うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。   作:のろとり

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 キミプリで一番好きなキャラはうたちゃんです。

 時系列は第23話です。
 具体的に言うと、サインについてカイトさんにダメ出しされた後です。


第17話 うた、俺はうたがなんだか遠い存在に思えてきた。ただし関係を今と変えるつもりはない。

「ねえたま、あーんメロ」

 

「あーんプリ」

 

「美味しいメロ?」

 

「美味しいプリ!」

 

「良かったなメロロン」

 

「この前の対決からより腕を磨いてるから当然メロ!」

 

 先日、アイドルプリキュアVSズキューンキッスの料理対決が行われた。俺はあくまでサポートだけに徹して、ここか先はメロロン自身の戦いだと対決には直接向かわず、メロロンに応援のエールだけを送った。

 

 だから直接この目で見る事は無く、後から聞いたのだが料理対決の結果は引き分けだったようだ。

 まぁプリルンの性格的に優劣を決めず「両方美味しいプリ!」と言って勝敗がつかないと薄々思ってはいたが、どうやらその通りになったらしい。

 

 しかしメロロンは料理対決の結果を引き分けではなく負けと認識しているようだ。理由は単にプリルンの心を掴めなかった、プリルンの一番にならなかったからだろう。

 

 それからのメロロンは毎日のように料理にはげみ、今日もグリッターのキッチンを借りて作った料理をプリルンに食べさせている。

 

「…………」

 

「うた?」

 

 そんな光景を眺めていた俺だったが、うたがやけに静かなのに疑問を覚えた。

 いつものうただったら「メロロン、私にも一口頂戴!」と強請って「これは全部ねえたまのメロ!」と怒られてそうなものだが、今日に限って何も口を開かない。それどころか何か悩んでいるような表情をしている。

 

 俺はチラリと時計へ視線を送る。

 グリッターの開店時間まではまだ時間がある。そしてこの場には俺とうた、プリルンとメロロンしか居ない。聞こうと思えば周りを気にせず悩みの内容を聞けるだろう。そうしたらまずは……

 

「メロロン」

 

「はぁ……仕方ないメロ」

 

 申し訳なさそうな顔をメロロンへと向ける。

 それだけで俺の意図を察してくれたのだろう。面倒だと言わんばかりの態度で「今回だけメロ」と俺に視線を送ってきたメロロンは、プリルンの手を優しく握る。

 

「ねえたま。今からメロロンとデートに行くメロ!」

 

「メロロンとデート? 行くプリ!」

 

「二人とも出掛けるのか。いってらー」

 

 俺は窓から外に出るプリルンとメロロンに手を振って見送る。

 誰かが居ると話しにくい内容かもしれないと、メロロンに頼んでプリルンと一緒に席を外してもらった。今度メロロンに気を遣ってもらった礼をしなければ。

 

「おーい」

 

「うーん……」

 

「あ、空飛ぶグリッター特製ナポリタン」

 

「え、何処!?」

 

「ねぇよそんなの」

 

 プリルンとメロロンが出掛けた事すら頭に入ってこないほど、悩み続けていたのだろう。俺が声をかけても一切気付く様子が無かったので、うたの好物───グリッターのナポリタン───が空を飛んでいると嘘を吐くとようやく反応してくれた。

 

「うた。何か悩んでる雰囲気だがどうしたんだ?」

 

「あー、えっと。その」

 

「言いにくい内容か?」

 

「ううん。そうじゃなくて」

 

 いつもなら何を悩んでるか簡単に話してくれる言い淀むうたの様子から、俺個人に、もしくは内容が話しにくい内容なのだと思い、無理に話す必要は無いと話を打ち切ろうとしたが、どうやらそうではないらしい。

 

「また甘えちゃって良いかなと思って」

 

「ん? それってどういう」

 

「困ったら何度も台助くんを頼って迷惑じゃないかなって」

 

「迷惑じゃない……って言っても、納得はしないだろうな」

 

 そう言葉にして伝えるのは簡単だ。そしてそれは俺の本心でもある。

 しかしここで重要なのは、俺がどう思っているかではなく、うた自身の気持ちだ。いくら俺が本心を伝えようとも、うたが俺に負い目を感じている状態ではいくら言葉を投げ掛けても意味は無い。

 

「よし。それじゃあ交換条件といこうか」

 

「交換条件?」

 

「俺が一回うたを助ける度に、うたも一回俺を助ける。その逆もしかり。それでどうだ?」

 

