うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。 作:のろとり
ちなみに巷で話題のキュアアルカナ・シャドウは今週登場するようです。
時系列は第38話です。
具体的に言うと、うたちゃん達が学校でお弁当を食べるより前です。
10月31日。
それは世間一般ではハロウィンのイベントを行う日であり、俺達の住むはなみちタウンでもハロウィンに向けて飾りつけであったり、当日にどんな仮装をするか話し合ったりするなど、どこもかしこもカボチャ色一色である。
そんなハロウィンに支配されたはなみちタウンを「もうそんな時期か」と、毎年見ている光景にもはや見飽きたと言わんばかりの感想を抱きながら、俺はぷりんとめろん、そしてうたの四人で通学路を進んでいく。
いつもなら一人で───たまに偶然にも時間帯が一緒になったうた達と一緒に学校へ向かう時がある───登校している俺だが、今日はある事情によって学校よりも前にうたの家へと足を運んだ。
ぷりんとめろんが一緒に居るのも、二人がうたの家に住んでおり、顔を出したついでに一緒に登校する流れになったからである。
「こころちゃん、ななちゃん。おはよう」
「あ、台助先輩! おはようございま……す?」
「えっと……?」
うた達と待ち合わせをしていたのだろう。
登校中にななちゃんとこころちゃんが通学路の途中に立ち止まっているのを見つけて挨拶をする。
二人は俺が居るのが珍しいと言った反応をしつつ挨拶を返してくれるが、視線が俺自身から俺の背中へと向かうなり、言葉を紡いでいた口は次の単語を発する事無く、ただただ開きっぱなしとなる。
「台助先輩。うたちゃんを背負ってどうしました? もしかしてうた先輩、何処か怪我したんですか!?」
「あーいや、大丈夫。怪我したわけじゃない。ただ、この時期になるといつもこうでね」
「いつも?」
俺の背中に背負われているうたを見るなり、膝でも擦りむいてしまったのかと心配するこころちゃんを落ち着かせ、俺はどう説明するべきかと背負っている理由を思い浮かべて苦笑いをする。
うたはお化けやジャック・オー・ランタンが苦手だ。それこそこの時期───ハロウィンになると、怖がってマトモにはなみちタウンを歩けなくなるほどに。
それを二人が知っているか知らないかは分からないが、うたを心配しているこころちゃんに向かって「お化けが嫌いだから背負ってハロウィンの飾り付けが見えないようにしている」なんて説明するのは、うたも恥ずかしいだろう。
一先ずはいつもの事だと説明したが、こころちゃんはイマイチ納得が出来ていないようで、頭にハテナを浮かべていた。
実際に説明を求められて「いつもの」と言われたら俺も疑問を浮かべるので、説明の仕方が悪い自覚はある。
「うう……お化け怖い。ジャック・オー・ランタン怖い」
「大丈夫だようた、ここにはもう何も無いから!」
「そうよ。今は大丈夫よ」
そう俺が頭を悩ませている後ろで、俺の背中にしがみついて視界を覆っているうたを元気付けようと、ぷりんとめろんがうたへと話しかけている。
ここにはもうジャック・オー・ランタンも飾り付けも無いから、怯える必要は無いと必死に励ましているが、俺の肩にかかる力が緩まない様子から効果はあまり無いようだ。
「いつもって事はハロウィンが近くなると毎回こうなんですか?」
「あぁ」
「え!? じゃあ毎年こうやって背負ってるんですか?」
「小学生の頃から毎年だね」
ななちゃんとこころちゃんの言葉に俺は軽く頷く。
最初は先行する俺の袖をうたが引っ張りながら下を向きながら歩くか、背中に張り付きながら一緒に歩くかの二択だった。
だがいつの日か一緒に歩くよりも背負った方が早く学校に着け、尚且つうたが怖い思いをする時間も短くなると言う結論になり今の形に落ち着いたのだ。
「あっ、そうえば」
「どうしましたなな先輩」
「確か去年に背負われながら登校した生徒が居るって話を聞いた覚えがあって」
「あー……心当たりしかないですね」
どうやら俺の知らない間に噂になっていたらしい。
1年生のこころちゃんは知らなかったようだが、2年生のななちゃんは去年に俺がうたを教室まで運んで、自席にまで座らせた場面を誰かから聞いたのだろう。
