフェス開始までに此方に戻ってこれず、今頃はキラキランドに布教活動に勤しんでるか、大急ぎで戻ってきているのだろう。
ズキューンとキッスの存在までは説明出来ない仮定ではあるが、そもそもとしてその二人の衣装がアイドルプリキュアと同じような雰囲気を持っているだけで、全く関係無い可能性もあるのだ。
仮定に仮定を重ねた話をして、うた達を無駄に混乱させるようなマネをする理由は無い。可能性の一つとして俺の心に閉まっておこう。
「それにしても困ったな……」
「何か言いましたか?」
「あーいや、なんでもない。此方に戻ってきた様子も無いのか?」
「うたちゃんからは何も。こころちゃんは見た?」
「いえ、私も見かけてないですね」
プリルンとメロロンはうたの家に住んでいるので、もし戻ってきてるのであればうたが何か反応を示すだろう。はなみちタウンの何処かで寄り道している線もあるが、ななちゃんもこころちゃんも二人を見かけてない様子からその線は無さそうである。
メロロンにハートキラリロックについて俺が調べた内容を伝えようと思ったのだが、居ないのならまた今度にしよう。正直に言ってさほど目ぼしい情報が手に入った訳でないのだから、急ぐ理由は無いし。
俺がここ数日ほどハートキラリロックについて得た情報は殆ど無い。強いて言うなれば「ハートキラリロックを使えばどんな願いでも叶う」ぐらいのものだ。誓いの広場の都市伝説と大差は無い。
誓いの広場と違う点と言えば恋人関連の話題の有無であるが、恐らくは願いが叶う部分だけが広まり、曲解されて恋人同士で使うと願いが叶うと広まるようになったのだろう。
噂の発端であろうキラリランドでの扱いはどうか分からないが、元々ハートキラリロックは鍵と錠前の二つを二人で使用して、願いを叶える道具だと推測が可能だ。
一番大切なモノを伝えて願いを叶える部分が気掛かりではあるが、恋人同士で永遠の愛を誓う際の儀式としてはなみちタウンで生まれたのだろう。
それらをメロロンに伝えようと思ったのだが、どうやら伝えようとするのが遅かったらしい。もしもっと早く伝えていればキラリランドでの調べ物が楽になったかもと考えると、メロロンに申し訳無い。
「話は戻るけど、うたがズキューンしか喋らない理由を聞いても良いか?」
プリルンとメロロン、そしてズキューンとキッスに関しては話は終わった。
しかしその話をする事となった発端、うたがズキューンしか言わない理由まではまだ解明されていない。なんなら途中からだいぶ話が逸れてしまった。
「ふっふっふっ……それはうた先輩がズキューンのファンになった、つまり推しが出来たからです!」
「推しかぁ。なら仕方ないか」
推しが出来たからズキューンしか言わなくなった。こころちゃんのそんな言葉に俺は一瞬で納得する。
ズキューンズキューン言ってるから誰が推しになったかは容易に想像がつく。恐らくは助けられた時に好きになったのだろう。それも吊り橋効果なんかではなく、純粋にファンとして。
「むっ、その簡単に理解を示す反応……もしかして台助先輩にも誰か推しが!?」
「相手はアイドルプリキュアの誰ですか!?」
「まだ誰も俺の推しがアイドルプリキュアの中に居るとは言ってないから」
俺の態度を意外に思ったのか、こころちゃんが顔を近付けてきて、ななちゃんもこころちゃんの真似をするかのように同じ行動をとる。
別に俺はアイドルを否定した覚えはないが、かと言って推しが居るような態度を一度も見せてなかったので、ここぞとばかりに聞き出したいと思ったのだろう。
目をキラキラとさせる二人へ苦笑いを浮かべながら、俺はアイドルプリキュアではなく、自分の身近に居る相手を思い浮かべる。
「俺の推しはうただな」
「「あー……」」
「なんか凄い頷かれた」
「うたちゃんに対するいつもの態度を見ていれば」
「納得ですからね」
俺とうたが幼馴染みであり、あまりにも近くに居るのが当たり前で推しとしての概念が思い付かなかったのだろう。
もし俺が常時キラキライトを握って「うおー! うたー!」なんて応援をしていれば、二人は俺の推しがうただと最初から理解を……いや駄目だ。理解される前に不審者として通報される。
