うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。 作:のろとり
普段使わないような道具を使うの楽しい。
今回の時系列は第39話です。
具体的に言うと、寸田
「うおおおおお……」
「ん?」
ある日の昼休み。
俺は校舎の外を宛も無く歩いていると、人通りの少ない場所で回り続けている躍を見かけた。
普通ならその行動に疑問を覚えるかもしれないが、躍はダンス部の部長である。
昼休みにも部活動をしているとまでは思っていないが、自主的にダンスを練習をしようとその場で回っていると考えれば、その行動にも納得が行く。
「よ、躍。ダンスの練習か?」
「あ、うん。今ちょっとスピンの練習しててさ。そういう台助は何してるの?」
「あー……少し考え事をな」
俺は躍の問いに言葉を濁す。
考え事をしていたのは事実だ。そして煮詰まった頭を冷やす為に歩いていた所、躍を見つけて声をかけた。それがここまでの行動である。
とは言っても、これを誰かに話すつもりは無い。
そもそも俺が考えていたのは、はなみちタウンで話題の謎の怪物騒ぎについてだ。ただの噂でしかない以上、世間話の枠を出ない。相談しても意味は無いだろう。
「それよりもスピンの練習って事は、ダンス部で何か大会に出るのか?」
「ううん、俺一人だけで出るんだよね。ほらこれ」
俺は話題を逸らし、躍に部活でダンスの大会に出場するのか聞く。
すると躍は大会に出場する部分は肯定しつつも、ダンス部としてでなく、個人で出場するのだと、ダンシングスターカップと書かれた大会のチラシを渡してくる。
「なるほどな。でも個人で出るのか? こういう大会って、部活全体で出場するようなイメージがあるんだが」
「…………」
「躍?」
「その大会は……その大会だけは、俺だけで優勝したいんだ」
そこまでこの大会に固執する理由は何か。
俺は躍から渡されたチラシを再度確認すると、創設者として寸田
寸田周、躍と同じ名字に加えて面影のある顔から察するに、創設者と躍は血縁関係があるのだろう。
そしてダンシングスターカップには年齢によって様々な部門が別けられており、恐らく躍が出場するのは中学生部門。三年生であり、来年から高校生となる躍からすれば、これが最後のチャンスなのだろう。
「だからその為にスピンを鍛えようと思ってね」
「スピンを?」
「うん。スピンをもっともっと鍛えれば、何かが見えてくる気がしてさ」
これは……どうなんだ?
俺にダンスの知識が無い以上、良し悪しの判別は出来ない。芸術作品を見て何が素晴らしいか理解するのが難しいように、俺のような素人が引っ掛かりを覚える部分も、知識を有する相手から見れば意味のある行動なのかもしれない。
故に自信を持って今俺が抱いた違和感を指摘するのは難しい。だが、今の躍はスピンに拘り続けて肝心のダンスに対しての姿勢が欠けている……ように思えたのは確かである。
これは指摘するべきだろうか。
躍にとってスピンがどれほど重要なのか俺は知らない。もしかしたら今までも行き詰まった時にスピンで壁を乗り越えており、今回もそうなのかもしれない。
そうなるとここは本人に直接聞くべきだろう。
スピンに拘り続ける理由があるなら本人の意見を尊重し、意味も無くスピンをしているのなら、ダンスに詳しい相手……それこそこころちゃん辺りに、今の躍がどう見えるか判断してもらうとしよう。
「それじゃ、俺はまだ回るから」
「あっ、待て躍。回るにしても周囲を確認してから」
「うおおおおお!!」
しかし躍にスピンについて聞くよりも前に、まだ鍛えたり無いからとスピンしながら何処へ行ってしまった。
放課後に話をするか? いや、大会に向けて力を入れている躍は学校が終わり次第すぐ練習をする筈だ。そこで捕まえられるか分からない以上、確実に確保出来るのは昼休みが終わり教室に戻るまでの僅かな時間だ。
昼休みが終わるまでもう少し。
躍を追って、練習している所を見たいなり話せば時間を確保出来るだろう。それに練習を見ていく内に俺自身の考えが間違えだったと言う結論に至るかもしれない。
俺は躍が向かった思われる方向へと歩を進める。