 だから負い目をそのままに俺の本心を受け入れられるようにする。

 うたが気にしてるのは無条件の、もっと言えば一方的な助けだ。それを解消する方法は簡単で、俺がうたを助けるのに条件を付ける。これだけで解決する。

 

 本当は負い目を取り除くのが一番なのだろうが、それには時間と切っ掛けが必要だ。今この瞬間に解決するのは難しいから、俺が何か困ったらうたを頼って少しずつ負い目を無くすとしよう。

 

「と言う訳でうた」

 

「なに?」

 

「俺はうたを助けたい。そう思ってる俺をうたが助けてくれ、これでチャラだ」

 

 つまりは実質無条件だ。

 いつものように俺が困ってるうたを助けたいと思ったら手を差し伸べる、そしてうたがその手を握る。違う部分と言えばうたの心境ぐらいであり、条件なんてあってないようなものだ。

 

「台助くん」

 

「ん?」

 

「ありがとう!」

 

「礼なら悩みを解消した後でな」

 

 うたもそれを分かっているのだろう。

 勉強が苦手なうただが、決してバカではない。むしろ人の心境を読み取る部分に関しては他のみんなよりも優れていると言えるだろう。

 

「それで何を悩んでたんだ?」

 

「アイドルって英語でどう書くんだったかなって」

 

「キュアアイドルが何を言ってるんだ?」

 

 悩みが想像の斜め上だった。

 嘘だろ? なぁ、嘘だろうた。嘘だと言ってくれよ。キュアアイドルってアイドルプリキュアとしての名前じゃねぇか、勉強が苦手なのは当然知ってたが、自分の名前が書けないほどなのかよ。

 

「悩みってのは英語が分からない事か?」

 

「ううん。そうじゃなくて。サインの悩みで」

 

「サインって事はアイドルの話か」

 

 そうえばと、俺は今更ながらうたからアイドルとしての相談を受けるのは初めてだと思った。

 今まで俺はうたから一度もアイドル関連の悩みを聞いた事が無かった。悩み自体はこれまでに何度か抱えていたかもしれないが、俺は一度も聞いた事が無い。恐らくはアイドルプリキュアとして一緒に活動しているななちゃん達に悩みを話し、解決してきたのだろう。

 

「実はこの前、私のファンって人にサインを書いたんだけどね」

 

「間違えて本名書いたとか言わないよな?」

 

「流石の私もそこまでじゃないよ!?」

 

 サイン書くのに緊張して、つい癖でキュアアイドルじゃなくて咲良うたって書いちゃった。みたいな話ではないようだ。もしそうなら慣れるまでサインの練習をしよう、と言うアドバイスしか送れないところだった。

 

「それでね。その時一緒にカイトさんも居たんだけど、アイドルとしてまだまだって言われちゃって」

 

「まだまだ、ねぇ……」

 

 レジェンドアイドル響カイト。

 俺は会った事が無い───俺が一般人なのに対して、相手は有名人なのだから当たり前ではある───が、以前グリッターに来店してきてその時に知り合ったそうだ。

 

 この前はグリッターの看板娘としてだったが、今回はアイドルプリキュアとして。店員としてか、アイドルとしてかの視点の違いもあってか、中々に厳しい目で見られたようだ。逆に言えば、それだけ期待されてるとも言えるが。

 

 俺はアイドルやサインについて全然詳しくないが、レジェンドアイドルがそこまで言うのだから直すべきポイントがあったのだろう。それこそアイドルとして初歩的な部分が。

 

「うた。実際に見て確認したいから、ここにサインを書いてくれないか? あ、この前サインを書いた時と同じようにな」

 

「え? うん」

 

 なんにせよ自分の目で確認しなければ何も言えないと、俺はカバンからノートとペンを出し、裏見返し───ノートの最後のページの次。裏表紙の裏。少し厚めの部分───を開いてうたへ渡す。

 本当なら色紙に書いてもらうべきなのだろうが、元々は図書館で勉強する前にうたの所に寄ろうと思いグリッターへ来たのだ。生憎だが色紙が手元に無い。うたには悪いが代わりの物に書いてもらう事にした。

 

「…………はい、出来たよ!」

 

「ふむ。なるほどな」

 

 これはまた……独特なサインだな。

 俺はカタカナで「キュアアイドル」と書かれたサインに苦笑いをしつつ、返されたノートを大切にカバンへと仕舞う。

 

 サインの出来に関して言いたい部分はあるが、そこはうたも自分で理解しているのだろう。実際、俺に英語について聞いたのも「流石にカタカナそのままは……」と悩んだ結果だと推測出来る。

