うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。 作:のろとり
今回はキミプリ第21話の視聴を推奨します。今までプリキュア側の描写を省いた分、どうしても何が起こってるかの描写不足感が否めないので……
時系列は第21話です。
具体的に言うと、プリルンが真っ暗な空間に居る時です。三人称視点です。
「プリ……?」
ここは何処だろう。
夢を見ていると自覚しているような感覚の中、プリルンは光が入る隙間すら無い、自分の手の輪郭すら掴めないほどに暗闇の空間を見渡す。
当然だが辺りは暗闇一色で何が何処にあるのか見当が付かない。それどころか、自分が今立っているか、座っているかすら怪しい感覚だ。はて、自分はさっきまで何をしていただろうか。
あぁ、そうだ。
この前うた達と山登りした時にうたが倒れたのを見て心配になって、それ以降その時の光景が脳裏から離れなくて、同時に何か大切なモノを忘れているような気がし始めた。
それからずっと、自分の無くしたモノを───記憶を思い出す方法を考えていたら、うたがやってきて……
「思い出せないプリ」
以降の記憶は分からない。まるで記憶にモヤがかかっているかのように、うたがやってきてこの空間で目を覚ますまでの記憶が頭から抜けてしまっているのだ。
また何か忘れてしまったのかとプリルンは恐怖する。
今までプリルンは記憶喪失の自覚は薄かった。ただなんとなく、周りの反応から「自分は記憶を失っているんだな」と察してはいるが、あくまで他人事程度にしか受け止めていなかった。何故なら記憶に対して違和感を抱かなかったから。
メロロンの存在や、キラキランドが大変な状態である事もしっかり記憶に残っている。そしてキュアアイドルを守る使命も心に刻まれている。
その為に初めてはなみちタウンへ訪れた。それが記憶を失ったプリルンから見た現状である。
しかしそれはおかしいのだ。
プリルンが元々はなみちタウンに訪れたのは、キラキランドに伝わる『アイドルプリキュア』の伝説を信じてである。
そしてその伝説の『アイドルプリキュア』は個人を差すのは、ほれともグループ名なのかは不明。いや、それ以前にその伝説に『キュアアイドル』の名前は存在すらしないのだ。
ならばプリルンは何故その名前を知ったのか。
もしプリルン本人が『キュアアイドル』の名を知った出来事を思い返そうとすれば違和感を覚えただろう。
何処でその名前を知ったのか。
何故自分はキュアアイドルを守ろうとしているのか。
何故その使命を当たり前のように感じているのか。
だが現実はそう上手くはいかない。
キュアアイドルを守るのが当たり前と認識しているプリルン自身がそんな疑問を持つのは、人が誰しも抱いている常識を疑うのと同義なのだ。
仮に人の脚は六本あると言われて信じるか否を問われたら、全員が後者を選ぶだろう。常識を疑えと言葉にするのは簡単ではあるが、その行為が簡単に行えればここまで苦労はしないのだから。
「プリ……」
プリルンは悲しげな表情をして悩む。
もし自分が記憶を失っていなかったら、もし誰かを悲しませる前に記憶が戻っていれば、相手を傷付けなかった。自分の記憶を思い出させようと頑張って、うたが風邪を引くような事態になっていなかったかもしれないと。
「寂しいプリ」
暗闇に同調するかのようにプリルンの心に影が差す。
迷惑をかけてしまった。心配させてしまった。無理をさせてしまった。記憶が戻らなかった。悲しい顔をさせてしまった。
決してそれらの全てはプリルンが悪い訳ではない。
あくまでプリルンはうた達の為を想って行動し、結果的に記憶を失っただけなのだ。それでも記憶が無いプリルンからすれば、一連の出来事は全て周りに迷惑をかけてしまった自分の責任だと思い込んで涙が溢れる。
周りには誰も居ない。何も見えない。何も無い。
一人の寂しさを紛らわそうと膝を抱え、お化けに怯える子どものようにプリルンは身体を縮こませる。
しかし寂しさは紛れない。
もし■■が居れば、優しく抱いてくれただろう。
もし■■が居れば、歌で楽しませてくれただろう。
もし■■が居れば、手を差し伸べてくれただろう。
もし■■が居れば───
「……プリ?」
そう考え、疑問を浮かべるプリルン。
はて、今自分は何を考えていただろうか。プリルンは必死に思い出そうとするが、無意識の思考は水に濡れた綿雨のように消え失せ、思い浮かべていた誰かの名前は分からなくなってしまう。
失った記憶を思い出せそうだったチャンスを逃してしまい、プリルンは再び塞ぎこむ。
気分が落ち込むような空間を加え、失った記憶の手かがりになりそうな思考も消えてしまったのだ。
希望もキラキラも無い状況の中、一人で立ち上がれるほどプリルンは強い精神力を有していない。それでも……
『──────』
「…………プリ?」
プリルンは決して弱くは無い。
右も左も分からない中、キラキランドを救う為、アイドルプリキュアを探すためにプリルンは一人ではなみちタウンへやってきた。
