うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。 作:のろとり
時系列は第22話です。
具体的に言うと、料理対決が決定した後です。
プリルンの記憶が戻った。
そううたの口から聞いたのは、うたが風邪を治した翌日であった。
どうやら登校前にプリルンの所───正確に言えばプリルンとメロロンが居候している田中さんの家───に寄って、歌を歌ったようだ。記憶が戻らなくて不安になっても大丈夫、自分達が側に居ると。
そんなうたの一途な思いが奇跡となってプリルンへと通じたのか、周りが悲しんでいるのは自分のせいだと自身を追い込んでいたプリルンの心をキラッキランランにし、封印されていた記憶を無事に取り戻させた。
一言声を掛けてくれれば俺も一緒に行ったのだが、どうやらななちゃんやこころちゃんにも何も言わなかったようだ。恐らくは一行も早くプリルンに会いたかったのだろう。
……その事で頭いっぱいで弁当を家に忘れなければ、何も言う事は無かったのだが。まぁうたらしいと言えるだろう。
「何か面白い本は~っと」
そんなこんなでプリルンの記憶が戻り、一騒動終わった数日後。俺は図書館から借りていた記憶関連の本を返すついでに、何か面白そうな本がないか本棚を見ていた。
「ん? あれは」
他に目ぼしい本が無いか探していると、休憩スペースに見覚えのあるぬいぐるみが置いてあった。いや、正確に言えば本を読んでいると表現するべきだろう。
本来ならぬいぐるみが本を読むなんて有り得ない。誰かがままごととして本を読んでいるフリをさせてるならまだ納得は出来る。
しかしそのぬいぐるみは誰の力も借りず、一人で本のページを捲っている。つまりは動いているのだ。そんな事が出来る存在は俺の中では一つしか当て嵌まらない。
「メロロン。何してるんだ?」
「メロ!?」
俺は周りに人が居ないのを確認してからぬいぐるみ、もとい妖精のメロロンへと話しかける。
突然話しかけられたメロロンは、誰か知らない相手に見られてると思ったのか、電池の切れたオモチャのように本を持つ力を緩めて背中からゆっくりと倒れて、後ろから話しかけた俺と目が合う。
「驚かせないでほしいメロ」
話しかけたのが俺と気付くや否や、安堵の溜め息と共に軽く悪態を吐いてくる。
本来なら悪態を吐くのはお世辞にも良いとは言えない───悪態と言う名称の時点で、既にその通りなのだが───が、メロロンの場合は事情が事情だ。
動いている所を誰かに見られると大騒ぎになると理解しているメロロンは、楽しく本を読んでいた気持ちを一瞬に冷えて焦ったのだろう。
そして誰なのか確認したら、まさかの俺であった。無駄に焦られないでほしいと悪態を吐かれても文句は言えない。
「ごめん」
「分かれば良いメロ」
「そういえばメロロンはここで何をして……って、それは料理の本か?」
「そうメロ。咲良うた達よりも美味しい料理を作るための勉強メロ!」
「うた達よりもって事は、みんなで料理対決でもするのか?」
「当たりメロ」
話題作りとして対決でもするのかとテキトーに聞いたが、まさかの当たりだったようだ。メロロンの体格で料理が可能かはこの際置いておこう。
この前のプリルンとのデートでは弁当を作っていたようだし、多分だがなんかこう、きっと良い感じの大きさの調理器具とかを持っているのだろう。
「料理対決する事になった経緯って聞いても良いか?」
「それは……」
更に話を聞くと、どうやらアイドルプリキュアとズキューンキッスの対決を企画として行う際に、どちらの人気が高いかこころちゃんと言い合いになったそう。
メロロンが票数で言えばズキューンキッスの方が上と自慢したら、こころちゃんも負けじとアイドルプリキュアにも多くのファンが居ると言い返し、うたとななちゃんはそんな二人を宥め、プリルンはどっちも応援する姿勢を取った。
それがメロロンにはショックだったようだ。
自分とのコンビが一番だと思っているメロロンは、プリルンに振り向いてほしいあまり、胃袋を掴んで心も掴もうと言う発想になり、一週間後にうた達と料理対決をするようになったようだ。
どっちが凄いか言い争ってた結果、何故か料理でどっちが上から決める事になった部分はあまり飲み込めないが、喧嘩に発展するような事態にならなくて良かったと、ここは無理矢理納得するとしよう。
それにしてもこころちゃんが誰かと言い争うとは意外である。
アイドルプリキュアもズキューンキッスも好きな様子から、どっちが上か下か気にせず平等に愛しているイメージだったが、売り文句に買い文句だったのだろう。