 

 それに今のうたが一番悩んでいるのは、サインのデザインではなくサインを書くときの姿勢だ。背筋が曲がっているとか、ペンの持ち方とかの話ではなく、ファンに対する姿勢。

 

 実際にレジェンドアイドルが苦言を挺し、うたが悩むほどの理由があると一目で分かった。

 まずサインに集中しすぎている。集中そのものは悪くは無いが、どうサインを書こうか、文字が大きすぎてないか、間違えて変な風に書かないか。そう悩みながら無言で下を向いて書いており、ファンに対して意識が向いていない。

 

 キュアアイドルはまだアイドルデビューしたばかりだから。サインなんて初めて書いたから。そう擁護をするのは簡単だ。

 しかしレジェンドアイドルからすればそんな事情は全く知らないし、知っていたとしても「そうやってファンのみんなに説明するの?」と言われたら何も言い返せない。

 

 ファンからすればサイン初心者と言う看板は関係ない。

 キュアアイドルからサインを貰った。それが結果であり、裏の事情なんて全員が何もかも把握している訳ではない。また同時にその事情に納得するかは別である。

 

「うた。サインを書くときにファンサをするのはどうだ?」

 

「ファンサ?」

 

「ああ」

 

 単にサインを書いた、終わり。

 こんな作業感覚で終わらすのではなく、ファン一人一人に向き合う。一言「ありがとう」でも構わない。ただそれだけでサインと言う物として残る思い出だけではなく、キュアアイドルと話したと言う記憶としての思い出も残るのだ。

 

 それに……口に出すとうたが傷付くから心の内に留めておくが、サインを書いて手渡すだけは見映えが悪い。キュアアイドルとファンだけの二人ならまだ良いだろう。

 しかし端から、つまりは第三者から見ればキュアアイドルがファンを無視している構図に見えてしまうだろう。例え本人にその気が無かろうともだ。

 

 そう考えるとその場にレジェンドアイドルが居て、サインについて指摘されたのはうたにとってかなりプラスになっただろう。

 もしかしたら近い未来、田中さん辺りからサインに対してアドバイスが貰えたかもしれないが、それはあくまで田中さんが気付いた場合だ。少なくともうた本人はサインそのものに気を取られており、姿勢にまでは意識が向いていなかった。

 

 いくら田中さんと言えど、全てを事前に見通すのは物理的に不可能だ。もしそれが可能ならば、うたがサインを書く前に「ファンを意識して~」とアドバイスを送っていただろう。

 

「サインも大事だが、ファンとの交流も大事だ。確か前に握手会をしてたよな?」

 

「うん。メロロンと会う前にね」

 

「その時、握手以外にも何かしたか?」

 

「え? えっと、来てくれてありがとうってファンの人に感謝したりとか」

 

「サインを書く時も同じだ。ここまでくればどうすれば良いか分かるだろ?」

 

「うん!」

 

 それにしてもと、俺は小さく呟く。

 レジェンドアイドルの響カイトはうたの自主性を重んじて、言い方を代えればキュアアイドルなら気付くだろうと、具体的な問題点は伝えても改善点は伝えなかった。

 

 一方で俺は具体的な改善点とは言わないまでも、うたが改善点を見つけるまでの手助けをした。キュアアイドルとしてのうたがどの程度の実力を持っているかはライブの映像だけでは分からないので、いつものように助けたが今回は少し手を伸ばしすぎただろうか。

 

 レジェンドアイドルに目を付けられるほどの実力を持っているのなら、あまり力を貸しすぎるのはキュアアイドルの成長の邪魔になるだろうか。

 もしマネージャーとしてアイドルプリキュアの活動をよく見ている田中さんがこの場に居れば、この俺の疑問は解消されるだろうが、居ない人に頼っても仕方がない。でもまぁ……

 

「台助くんありがとう! 早速練習してみる!」

 

 この笑顔が見られるなら些細な事だろう。

 結局、どうするかは本人が決める事だ。困ってるなら手を差し伸べて、うた本人が自分で決めたいと思うならその考えを尊重して見守る。

 それは例え、キュアアイドルとしてだろうと変える必要は無いだろう。

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん! 台助くん、これなんだと思う!?」

 

 後日、うたに呼ばれたかと思えばうたがいつも使っているノートを開いて、筆記体でcure idolと書かれたサインを見せてきた。

 

「キュアアイドルのサインか」

 

「うん! 頑張って考えたの!」

 

 そうか、とうとうアイドルを英語で書けるようになったのか。成長したな、うた。今日はお祝いだな!