失敗はした。相手を悲しませてしまった。善意の行動が空回りして泣いた。それでも何度でも立ち上がり、頑張ろうとするプリルンは決して弱い筈が無いのだ。
「誰か居るプリ?」
真っ暗な空間に響き渡る音に、プリルンは涙を拭って辺りを見渡す。しかし音の発生源も、人影も見えない。気のせいだったのかと首を傾げるが、それにしてもやけに聞き覚えのある音だった。
いや、音と言うよりは……声。もっと言えば歌声であった。あまりにも遠くから聞こえているのか、その歌の正確な歌詞は聞き取れず、あくまで言葉として認識が難しい誰かの声程度であったが、少なくともそれは今のプリルンの気持ちを変えるには充分であった。
『~♪~♪』
「また歌が聞こえたプリ。何処からプリ?」
再度聞こえた歌は、ハッキリと言葉であった。
その歌から元気をもらったプリルンは謎の既視感を持つ。既にプリルンの心には不安や恐怖は無かった。それはまるで■■と始めて会って、歌を歌ってもらった時のような───
「もしかしてキュアアイドルの歌プリ?」
そこでふと、プリルンは歌の既視感に当たりを付ける。
だがまだしっくりと来ない。確かにこれはキュアアイドルの歌だ、何度も聞いたから間違えはない。しかし何故だろう、未だに違和感が心に強く残る。自分はもっと前から、知っているような。キュアアイドルじゃなくて、この歌を歌ってるのは
『プリルン!』
突如として真っ暗な空間にヒビが入る。
それはまるで暗闇に沈んだプリルンを救うように、ハートキラリロックによって封じられた記憶の膜を破るように。プリルンの名を呼ぶ声と共に光が満ちり始める。
今までプリルンが困った時、それは自分の力だけで立ち上がっていたのか? 答えは否。プリルンの周りに居る友達が手を差し伸べてくれた。そしてそれは、今も変わらない。
誰もがプリルンを助けるのを諦めた訳ではない。
友達が困っている中、簡単に諦めるような人物はプリルンの周りには居ない。その証拠にプリルンの名を呼ぶ声の主は心が折れても立ち上がった。
どうしてプリルンが記憶を失ったのか訳が分からなくて大泣きした時もあった。
頑張ろうと空回りして逆に心配をかけてしまった時もあった。
本当にプリルンの記憶が戻るのか分からなくなった時もあった。
『大丈夫だよプリルン』
優しい声が響く。
それはまるで不安に駈られている自分を歌で安心させようとしているように。そんな記憶は無いのに、プリルンの心にはその詳細は映像が刻まれている。まるで実際に体験したように。
「会いたいプリ」
プリルンは無意識に呟く。
声の主が誰か分からない。この場から脱出する方法も分からない。ここを出ても記憶が戻る保証があるか分からない。
それでもと、プリルンは光へと手を伸ばす。この真っ暗な空間からキラキラな……キラッキランランな世界を掴むように。
「プリルンはもう一度」
ヒビが広がる。
真っ暗な空間に光がより灯る。
プリルンの心に同調するように、不安から安心へ。天秤が傾く、心に刻まれた映像を強く意識すると、心が暖かくなる。
あぁ、そうだった。なんで自分はこんなにも大切な思い出を忘れていたのだろう。大好きな相手を忘れていたのだろう。もう一度会いたい、忘れていた分、もっと沢山の思い出を作りたい。
プリルンは映像の相手───その名を呼ぶ。
「うたに会いたいプリ!」
その言葉がキーになったのだろうか。
うたが居る世界に対する楽しさ。
うたが居る世界に対する安心。
うたが居る世界に対する嬉しさ。
もう、プリルンの心からネガティブな、真っ暗な感情は消えていた。あるのはただ、光り輝くポジションな感情。それを自覚すると共に、暗闇の空間は崩れる。ネガティブな感情で構成されていた空間が、プリルンの心からのキラキラに負けたのだ。
プリルンは空間を飛び出し、はなみちタウンへ───うた達の居場所へと帰ってくる。失った記憶を思い出して。
もうプリルンがこの空間に閉じ込められる事は無いだろう。
例えこれからネガティブな感情に囚われても、大丈夫。何故ならその時のプリルンの周りにはきっと───
「うたー!」
「プリルン!」
友達が居るのだから。
手を差し伸べて、
Q.この時のプリルンって意識無いんじゃないの?
A.はい、意識無いですね。ですが物語の都合でふんわりと意識を持たせました。
もしプリルンが意識無い状態で話進めると、台助視点で「この前プリルンの記憶が戻ってきて~」と、記憶うんぬんの話を散々引っ張っておいて、後日談のナレーションで全て済ませる状態になってしまうので。
一応補足をすると、作中の「■■」にはてはまるのは「うた」です。
モザイク(うた)にする手もありましたが、読んでる途中で「なんて書いてあるんだろ」と気になって、スムーズに読むのにノイズになると思いボツに。
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