すぐに姿が見えなくなったから確実にどっちの方向へ向かったか判別するのは難しいが、スピンしながら階段を登る事は出来ないだろうから、居るとしたら階段のある校舎ではなく外だと思うが……
「あ、居た居た。おーい躍」
「まだ、まだです寸田先輩! もっと回れる筈です!」
「おお! キラッキランランだね!」
「楽しそう! 私も回ってみよっ~と!」
「お姉様。流石に制服で回るのは流石に……」
「まずはジャージに着替えようか」
「なんだこの……なんだ?」
よし、落ち着いて目の前の状況を理解しよう。
まず躍はこころちゃんの指導の元、スピンの練習をしている。
それは分かる、俺がここに来るまでの間に何があったのかは分からないが、ダンスが得意なこころちゃんが指導している光景から、こころちゃん自身が手伝うと言ったのか、躍がこころちゃんを頼ったかのどちらかだろう。
そしてうたは躍のスピンにかける情熱を見てキラキラを感じている。これはもう大体いつも通りだから何も問題はないだろう。
次にぷりんはスカートのままその場で回ろうとしており、めろんに止められ、ななちゃんは何処から取り出したのかスカートの下に履く用としてジャージのズボンを取り出した。
うん。何故かその場で回ろうとするぷりんの行動を予知していたような、ななちゃんの行動以外は大体理解した。急に情報量の多い光景が目に入って少し処理に時間がかかってしまった。
「よ、うた。これは何をしてるんだ?」
「えっとね。寸田先輩がダンスの大会で優勝出来るようにお手伝いしてるの!」
半分ぐらい遊んでなかった?
そんな言葉が脳裏を過ったが、躍と同じようにスピンをすれば見える景色があるかもしれないし、練習を一緒にしてくれる相手が居れば躍もモチベーションが上がるだろうと、口にチャックをする。
「躍、調子はどうだ?」
「全然……まだ俺にはスピンが足りないのかな」
「うーん。こころちゃんはどう思う?」
「え、私ですか!?」
餅は餅屋と言う言葉があるように、ダンスはダンスに詳しい相手に聞くに限る。
俺には俺の考えがあるが、それはあくまで可能性の話だ。見当違いかもしれない話をして躍を混乱させるよりも、先にこころちゃんのようにダンスに詳しい相手の話を聞いてから改めて考えて、その上で同じ答えに至ったら話をするべきだろう。
「そうですね。スピンも大切ですが、ダンスに組み込むことも考えないといけないですね」
「でも俺にはスピンが」
「寸田先輩。スピンも大切ですが、ダンスが評価されなければ優勝なんて夢のまた夢です」
「……うん、そうだよね。分かったよ、紫雨さん」
躍は思う所があるような雰囲気を醸し出していたが、こころちゃんの言葉に一理あると納得したのか、それ以上は何も言わなかった。
わざわざ躍の意見を否定し、スピンと同じぐらい大切なモノがあると語っている辺り、こころちゃんも躍の言葉に違和感を抱いているのだろう。
ならば俺がするのは指摘ではなく、何も言わずに見守る事だ。
こころちゃんにも何か考えがあるのだろう。その考えが無視して躍にアドバイスするよりも、ここはこころちゃんの考えに沿って動いた方が良いだろう。
「それでは早速」
「躍、こころちゃん。そろそろ昼休みが終わるから、練習は放課後からにした方が良いと思う」
「あれ? もうそんな時間でしたっけ」
こころちゃんは校舎に掛けられている時計に視線を移すと、そこには昼休みの終了時刻まで残り数分を切っていた。
昼休み、そして授業前のちょっとした休み時間があるが、このまま練習に熱を入れすぎて遅刻するよりは、教室までの移動時間を考え、昼休みの練習は諦めた方が良いだろう。
「寸田先輩、それではまた放課後に」
「うん。みんなもありがとう」
そうして俺達は大会まで躍の手伝いをすると約束し、その場を後にするのであった。
「くっ……まだまだぁ!」
大会前日。
うた達に見守られながら、スピンの練習を続ける躍の表情は暗い。それは未だに自身が優勝出来ると言う自信が無いから、つまりは壁を乗り越えたと言う実感が無いのだ。
だからこそ躍は自分がダンスをする上で大切にしているスピンに情熱をぶつけているのだが、あれではきっと意味が無い。
