うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。 作:のろとり
時系列は第24話です。
具体的に言うと、田中さんがうたちゃん達に休むよう言われた後です。
「ふむ。どうしましょうか」
「あれ、田中さん?」
今年は受験の年ではあるものの、夏休みの期間ずっと勉強をするのは嫌になる───別に誰かから強制されて勉強をしてた訳ではないが───と、息抜きとしてはなみちタウンを散歩していると顔を下に向けて何か悩んでいる田中さんを見つけた。
「おや、台助さん。こんにちは」
「こんにちは。こんな所でどうしました?」
「実はですね。うたさん達と夏休みの話をしていたら、突然今日は休んでくださいと言われまして」
「夏休みの話をしてたら……?」
俺は田中さんの言葉の意図が分からず、自分の聞き間違えだったのか疑うようにおうむ返しする。
まずうた達が夏休みの話をしてた。そこは理解出来る。
俺が夏休みなのだから、同じ学校に通っているうた達も夏休みに入っている。だから「夏休み何して遊ぼうかな」なんて会話をしていても不思議ではない。
問題はその次の行間だ。夏休みの話をしてた、だから田中さんは休んでと言われた。そこが分からない。
自分達が休んでるから、田中さんも休んでと言いたいのだろうか。否、うたは「自分が休みだから、周りも休むべき!」なんて我が儘を言う性格ではない。仮にそんな性格をしてるのなら、うたが夏休みの間、グリッターはずっと営業していないだろう。
ならば次に考えられるのは純粋な優しさで田中さんを休ませたいと思ったから。
自分達が長期休みの中、田中さんが全然休めてないとしたら「たまには身体を休めてください!」と田中さんを気遣う様子が容易に想像出来る。
あくまで仮説に過ぎないが、この可能性は高いだろう。それどころか、いつもアイドルプリキュアのマネージャーや、グリッターのアルバイトだったりと、動いてる姿しか見ていない。
うた達も同じように休んでいる姿を見た事が無いのなら、親切心で田中さんを休ませ……いや、待てよ。そもそも田中さんがはなみちタウンに居る理由はなんだ。何かしらの事情や仕事で来ているのなら、マネージャー、アルバイト、そしてキラキランドの何かの計三つの仕事を行っているのではないだろうか。
「…………田中さん。一つ確認ですけど、最後に休んだのはいつですか?」
「そうですね。少なくともここ十数年は休んで無いですね」
「労働基準法って知ってます?」
悲報。キラキランド、労働時間クラクランドだった。
キラキラって名前が付いてるほどだからホワイトな場所だと思ってたのに、休みが無いなんてブラック過ぎない? いや、もしかしてキラキランドに労働基準とか無くて、単に田中さん自身が休もうとしてないだけか?
プリルンやメロロンにはキラキランドを救う使命があるようだが、それほど切羽詰まっている様子は無い。メロロンは隠し事が上手そうだからともかくとして、プリルンならその不安を表に出しているだろう。
それが無いとなると、休む暇があるぐらいには急いでない。もしくは俺が知らないだけでゆっくりと状況改善に動いてるかのどちらかだろう。
一方で同じキラキランド出身の田中さんは休んでいない。
これは単に田中さんの性分なのだろう。プリルンやメロロンは暇な時間が出来たらフロートを飲んだり、うた達と遊んでいる。
そして田中さんは暇な時間が出来たら仕事の合間に仕事をしている。動いていないと落ち着かない性格だと考えたら辻褄は合う。それはそうとうた達に休めと言われるのは理解出来る。
「本当はグリッターのアルバイトや、はなみちタウンのパトロール、アイドルプリキュア宛のファンレターやプレゼントの仕分けをする予定があったのですが」
「休んでください」
「え?」
「休んでください」
「は、はぁ……」
多くない? なんなら全部別々の仕事なんだが。
ねぇ待って。この人いつ休んでるの、いつ寝てるの、いつ休日があるの。休んでくださいってか休めよ、聞いてる此方が心配になってくるんだが。
「残ってた仕事は全てうたさん達が代わってくれましたが、休みと言われても何をしたか良いか悩んでいまして」
「なら俺が色々と案内しますよ」
「良いんですか?」
「いつもうた達の事を支えてくれているお礼と思ってくれれば」
田中さんの仕事を肩代わりしてるうた達が少し気がかりではあるが、ここでグリッターに顔を出して「俺も手伝う」と言うのは余計なお節介だろう。
あくまで仕事を代わると言ったのはその場に居たうた達だ。そこに俺は含まれていない。仮に含まれてるのなら、とっくにうたから手伝ってと連絡が入っているだろう。
ここで俺が手を貸すのは簡単だ。だがそれはうた達が俺の休みを奪うと同時に、自分達じゃ田中さんの休みを作れなかったと示す事になってしまう。そうなれば田中さんは休みを満喫するどころか、迷惑をかけてしまったと思うだろう。