「ズキューン、ズキューン、ズキューン……」
「それで常時ズキューンしか喋らないうたをどうしようか」
「安心してください台助先輩。既に策はあります」
「策?」
「はい!」
また話が逸れてしまった。
ずっと呟いててのどが渇れないか心配するほどにキュアズキューンの名前を呟いているうたへ視線を送ると、こころちゃんが既に問題は解決すると言わんばかりの自信のある顔をしてくる。
「今のうた先輩はズキューンの事で頭がいっぱいで他の事が手に付かない状態です」
「ななちゃん。授業中のうたもこんな感じだったりした?」
「えっーと、その……はい」
この前の小テストでも赤点だったと嘆いていたし、いい加減成績が心配になる。
このまま授業が耳に入らない状態が続いて「中学留年になっちゃった!」なんて言われたら、俺はなんて反応すれば良いのだろうか。尤も中学には留年の概念が無いので、あっても受験失敗ぐらいだろう。それはそれで問題ではあるが。
「うた先輩を元に戻す為には推し活が大事です。つまり」
「つまり?」
「アイドルプリキュア研究会に入会すれば全て解決します!」
「なるほど分からん」
単にこころちゃんがうたを研究会に入会させたいだけではと思ったが、俺は口に出さず喉から下に押し込める。
ま、まぁまだ理由までは聞いてないから。理由さえ聞けば思わず納得するかもしれないからな。
「簡単な事ですよ。推しで頭がいっぱいなら、推し活をして推しに対する気持ちを発散させる。そうすれば推しへと気持ちの向け所を知って、いつものうた先輩に戻ります!」
「具体的には?」
「まず成績が上がります。次にスポーツが上手くなります。更には今以上にポジティブになって、何もかもが上手くいくようになります!」
「ゼミの広告かな? と言うより、事実だろうとそんな上手すぎる話に食い付く相手なんて何処にも」
「推しの力って凄いねこころちゃん!」
「ここに居た!?」
研究会に入ればうたの調子が治ると自信満々に語るこころちゃん。
俺はあまりにもトントン拍子に進む話に、それはないと考えたがななちゃんは簡単に釣られた。将来騙されないか少し心配になる。
「うた先輩」
「ズキュー……ん? こころどうしたの?」
「アイドルプリキュア研究会に入ればもっとズキューンを応援出来ますよ。入会しますか?」
「うん! する!」
「判断が早い!?」
常にズキューンの事を考えていたうた。
こころちゃんの言葉も右から左に流れるものかと思ったが、ズキューンに関する話ともなれば、目をキラキラとさせて二言で研究会への入会を心に決めた。
「なな先輩もアイドルプリキュア研究会どうですか?」
「私も良いの?」
「はい!」
「じゃあ入ろうかな」
「台助先輩もどうですか!?」
「い、いや。俺は遠慮しとくよ」
グイグイと俺までアイドルプリキュア研究会に入会させようとするこころちゃんの誘いを断り、俺はその場から逃げるように帰宅するのであった。
こころちゃん、うたを元に戻してくれたのはありがとう。ただしその勧誘文句は流石に疑う。
本編でやろうと思ってボツにしたシーンを載せます。
ギャグ時空なのでなんかおかしいですが、あくまでオマケなので本編に一切関係無いです。
【ボツ~ズキューンで会話~】
「ズキューン! ズキューン! ズキューン!」
「台助先輩、うたちゃんが何て言ってるか分かりますか?」
「よし任せろ」
「お願いします」
「なぁうた」
「ズキューン?」
「ズキューン。ズキューン、ズキューン。ズキューン!」
「ズキューン!? ズキューンズキューン、ズッキューン!」
「なるほど」
「うたちゃんなんて言ってました?」
「分からん。助けて二人とも」
「じゃあ今の時間なんだったんですか!?」
ボツ理由:ズキューンのファンになったからと言っても、うたちゃんがズキューンだけで会話しようとしないため。
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