俺もいつの間にか有名人になったようだなHAHAHA……なんて冗談は置いとくとして、そんなにも目立っていたのか。
俺の中では毎年恒例なので目立っている自覚は無かったのだが、これからは視線が向かないようにうたをブレザーで隠すべきか? いや、余計に目立つか。
「…………」
「どうしました? お姉様」
「ねぇめろん! 私を背負ってみて!」
「え?」
「うたと台助を見てたら私もやってみたいなと思って!」
ぷりんの唐突な提案にめろんは目を丸くする。
恐らくぷりんはプリルンとしての姿ではいつも飛んでいるか、ぬいぐるみのフリをする為に抱えられているかの二択であり、誰かに背負われるような経験が無いのだろう。
楽しそうとまでは思っていないようだが、俺がうたを背負っている様子を見て興味が沸いたのだろう。そんなにも誰かの背中に居るのは安心出来るのだろうかと。
「分かりました。お姉様、私の背中に乗ってください!」
「やった! ありがとう、めろん!」
ぷりんの言葉なら白でも黒とでも言うかの勢いで背負う事を決意し、ぷりんを抱っこしためろん。
その即答に俺は関心を抱きつつ、生まれたての小鹿のように震えているめろんの脚から目を逸らす。
めろんの脚が震えている光景とは全く関係無い話なのだが、人一人背負うのはかなりの負荷が掛かる。何故なら自身の体重と同じぐらいの重さのモノを背負っているのと同義なのだから。
それにしても、どうしてめろんの脚は震えているのだろうか。まだ冬と言うには暖かい筈なのだろうが……あぁ、そうか。めろんは寒がりなんだな、きっとそうに違いない。
「ねぇこころちゃん。私達も」
「しませんよ!?」
ここはこのノリに乗るべきと、目を輝かせて俺達の真似をしようと提案するななちゃんであったが、こころちゃんに全力で断られるのであった。
「Zzz……」
放課後。
教室にうたを迎えに行った俺は、登校時と同じようにうたを背負い下校していたが、朝から周りのハロウィンの飾り付けを見ないよう精神を尖らせ続けた影響か、俺の背中で眠ってしまっていた。
「うたちゃん寝ちゃいましたね」
「疲れてたんだろうな」
俺は隣を歩くななちゃんの言葉に、うたが起きないよう小声で返事をする。
本来なら今日はアイドルプリキュア研究会の活動があったようだが、怖がっているうたが心配だと、ななちゃんは今日は研究会への活動を休んだようだ。
研究会は一応、活動日こそは決まっているものの、その活動に部活動ほどの強制力は無い。それこそ研究会を休むと一言伝えるだけでも「うん、分かった。また今度ね~」と無理にでも引き留めようとする相手が居ないほどに。
緩い活動ではあるが、それはあくまで研究会の目的が「アイドルプリキュアの応援及び研究、そして普及」であるからだ。
あまりにも固い縛りや決まり事をしていては、それらを達成出来ないどころか、堅苦しく思われて自分達のせいでアイドルプリキュアのイメージが悪くなるからと、研究会発足時にこころちゃんが方針を決めたらしい。
その肝心のこころちゃんではあるが、うたに付き添おうとするななちゃんを見て「私もうた先輩と一緒に帰ります」と目で訴えてきていたが、自分達抜きで研究会の活動に参加しようとするぷりんとめろんが心配で泣く泣く断念していた。
「台助先輩はうたちゃんのお化け嫌いを克服させようと思った事はありますか?」
「ん? 克服?」
「はい。こころちゃん達と色々と試したけどあまり効果が無くて……台助先輩は何かした事があるのかと思って」
背中で眠るうたを起こさないよう、出来る限り歩いた時の振動が来ないようにとゆっくり脚を進めていると、ななちゃんからこうなった原因であるうたのお化け嫌いについて質問された。
どうやらうたのお化け嫌いを克服させようと、色々と動いていたらしいが、どれも効果が薄かったようだ。
自分達では克服させる事が出来なかったが俺ならうたのお化け嫌いを克服……いや、そもそもとして今までにどんな方法を取っていたのかを知りたいようだ。
「あーいや、実は何もした事が無いんだよな」
「え?」
「あまり無理強いさせるのは悪いと思って、そのままにしてたんだが……苦手なまま成長して、今の通りだ」
期待の眼差しを向けてくるななちゃんの視線に耐えきれず、俺はななちゃんから顔を逸らして苦い顔をする。