衝動的にアイドルプリキュアも負けてないと返して、メロロンもその言葉に乗っかって、結果的に言い争うになったのだろう。
こころちゃんがアイドル推しは入学当日に研究会を設立するほどだ。自分の好きなモノが下だと言われて我慢が出来なかったのだろう。
俺としてはどっちも凄いとは思うが、それを言っても本人達は納得しないだろう。それどころか「どっちが好きですか!?」と答えにくい質問をされる可能性もある。ここは下手な事は言わないでおこう。
「なるほどな。それでうた、ななちゃん、こころちゃんの三人と対決するのは分かったが、メロロンは一人で料理するのか?」
「当然メロ。ねえたまは審査員だから手伝えないメロ」
「じゃあ審査員じゃない俺が手伝っても問題ないな」
きっと今から俺がしようとしてるのは、余計なお節介なのだろう。何故ならアイドルプリキュアVSズキューンキッスと言う構図に第三者が割って入ろうとしているのだから。
「メロロン一人でも大丈夫メロ!」
実際、メロロンは俺の申し出を断った。
尤もメロロンの場合、自分の力だけでアイドルプリキュアに勝ちたい思いよりも、自分の作った料理をプリルンに誉めてほしいから、俺の助けは不要と言う気持ちの方が大きいだろうが。
「うーん。そこまで言うならあまり無理強いはしないが」
俺はそこで言葉を途切れさせ、気まずそうにメロロンが積み上げた大量の料理本に視線を向ける。
冊数で言えば50は超えているだろう。少なくとも、メロロンが……いや、人が一人居ても運ぶのが難しい量だ。仮にメロロンが往復で運ぶとなったら、休憩も含めて夕暮れを通り越して月が街を照らすだろう。
「この本達はどうやって持って帰るんだ?」
「…………少しだけ、手を貸してほしいメロ」
流石に一人で運ぶのは難しいと悟ったのだろう。
メロロンは手を借りないと言った手前恥ずかしいのか、小さい声で俺に協力を求めるのであった。
「着いたメロ」
「はぁ、はぁ……」
メロロンの案内の元、息切れしながらも図書館から田中さんの家へと借りた本を運んだ俺は、挨拶をする様子も無く息を整えながら椅子へ腰を掛けて身体を休ませる。
何度も往復するのは大変だろうからと、横着したのがいけなかったのだろう。メロロンは持てる限りの冊数を、俺が残りを持って運んだのだが、その行動はあまりにも無謀だったようだ。
酸素が足りない。
細かに何度も息をするが、それでも身体は満足せずに酸素を欲する。呼吸を整える……いや、心臓を動かすのに全神経が集中しており脳が働かない。これでは手を貸すどころの話ではないだろう。
もしこの場に田中さんが居れば俺がやってきた事に対する挨拶と、何があったのか心配してくれるだろうが、今は外出中のようだ。
家主が居ない中、勝手に寛ぐのは気が引けるので息が整ったら料理対決の手伝いをする件も含めて連絡しておこう。
「台助! 早速作戦会議メロ!」
「ちょっ……ちょっと待ってくれ。せめて息を整えさせてくれ」
プリルンに喜んでもらう事で頭がいっぱいのメロロンは疲れを知らないのか、本人にとってそれなりの量の本を運んだのにも関わらず息が切れておらず、むしろ今この瞬間から勝負は始まっていると言わんばかりの気迫だ。
やる気があるのは充分伝わったが、せめて息を整えるまでは休ませてほしい。この状態では頭が働かず、マトモな作戦も思い付かないのだから。
「休憩、終わったメロ?」
「取り敢えず息は整った」
息を整える事凡そ数分。
体力は未だ戻っておらず、疲労している身体を机に突っ伏しているような形になってしまうがあまり待たせすぎても良くない。悪いがこのままの姿勢で会議に臨むとしよう。メロロンも何も言ってこない様子から見るに、俺の姿勢にどうこう言うつもりは無いようだし。
「まずメロロン。一つ確認だが、審査員はプリルンだけ……つまり勝利条件はプリルンを満足させる。これで良いか?」
「そうメロ」
もし勝利条件が「相手に負けを認めさせる」なら、プリルンの好物と同時にうた達の好物も多めに用意して、プリルン一人じゃ多いからと分け与えて、あまりの美味しさに勝負から身を引かせる……って作戦があったが、無理だったらしい。
正直に言うとそんな勝利の仕方は邪道ではあるし、メロロン自身も「ねえたまが美味しいと言ってくれなきゃ嬉しくないメロ!」と勝ちを認めようとしないだろうから、あまり意味の無い作戦であったが。
「ならまずはプリルンの好物のタコさ」
「カニさんウインナーを入れるのは決まりメロ」
「何その新種のウインナー」
いつからプリルンの好物はタコさんウインナーから、カニさんウインナーに変わったのだろうか。そもそも両方とも材料ウインナーだし。