心配ではあるがここはうた達には何も言わないでおこう。あくまで俺は偶然田中さんと出会って一緒に遊ぼうと提案した。それ以上でもそれ以下でも無いのだから。
「田中さん、まずは映画館に行きませんか?」
「映画館?」
「はい。動かないと落ち着かないのなら、映画館でジッとして身体を休めるのを覚えるべきかと」
「確かに、そうですね。では台助さん。本日はお願いします」
そういう性格なのか、それとも仕事の感覚が抜けていないのか。深々と頭を下げる田中さんに俺は苦笑いするのだった。
「田中さん。何か見たい映画はありますか?」
「ふむ。そうですね……」
映画館にやってきた田中さんに、俺は今日の上映スケジュールを見せてどの映画が見たいかを聞く。
仕事をしようと身体が動いてしまうなら強制的に動けないようにしようと映画鑑賞を選んだが、元々俺は映画館に来る予定なんか無かったので、今日上映している映画までは把握していない。
映画館に向かう道中で調べる事も出来ただろうが、歩きスマホは危ないし、スマホの画面を見ながらだと田中さんを無視してるようで態度が悪いと思い、何もしなかったのだ。
「あっ」
「何かありました?」
「はい。この映画が気になりますね」
上映スケジュールをにらめっこするほど数分、田中さんは気になるのがあると『消えた伝説のアイドル』と言う映画を指差す。
内容としては昭和時代に突如として消えた伝説のアイドルの軌跡を追うドキュメンタリー映画のようだ。こういうのは本来単発ドラマの内容だと思うが、映画になると言うと事は、それほどまでに有名なアイドルだったのだろう。
「伝説のアイドルについて知見を深めれば、アイドルプリキュアのマネージャーとして彼女達をもっと支えて」
「田中さん」
「はい」
「今日は休みですよね?」
「そうでしたね……」
なんで映画鑑賞にまで仕事の話を持ち込むのだろうか。
うた達の事をそこまで思ってくれてる。そう言えば聞こえは良いかもしれないが、言い方を変えれば休みの日まで仕事の事が忘れられない社会人である。本当に休んでください。
「まぁとにかく、この映画を見ましょうか。ポップコーンとドリンクはどうしますか?」
「私は遠慮しておきます。台助さんはどうしますか?」
「俺も今回は要らないです。そしたら早速チケットを買いに行きましょうか」
映画と言えばポップコーンとドリンクだが、今はそこまで腹も空いてなければ喉も乾いていない。変に買って中途半端に残すのは勿体ないので俺は売店で何も買わない事にした。
そして俺と田中さんは受付で映画のチケットを買い、そのままスクリーンへと向かう。映画を見て少しは休んでくれると良いのだが……。
【皆さんは知っているだろうか。昭和時代、人々を熱狂させた彼女の存在を】
【彼女の名前はUtako。伝説のアイドルと呼ばれていた彼女は我々に歌を、踊りを、そして笑顔を振り撒いていた】
【しかしそんな彼女は突如として姿を消した】
【何故彼女は姿を消したのか。我々はその謎を調査すべく、アマゾンの奥地へと向かった】
映画が始まるなり、まず伝説のアイドルとは何かの説明が入った。俺の知る限りで伝説……正確に言えばそれに近いのは、レジェンドアイドルと呼ばれる響カイトぐらいの認識であったが、過去の時代にも響カイトのような称号を持ったアイドルが居たのだろう。
そして突如として消失した理由は不明。引退の一言で終わらせず、姿を消したと表現している様子から言葉をそのまま受け取れば良いのだろう。
尤も、アマゾンの奥地に行けばその謎が解けるとは思えないが。
誰にも見付からず海外に行ける確率と、見知らぬ間にキラキランドのような人目の付かない場所にワープさせられたの二択を選ぶのなら、まだ後者の方が現実的だろう。プリルンやメロロンのように、常識外の存在を知っている上での話ではあるが。
【伝説のアイドルUtakoの始まりは───】
プロローグが終わり、次のシーンからは伝説のアイドルがどんな活動してきたのかの軌跡が流れ始めた。
アマゾン何処行ったんだよと言いたいが、あれはあくまで言葉遊びの類いだったと認識しよう。
【そして伝説のアイドル、最後の晴れ舞台は───】
そこからも映画は続いていき、最後ははなみちスタジアムの会場でのライブを最後に、ステージからも舞台裏かもと姿を消したそう。
どうやら着替えもそのままのようであり、アイドルの衣装のまま消えてしまったようだ。それこそまさしく、神隠しのように。
「どうですか田中さん。少しは休めましたか?」
「はい。お陰様で」
「それは良かっ」
「これはアイドルプリキュアのマネジメントに活かせるかもしれませんね!」
「田中さん?」
「ハッ! 今日は休みなんでした」