俺なら克服させようと行動の一つや二つぐらいは今までにした事があると思っていたのだろう。ななちゃんは意外そうな声を出すと共に、何故と言った視線を向けてくる。
「どうにかしてお化け嫌いを克服させたいと考えた事はあったが、嫌がるうたに無理矢理慣れさせようとするのもな」
その視線に堪えかねて、俺はポツリと呟く。
まず、当然の話であるが俺にも出来ない事は存在する。
もし俺が何もかも出来る完璧超人だったのならば、プリルンは記憶を失わなかっただろう。メロロンの友達を作りたい想いをもっと上手く表に出せていただろう。
俺は出来るのはあくまで相手が前に踏み出す為の道を整える事ぐらいだ。
だがその相手が───今回の場合はうたが───怖がって前に一歩も踏み出せなかったら、俺がそれ以上に出来る事は無い。いくら前へと進みやすくしても、肝心の本人が踏み出そうとしない限り、その行為に意味は無い。
「何かしら、動くべきだったかなぁ……」
俺は独り言を喋るかのように言葉を溢す。
無理に克服させるのは逆効果なのは分かってる。
実はうた自身がお化け嫌いを克服しようと、過去にはなみちタウンで開催された仮装コンテストに出ようした事があったが、出る前に周りのお化けの仮装に驚いてそれどころではなかった事がある。
それを知った俺は荒治療では意味が無いと、時間が解決してくれると。苦手だった野菜が大人になったら食べれるようになるのと同じように、自然にお化け嫌いが治るまで待つ選択をした。
まずは街の飾り付けに慣れ、そこからお化けの玩具が触れる程度になって、最後に仮装を見ても驚かないように時間をかけて……そう思っていたのだが、いつの間にか中学生になるまで時が経ってしまっていた。
それでもうたのお化け嫌いは治らなかった。
時間が解決してくれるような問題では無かった。
やっぱり無理にでも行動に移すべきだっただろうか。
否、その結果はうたが過去に仮装コンテストに出場しようとした結果が、ハロウィンの怯えていた今日のうたが証明している。意味が無いと。むしろ余計に苦手が加速してしまうと。
「っと、今のただの独り言だから気にしなくて」
「台助先輩は今のままで良いと思いますよ?」
「……え?」
あまり誰かに聞かせる内容じゃなかったと、口から出てしまった言葉を誤魔化そうとするが、それよりも前にななちゃんは俺の言葉を……弱音を肯定する。
「台助先輩がうたちゃんの為を思って悩んで、何もしないのを選んだのは優しさだと思います」
「そう……かな?」
「はい、きっとそうですよ」
何もしない優しさ。悪く言えばそれは怠慢である。
出来るのにやらない、明日から本気出すとひたすらにズルズルと引き延ばし、いつの日か本当にやるべき事を忘れてしまう行為。
「そっか……ありがとう、ななちゃん。お陰で悩みが晴れたよ」
「いつも助けてもらってますからお礼なんて」
それでも今の俺にその肯定は嬉しかった。
最近少し、アイドルプリキュアについて悩む事がある。それに引っ張られ、うたがお化け嫌いが克服出来ないのは自分のせいだと勘違いしてしまったのだろう。
多少は俺に責任はあるのかもしれないが、それはあくまで多少であって全てではない。
暗くなりかけていた俺の心は、閉ざされるよりも前にキラキラと輝き始める。それは怠慢を怠慢として受け入れたのではなく、あまり深く考えても仕方ないと割り切り方を思い出したからだ。
「そういえばななちゃん。今度仮装コンテストが出るんだって? うたから聞いたよ」
「はい。うたちゃんとバナナの仮装で挑みます」
「へぇ、バナナの仮装……え? バナ、バナナ? 今バナナって言った?」
「はい。うたちゃんのバナナの被り物で出場します! バナバナバナナです!」
「あー、うん。そうなんだ」
何があってそうなった?
今さっき割り切り方を思い出した俺であったが、ななちゃんの口から唐突に発せられたバナナの仮装と言う言葉は割り切れずに、思考を停止させるのであった。
ななちゃん、ありがとう。ただしバナナは何処から出てきたの?
今回は珍しく台助が誰かの悩みを解決する話ではなく、台助の悩みを解決してもらう話でした。
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