ま、まぁあまり深入りするのは止めておこう。
俺が口がどうこう言っても調理するのはメロロンだ。俺の料理経験は調理実習ぐらいで何かしようとしてもメロロンの足を引っ張るだけなのもあるが、そもそもこの料理対決はアイドルプリキュアVSズキューンキッスだ。
そうでなくとも、メロロンは俺が手を加えるのを嫌うだろう。これはメロロンがねえたまに喜んでほしくて作る料理メロ、メロロン一人で充分メロ。とでも言って。
だから俺が動かすのは頭と口だけだ。
それもメロロン嫌がればその意見を尊重して見守るだけのつもりだが……何も言ってこない様子から見るに、この辺りまではセーフなのだろう。
「メロロン、少し本を借りるぞ。プリルンが他に気に入りそうな食べ物を探す」
俺はメロロンに一言断りを入れてから図書館で借りた料理本を読む。
俺の中のプリルンはいつもタコさんウインナーを食べている。それ以外を食べている姿はあまり想像出来ないが、幼い言動から推測するに子どもが気に入りそうな食べ物が好みなのかもしれない。
「ハンバーガー、刺身、シチュー……」
実際に作れるかは置いといて、俺はひとまずプリルンが気に入りそうな食べ物をピックアップする。
食べ物によっては作るのが難しかったり、既製品をそのまま置くだけになるかもしれないが、今はあくまで片っ端から候補として上げているだけだ。取捨選択は後でいくらでも出来る。
「どれも美味しそうメロ」
「分かる」
「全部ねえたまに食べてもらいたいメロ」
「組み合わせが大変になるが?」
軽口を叩きあいながら、俺達は候補を選ぶ。
それから数時間。料理本とにらめっこするのに疲れた頃、俺は休憩と言わんばかりに小さく息を吐いて視線を料理本からメロロンへと移す。
「そうだメロロン。料理対決とは関係無い、一つ大事な話がある。聞いても良いか?」
「なにメロ?」
「ハートキラリロックに何を封印した?」
「…………何の事メロ?」
まるで明日の天気を尋ねるかのように、俺はメロロンへとハートキラリロックの封印について問いた。
メロロンはそんな話題が振られると思わなかったのか、目を丸くして数秒の沈黙の後、心当たりが無いと言わんばかりの態度を貫く。
「プリルンの一件が終わってから聞こうと思ってたんだ。ハートキラリロックの性質上、片方だけの大切なモノを封印するとは考えにくいからな」
しかしその態度に意味は無い。
俺は自身が知れる限りのハートキラリロックの情報を持っている。そしてそれは当然、キラキランドに伝わる内容も含まれている。
かつて俺はこんな考察をした。
本家のハートキラリロックは自分の大切なモノを封印する代わりに、願いを叶える品物だと。
そしてそれはキラリランドの女王様からの話からその考察は合っていると裏取りも取れている。
だからプリルンは自分の大切なモノ───うた達との思い出───を封印して、キュアズキューンへとなれるようになった。
ここまではキラキランドに伝わるハートキラリロックの内容と同じ。そしてプリルンの記憶が元に戻ったから、ここでこの話はおしまい……とはならない。
ハートキラリロックは決して一人で使用する道具ではない。
はなみちタウンでは恋人と使用すると伝わっているように、ハートキラリロックは二人で使用する道具だ。実際にプリルンがキュアズキューンへ、メロロンがキュアキッスへとなれるようになっているのだから、間違ってないだろう。
ここで疑問に思わないだろうか。
ハートキラリロックは使用した片方だけが代償負うのかと。
もう片方が封印した大切なモノは何処へ行ったのかと。
答えは簡単。二人とも代償を払う───大切なモノを封印されるのだ。
プリルンが記憶を封印されたように、メロロンも何か……本人にとって大切な何かが封印されたのだろう。尤も、見た限りでは何かを失っているような様子が無いのが気がかりではあるが。
とは言っても、目には見えない何かを封印したのだと考えれば辻褄は合う。例えばキラキランドにある自分の家を代償に払ったのならば、見ただけでは何を封印したのか判断がつかないだろう。
尤も、メロロンが「ねえたまよりも自分が家が一番メロ!」と言う姿は想像がつかないので、あくまで例え話の一つに過ぎないのだが。
「秘密メロ」
「そっか、秘密か」
メロロンは俺から目を逸らして小さくそう呟く。
反応から察するに何を封印したのかは覚えているのだろう。もし覚えていないのなら、メロロンの性格的に無言を貫くか、俺には関係無いと突っぱねて誤魔化すだろう。
「じゃあこれ以上は聞かない」
「メロ?」
本人が秘密にしたいのだから、追及は止めよう。