ただがむしゃらに自分にはスピンがあるから、スピンがあれば優勝出来るかも……なんて焦燥に駆られている状況でいくら練習をしても優勝は愚か、受賞すら難しいだろう。
「台助先輩」
「ん?」
「台助先輩は今の寸田先輩が優勝出来ると思いますか?」
ふと、こころちゃんから躍について問いかけられる。
俺は躍の方へ視線を送るが、躍はうた達に見守られながら練習に没頭しており、うた達もそんな躍を応援していて俺とこころちゃんの話は聞こえてなさそうだ。これならいくら本音を話そうと問題ないだろう。
「そうだなぁ。俺はダンスに関しては素人だから今の躍の様子から推測した意見になるけど……無理だな」
審査するほどの実力も知識も無いので、あくまで素人目意見だと予防線を張った上で俺はハッキリと自分の意見を述べる。
「一応理由を聞いても?」
「多分こころちゃんも気付いてるとは思うけど、躍がスピンに執着してるからだな」
最初は意味があると思った。
けれどその執着に意味は無く、ただ時間だけが過ぎていく。続ければ続けるほどその執着は大きくなり、正論だけを投げ掛けてもその先───つまりは、優勝するには何が大切か。そしてそれを実際に示さない限り納得しないまでとなってしまっていた。
「いつから気付いてましたか?」
「違和感を覚えたのは最初の方から。こころちゃんは?」
「私も同じです。確信を持ったのは数日ぐらい前からですけどね。ですが」
「躍自身が気付いてほしかった。ダンスは踊るだけじゃなくて踊りで何を伝えるか、何を表現するかを考えてほしかったから、何も言わなかった。この辺りかな?」
「はい」
伝える事は最初から出来た。
それでも伝えて良いのか悩んだ。最初から答えを与えられても本人の経験にならない。計算ドリルを答えを見ながら解いた所で頭に入らないように、経験が積まれなければ「答えさえ分かれば」と、努力を怠るようになる。
こころちゃんも俺と同じ考えのようだ。
大会の規模や知名度を正確に計るのは難しいが、少なくとも優勝と言う二文字を勝ち取るのに近道は意味を成さないだろう。
アドバイスやちょっとした手助け程度ならともかく、躍に直接「今の寸田先輩はスピンに拘りすぎです! 本当に大切なモノはなんですか!」と訴え掛けても、その時の心情や焦りによっては答えが出ず、余計スピンに固執するかもしれない。
故に躍本人が気付きを得るまで待つことにした……が、その結果が今だ。相手を信じ続けた結果、何も伝えられずにここまで来てしまった。
もっと早く伝えていれば、なんて考えもよぎるがそれが出来れば苦労はしない。正論は時に人を傷付ける、スピンを大切にしている躍にそれ以上に大切なモノがあると伝えるのは、もはやアイデンティティを否定しているのに変わり無く……いや、これはただの言い訳か。
結局のところ、躍の為と思いながら納得が行かずに、苦しんでいる躍が求める答えを持ちながらも、それを黙り続けていたのだ。今更何を語ろうともただの自己弁護であり、どんなに言葉を取り繕うとも事実は変わらない。
「なぁこころちゃん」
「はい?」
「ダンスは……アイドルプリキュアの活動は楽しいかい?」
「……? はい!」
俺の唐突な言葉に首を傾げるこころちゃんだったが、その言葉の真意までは分からなかったようで、純粋に表面上の意味だけを受け取り大きく返事をする。
「ならその想いを躍にぶつけてきな。今の俺が言うよりも、こころちゃんの方が響くだろうからさ」
きっと、うた達もこんな気持ちなんだろうな。
アイドルプリキュアとして……否、プリキュアとして活動するうた達の心情を思い描きながら、俺はこころちゃんが躍に発破を掛けてくれると信じて躍の元へと送り出すのであった。
躍、俺達に優勝した姿を見せてくれ。ただし無理はするなよ。
相手の為を思って口を紡ぐのは、本当に相手に気を遣ってなのかな? それとも自分に対しての言い訳に過ぎないのかな。そんな事を思いながら書きました。
また、関係無い話ですがスピンの練習と称して独楽が回るのを無言で見つめる台助と躍のシーンはボツとなりました。
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