 

 と、ふざけるのはこの辺りまでにしておこう。

 みんなに相談して考えたと、胸を張って自慢してくるうたに俺は優しく微笑む。やっぱり英語は自分一人じゃ難しいから誰かに教えてもらったのかと。

 

「ファンサの方はどうだ?」

 

「ふっふっふっ。そんなに気になる?」

 

「気になる」

 

「えっ!? そ、そんなにハッキリと言われると照れるなぁ」

 

 俺が食い気味に言葉を発したのが意外だったのだろう。一瞬目を丸くしたうたは、恥ずかしそうに笑って頬を掻く。

 

「今からサイン書くからそこに立ってて!」

 

「でも俺、今ペンも紙も」

 

「大丈夫! もう用意してるから!」

 

「手際良いな」

 

「ふふん! いつでも書けるように持ち歩いてたからね!」

 

「その代わりに学校で忘れ物したとか言わないよな?」

 

「や、やだなぁ。別に筆箱を忘れてななちゃんに借りたりしてないよぉ」

 

「…………うん。そうか」

 

 うたが嘘を吐けないのは今に始まった事じゃない。ここはいつもと同じようにあえて触れないでおこう。

 俺は心の中でななちゃんに謝罪と感謝をし、うたが自分で用意した色紙へサインを書く様子を眺める。何度も練習したのだろう、迷いなく書き進める様子に俺はうたが本当にアイドルなんだなと実感する。

 

 うたがキュアアイドルとして活動し始めて数ヶ月が経ったが、今まで俺はアイドルとしてのうたと関わった事が無かった。

 ライブの映像は見ている。うたから時折どんな活動をしたのか聞いていた。周りの話で耳にした時もあった。

 それでも、何処か実感が薄かった。うたがアイドルになったと理解しつつも、それを現実ではなく幻のように受け止めていた。

 

 だから、この前うたにアイドルの話で頼られてふと思った。

 あぁ、本当にうたはアイドルになったんだなと。

 

 うたが遠い存在に感じつつも、そこに寂しさは無い。

 何故ならいつかは離れるからだ。そういった予定がある訳じゃない。寿命が近い訳でもない。うたやはなみちタウンが嫌いな訳じゃない。

 

 ただ、一生うたの近く居られるとは思ってないだけだ。

 中学を、高校を、大学を卒業して……大人になったら俺とうたはきっと別々の道を歩く。会う機会も減る。進路によってははなみちタウンから離れる場合もあるだろう。

 

 だから距離が生まれるのは自然な事だ。

 昔から覚悟していて、それが想像よりも少し早かったに過ぎない。グリッターのお客さんに笑顔を振り撒いているように、今度はファンのみんなに笑顔を振り撒くようになった。それだけの変化だ。

 

 だがその距離がいくら離れようとも俺はうたに対する接し方を変えるつもりはない。うたがアイドルをするなら陰ながら見守り、もしアイドルを辞めるなら優しく受け止める。いつも通り、今まで通りうたは俺の幼馴染みであるのだけは変わらないのだから。

 

「はい! 出来たよ!」

 

「おお、ありがとう……ってこれ」

 

 うたがアイドルであると実感しつつ、色紙を受け取ってそこに書かれていたサインを見るなり、俺は言葉を失った。

 俺はてっきり色紙に書かれているのはキュアアイドルのサインとばかり思っていたが、そうではなかった。そこに書かれていたのは俺がよく見る、よく知っている幼馴染み(咲良うた)の名前であった。

 

「台助くんは咲良うた()のファンだからね! 専用のサインだよ!」

 

「…………ありがとう、うた」

 

 アイドルプリキュアとしてのモノじゃない、俺の……俺だけの特別なサイン。その言葉だけで俺の心は暖かくなり、思わず色紙を優しく抱き締める。

 

「家宝にする」

 

「そこまで!?」

 

 うた、俺はうたがなんだか遠い存在に思えてきた。ただし関係を今と変えるつもりはない。




 15-1話で散々悩んだ後で「悩みあるから聞いて!」とストレートに相談するのは不自然なので、ワンクッション挟みました。

 キミプリ48話放送前にぼんやりと「あ、そうだ。ダークイーネの大きさが分からなくて、特等席の用意に四苦八苦するうたちゃん達書こうかなぁ」と思いました。そしたら本編でデカイ発言がありました。なんか負けた気がした。

プリキュアを見たことある?

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