そう簡単に諦めた俺の姿を意外に思ったのか、それとも根掘り葉掘り聞かれると覚悟していた気持ちが無駄になったからか。メロロンは俺の態度に首を傾げる。
「本当に聞かないメロ?」
「本人が秘密にしたいと言ってるからな」
気にならない、と言ったら嘘になる。
記憶を失ったを取り戻したプリルンのように、また奇跡が起こるとも限らない。
封印したモノが二度と戻らなかったらと考えると、恐怖で身体が震える。
それでも俺は自分の信念を貫く。
なんとかなるなんて、楽観的な考えは持ち合わせていない。
昔からの信念だ、今更ねじ曲げるなんて出来ない。これからも俺の信念は変わらない。何年、何十年経とうとも。それは俺自身が自分に定めたルールなのだから。
「台助は」
「ん?」
「台助はどうしてそんなに秘密に拘るメロ?」
ハートキラリロックに何を封印したかは答えるつもりはない。でも何も聞かないのかそれはそれで不自然だと、メロロンは俺の態度に対して疑問をこぼす。
「俺には誰にも言わないようにしてる隠し事があるからな。秘密は持ってるくせに、誰かの秘密を無理に暴くのは筋が通らないだろ?」
「台助……」
うたがキラキランドの事やプリキュアの活動を俺に隠しているように、俺もうたにある秘密を隠している。そしてそれは一生言うつもりは無い。代わりにうたの隠し事は探らない。俺はそれを通してるに過ぎないのだ。
「でもメロロンは台助の秘密が何か分かってるメロ」
「そうか。メロロンには俺の秘密が……いやちょっと待って?」
お、おちちち落ち着けけけけ。は、ハッタリかもしれない。メロロンが俺を驚かせる為にハッタリを言っているのかもしれない。だ、だからまだ慌てるような時間じゃななな無い。
よ、よしまずは深呼吸だ。動揺を悟られちゃいけない。ま、まだ大丈夫かもしれないから。誤魔化せるかもしれないからな!
スゥー……スゥー……スゥー……あれ、深呼吸ってまず何秒息を吸うんだったか。てか息を吸う時間って決まってたっけ。仮に決まってたとしたら、逆に息を吐く時間はいつまでだ。俺知らないんだが。
「俺誰にも秘密言ってないんだが? うたにも両親にも言ってないんだが?」
「もしかして疑ってるメロ?」
「メロロンが変な嘘をつく性格じゃないのは分かってるが、こうも簡単に秘密を知ってると言われるとな」
深呼吸をして表面では動揺を消した俺は、メロロンに本当なのか疑いの目を向ける。
とは言っても実際にそこまで疑っている訳ではない。少なくともメロロンはからかい目的でそういう発言はしないし、メロロンの中で答えが見つかったからそこの発言なのだろう。
だからまだメロロンの勘違い、もしくは予想が外れている可能性がある。慌てるな、驚くのはまだメロロンの話を聞いてかもでも遅くはない。
「じゃあ耳を貸すメロ」
「分かった」
そうだ、俺の隠し事は俺以外の誰も知らないのだ。
何かにメモしたりはしていない。口に出して喋ってもない。知る術が無いのだ、俺の周りの誰かに聞いても答えられない。当然だ、知らないのだから。
よし、大丈夫だ。ヒントも無いも無いのだから、メロロンは答えられない。仮に答えたとしても、それが当たってる可能性なんて低いだろう。そんなピンポイントで俺の隠し事がバレてるなんて……
「──────」
「!?!?!?」
俺は椅子から転げ落ちた。
な、なななな……ちょっ待っ、なんで知っ……! てかどうやって知って……いや、メロロンだからか? うたでも無く、ななちゃんでも無く、こころちゃんでも無く、プリルンでも無く、田中さん無くて、メロロンだからこそ分かったのか?
「当たりメロ?」
「逆に今の反応でハズレだと思うか?」
俺が珍しく動揺する姿を見たからか、ドッキリが成功して嬉しそうな笑みをするメロロンに、俺は顔を引きつらせながらそれが正解であると示すのであった。
メロロン、それを心の内に閉まっておくなら俺は何も言わない。ただし人を驚かせるのは止めてくれ。
ここしばらくシリアス続きだったので、久しぶりにこういう日常に戻れて嬉しい。
台助とメロロンのうたちゃんやプリルンとも違う、独特な距離感が個人的に気に入ってます。
一応の注意喚起。
今回の話で「あー、台助の隠し事ってあれか」と気付いた人が居るかもしれませんが、お口チャックでお願いします。
ハーメルン様の文を引用させて頂きますと「展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。」と言うやつです。
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