一人のアイドル人生の幕引きに感動を覚えながら、上映が終わりスクリーンを出た田中さんに休めたかの確認をする。
しかし身体は休めても、頭までは休めなかったらしい。どうやら映画を見て休む作戦は半分ほど失敗してしまったようだ。映画に集中して仕事の事を忘れられると思ったが、俺の想定が甘かったようだ。
ならば次は頭を休められるような場所を選ぼう。
だが頭だけ休める場所を選んでも、今度は身体が休まらない。何処かに無いものだろうか。身体も頭も休める、つまりはリラックス出来る場所は……あぁ、そうだ。あそこがあった。
「田中さんって銭湯に行きますか?」
「え? まぁ息抜きとしてたまに」
「銭湯で身体を休めませんか? リラックスすれば、その時だけは何もかも忘れて休めるかと」
「色々とすみませんね」
「いえ」
俺が気遣って休む方法を考えているのを見抜いたのだろう。頭を下げてくる田中さんに、俺は下手に言葉を紡いでも余計に申し訳なさそうな顔をさせてしまいそうだと、軽く一言だけ返事する。
「すぅ~、はぁ~……」
銭湯へ着いた俺達は早速服を脱いで湯へ浸かる。
朝風呂や夕方の風呂ならよく入るが、昼頃に入る風呂は特別感とは言わないまでも、また別の不思議な感じがする。
朝特有の布団から出た時の寒さを誤魔化したり、眠気を吹き飛ばすような暖かさでも無い。かと言って夕方の一日の疲れをとるような身体の芯にまで広がる湯の心地よさでもない。
日の光で暖まった身体をさらに湯で暖め、全身の筋肉を解しているような、そんな感じである。
俺は丁度良い湯加減に呼吸を忘れるほど気を取られ、意識して呼吸をする頃には身体が酸素を欲するほどの時間が経っていたようで、肺一杯に酸素が溜まるように大きく息を吸い、そして吐く。
それほど疲れが溜まっていない俺でさえ、この心地よさなのだ。毎日仕事の田中さんはどうかと、隣で湯に浸かっている田中へと視線を送る。
「……気になりますね」
「うた達が心配ですか?」
ただの独り言のつもりだったのだろう。
主語無くてもそれが何を指してるか察した俺は、田中さんにその独り言の意味を聞くと、返事がくると思わなかったように少し目を丸くし、一瞬だけ淀みながらも田中さんは口を開く。
「台助さんは心配ではないのですか?」
「うた達が自分ですると言った以上、俺はそれを信じるだけです」
「心配ではあるんですね」
「言葉の裏を読むのはズルくないですかね?」
うた達を信じてる、それはそれとして心配。
俺はあくまで前半しか伝えていないのだが、心配だと肯定も否定もしなかった様子から俺の言葉の意図を察したのだろう。俺がうた達を信じつつも、ちゃんと田中さんの代わりをしてるか心配だとバレてしまった。
別に嘘が得意だと思ってはいないが、腹芸で田中さんに勝つのは難しいようだ。これが人生経験の差だろうか。
「台助さん。今日はありがとうございました」
銭湯で汗を流し、身体に付いたお湯を拭き、サッパリした俺は田中さんから休みの過ごし方に対する感謝を受けていた。
「今日一日……と言っても午前中だけですが、どうでした?」
「お陰様で良い休暇となりました。ただ」
田中さんはそこで言葉を区切り、ゆっくりと目を瞑る。恐らくは俺と過ごした休みを思い出しているのだろう。
キラキランドの仕事も、マネージャーの仕事も、グリッターのアルバイトも無い、完全な休み。それでも身体も頭も心も休めて何もかも忘れられたか聞かれたら、その答えは……
「すみません。私にはどうにもやりたい事がありまして」
否定。俺の思う通りに休めては無いのだろう。
それでも田中さんは満足そうに、そして俺やこの場に居ないうた達に申し訳なさそうに苦笑いをする。
結果的に見れば仕事を忘れて休めはしなかった。だが田中さんからすればその僅かな休みは自分を見つめ直し、新たな発見が出来た貴重な時間だったのだろう。だから……
「これからもうた達を、アイドルプリキュアをお願いします」
「はい」
俺は田中さんへ頭を下げる。
うた達がアイドルプリキュアとして活動出来ているのは田中さんのお陰だから。その恩返しが少しでも出来て良かったと優しく微笑むのだった。
田中さん、これからもうた達をお願いします。ただし困ったら俺も力を貸します。
今回キミプリの映画ネタを拾いましたが、映画の関連の話をするつもりは無いです。今回のはあくまでサービスと思ってください。あと作中で語られたUtako関連の話題はオリジナルです。
前回、主人公に対する特別感を作ろうと、うたちゃんに咲良うたとしてのサインを書いてもらいました。
そしてキミプリ最終回でうたちゃんが咲良うたとしてアイドルになったので、結果的に台助がうたちゃんの最初のサインを貰ったと言う事実が完成しました。なんか凄い噛み合い方して怖い。
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